リブセンスが譲渡制限付株式制度「リブシェア」を導入。退職後も継続保有できるスキームに込めた想い

HR領域をはじめとした多様なサービスを展開するIT企業リブセンスが、国内初(※1)となるスキームを採用した譲渡制限付株式制度「リブシェア」を導入しました。

「リブシェア」は5年間の譲渡制限期間を設けた株式(以下、RS)を社員に付与する制度。役職や在籍期間を問わず全社員(※2)が付与対象となり、全社員が「社員かつ株主」となります。

特徴的なのは、譲渡制限が解除される前に退職しても継続してRSを保有できること。(※3)つまりアルムナイになってからもRSを持ち続けることが可能です。

なぜこのような制度を導入したのか。同社執行役員兼人事部長の楠本 匠さんに聞きました。

株式会社リブセンス 執行役員兼人事部長 楠本 匠(くすもと たくみ)

新卒で都市銀行に入行し、その後(株)リクルートを経て起業。2011年に(株)カカクコムに入社し新規事業開発や旅行事業に従事したのち人事領域へ。事業部長や人事部長などを歴任し、2023年に株式会社リブセンスに入社。現在は執行役員兼人事部長としてコーポレート部門の管掌および人事業務・中長期の人事戦略を推進。

株式を付与することで、退職後のつながりをかたちにする

——譲渡制限付株式制度「リブシェア」導入の狙いを教えてください。

「社員の株主化」が主たる目的です。社員であると同時に株主となる環境をつくることで、会社の成長や株価の動向に関心を持ってもらい、より一層リブセンスでの自身の成長と会社や事業の成長をリンクさせてもらえればとの思いがあります。

会社がうまくいけば喜び、会社が苦しい時は一緒に苦しいと感じる。そのように会社と社員の喜怒哀楽を一致させていくことを狙っています。

リブセンスのプレスリリースより引用

——譲渡制限付株式(以下、RS)を全社員に付与するだけでなく、退職後も保有可能としたのはなぜですか?

そこは非常にこだわったポイントです。今後は会社としてオフィシャルにアルムナイとの関係性を強めたいと考えており、「リブシェアは退職後もつながりを持ち続けられる制度にしたい」という経営の意思を強く反映したものになっています。

リブセンスで働いた人たちは、濃淡はあれど少なからずつながりを持った人たちであり、いわば「リブセンスコミュニティ」の一員です。

退職するとはいえ、当社の理念やビジョンに共感して一緒に働いた事実は変わりませんし、アルムナイになってからも、当社の取り組みに対して「面白いことをやっているね」など、関心を持ってくれている人たちが一定数います。

そういうアルムナイに対して、個別に連絡を取り合っているケースはあったものの、会社からオフィシャルなアクションはできていませんでした。

そこで生まれたのが今回のリブシェアのスキームです。アルムナイになってからも株主として見守り続けてもらうことで、退職後の縁を強化したいと思っています。株式を付与することで、退職後のつながりをかたちにするイメージですね。

前例がないので手続きや契約上の問題などハードルは高かったのですが、理想の設計に近づけることを重視しました。結果として「幸せから生まれる幸せ」をはじめとする当社の経営思想に近い、会社の考え方が反映された制度になったと思います。

「退職=リブセンスへの興味が尽きる」わけではない

—— 一般的には、退職はネガティブなことです。貴社では社員の退職をどのように受け止めているのでしょうか。

もちろん退職は非常に残念ですし、会社としてはプロフェッショナルとして活躍し続けられる環境を整える努力はしています。ただ、それでも社員が自身の成長を考えた時に「外に出る」選択肢が生じてしまうことは避けられないと思っています。

当社の組織は「自分で選択する」文化が強く、数ある選択肢の中でどれを取るのか、一人ひとりの意思を大事にしています。かつ、成長を促す文化も強いので、成長のために退職する選択をしたのであれば尊重するのが基本的な考え方ですね。

とはいえ、「退職=リブセンスへの興味や関心が尽きる」わけではないと思います。最近の労働環境を見ると、ずっと同じ会社で勤めることの方がレアです。

だからこそ、退職という一見ネガティブな出来事でも、その後のつながりによってはまた当社の成長につながる関係性になることも可能だと思っています。

例えば、退職して他の世界を見た結果、「やっぱりリブセンスは良い会社だな」と感じたり、「また一緒に働きたい」と思ってくれたりすることもあるでしょう。実際、2023年には2名のアルムナイが再入社してくれています。

本人がベストだと思った選択を応援し、辞めてからもつながりを持ち続ける。そうやってアルムナイとの関係を継続することは、リブセンスがより成長するために必要なステップにもなり得ると思います。

——プレスリリースには「アルムナイを含めた新たなコミュニティの形成にも取り組んでいく」とありました。

まだ検討中ですが、さまざまな方法で情報を届けたりコミュニケーションを相互に取れたりできる場があるといいなと思っています。半期に1回全社員が集まる機会があるので、そこにアルムナイを呼ぶのもいいなとイメージしています。それとは別にイベントを企画する可能性もありますし、いずれにせよある程度の規模を想定したイベントを仕掛けたいですね。

——一般的なアルムナイと比べて、株式を持っているからこそリブセンスの成長に寄与しようといった意識も芽生えやすそうですね。

今回のリブシェアによって、今後は株式を持ったアルムナイが生まれます。その人たちに当社の今を知ってもらう機会を作りたいと考えています。また、再雇用に限らず、アルムナイが新たなステージで活躍する中で当社とコラボレーションしたりシナジーが生まれたりする可能性もありますし、提言やアドバイスをいただけることもあるのではと期待しています。

リブシェアのスキームが広がれば、働き方の価値観は変わるかもしれない

——「アルムナイと現社員が接点を持つことで退職者が増えるのでは」という企業の懸念の声も耳にします。その点はどう考えていますか?

起こり得ることだと思いますが、それを防ぐために抑制や制限をすることが正しいとは思っていません。実際にアルムナイが勤める会社に現社員が転職するケースは過去にありましたが、「成長して戻ってこいよ!」という思いも含めて送り出してきました。

結局のところ、事業を成長させるとともに、組織も強くすることで企業価値を上げ、さらには株価も連動して上げていくことが大切なのだと考えています。社員はもちろん、アルムナイにも興味を持ってもらうには、会社として大きく成長するのが本質だと思いますね。

——これまでに「締め付けない」というお話が何度か出ていますね。

リブセンスの不文律のようなものですね。

当社は社会の課題を解決するために事業を行っており、事業が成長することで社会の課題の解決につながると考えています。メンバーも「社会の一員として何をすべきか」という志向性が強く、「事業を通じて何を実現させたいのか」を意識している人が多いです。

そうした考えの元で経営を行っている経営を進めているのに対し、自社で働く人に対して不自由を強いたり意思を無視しストレスをかけ続けたりするのは、自らの言動とは反したものになってしまう。

だからこそリブセンスでは自由度の高さを大切にしています。基本的には本人がパフォーマンスを出しやすい働き方を選択し、自律して働き、個人の裁量の中できちんと成果を出す。なので、上司が必要以上に指示を出したり、一律で全員出社を義務付けたりといったことはしません。

そういった裁量や自由があるからこそ、「とにかく辞めるのを阻止しなければ」「本人の意思に関係なく絶対に引き留めよう」といった考え方にもならないのでしょうね。

——プレスリリースにもRSを退職後も保有可能とした理由として、「損失回避によるリテンションではなく社員とのエンゲージメントの向上を目的としている」とありましたね。

そうですね。従来の譲渡制限付株式やストックオプションはリテンションを目的に導入する企業が多いように思いますが、「退職させないために締め付ける」という考え方は当社にマッチしたものではありません。

私は中途入社ですが、他社と比べてもリブセンスはピュアな部分を大切にしていると感じます。経営陣が企業理念やビジョン、ミッションに基づいた理想を口に出し、それを実現させようとしている。それがリブシェアにも表れており、とてもリブセンスらしい施策だと思いますね。

リブシェアは特殊な取り組みであり、オペレーションの難しさはありますが、今後は他社にも同様のスキームが広がるといいなと思っています。その結果、人が企業に入ったり辞めたりすることに対し、従来とは違った考え方が生まれていくと面白いなと。

いろいろな会社に属し、その後も過去の会社とつながりを持ち続けながら働く。そういう人が増え、広がっていくことで、これまであたりまえだと捉えていた従来の働き方への価値観も変わっていくのではないでしょうか。

※1 2024年2月20日時点、リブセンス調べ

※2 勤務地、職務内容、勤務時間を限定しない無限定正社員が該当します。

※3 退職後の保有については、一部例外条件があります。