マーケティングリサーチ国内No.1(※)のインテージが、アルムナイネットワークを立ち上げました。※「ESOMAR Global Market Research 2020」2020年6月期グループ連結売上高ベース。当該期は3月末から6月末への決算期変更に伴う2019年4月1日~2020年6月30日の15カ月間の数値
以前から他社に転職した人の再入社が自然と発生していたというインテージ。卒業生との関係を強化することで、「インテージ卒業生の価値を上げたい」と話します。
※こちらは過去にインテージへ在籍していた方専用のネットワークです
「再入社歓迎」のメッセージを伝えたかった
——アルムナイネットワークを立ち上げる背景について教えてください。
長崎:従来のインテージは新卒採用が中心で離職率が低く、中途採用が少ない構造でしたが、世の中の流動性が高まる中、最近は辞める人も一定数出るようになり、中途採用数も増えました。
また、事業としてもマーケティングリサーチから領域を広げ、「マーケティング全般に対して貢献する」スタンスに変わりました。結果として、当社のお客さまやビジネスパートナーになるような、隣接する企業に転職する人も増えています。
そういう人たちとのネットワークをつくりたいというのが、アルムナイネットワークをつくる一つの動機です。これまで個人情報の兼ね合いで退職者情報は一定期間が経ったら削除していましたが、それではもったいないと思いました。
——退職者とビジネスで一緒になるケースが増えているのですね。
長崎:そうやって隣接する分野の企業に転職した人の中には、再びインテージに帰ってくる人もいます。他社で異なるビジネスを経験し、そこで得た知識を基に、「今だったらインテージでもっと良い仕事ができる」という想いを持って戻ってきてくれる。
実際にほとんどの再入社者が活躍してくれているので、「積極的に戻ってもらう仕組みをつくった方がいいとだろう」と思ったことも、退職者ネットワークに着目した理由です。
中には辞めたから戻りにくいと感じている人もいるでしょうから、「帰ってきてくれることを歓迎している」というメッセージをきちんと伝えたいと思ったのです。
そこで人事に「退職者ネットワークをつくりたい」と言ったところ、「アルムナイですね」と。実は、私自身はその時に初めてアルムナイという言葉を知ったんですよ。
——アルムナイという言葉を知る前から退職者との関係構築に注目されていたのですね。退職者ネットワークをつくるというアイデアは、いつ頃から考えていたのでしょうか?
長崎:1年ほど前に経営推進本部へ異動した頃からです。ただ、それ以前から自分の部署に退職者が戻ってくるケースはあって、潜在的に「良いものだな」と思っていました。外の環境で得た新しい考え方を当社に持ち込んでくれると、幅が広がるんですよ。
その流れを促進したい想いはずっとあって、個人的に「戻ってこいよ」と辞めた人に声をかけることもしていました。それを組織的にできたらいいなと。
樋熊:今月も長崎さん経由で再入社する人がいますよね。2020年は採用を抑制していた中で年間3名の再雇用が発生しているので、会社として取り組みを始めたらもう少し増えるのではないかと思っています。
退職者は「データへの共通の価値観」を持つ存在
——口コミだけでそれだけ再雇用が生まれているのはすごいことだと思います。退職者が戻ってくる理由をどのようにお考えですか?
長崎:全員に共通する答えはわかりませんが、外に出たことでインテージのデータの良さを再確認する人は多い印象です。
新しい挑戦をしたいと前向きに転職し、自分が違うキャリアを経験したことによって「今ならインテージのデータを使ってもっとビジネスがつくれる」と思って帰ってきてくれるように思います。
樋熊:私は中途社員ですけど、インテージは人を非常に大切にする会社だと感じています。データの質の高さはもちろんですが、「やっぱり良い会社だったな」と外に出たことで気付く人も多いのではないでしょうか。
——ポジティブに退職して、ポジティブに戻る。理想の循環ですね。実際に、外部の経験を生かして活躍している実感もありますか?
長崎:もちろんです。我々はマーケティングリサーチ会社として調査結果に基づく示唆を出すのですが、再入社者はデータの見方やクライアントの要求への考えが、一段深くなっている感覚があります。
外から見ることでサービスの良いところも改善すべきところも見えてくるようで、「本当はこういう提案をしなければいけない」「こういうサービスが必要だ」といった提案もしてくれてありがたいですね。
通常の中途入社者と比べて、当社でのネットワークが一定あって、意思決定のフローやスムーズな仕事の進め方がわかっていることもプラスに働いていると思います。
——長崎さんは個人的に退職者へ声をかけているとのことですが、インテージ全体としては退職者とどのような関係性だったのでしょう?
長崎:転職して当社のお客さまになるケースが多いこともあり、肯定的だと思います。これは当社の特徴だと思いますが、同業他社に転職する人はかなり少ないんです。
データへの共通の価値観を持ち、当社の状況やデータの良さを理解した上でお客さま先に行ってくれるのは、我々にとってプラスですよね。もちろん、辞めてしまうことへの寂しさはありますが。
——データへの共通の価値観?
長崎:真面目さと、データに対するこだわりですね。
外に出ると、その真面目さから少し角が取れ、ビジネス寄りになるように感じています。むしろ良い塩梅かもしれないですね。うちの中にいるとデータの品質に対する真面目さが強くなり過ぎてしまうところもあるので(笑)
個人の事情で辞めざるを得ない局面は、人生の中で誰しも起こり得る
——アルムナイネットワークを立ち上げるにあたって、反対意見や懸念の声などはありましたか?
樋熊:もともと当社に戻ってくる人も多かったので、ポジティブに捉える人の方が多かったですね。
長崎:反対意見はなかったですよね。再雇用の良さは過去の実績によってみんなが認識していますし、戻ってくる人が増えるならいいのでは?と、肯定的な気持ちを持っていると思います。
——会社全体として「退職者とのつながりを強める=良いこと」という共通認識があるのですね。
長崎:そうですね。むしろ反対意見が出る理由がよくわからないです。
——辞めた人は裏切り者という感覚が強い企業ですと、反対意見が出やすいというお話は耳にします。
長崎:なるほど。当社の場合は正社員での再雇用以外に契約社員やアルバイトとして帰ってくる人もいますし、業務委託のパートナーになっている人もいます。退職後もビジネス上でインテージと関わっている人はかなりの数になりますから、そういう感覚はないですね。
それに、個人の事情で辞めざるを得ない局面は、人生の中で誰しも起こり得るじゃないですか。
その結果退職してしまった人は、その事象が解決できたら再び働いてくれる可能性もあるわけです。フルフレックスやリモートワークなど、働き方も柔軟にしているところですから、社員に限らず、いろいろな形でまた一緒に仕事をする機会はあると思っています。
——データへの価値観が共通しているからこそ、会社を離れても関係性は変わらない感覚があるのでしょうか。インテージにとって、アルムナイとの関係構築に取り組むのは自然なことなのかなと感じました。
長崎:そう思います。社内でも「仕組みになるんだね」くらいの感じですし、特別なことをやるという感覚はないですね。
たとえ辞めてしまっても、インテージとのつながりは残る
——アルムナイネットワークを通じて、まずどのようなことをしたいですか?
樋熊:フルフレックスやリモートワークが導入されたり評価制度が変わったりと人事制度が変わっているので、そういう情報をまずはお伝えしたいですね。
働き方の面でやむを得ず退職した方もいらっしゃいますから、最新情報を届けた上で、再雇用や業務委託、副業など、何かしらお任せできることがあるといいなと思っています。
同時に、事業自体の変革もあるので、新しい取り組みについてもアナウンスしていきたいです。そうした発信を通じてアルムナイの方の意見を伺いながら、その後何をやっていくか決めていこうと考えています。
長崎:まずは今のインテージを知ってほしいですね。その上で、当社に帰ってくるだけでなく、うちのデータを使ってもらう、当社の仕事を依頼するなど、一緒に何かやれるといいなと思っています。
樋熊:少し先の話ですが、アルムナイの方が登壇する研修や講習会を行い、現社員への研修や育成にもつなげたいですね。外部の会社へ転職した人から情報をいただいて、人事施策にも生かせればと考えています。
長崎:外に出ることで、インテージの良いところも悪いところも見えると思うので、教えてもらえるとありがたいですね。直せるところもあるでしょうから。
——アルムナイネットワークによって、現社員の離職促進につながるのではという懸念の声もよく耳にします。その点についてはどのようにお考えでしょう?
樋熊:離職につながる可能性はあるかもしれませんが、他社を見た上でのインテージの良さを現社員にインプットしてもらえる機会だと思いますので、デメリットには感じていないです。
長崎:アルムナイネットワークがあってもなくても、辞める人は辞めるでしょう。たとえ外に出ることになっても、当社とのつながりが残って、その上でデータを使いたいといった話が出てくるのならそれはそれで構わないです。辞めてしまうのはさみしいですけどね。
ただ、これは卒業生がお客さまになる可能性が高いという当社の特殊な事情も大きいのでしょうね。
ビジネス上のメリットをつくり、インテージ卒業生の価値を上げたい
(過去にインテージへ在籍していた方専用のネットワークです)
——インテージを卒業した皆さんにとって、アルムナイネットワークをどのような存在にしたいですか?
長崎:共通の価値観を基に、お互いのビジネス上のメリットが生じるようなネットワークになったらいいのかなと思っています。
以前、「データ領域をインテージの卒業生が仕切る世界にしたい」という若手社員の意見を聞いたことがあって。データに対して同じ価値観を持っている人が業界に広まるのは重要なことですから、確かになと思いました。
そういう意味でも、アルムナイネットワークが必要です。うちの最新情報やデータを卒業生に優先的に渡すことで、ビジネス的なメリットをつくれたらと思っています。
例えば転職先で「インテージのデータを活用した方がマーケティングがうまくいく」となって、その結果、卒業生の価値が上がる流れができると理想的です。
樋熊:卒業生にインテージ出身であることをアピールしてもらえるようになるといいですよね。
——最後に、改めて会社として退職者との関係をつくる意義とは?
長崎:インテージに所属している人は1000人程度ですが、卒業生を含めたらかなりの数になります。そして、インテージと共通する価値観を持っている卒業生とのネットワークができれば、インテージの影響力を大きくすることにもつながると思っています。
データに対する価値観が一致したネットワークができるというのは、それだけで価値がある。ビジネス上のメリットはあとからついてくるのではないかと思いますね。
※こちらは過去にインテージへ在籍していた方専用のネットワークです
取材・文/天野夏海