北九州の不動産企業・大英産業がアルムナイネットワークを開始「理念の実現には退職者とのつながりが必要」

福岡県北九州市の総合不動産企業・大英産業株式会社が、2021年6月にアルムナイネットワークを立ち上げました。

「元気な街、心豊かな暮らし」という理念の実現にも通じるという、大英産業のアルムナイネットワーク。発足背景や今後の展開について、同社の専務取締役・宮地弘行さんと、人財開発部主任の北野真理奈さんに伺いました。

※2021年6月実施の取材を元に作成しています。
所属・役職・年齢は取材当時の情報です。

※こちらは過去に大英産業へ在籍していた方専用のネットワークです

大英産業専務取締役 宮地弘行さんと
人財開発部 主任 北野 真理奈さん
大英産業株式会社 
専務取締役 宮地弘行さん(写真左)
人財開発部 主任 北野 真理奈さん(写真右)

「アルムナイ」に関心を持ったきっかけは、若手の退職への課題感

——アルムナイネットワークに興味を持ったきっかけについて教えてください。

宮地:当社は人が良く、仲が良い会社です。人柄を重視して採用し、丁寧に育てているので、本当に良い人材が集まっています。また、「チームで成果を出す」という人材目標や「人を大切にする」という大英バリューがあり、良い雰囲気でお客さまへの提供価値を追求できています。

そのような中、若手を中心に、期待しているメンバーの退職が増えつつあることが気になっていました。会社全体の離職率に大きな変化はないのですが、若い人は転職に抵抗がないんですよね。40数年大英産業に勤めている僕の世代とは、そもそもの働く目的が変わってきているのを感じています。

——若手社員はどのような理由で退職しているのでしょうか?

宮地:他にやりたいことがある、違うチャレンジをしてみたいなど、基本的には前向きな理由が多いです。

ただ、正直「もったいない」と思うこともあるんですよ。上司はメンバーのことをよく見ていますから、「あの人の強みはどこで生かせるのか」という会話がしょっちゅう飛び交っています。実際に適性を見て配置転換することもあるからこそ、次のチャレンジに進む人を見てもどかしく感じることもあって。

退職する人には「頑張って」「応援しているよ」と声をかけていますが、本音を言えば「隣の芝はそんなに青くないんじゃないかな」と思う場面もあります。

——最近は2社目を見据えて就職活動をする人も増えていますよね。

宮地:そうですよね。これは世の中の流れで、若手の退職も採用難も、原因は一つではなく、複合的なもの。仕方ない部分もあるのかもしれないと思いながら、ずっとモヤモヤしていました。

そのような時にアルムナイに関する記事を読んで、「この手があったか」と思ったんです。人事的な施策にズレを感じていたので、退職者とつながるという考え方に可能性を感じました。

その後アルムナイ研究所のシンポジウムに参加し、取り組んでいる企業がまだ少ないからこそ、早めに取り組むことがアドバンテージになりそうだと思い、検討を始めました。

退職者のイメージを変えた2つの出来事

——検討を始めてから実施まで、どのように進んでいったのでしょうか。

宮地:大きなきっかけが2つありました。

一つは、数年前に辞めたやり手の営業パーソンとの再会です。その人のところに退職を考えている人が相談に行くことが多いようで、辞める社員からよく名前が上がっていたんです。上司から見ると悪の親玉みたいなイメージでした。

でも、飲んだ帰り道にたまたま会って話したら、イメージが全然違ったんです。

「僕は大英産業の若手社員からよく相談を受けるけど、『そんなに甘くないから、今のところで頑張ったら? 大英産業は良い会社だぞ』って話しているんです。でも、きっと僕がそういう話をしているとは思われていないですよね」

「関係性はギクシャクしちゃったけど、僕は今も大英産業が好きだし、応援しているんです

そう話してくれて、後日、これからの大英産業が若手に対して何をしたらいいか、わざわざまとめてくれたんです。

大英産業専務取締役 宮地弘行さん

——悪の親玉どころか、強力な味方だったわけですね。

宮地:そしてもう一つのきっかけが、卒業生からの紹介で大工の採用が2名決まったことです。当社を知った経緯を聞いたら、ハローワークの職業訓練校で一緒になった大英産業の卒業生が「手に職をつけたいなら、私が前に勤めていた大英産業がいいよ」と言ってくれたそうなんです。

この2つの出来事が、アルムナイネットワークをやる決め手になりました。こういう人たちと会社が直接つながることで生まれるものは大きいんじゃないか。そんな可能性を感じられたのが後押しになりましたね。

——それまでアルムナイの方とはどのような関係性でしたか?

宮地:個人同士では仲が良いですけど、会社として組織的につながるというのは全くなかったです。

退職時は「会社に入って〇年間、良い仲間に恵まれて幸せでした」といった感謝のメッセージが送られてきて、それに対して「ありがとうね」「あの時楽しかった」など、返信がばんばん飛び交います。辞めた人のことを「出向に行かせているんだ」と冗談混じりに話す人もいますし、退職者から人を紹介してもらうなど、一部で交流はありました。

ただ、社員同士仲が良く、団結力が強いがゆえに、退職者への風当たりは強い面もあったと思います。

——仲がいいからこそ、辞めてしまうことへの寂しさも大きいですよね。

宮地:そうですね。辞めた人の話をするときに課長や部長の顔が少し曇るというか、大ぴらに話しにくい雰囲気は少なからずありました。そういうのも、今回の取り組みを通じて変えていきたいと思っています。

総論としては良いことのはず。それならまずはやってみよう

——アルムナイネットワークを開始するにあたり、どのような点に苦労しましたか?

宮地:アルムナイや退職者とつながるという考え方を社内で話して回ったのですが、「おっしゃることはわかります。でも……」という反応が多かったですね。人柄の良い人を採用して育てることをしてきた会社ですから、辞めることに対して「外に取られてしまった」という感覚を持つ人もいますし、気持ちはわかります。

他にも外部とつながりを持つことで引き抜かれてしまうのではないか、退職者が増えるんじゃないかと言う懸念も大きかったです。

でも、最終的には「まずはやってみよう」ということで動き出しました。いろいろ想いはあるだろうけど、総論としては良いことのはず。それならまずはやってみようと。

——北野さんは最初にアルムナイネットワークの話を聞いて、どう思いましたか?

北野:最初は正直、他にもっとやることがあるんじゃないかと思いました。でも、専務とお話をする中で、世の中の移り変わりを考えると必要なことなんだと理解できました。

大英産業 人財開発部 主任 北野 真理奈さん

北野:私は新卒採用を担当しているんですけど、一生働くと思って入社している人は多分いないんですよね。私も入社当時はそんなつもりはなかったし、世の中の移り変わりが激しいからこそ、数十年という長期のキャリアプランを描くこと自体が難しい。

また、アルムナイとの関係性はすぐに構築できるものではないからこそ、今からやる必要があるんだと思いました。本当に必要になった時に「やっておいてよかったね」となるイメージを持っています。

——アルムナイに関する取り組みは「いいと思うけど……」となりがちです。なかなか社内で進められずに困っている人も多いですが、アドバイスはありますか?

宮地:僕が聞きたいですよ(笑)。ただ、一つ言えるとしたら会社のタイミングはあると思いますね。

当社はマンションや戸建ての分譲を事業としていますが、これを続けることが目的なのか。そんな議論を役員でした結果、2016年に理念を見直しました。

人口が減って、空き地や空き家が増えていく地域課題を解決したい。その際にお客さまに提供できる価値を突き詰めた結果、「元気な街、心豊かな暮らし」という理念に至り、当面の間、この理念だけは絶対にぶらさないと決めた経緯があります。

それ以来、みんなの目線が少し変わったんですよね。これまではライバルだった他社との協業を考えるようになるなど、社員の目線や事業の幅が広がるのを感じています。

その際に重要性が増すのが、ネットワークです。地域の困りごとを解決するにも、ビジネスパートナーとの連携を進めるにも、外とのつながりが鍵となります。社員の視野を広げる上でも、外に目を向ける必要があります。

そう考えたときに、一つ欠けているのが卒業生とのネットワークだよね……というふうに、大きな方向性の中で話を広げていったことで、納得感を得やすかったように思っています。

「心豊かな暮らし」を願うのは、アルムナイに対しても同じ

——これからアルムナイとどのような関係を築きたいですか?

宮地:まずはゆるくつながりたいです。人事に関することは「とりあえずやってみる」という考え方ではダメだとも思うんですけど、この件に関しては当社が得意な目的と目標を決めてPDCAを回して……というやり方は合わないと感じています。

とはいえ、メリットを提示できないと社内を巻き込めないので、ビジネスパートナーとしての連携、販売代理の依頼、お客さまや物件、人材の紹介など、先々の展開のイメージは共有しています。

北九州にある、大英産業本社
北九州にある、大英産業本社

宮地:あとは、当社に戻ってきてくれる人が出てきたらうれしいですね。これまでに2人、社員との個人的なつながりから再入社してくれた人がいるんですけど、「なんだかんだ大英は良い会社ですよ」って言ってくれるんですよ。そういうのは戻ってきた人が言うとすごく響くじゃないですか。

仕事ぶりはもちろんですけど、そういう発言も含めて、戻ってきてくれるのは本当にうれしいことだと感じています。

ただし、あくまでも情報交換をしながらゆるくつながることがスタート。その先に「こういうことで困っています」といったコミュニケーションができるようになるといいな、くらいの温度感ですね。

北野:私はしんどいことや悩みを相談し合える関係性ができることが理想だと、個人的には思っています。卒業された方々からすると、自分から挑戦すると言って辞めているから、弱音なんて吐けないと思うかもしれません。

でも、大英はおせっかいな人がたくさんいるから「そんなの気にせんでいいよ」っていう人が多いと思っています(笑)。アルムナイネットワークを通じて、そういう想いが伝わったらいいですね。

——退職した人たちにもおせっかいの範囲が広がるイメージですね。アルムナイネットワークで、まずはどんなことをやりたいですか?

北野:まずは顔を合わせる機会を作りたいです。卒業した人が日常的に大英産業を頭に思い浮かべることは少ないでしょうから、「この仕事を大英と一緒にできたら面白そうだな」「転職先の選択肢に大英はどうかな」と、最初に当社を思い出してくれるように、まずは定期的な接点を持ちたいです。

あとは情報発信ですね。最近の大英産業は新しい事業や取り組みを始めていて、辞めた人から「そんな変化があるんだ」と言われることも多いんです。興味を持って聞いてくれるのを感じているので、アルムナイに向けて変化を伝えるための発信をしていきたいです。

——宮地さんは、改めて会社としてアルムナイとの関係性をつくる意味をどのように考えてますか?

宮地:常に頭にあるのは、「元気な街、心豊かな暮らし」という理念の実現です。地域に開かれた会社、地域に貢献する会社になるために、大英産業は「心豊かな暮らし」を実現するプラットフォームのような存在になりたいと思っています。たとえ会社を辞めても、アルムナイの皆さんの根幹にある「地域のために」という想いはきっと変わらないはずですから、ぜひ一緒に元気な街づくりをやっていきましょう。

そして、「心豊かな暮らし」を願うのは、アルムナイに対しても同じです。縁があって一緒に働いたわけですから、幸せになってほしいし、それを応援する会社でありたい。アルムナイネットワークが、そんな意思表明になればと思っています。

大英産業アルムナイへのメッセージ

大英産業専務取締役 宮地弘行さんと
人財開発部 主任 北野 真理奈さん
専務取締役 宮地弘行さん(写真左)
人財開発部 主任 北野 真理奈さん(写真右)

北野:気軽に、いつでも声をかけてください。辞めたから気まずいと感じる人もいると思いますし、私も人事という立場もあって、これまで正直、気を遣う場面はありました。でも、今回はそういうのは全て関係なく、「最近どう?」ってお互いに言えたらいいなと思ってます。

今どんなふうに頑張っていて、どんな気持ちで仕事をしているのか、ぜひ教えてください。せっかく楽しい時間を大英で一緒に過ごしたから、これから先もまちづくりや九州を盛り上げることを一緒にやっていける仲間でありたいと思ってます。

宮地:全くその通りだと思います。世界に何十億人と人がいる中で、一時期でも一緒に働いたというのは奇跡的なご縁ですよね。そういう仲間だっていう感覚を大事に、つながりを持てたらいいなと思っています。

大英産業はこれまで以上に理念の実現を重視するようになりました。地域に貢献したい想いは一層強くなりましたので、立場や環境こそ違えど、ぜひ一緒に取り組んでいきましょう。

※こちらは過去に大英産業へ在籍していた方専用のネットワークです