社員定着率とは?離職率との違いや定着率を上げる5つの対策法

近年、社員は企業の重要な資産だと考えられています。しかし、社員の離職が目立つようになってきたというお悩みを持つ人事の方も多いのではないでしょうか。本記事では社員定着率という指標を解説するとともに、具体的な施策を紹介していきます。

社員定着率とは?

社員定着率とは何を基にした指標なのでしょうか。何となく理解していても、定義や計算方法は曖昧という方も多くいらっしゃると思います。まずは、社員定着率とはいかなるものか、混同されがちな離職率との差異はどのようなものかを明らかにしていきます。

定義

社員定着率とは、「ある期間において、新しく入った社員が会社にどの程度定着して働いているか」という指標のことです。具体的には、以下の計算式で求められます。

(入社社員数-離職社員数)÷入社社員数×100=社員定着率

例を交えて解説します。ある期間を2022年4月1日から2023年3月31日の1年間だと仮定します。期間内の入社社員数が300人、離職社員数が60人だとすると

(300人-60人)÷300人×100=80% このような式から社員定着率が80%だと算出できます。この例の入社社員が300人全員とも新卒入社だとして、採用コストが一人当たり100万円かかったとしたらどうでしょうか。離職社員数60人×100万円=6000万円の費用が丸損になってしまいます。極端な例えではありますが、社員定着率が低いと、会社に負担がかかることは事実です。知らず知らずのうちにコストを浪費しないためにも、人事担当者の方は社員定着率を意識してみてください。

離職率との違い

この記事の読者の方であれば、離職率という言葉もよく耳にするのではないでしょうか。結論、社員定着率と離職率に大きな違いはありません。

離職率とは、「ある期間において、新しく入った社員がどの程度離職してしまったか」という指標です。つまり、社員定着率と対照的な指標になっていると言えます。

計算式としては以下のようなものとなります。

100-社員定着率=離職率

先ほどの例に当てはめると

100-80(社員定着率)=20(離職率)

このような式から離職率は20%だと算出できます。社員定着率でも離職率でも、社員がどれくらい企業に残っているのか、どれくらい企業に魅力があるのかを図る指標として有効でしょう。次章にて他社との比較が出来るようなデータを解説しますので、是非、自社の社員定着率を確認してみてください。

関連記事:【令和式】離職率を下げる新時代の改善策8選

社員定着率の平均値

社員定着率はどの程度の数値であると良いのでしょうか。新卒や業界別に分けて、平均値を解説します。

新卒平均

厚生労働省が公表している新卒入社3年以内の離職状況に関する令和2年度調査の離職率を基に比較してみましょう。

  • 中学卒就職者 55,0%
  • 高校卒就職者 36,9%
  • 短大卒就職者 41,4%
  • 大学卒就職者 31,2%

離職率は最終学歴別に以上のような数値となっています。社員定着率は、100から離職率を引いた値ですので、以下の数値となります。

  • 中学卒就職者 45,5%
  • 高校卒就職者 63,1%
  • 短大卒就職者 58,6%
  • 大学卒就職者 68,8%

社員定着率は、最終学歴別にばらつきがあることから、自社の社員定着率を何の平均と比べるかが重要だと言えるでしょう。なので、続いては業界別の平均値を見ていきます。

関連記事:早期離職の原因と対策!新卒・若手社員の離職を防止する4つのコツとは

業界別平均

同じく令和2年度における、特に社員定着率が低い業界(下位5業界)の新卒就職者3年以内離職率から割り出した社員定着率は、以下のようになっています。

[高卒新規就職者]

  • 宿泊業・飲食サービス業 38,9%
  • 生活関連サービス業・娯楽業 43,1%
  • 教育・学習支援業 49,9%
  • 小売業 52,2%
  • 医療、福祉 53,8%

[大卒新規就職者]

  • 宿泊業・飲食サービス業 48,5%
  • 生活関連サービス業・娯楽業 53,5%
  • 教育・学習支援業 54,4%
  • 小売業 61,4%
  • 医療、福祉 62,6%

反対に、社員定着率が最も高い業界は電気やガスなどのインフラ業界です。インフラ業界は高卒大卒ともに、社員定着率90%程度の数値を記録しています。なので、最終学歴に関わらず、社員定着率の値は自社の属する業界も考慮に入れるべきだと言えるでしょう。

以下の資料を参考にしましたので、自社の業界平均を確認してみてください。

参考資料: 厚生労働省、「新規学卒就職者の離職状況を公表します」

続いて、新卒など関係なく従業員全体で割り出した値を、令和2年度雇用動向調査で見てみましょう。こちらも、資料の離職率を基に1年間の社員定着率を計算したものです。業界別に社員定着率が低い順で紹介します。

  • 宿泊業・飲食サービス業 73,1%
  • 生活関連サービス業・娯楽業 81,6%
  • 教育・学習支援業 84,4%
  • 不動産業、物品賃貸業 85,2%
  • 医療、福祉 85,8%

これまでの結果からわかることは、2つです。1つは、新卒3年以内は比較的離職しやすい傾向にあること。もう1つは、新卒など関係なく社員定着率が低い業界は存在するということでしょう。

同じく参考資料を下記に掲載したので、自社と自社の業界平均を比較してみてください。

参考: 厚生労働省 「令和2年雇用動向調査結果の概要」

しかし、上記2つの統計に記されている離職率は前年の統計と比較すると、減少傾向にあります。これはなぜなのでしょうか。理由の1つに、様々な業界で人的資本経営が浸透していることがあげられます。少子高齢化社会となり、労働人口が減少する社会状況において、人的資本経営は欠かせません。経済産業省が人的資本経営について詳しく言及しておりますので、下記にリンク掲載いたします。

参考:経済産業省 「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」

社員定着率を上げるメリット

社員定着率を上げることのメリットは多くあります。ただし、むやみ数値を上げれば良いわけではなく、企業のフェーズに合わせた施策を打つことを意識してください。自社の組織体制のどこに問題があるのかを見つめなおす機会にしましょう。

社員の採用・教育コスト削減

社員定着率を上げることで、コストを削減することができます。離職者が多いと、そのたび採用にコストを割かなければなりません。加えて、採用後のオンボーディングにもコストがかかります。

「優秀な人材が次々辞めていく」「採用3年以内の社員の離職が目立つようになってきた」という課題を自社でお持ちであれば、評価制度やオンボーディングに改善の余地があるかもしれません。コスト削減のためにも、見直してみると良いでしょう。

関連記事:【人事必見記事】採用コスト削減を成功させる8つの手法

従業員のインセンティブ向上

社員定着率を上げるために社内を見直すことは、既存の社員に取っても良い影響を及ぼします。従業員のインセンティブを上げるというと、成果報酬型の評価制度を思い浮かべる方もいるのではないでしょうか。単純に金銭的なインセンティブを向上させる以外に、リテンションマネジメントという考え方を紹介します。

リテンションマネジメントとは労働人口の減少に伴い、人的資本経営が重要だという考えに基づいたマネジメント手法として近年注目されています。ワークライフバランスやメンタルヘルスといった、従業員の生活を支えるための取り組みや従業員のエンゲージメント向上や適切な評価制度を行う取り組みがリテンションマネジメントの代表的なものです。

リテンションマネジメントの詳しい施策は後述しますが、従業員の生活や心情まで考えた取り組みを行うことで、インセンティブは向上するでしょう。また、社員定着率を上げられる以外にも、業務の生産性向上なども期待できます。リテンションマネジメントの施策は様々ありますので、自社にある取り組みを検討してみてください。

即戦力の確保・維持

社員定着率を上げるメリットに優秀な人材を維持できることが挙げられます。上述したように、人材の維持はコストの削減にも有効です。では、なぜ社員定着率を上げることが即戦力の確保に繋がるのでしょうか。

社員定着率の向上を図るということは、社内制度を改善していくことを意味しています。転職希望者の多くは、業務内容以外にも、キャリアや福利厚生を考慮して転職活動を行うはずです。より良い社内制度を構築しておけば、即戦力人材の確保競争で有利なポジショニングを取れるでしょう。

社員定着率を上げる5つの施策

社員定着率を上げる施策に正解はありません。最終学歴や業界ごとに社員定着率の平均が異なるため、まずは自社の離職者の特性や傾向を分析してみましょう。紹介するメンター制度やフレックスタイム制などはリテンションマネジメントの代表例です。自社の課題に合わせて検討してみてください。

メンター制度

新卒など若手社員の離職が目立つのであれば、メンター制度の導入が良いでしょう。メンター制度とは、年次の近い先輩社員(メンター)が新入社員の補助的な役割を担う制度のことです。仕事のことはもちろんのこと、プライベートやキャリアのことも相談できるような場を設けることで、若手社員との活発なコミュニケーションが生まれます。

実際に、多くの企業では定期的に1on1(メンターと一対一で話すこと)を実施するなどメンター制度をより効果的に活用しています。1on1は月1回程度から、週1回以上行っている企業もあるようです。まずは月1回から実験的に始めてみると良いのではないでしょうか。

フレックスタイム制

30代や40代の中堅社員が多く辞めてしまっているのであれば、フレックスタイム制をお勧めします。フレックスタイム制とは、出社時間や退社時間を定めず、勤務時間を個人の決定に委ねる制度のことです。

中堅社員の年齢というと、子育てを経験する人も多くいらっしゃるのではないでしょうか。子育てと仕事を両立された方であれば「朝1時間遅く出社できたら」という悩みを一度は持ったことがあるはずです。そこで、フレックスタイム制であれば、ワークライフバランスを保つことが出来るでしょう。

勤務時間を完全に個人に委ねる制度もあるのですが、多くの企業ではコアタイムを定めています。例えば、10時から16時までは全社員勤務しなければならない、というように全社共通の勤務時間をコアタイムと呼びます。核となる業務を行っている時間をコアタイムとして定めることで、業務効率の鈍化を防ぎましょう。

ピアボーナス

評価制度が曖昧になっていることで、社員定着率があがっていないケースが多くあります。特に社員数が多いほど、定量的な結果での評価や属人的な評価になってしまうのは、ある程度、仕方のないことでしょう。そのような課題を抱えているのであれば、ピアボーナスが有効です。

ピアボーナスとは、些細な気遣いや貢献に対して従業員同士で評価し合う制度です。全社的な評価制度では、可視化できなかった貢献に評価を与えることで、社員のエンゲージメントを高めることが出来ます。

ピアボーナス専門のサービスも多く出ており、評価された側に少額の金銭報酬を与えるものや、評価した側にインセンティブを与えるものなど、多種多様な工夫がされているので、自社に合うサービスを検討してみてはいかがでしょうか。

社内アンケート

社員定着率を上げる施策を多く導入しても、一時的な効果ではあまり意味がありません。重要なのは、社員からフィードバックを貰い、改善し続けることです。

そこで、施策を取り入れることと並行して、社内アンケートを行いましょう。人事の取り組みに関するフィードバックのみならず、社内事情を定期的にインプットすることで、社員が感じる課題意識を把握することが出来ます。

また、退職者アンケートを行うことも人事課題を改善していくために有効です。常に改善する意識をもち、フィードバックを貰いましょう。

関連記事:退職者アンケートの重要性とは?エグジットサーベイで分かる退職者の本音

アルムナイ専門サービス

社員数が多いほど、アルムナイ(退職者)も多くなってしまうことは避けられません。しかし、退職した瞬間にアルムナイとの関係を終わらせてしまうことは非常にもったいないとは思いませんか。

自社の良いところも悪いところもよく知っているアルムナイこそが、社内の課題を最も的確に理解しているはずです。アルムナイが他社で働いて改めて気づいた前職の良さや課題が、関係を続けることでヒアリングできます。また、業務委託を頼む際にも、自社をよく知るアルムナイであれば、スムーズに業務を進められるでしょう。

社員定着率を上げるためにも、アルムナイとの関係継続を検討してはいかがでしょうか。

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社員定着率にこだわる大企業が減った理由

社員定着率について説明してきたものの、近年は社員定着率にこだわる企業が、特に大企業を中心に減少しています。大きな理由は、アルムナイ(退職者)の再雇用に注目が集まっているためです。

アルムナイとの関係を継続しておけば、退職後も様々なかたちで自社にメリットが生まれます。アルムナイが現在従事している企業先との提携や、他者を経験したのちに自社に戻ってくることで、オープンイノベーションが促進するでしょう。

実際に、電通やみずほ銀行をはじめとした大企業で有料アルムナイ専門ツール(Official-Alumni.com)の活用をはじめています。是非この機会に導入を検討してみてはいかがでしょうか。