ここ数年で「アルムナイ」という言葉も定着しはじめ、そこに向けた取り組みを行っている企業もだんだんと増えてきました。
再雇用はもちろん、ビジネスコラボレーションや採用ブランディング、退職率の改善など、さまざまな価値を秘めるアルムナイへの取り組みですが、アルムナイの声や評判を活用した「組織改善」もそのひとつです。
2024年9月19日、そんな「組織改善」に欠かすことのできない、従業員やアルムナイの“本音”、そして退職後の関係性構築をテーマにウェビナーが開催されました。
TIS株式会社の取り組みとその成果、今後の展望などを、オープンワーク株式会社より実際のOpenWork上のクチコミデータをご提供いただきながら紐解いていきます。
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<登壇者>
TIS株式会社 (以下、TIS)
人事本部 人材戦略部 HRBP室 室長
藤澤 孝多さん
TIS株式会社
人事本部 人材戦略部 HRBP室 チーフ
天野 咲さん
オープンワーク株式会社(以下、オープンワーク)
執行役員
栗本 廉さん
株式会社ハッカズーク(以下、ハッカズーク)
セールス&マーケティング責任者
大森 光ニ
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組織改善のカギを握るのは退職者の“本音”
組織文化の構築や改善に向け、従業員の思いや意見などを吸い上げながら取り組みを行っている企業は多いのではないでしょうか。
たとえば入社直後の従業員には「入社前とのギャップがないか?」の確認やフォローをしたり、その後の在職中には1on1や従業員アンケートを実施したりと、定期的に社内の声を聞く機会を設けている企業はめずらしくないと言えるでしょう。
一方で、退職者に対してはその機会を逃してしまうことも多く、なかなか本音を聞き出せないことも。
しかし、そんな退職者からの声こそ、組織文化の構築・改善には有効であるとハッカズーク・大森は言います。
「実際に辞めた人の退職理由のデータを見ると『衛生要因』に目がいきがちですがキャリアアップなど、もっと自分に合った働き方を求めて転職することも一定数見られます。会社が嫌いになって辞めたわけではなく、そのまま会社にいてもやりたいことができなかった、という理由で退職している方も少なくないということです。そうした退職者の“本音”をしっかりと吸い上げることができれば、組織改善に向けた会社の打ち手も変わってくることがあるのではないでしょうか」
では、そんな退職者の“本音”をいかにして引き出し、活用していくのか。
そのポイントを掴むべく、まずはTISの具体的な組織改善への取り組みをご紹介いただきました。
HRBP室を新設し、さまざまな人事施策に着手
2023年4月に人事制度の見直しを行い、働き方改革に沿ったさまざまな仕組みを取り入れながら社員との関係構築を図っているTIS。「持続可能なエンゲージメント」を人材戦略の要と位置づけ、2024年には「働きがい認定企業」にも選出されました。
また、退職者との関係性においては、以前より自然な形で再雇用が生まれるなど、非常に良好な関係性を積み上げてきたそう。2021年にはアルムナイネットワークを立ち上げ、ゆるやか、かつ安定したつながりを継続しています。
「当社では、各事業部門が立案する事業戦略実現に向けて、事業部門に寄り添って、多様な人事課題・ニーズに柔軟かつスピーディに対応する為に、2021年にHRBP室を新設しました。このHRBP室の役割の1つとして、会社と社員の間に入り、社員の声を拾いながら課題設定をしていくといったものがあります。たとえば当社では年に一回上司と部下とで「キャリアプラン面談」を実施しているのですが、どうしても“1対1”という閉ざされたなかでの施策となりがちで、社員からは『なぜ会社が拾ってくれないの?』という声もあがっていました。現在はHRBPが人事としてしっかりと介入し、一人ひとりの声を拾いながら各組織でのキャリアの把握、従業員のケアや、組織長への組織内の社員のキャリア情報のフィードバック等により、組織長の行動変容の促進につなげています」
と話すのは、TISの藤澤さん。
さらに、今回のセミナーでは、特別にオープンワーク株式会社より、TIS社の「従業員クチコミレポート」のデータの一部提供がありました。
これはOpenWorkに投稿された社員・アルムナイからのクチコミをAIが分析・スコア化し、「生の声」に基づく形での組織・社風分析を支援するサービスです。今回は、レポートで評価される中の一つ「組織文化」を分析する、「時系列推移」と「ワードクラウド」をオープンワーク・栗本さんと紐解いていきました。
見られたのは取り組みとスコアの“連動性”
TISの「従業員クチコミレポート」から見える大まかな傾向としては以下の通りです。
TISの「従業員クチコミレポート」~組織文化~
時系列推移:2011年に働き方スコアが下がり始めているものの、2021年12月以降は上昇傾向にある。
ワードクラウド:2022年以前と比較するとネガティブワードが小さくなっている、かつプラスのワードが増加傾向にある。
この結果からは、実際に社内で起こった出来事や人事的な取り組みとの連動性を感じると藤澤さんは話します。
「スコアが下がりはじめている2011年は、当社の3社合併があった年。やはりカルチャーの違いなどが影響しているのではないでしょうか。また、後半に見られる凸凹は、社内で行った『働き甲斐のある会社調査』の結果と連動している印象です。さらに、スコアが上がり始めている時期は、理念の浸透活動を本格的にやり始めたころと同時期であると感じました」
また、TIS・天野さんからは「正直なところ(ネガティブな意味で)驚くワードも見られた」とも。評価制度なども2023年4月に新人事制度が変わっているため、今後さらに変化が起こるのでは?と見る一方で、栗本さんからは「ポジティブな部分とネガティブな部分が混ざるのは当たり前のこと。大切なのは、まずはそこに客観的に向き合い、部署ごと・性別ごとなどでセグメントしながら改善に向けて分析していくことです」と見解が語られました。
最後に
「客観的なデータで取り組みの方向付けをできるのはとてもありがたい」と、こうした人事施策におけるデータ活用の価値を振り返る藤澤さん。
従業員・アルムナイの“本音”の有用性をあらためて共有するとともに、やはりそこに大きく関わるのは「在籍時~退職時、さらには退職後の会社と従業員との関係性」と大森は話します。
そしてTISを例に見るように、“辞めても関わりを持ちたくなる会社”を体現することで、その有用性が最大限に活きるのであろうと、関係性構築の価値を再認識する場となりました。