「部下が退職したのは自分のせい」上司時代の失敗談 | ベンチャーから大手企業に転職して気づいた過去の失敗

連載「部下の退職、上司の反省」
「部下の退職」にまつわる上司の失敗談にフォーカス。「あの時どうすればよかったのか」を振り返り、「良い送り出し方」について探ります。
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連載第2回目に登場するのは、ITベンチャー元役員の吉本 重明さん(仮名)。ベンチャー退職後に大手通信企業へ転職し、「部下」の立場となった彼が気づいた当時の失敗とは……?

吉本 重明 さん(仮名)
40代男性。ITベンチャー企業の元役員。退職し、現在は大手通信企業の課長として働き始め、13年ぶりに部下の立場となる。

面談で部下に罵倒され、社内に複数名の「アンチ」が存在する状況に……

—— 今日の取材テーマは「部下の退職に関する上司の失敗談」です。以前はITベンチャー企業の役員をされていたとのことでしたが、その頃のご経験で何か思い当たることはありますか?

「俺には他のキャリアもあったのに、お前のせいでダメになってしまった!」と面談で私を罵倒し、辞めていった部下がいました。3年弱務めた30代の男性社員でしたね。

彼は非常に声の大きい社員でしたので、在職中に周りを巻き込み、複数名の「アンチ吉本」が存在する状況となってしまいました。ひどい時には、社内SNSで私の悪口を書く専用の非公開チャットが存在していたくらいです。

—— なんと……。それは衝撃的な出来事ですね。なぜそのようなことになってしまったのですか?

会社が採用時にミスマッチを見抜けなかったことと、彼にとって入社前後に大きなギャップがあったことが原因かなと思います。

前者について、彼はこれまでずっと大手企業を渡り歩いてきた人でした。そこからいきなり20名規模のベンチャー企業に入り、思ったよりも何も整っていない、全て自分でやらなきゃいけない環境に適応できず、フラストレーションが溜まっているように見えました。

また後者に関しては、「新しく開発するプロダクトに、あなたの知見が必要です」という内容のスカウトメールを送ったことが採用のきっかけとなったものの、彼が入社した直後に事業の見通しが立たず、その開発が凍結してしまったんです。せっかく転職をしたのにやりたかったことができなくなったわけですから、彼としては相当不満だったと思います。

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—— なるほど、採用時点で食い違いが生じてしまっていたわけですね。複数名のアンチがいたとのことですが、他に部下との関係やコミュニケーションで失敗したと思うことはありますか?

1on1で「残業が嫌だ」と女性の部下に泣かれてしまったことがありました。

普段からよく残業していたのですが、基本的に楽しく働いているように見えましたし、入社時に「夫の収入だけでは足りないので、自分も稼がなければならない」と言っていたので、苦ではないのだと思っていたんです。彼女にはそういう認識であったことを素直に伝えたのですが、ちょうど先述した男性社員の影響でアンチ吉本が存在している状況だったこともあり、「夫の収入が少ないんだから働けと言ってパワハラをしたらしい」と噂になってしまって……。

そんな意図は全くなかったものの、上司の私が気軽に言った一言が、部下には思った以上に重く伝わってしまうのだと反省しました。また、踏み込んだ家庭の話はしない方が無難だと学びましたね。

部下の「辞めたい」は止められない。上司時代の自分は彼等への「ごめん」が足りなかった

—— 面談で吉本さんを罵倒して辞めていった男性部下の話も、1on1で泣いてしまった女性部下の話も、なかなか強烈でした。悪口のグループチャットやパワハラ疑惑など、なぜここまで大ごとになってしまったのでしょう?

実は、そもそも私を含むマネジメント層の中での対立があったんです。だからこそ、「アンチ吉本」社員たちが暴走をしても、他のマネジメント層が積極的に解決しようとはしなかった。組織として、抑止力がない状態でした。

これは今だから思うことですが、マネジメント層が対立している状況は、社員にとっては非常に居心地が悪かったでしょうし、仕事のやりづらさに繋がっていたのでしょうね。

というのも、私は転職をして現在は課長として、久しぶりに「部下」の立場になったんですが、私の上司たちの仲が良くないんですよ。それぞれから異なる話が飛んでくるので、何が本当なのかも、どう動いたら良いのかも分からないんですよね。

自分が部下の立場になって初めて、かつての会社で部下たちがどれだけやりにくかったかを痛感しました。これは私にとって大きな気づきでしたね。そりゃあアンチにもなるだろうし、円満に辞めようとも思えないよなと……。改めて当時のことを本当に反省しています……。

——奇しくもかつての部下と同じような状況にあるのですね……! 当時の部下の気持ちを身をもって体験しているわけですが、いまの吉本さんが部下との接し方で気をつけていることはありますか?

上司の自分から部下へ歩み寄ることで、信頼関係を創ることです。全然私に話しかけてこない部下に自分から積極的に話しかけに行ったり、相手がどんな状態であっても明るく接したり。上司がいつも明るく機嫌良くあれば、部下も話しかけやすいし、相談もしやすいと思うんです。

相談を受けた時も否定するのではなく、まずは相手の意見を受け入れるように心がけています。小さいことではありますが、日々のコミュニケーションの積み重ねは意識していますね。

——では最後に、部下から「辞めたい」という話があった時、上司はどうしたらいいのだと思いますか?

退職は大きな決断ですから、「辞めたい」と言ってきた時点で心は決まってることがほとんど。その時点では、もう止められないと思います。

止められるとしたら、部下から「退職」という言葉が出る前です。1on1など日々のコミュニケーションで感じた違和感を見逃さず、早めにフォローすることが大切なんでしょうね。

また、かつての私のように、部下の期待するキャリアに応えられなかったり地雷を踏んでしまったりしたときに放置せず、すぐ対応するのも重要です。今振り返れば、過去の自分は部下に対する「ごめん」が足りなかった。たとえ事業の状況など私一人ではどうしようもないことであっても、もっと真摯に部下に向き合い、謝罪をするべきでした。

そうしたコミュニケーションを重ね、退職の原因になりそうな不満や問題点を潰していった上で「辞めます」という話になるのであれば、それはもう応援するしかないのだと思います。

反省と教訓

反省①部下の期待するキャリアに応えられなかった
→たとえどうしようもない理由でも、真摯に部下に向き合って謝罪すること

反省②マネジメント層が対立してしまい、社員にとって居心地が悪い環境だった
→上司から部下へ歩み寄り、信頼関係を創ること。上司が明るく機嫌良くあれば、部下も話しかけやすい

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文・写真 :築山 芙弓 編集:天野 夏海