優秀な部下の異動希望こそ通すべき理由と注意点を解説

近年は人事異動のイメージが急激に変化しており、従来の価値観で人事異動を決定することが危険になりつつあります。

部下の希望を全て通すことが企業のためになるとは言えないものの、優秀な部下こそ積極的に異動させるべきだというのが近年のHR業界の見解です。

この記事では、最新のHRトレンドに触れながら、優秀な部下の異動希望をなぜ通すべきなのか理由や注意点を解説していきます。

優秀な部下を積極的に異動させるメリット

企業側にとっても、優秀な部下が様々な経験を積み、成長することは大きな資産となります。異動社員や企業にどのようなメリットがあるのか具体的に見ていきましょう。

他部署でのスキルアップ

優秀な部下を異動させるメリットとして最初に挙げられるのは「他部署でスキルアップを図ることができる」というものです。

そもそも優秀な部下であれば、既存の業務の難易度はクリアしているということが多いでしょう。より難度の高い業務に取り組むことで、企業にとって大きな戦力に成長するはずです。

近年は転職ありきのキャリア形成が一般的になってきています。そのため、どの企業でも価値を発揮できるようになりたいと考えるビジネスマンも増加しています。

したがって、社員のキャリアプランをしっかりとヒアリングし、企業と社員の双方にとってメリットがあるような異動を実現させることが何よりも重要です。

人材の流出を阻止する

優秀な部下を積極的に異動させるメリットとして2つ目に挙げられるのは「社外に人材流出するのを阻止できる」というものです。

まず、社員から異動の希望を出された場合は、退職リスクに注意する必要があります。優秀な社員であるほど、現在の業務内容より難度の高い業務を任せてもらいたいと思っている人は多くいるはずです。

先ほども述べたように、現在は転職ありきのキャリア形成が一般的になっていることから、異動希望が通らなかったら転職という選択肢を持つ傾向が高まっています

dodaが2020年7月から2021年6月の1年間で転職した方のデータを基に調査した転職理由ランキングによると、ランキング2位(29.4%)が「昇進・キャリアアップが望めない」、ランキング6位(24.0%)が「スキルアップしたい」、ランキング8位(23.7%)が「社員を育てる環境がない」というものでした。(参考記事:転職理由ランキング【最新版】 みんなの本音を調査!)

上記の調査からお分かりいただけるように、スキルアップを図りたいと考えて転職する人は実際かなり多いです。この記事をご覧の読者の方で、優秀な部下の退職が増えていることに悩まれている人事担当者の方は、これを機に自社の人事異動を見直してみてはいかがでしょうか。

それと同時に、みずほ銀行や住友商事、荏原製作所などの大企業を中心に導入が進んでいる、オンラインでの退職者アンケート機能がついた「Official-Alumni.com」のような退職者(アルムナイ)専門のSaaSツールの導入を検討してみてもよいかもしれません。

自社のアルムナイがどのような理由で退職しているのかを明確にすることで、人事制度を改善していきましょう。

関連記事:アルムナイとは?人事・HR領域で注目される背景と大企業の導入事例

次世代の社員に成長機会が生まれる

優秀な部下を積極的に異動させるメリットとして最後に挙げられるのが「次世代の社員に成長機会が生まれる」というものです。

優秀な社員が務めていた役職や案件が空く事で、他の社員の成長機会を創出できます。先ほどの転職理由にもあったように、成長機会を求めている若い社員は多くいます。

年功序列の組織体制が一概に悪いわけではありませんが、年功序列を続けてきた大企業であるほど裁量権のある役職が詰まっていることは往々にしてあります。優秀な部下を今後も創出するためにも、積極的にジョブローテーションを行っていきましょう。

以上をまとめると、優秀な部下のスキルアップのためにも、優秀な社員の退職リスクを減らすためにも、ジョブローテーションを積極的に行い自社の次世代を担う社員に成長機会を作り出すことは重要だと言えます。

しかしながら、異動する部下が優秀であるほど、業務の滞りが起きるリスクや望まない異動による退職リスクが生じてしまいます。

続いて、優秀な部下を異動させる際に気を付けたいことを見ていきましょう。

優秀な部下を異動させる際に気を付けたいこと

優秀な部下が異動するメリットが多くあるとは言え、企業として気を付けないといけないことも存在します。リスクを考慮せずに優秀な部下を異動させると、企業にも異動社員にもメリットが生まれません。

採用育成コスト増加

当然のことながら、優秀な異動社員の後釜を配置させるためのコストは発生します。例えどれだけポテンシャルの高い自社の人材を新たに配置しても、業務の引継ぎや研修に少なからずコストがかかるでしょう。また、社外から新たに採用するとなると、オンボーディングにかかるコストはより増加します。

上述したメリットと天秤にかけた時に、メリットが上回るようであれば異動希望は通すべきです。しかし、一過性の人事異動ではあまり効果がありません。今後もジョブローテーションを積極的に行う人事制度を構築しようと考えているのであれば、まず先に教育体制や採用制度を見直すことをおすすめします。これらの人事制度を構築することは採用ブランディングや社員のエンゲージメント向上にも繋がるので、改めて見直してみてはいかがでしょうか。

関連記事:【人事必見記事】採用コスト削減を成功させる8つの手法

一時的な戦力の低下

少し重複しますが、教育体制が整っていないのに、積極的な異動を行っても本末転倒です。先ほどは優秀な社員が抜けた後釜について触れましたが、異動社員の研修にも目を向ける必要があります。

いくら優秀な部下であっても、異動先で必ず適合できるとも言えないでしょう。転勤であれば、新しい勤務地に適応することで苦戦するかもしれません。特に海外転勤であればなおさらです。また、出向先や配置転換先の人間関係で悩むかもしれません。本記事は優秀な部下の異動に関しての記述ですので、業務レベルを信用しての異動だとは思いますが、様々な外的要因により活躍出来ないことも往々にして考えられます。

ただ、優秀な社員が異動により成長することは、間違いなく自社にとってもメリットがあります。ですので、長期的な視点でサポートする前提を持っておきましょう

異動社員への接し方

優秀な社員が異動することで企業にメリットがあるとはいえ、その社員のキャリアの志向性から外れることがあっては良い異動にならないはずです。望まない異動による社員のモチベーション低下が生じては、企業にも異動社員にも良いことはありません。

ですので、社員への入念なヒアリングをしてから人事異動を行いましょう。社員側からの異動希望であっても、異動社員のキャリアの志向性やプライベートの事情は当然考慮すべきです。企業側からの異動の打診であれば、なぜその異動先を打診しているのか、何を期待しているのかなど双方向のコミュニケーションを行うことを意識しましょう

また、人事異動前の接し方のみならず、異動後のフォローも欠かさずに行いましょう。例えば、定期的に人事面談を設けることで現状をヒアリングすることは効果的です。異動前後でのギャップや、異動して良かったこと悪かったことなどをヒアリングすることで、異動先の不安を解消することが出来ます。また、ジョブローテーションの精度向上にも効果的でしょう。

関連記事:良かれと思って打診したら望まない異動で部下が退職。上司が踏んだ地雷とは?【上司の反省. 1】

おわりに

以上、優秀な部下ほど異動希望を通すべきメリットについて解説してきました。

ここでは最後に、一体どのような背景でジョブローテーションなどの考え方が広まって来たのかについて言及していきます。

ただ「流行っているから」という理由で、人事制度を変えても効果は見込めません。近年急激に広まっている2つの考え方とその背景を理解したうえで、アクションに結び付けましょう。

ジョブ型雇用

「ジョブ型雇用」という言葉を聞いたことのある方は多いのではないでしょうか。

日本型雇用システム(メンバーシップ型)と呼ばれる従来の雇用システムは、新卒一括採用・年功序列・終身雇用をセットに行われてきました。それに対して、ジョブ型雇用は明確な職務が設けられたうえで、適したスキルや知見のある人材を採用する雇用形態のことを指します。

ジョブ型雇用の考え方が急速に広まった背景には様々な要因が挙げられますが、最も大きな要因の一つとして「日本型雇用システムが転職などの中途入社を抑制しており、日本経済停滞に繋がっているのではないか」というものがあります。

中でもとりわけ注目される契機となったのが、「日本型雇用システムは見直しの必要がある」という経団連の発言です。ジョブ型雇用の認知度が広まるにつれて、自分の現状に焦りや不安を抱える社員が増えているのです。

参考記事:春季労使交渉・協議の焦点〈4〉-日本型雇用システムの見直し

人的資本経営

もう一つの考え方に「人的資本経営」があります。経産省ホームページの人的資本経営の説明によると、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方のことだと記されています。この考え方の背景は、人生100年時代や第4次産業革命により変化の激しい時代予測がされていることから、企業価値に対するヒトの価値の比重が大きくなっているためです。

参考記事:経済産業省「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」

また、人的資本経営を考えるにあたって重要なことは、退職者(アルムナイ)も含めて資産であるということです。人事異動には経営状況によるやむを得ない判断がつきものです。望まない異動により辞めてしまった優秀なアルムナイとの関係は、退職した時点で終わりなのでしょうか。アルムナイ専門ツール「Official-Alumni.com」を活用し、退職後のアルムナイとのより良い関係を維持してみてはいかがでしょうか。

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