これからの人事が知っておくべき「退職」のこと/Growth Pitch HR特集連動 FECCセミナーパネルディスカッションレポート

5月17日、オンラインで福岡市雇用労働相談センター(FECC)主催のセミナーが行われました。

FECCは、国家戦略特区法に基づき、労使間のトラブル等を未然に防止することを目的に設置された施設。ベンチャー企業等からの雇用ルールに関する相談に対して、専門家である弁護士や社会保険労務士が無料で回答しています。

本記事ではセミナーの中からパネルディスカッション「HR領域最前線スタートアップ4社トップから学ぶ『これからの人事に求められること』」を一部ご紹介します。


左から順に、モデレーター・株式会社リクメディア代表取締役・藤村 賢志さん(HP
株式会社ASIA to JAPAN代表取締役・三瓶 雅人さん(HP
株式会社ウゴク代表取締役・木村憲仁さん(HP / サービスサイト
株式会社ハッカズーク代表取締役・鈴木仁志(HP / サービスサイト

再入社した人のロイヤリティは高い

リクメディア・藤村:ハッカズークは退職後の再入社のような、企業の入り口部分もアルムナイ(退職者)のサービスで行なっているんですか?

ハッカズーク・鈴木:目的はさまざまですが、退職者の再雇用に関心を持っていただくことは多いですね。他にアルムナイに副業で仕事を依頼したり、ビジネスで協業したりといったこともあります。

最近は多様性や社外の知見を取り入れようという企業の動きがありますが、とはいえ自社と違いすぎるとうまくいかないことも多いもの。そういう意味では、自社の理解があって外の視点も持っているアルムナイの利点は大きいですよね。

リクメディア・藤村:外に出てから再び自社に戻ってくるというのは、組織にとってもプラスが大きそうですよね。

ハッカズーク・鈴木:そうですね。再入社した人に対して「また辞めるんじゃないか」と懸念する声もあるんですけど、むしろ企業へのロイヤリティは高いことが多いんです。

一度外を見て「隣の芝は青くない」と理解した人、会社が変わったことで「当時できなかったことができる」と考える人など、再入社する明確な理由があるので、非常にポジティブだと思っています。

退職時点で、本当の退職理由を本人が理解できていないことも

リクメディア・藤村:本音の退職理由はなかなかわからないものだと思うのですが、その点についていかがですか?

ハッカズーク・鈴木:ポジティブな気持ちで辞める方ももちろんいらっしゃいますけど、基本的に退職者には何かしらネガティブな要因があるものだと思います。

また、優秀な方であるほど辞める時に強く引き止められますが、その際の引き止め方が悪いと印象はマイナスに転じてしまいます。特に転職の場合、面接をして次の会社がよく見えている分、退職の意思を否定されることで現職が相対的に悪く見えてしまうものです。

そうなると、本音の理由は言えないですよね。エグジットインタビューをしても、明らかに本音ではない回答が集まることが珍しくありません。「一身上の都合」で終わってしまう。

あとは退職の時点で、本人が辞めた理由をよくわかっていないケースもあります。自分がスッキリするためのわかりやすい理由で納得しようとしたり、退職のトリガーが何だったのかを後付けで考えたり。外に出たことで前の会社の良し悪しを冷静に考えられるようになるんですよね。

そういった状況を踏まえ、当社では退職後3ヶ月、半年、1年など、一定期間を経た退職者に対し、アンケートやインタビューを通じて退職理由を振り返ってもらう機会をつくることをおすすめしています。実際にその結果を見て自社の環境を改善することで、不幸な退職を減らそうとする企業も出てきています。

「まさに『辞め方改革』が必要です」(ハッカズーク・鈴木)

社会人になると「外の世界とのミスマッチ」を知る機会がなくなる

ウゴク・木村:当社はパーソナル・コーチングサービス『mento』を提供していますが、個人の方の悩みの7〜8割がキャリアに関する悩みです。その悩みも「このままこの会社で同じ仕事をしていていいのか」といった漠然とした内容が多く、環境が変われば何かが起きるかもしれないという動機で、時に破滅的な選択をしてしまう。

でも要素を分解すると、「人間関係はキツいけど、異動したら解決するかも」と、シンプルになることも多々あります。必ずしも辞める必要はないんですよね。

ハッカズーク・鈴木:就職活動ではミスマッチを防ぐ目的でインターンがあったりしますけど、一度会社に入ると他の会社を含めた「会社の外の世界」とのミスマッチを知る機会はないんですよね。

だから辞めた後どうなるかがわからないまま「とりあえず出てみよう」と退職し、失敗するケースは結構多いんです。

実際に当社のサービスを導入いただいている企業の中には、アルムナイから「実は辞めたことを後悔しています」「機会があれば再入社したいです」という声が上がるケースもあります。

また、社員向けの社内講演会でアルムナイに登壇してもらい、外から見た自社の良いところや、今の仕事で役立っている経験について話してもらう事例も出てきています。これは同じ会社で働いた経験があって、かつ辞めて外に出た人にしか言えないこと。説得力がありますし、貴重な機会ですよね。

「退職者=裏切り者」を変えるためにできること

参加者からの質問:「退職者=裏切り者」と言われてしまうこともありますが、退職をネガティブにしないためにできることはありますか?

ハッカズーク・鈴木:基本的には終わりを最初から意識して、退職をタブー視しないことだと思います。

日本企業は長期雇用、終身雇用と言われますけど、実は結構辞めているんですよね。それに終身雇用自体、契約書があるわけではありません。

それなのに、次のキャリアを考えていると表明することがタブーになってしまっている。会社側が辞める自由が個人にあることをオープンに話す必要がありますし、同時に残ってほしい人に対し、残ってもらうための環境をつくることも重要です。

一方で個人は、会社から求められる人材で居続けなければいけません。日本では転職をするときだけ「大きな決断をした」と言いますけど、本当は転職しない人も毎日「この会社に残る」という決断をしているという自覚が必要です。会社に縛られているわけではないという意識を持った方がいいと思いますね。

文/天野夏海