2020年5月から「アルムナイ制度」を導入した中外製薬。同制度は、アルムナイ(退職者)とゆるやかに関係性を持ち続けることを目的としたものです。
なぜ同社はアルムナイと積極的につながろうとしているのでしょうか?その背景や、制度導入に至るまでの経緯、そしてアルムナイへの想いについて伺いました。
従来の制度をより発展させるために、退職者再雇用登録制度を「アルムナイ制度」として刷新
ー2020年5月より「アルムナイ制度」を開始したとのことですが、これはどのような制度なのでしょうか?
黒丸:アルムナイネットワークに登録することで、会社とアルムナイ、もしくはアルムナイ同士でつながりを維持し、交流ができる制度です。
山本(秀):約2年前、電通のアルムナイネットワークづくりを務めていた方から、電通のアルムナイに関する取り組みについて話を聞いたことがありました。再雇用に限らず、アルムナイと情報交換をしたりビジネス連携をしたりと、さまざまな交流があると聞き、関心を持ちました。
とはいっても、当時は電通のような業態だからフィットするのだろうと思っていましたが、2019年に当社が「ヘルスケア産業のトップイノベーターを目指す」という新しいミッションステートメントを掲げたことを契機に、より多様な能力・スキル・経験を持った人たちの力を結集してイノベーションを創造しビジネスを発展させていく必要性が高まってきました。会社の方針が変わった今なら、当社にもフィットするかもしれないと考えました。
ー制度化に向けて、何か苦労したことや懸念点などはありましたか?
山本(秀):調整は比較的スムーズにできました。形骸化してしまっていた「退職者再雇用登録制度」を刷新する形で導入したので、会社は制度の仕切り直しができる良い契機と捉えていたように思います。
具体的には2019年5月頃から動き始め、人事部と全社キャリア施策企画で協働している人財育成部でアルムナイ制度を作るために必要な要素について話し合いを進めました。その後、7月に両部長に打診し、12月には経営層の承認を取り、1〜4月の準備期間を経て今回の制度導入に至っています。
ー旧制度と今回のアルムナイ制度の違いは何ですか?
山本(秀):旧制度は再雇用に特化したものでしたが、今回のアルムナイ制度では「アルムナイとつながりを持ち続けるための制度」として考え方を広げ、再入社を希望する方に限らず「中外製薬とつながりを持ちたいと思ってくれているアルムナイ」を対象にしています。
「結婚や出産などライフイベントで退職された方」のみだった対象者を、「転職や進学を理由とした退職者」にまで拡大した点も大きな違いです。
山本(由):私は社員からのキャリア相談窓口を務めていますが、ご自身のキャリアを考える中で今の仕事とは異なるチャレンジをしたり、学びを得るために退職を選択する人もいます。
決して会社が嫌で辞める人ばかりというわけではないんですね。私たちキャリア相談室の中でも「もったいないな」と思って見ていました。中には「辞めても別の形で中外製薬に貢献したい」と言ってくれた人もいるのです。
黒丸:そう考えてくれるアルムナイとつながりを持ち、もしタイミングが合えば再び当社に戻ってきたりできることは、当社にとってもアルムナイにとってもメリットがあるのではと思っています。
ー 外で培った知見や経験を生かして、お互いにニーズが合えばまた戻ってきてほしいということなのですね。
山本(秀):当社としてもヘルスケア産業のトップイノベーターを目指すにあたり、当社ではできない経験を積んだ「異能人財」のニーズが高まっています。
アルムナイは当社で働いた経験と、当社以外で働いた経験の双方を持ち合わせた人財。まさに「異能人財」ですから、力を貸してもらえればうれしいですね。
「中外製薬を応援したい」アルムナイがネットワークづくりに協力してくれた
ー アルムナイ制度について、社員からの反応はいかがでしたか?
山本(秀):アルムナイ制度についてアナウンスをしてすぐに、社員から「つながりのあるアルムナイに知らせたい」といったポジティブな反応がありました。
これから退職予定の社員にもネットワークの案内を始めているのですが、「ぜひ参加したい」といった反応で、安心しています。
ーアルムナイからの反応はいかがでしたか?
山本(秀):実はまだアルムナイの方々への案内は開始していないのですが、ネットワークづくりに協力してくれているアルムナイが6名います(本記事のインタビューは2020年3月に実施)。
一緒に取り組んでくれるアルムナイがいることで、私たちはアルムナイ視点のニーズを汲み取ることができますし、アルムナイにとっても価値あるネットワークがつくれるのではないか。そう考え、お声がけをしました。
ーどのような観点でその6名に声をかけたのでしょう?
山本(秀):私たち3人のネットワークをもとに協力してくれるアルムナイを選出し、現在所属している業界や在籍時の部署などは問わず、退職後も「中外製薬を応援したい」と言ってくれている方々にお声がけをしました。
また、在籍中に社内でアルムナイネットワークの立ち上げを考えていた方がたまたまいたので、その方にもお願いをしました。
皆さん快く引き受けていただき、「中外製薬のアルムナイネットワークを一緒につくりたい」という気持ちで協力してくれていて、ありがたく思っています。会社を辞めても「中外製薬と一緒に取り組みたい」「協力したい」と思ってくれているアルムナイがいることが本当にうれしいです。
良い人財を社会に輩出し、再び自社と関わる。そんな循環が理想的
ー今後はどのような取り組みを行っていく予定でしょうか?
山本(秀):開始したばかりなので、これから試行錯誤しながらつくっていくところですが、まずは、当社のSNSやホームページ、社員からアルムナイに直接声をかけるなどして発信し、アルムナイの方々に制度を認知してもらえるよう動いています。
再入社したい方だけでなく、ゆるい形で中外製薬とつながりを持ちたい方や、アルムナイ同士でつながりたい方も、ぜひアルムナイネットワークに参加していただけたら嬉しいですね。
(こちらは中外製薬のアルムナイ専用です)
山本(由):退職すると、会社の変化を知る手段がないですよね。システムでは、まず求人情報を含む中外製薬の最新情報の提供や、イベントの招待などを行なっていきます。
今回、退職者再雇用登録制度をアップデートする形でアルムナイ制度を導入しましたが、再雇用だけを目的にしたものではありません。
再入社を考えていない方も、異業界にいる方も、「中外製薬とつながりたい」と思ってくれるアルムナイの方であれば大歓迎です。まずは気軽に登録して、アルムナイネットワークで再びつながりを持ってもらえるとうれしいですね。
ー目的は再雇用に限らないとのことですが、アルムナイとの交流で中外製薬としては何を期待しているのでしょうか?
山本(秀):社外から見た客観的な中外製薬の良さや課題を忌憚なく教えてほしいと思っています。
例えば、あるアルムナイからは、患者さんのことを第一に考えた上でドクターをはじめとした医療従事者に誠実に情報を伝えられる点が中外製薬の良さだと聞きました。こういったことは社内にいると見えにくいですから、率直に聞かせてもらえると助かります。
こういったアルムナイとの関係からリファラル採用にもつながったら、という期待もあります。
山本(由):他に、社内にいるときは堅苦しいと思っていた社内の手続きが、実は安心感につながっていたと聞いたことがあります。会社として変えていかなければいけないところ、一方で必要な、残すべきところについても考えていくきっかけになるといいですね。
山本(秀):いずれは社員向けのキャリア開発のセミナーでアルムナイに講演をしてほしいと考えています。在籍時に考えていたことや、辞めてから気付いた中外製薬の良さなどを話してもらうことで、社員の視野を広げられたらと思っています。
ー最後に、中外製薬アルムナイの皆さんに向けてメッセージをお願いいたします!
山本(由):アルムナイネットワークはアルムナイ同士がつながれる場所でもあります。同じ環境で働いていた共通点があるぶん話は弾みやすいでしょうし、刺激にもなるのではと思います。それはアルムナイの皆さんにとって大きなメリットになるのではないでしょうか。
山本(秀):たとえ在籍中に交流がなかった人であっても、アルムナイになって知り合うことでシナジーが生まれることもありそうですよね。
黒丸:良い人財を社会に輩出できることは社会にとってプラスになります。そして輩出した良い人財が、いつか再び自社と関わる。そんな循環ができるのは理想的だと思っています。
当社で働いていたことがアルムナイのプライドになり、頑張りの源泉になる企業でいられるために、当社も努力していきたいですね。
(こちらは中外製薬のアルムナイ専用です)
取材・文:池野花 編集:天野夏海 撮影:築山芙弓