
2025年4月、エーザイ株式会社(以下、エーザイ)がアルムナイネットワークを立ち上げました。人的資本経営を実践するエーザイが2023年度に初めて発行した報告書「Human Capital Report」では、取り組みやさまざまなKPIを開示したことで多くの反響を呼びました。
同社は人的資本経営の考え方に則り、退職者も重要な人的資本であるという考えのもと、アルムナイネットワークの構築に至りました。しかし、その道のりは平坦ではなく、実は一度頓挫したことがあるのだそう。設立に至るまでの経緯や3年越しで実現したアルムナイネットワークへの想いについて、エーザイアルムナイ事務局のみなさんに伺いました。
※こちらは過去にエーザイに在籍していた方専用のネットワークです
<事務局メンバー>※2025年3月インタビュー時点の情報です

三瓶悠希さん(グローバルHR戦略企画部 戦略グループ長)※写真左上
2005年入社。国内でのMR、マーケティング、グローバルの中期経営計画の立案・モニタリング、海外留学、CEO秘書などを経て、2023年より現職。
佐藤寛子さん(グローバルHR戦略企画部)※写真左下
2010年入社。国内でのMRを経て、2021年より人事業務に従事。
飯島 みゆきさん(グローバルHRキャリアディベロップメント部 アクイージョングループ長)※写真右上
1998年入社。医薬品の開発やマーケティング・ブランド担当を経験。ブランドマーケティングや広告関連、コンシューマー部門のプロダクト責任者を経て2023年より現職。
福田幸正さん(グローバルHRキャリアディベロップメント部)※写真下中央
2021年入社。事務局では唯一のキャリア採用での入社。入社後は採用に関する企画と実行に従事。
市野川凌汰さん(グローバルHRキャリアディベロップメント部)※写真右下
2022年入社。新卒入社以来、人事業務に従事。採用・研修を担当。
「二の足を踏んでいた雰囲気を打ち破ろう」3年越しで実現したアルムナイの取り組み
ーーまずは、アルムナイに関する取り組みを始めた背景を教えてください。
福田:僕は転職組で、エーザイには約5年前に入社しました。入社当時、強く感じたのは「キャリア採用の方が非常に少ない」ことでした。エーザイは1941年創業の、長い歴史を持つ日本企業です。新卒一括採用で入社した方が定年退職まで在籍する文化が根強く、僕のような存在は珍しかったと思います。実際、現役社員の方と対話していても、「一度エーザイを退職したら関係性が終わってしまう」「(辞めた人に)捨てられた」という感覚を持っている方が多いと感じました。
現在はAIやIoTなどのテクノロジーが進歩し、働き方もガラッと変わりました。時代が急激なスピードで変化しています。その変化の波は人事の領域にも及んでいて、人材の流動化や他社との共創といった動きが加速しています。だからこそ、人事の考え方も変えていかなければならない。そうでなければ時代に取り残されてしまうという危機感を数年前から抱いていました。

ーー取り組みはスムーズに進んだのでしょうか。
福田:実は約3年前、リファラル採用とアルムナイ採用をやらせてほしいと会社に提案したことがあったんです。リファラル採用は実現しましたが、アルムナイ採用はさまざまな課題があって合意を得ることができませんでした。
三瓶:退職者との個人的なつながりは以前からありました。私自身、同期会を定期的にやっていますし、お世話になった先輩や後輩ともよく飲みに行きます。ただエーザイは、古き良きものを大事にする文化があり、会社として公式にアルムナイとの関係を築くことには、二の足を踏んでいるような雰囲気がありました。
飯島:2024年度のキャリア採用で入社した人の中には、1度辞めてまた戻ってきた人もいます。そういうケースはこれまでもあったようです。でも、私は人事部に来て初めて知ったんですよ。再入社する人がいるという事実はあったけれども、会社の仕組みとしてうまく回っていなかったのだと思います。
三瓶:歴代役員の中にも、カムバックしてきた方が何人かいますよね。アルムナイ採用もするし、外で経験を積んだ方とナレッジを深めるという文化はある。けれども制度は整っていませんでした。
ーー古き良きものを大事にすることで、結果的に、会社としてアルムナイとの関係性構築に二の足を踏んでしまっていたのですね。そんな中でネットワーク構築の実現に至ったきっかけは何だったのでしょうか。
三瓶:アルムナイのプロジェクトが再び動き出したのは2024年です。その年の夏、ちょうどエーザイを辞めた同期と飲みに行く機会がありました。そこで同期が、「エーザイでの経験はすごく良かった」「やっぱりエーザイが大好き」と言っていたんです。ライフイベントなど様々な理由で、エーザイを離れなければいけないタイミングがあった。でも、エーザイの根本的な理念を嫌って辞めた人はほとんどいないはずだと。
それを聞いて、辞めた人はエーザイのことを悪く思っていないのに、エーザイは辞めた人との距離を置いているという姿勢に違和感を持ちました。その関係性を整理して、エーザイとアルムナイがつながり、情報交換したり、新しい議論を起こしたりする場をつくれば、何か新しいものが生まれるのではないかと考えました。
福田:時代の風潮としても人的資本経営が重視されるようになり、人事メンバー一人ひとりの人的資本への理解度や注力度も格段に上がっていきました。これらの相乗効果で、再度アルムナイの取り組みにチャレンジさせてもらえることになりました。
三瓶:人的資本を広く捉えれば、外での経験や知識をエーザイに還元してくれる存在であるアルムナイも含まれるはずです。そういう考えに至ってからは急ピッチで話が進んでいきましたね。これまで二の足を踏んでいた雰囲気を打ち破ろうという思いが、起爆剤になりました。
エーザイの変化と不変、両方を感じてほしい
ーー今後、どのようなアルムナイコミュニティにしていきたいですか。
福田:“エーザイらしさ”を大切にしたいと思っています。エーザイの社員一人ひとりには、経営理念「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」が浸透しています。その理念を持ったアルムナイと共に取り組んでいけることも、エーザイらしいアルムナイネットワークだと考えています。
三瓶:これはあくまでも私案ですが、エーザイの変わった部分と、変わらない部分を感じてもらえたらと思います。例えば、「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」という患者様を中心とした考え方は、変わっていないエーザイのOSです。
一方で、変わっている部分もあります。例えば、ボトムアップの文化です。最近は社内のコミュニケーションをもっとカジュアルにする施策として「Project Aka-Chochin」を行っています。「組織長」「キャリア入社」「女性」など、特定のテーマを設定し、その属性に当てはまる人たちで集まって、立食形式でディスカッションする対話型組織開発の取り組みです。そんな活動から様々な提案が起こり、少しずつ変えていこうとする文化が醸成されつつあります。
そういう変わらない部分と、変わっていく部分、両方をぜひ感じていただきたい。そこにさらに、アルムナイからの刺激が加わったらこの上なく嬉しいです。
ーーアルムナイコミュニティにどのような期待をしていますか。
市野川:アルムナイは社内へも刺激を与えてくれると期待しています。私は今20代半ばで、いわゆる「Z世代」と呼ばれる世代です。今後、会社と個人は対等な関係であり、会社はいい経験やいい人間関係を獲得する場であるという考え方がより強まっていくと思います。そうなった時、エーザイで多くの学びや経験、人間関係といった資産を獲得して社外に飛び立っていったアルムナイの存在は、現役社員のモチベーションにつながります。それは会社にとってもメリットがあるはずです。
佐藤:これまで「退職」=ネガティブなイメージが強かったかもしれませんが、そうではないということを社内外に発信していきたいです。世の中が変わっていく中で、エーザイも少しずつ考えが変わってきて、今回の取り組みが実現しました。エーザイは退職した人財も大切な資産として捉えているということをしっかり伝えていきたい。そうすることで、現役社員の「退職」に対する意識も変わると思います。
エーザイとアルムナイ双方にとって良い機会を得られる場に
ーーアルムナイと一緒にやってみたいことはありますか。

三瓶:まずは一緒にお酒を飲みたいですね(笑)。現役社員の中には、エーザイの中だけで育った人がまだまだ多いんです。お酒を片手に、お互いにとって刺激になるような対話をして、お互いのビジネスに跳ね返す。そういうことをやりたいです。
佐藤:「Project Aka-Chochin」にも、アルムナイを呼びたいですよね。ただ、アルムナイに参加するメリットを感じてもらう必要があると考えています。双方にとって良い機会を提供できればと思います。
福田:やっぱり、エーザイってすごく良い会社なんですよ。でも、ずっとエーザイにいることで、それに気づけなくて、出た後にめちゃくちゃ良い会社だったと気づく。そういうケースはたくさんあると思います。そういう方たちに向けて戻ってこられる場所を作ったり、何かプラスアルファになるような情報を定期的に出したり、と考えています。社内の研修に参加してもらい、キャリアについて考えるコンテンツも考えていきたいですね。
飯島:せっかくの仕組みなので、アルムナイだけではなく社員にも還元されるものにできればと思っています。アルムナイと事務局、アルムナイ同士だけでなく、アルムナイと社員が繋がって、エーザイ全体の対話の総量が上がるものにしていきたいです。ただ、あまり堅苦しくせず、カジュアルで楽しいイベントにしたいですね。
ーーアルムナイに聞いてみたいことはありますか。
三瓶:「なぜエーザイを辞めたのか」は、ぜひ聞いてみたいです。CHROの真坂は、課題と改善のサイクルが重要だと考えていて、人事としても、あえてエーザイの悪いところに向き合っていこうとしています。アルムナイから課題を教えてもらえたら、改善策は人財戦略にしっかり反映させていきたいです。ぜひ忌憚のない意見を聞きたいです。
市野川:退職者と会社の関係が変わったからこそできることですよね。これまでの関係性だと、アルムナイの本音を聞き出すのは難しかったと思います。でも、対等で互いに刺激を与え合える関係なら、エーザイがより良くなるためにアドバイスしていただけるのではと考えています。

アルムナイは大切な財産
ーー最後にアルムナイの皆様へメッセージをお願いします。
佐藤:エーザイはアルムナイを大切な財産だと思っています。そのご縁を大切にしたいからこそ、アルムナイネットワークを設立しました。これからは会社としてしっかりつながっていきたいです。
三瓶:アルムナイに登録するのは決して義務ではありませんし、登録したからといって何か義務が発生するわけでもありません。シンプルに同じ釜の飯を食った仲間として、ゆるく楽しく、対話できたらうれしいです。
市野川:初めての取り組みなので、これからどんどんブラッシュアップされていくと思います。まずは様子を見る程度でも良いので、登録してみてください。
福田:昔に比べると、人生の中で働く期間は長くなり、仕事との関わり方も多様になりました。同じ人でも、環境や状況が変われば、仕事に対する考え方や関わり方は変化していくと思います。ご自身の置かれた環境や、仕事とプライベートのバランスに応じて、エーザイから刺激を受けたり、逆にエーザイに刺激を与えていただけたりすると嬉しいです。
※こちらは過去にエーザイに在籍していた方専用のネットワークです