アルムナイ(退職者)とのビジネス連携や協業、オープンイノベーション、再雇用、自社の口コミの改善。
これらを実現するためには、「アルムナイに自社への好感を持ってもらう」ことが不可欠です。
その際のポイントとなるのが「退職時の体験」。
在籍中のエンゲージメントが重要なのはもちろんですが、退職を切り出してから辞めるまでの期間に不快な想いをした結果、会社への感情がネガティブに転じてしまうこともあります。
実際に過去のアルムナビのアンケートでは、退職の意思を伝えてから実際に退職するまでの間に、不快な思いをしたことがある人の半数以上が「会社への気持ちがマイナスになった」と回答しています。
では、「アルムナイに自社への好感を持ってもらう」ための送り出し方のコツとは?
退職面談時の上司の対応
パーソル総合研究所の調査によると、退職面談時の上司の行動として、「退職者の想いの引き出し」「再入社・協業の歓迎の意思表示」がアルムナイ意識(※)の向上に影響を与えていることがわかっています。
※離職した企業や同僚へのポジティブな意欲を「一緒に働きたい」「継続的に交流したい」「サービスを利用・委託・受託したい」という項目に分け、平均値を指数化したもの
逆にアルムナイ意識の醸成にマイナスの影響を与えたのは、「退職意思の尊重」。
一方、アルムナビのアンケートでは、退職の意思を伝えてから実際に退職するまでの間に、不快な思いをした理由として、約半数の人が「怒られたり、辞めないように圧力をかけられたりしたから」「退職の意思を否定されたから」の2つを上げています。
一見矛盾するように思えますが、「退職者の想いの引き出し」と「退職意思の尊重」の関連性に注目してみると、その理由が見えてきます。
退職者の想いを引き出せていない場合に退職意思を尊重すると、アルムナイ意識は低下。逆に想いをしっかり引き出せている場合、退職意思を尊重することでアルムナイ意識は大きく向上しています。
大多数の人は退職の意思を伝える前に、その決断について真剣に考えているもの。その想いに耳を傾けた上で、その意思を尊重することが、非常に重要だということです。
退職面談時の上司の行動への評価を見てみると、もっとも高く評価されたのは「退職理由に理解を示してくれた」であり、「退職意思の尊重」に関する項目が上位にランクされています。
逆に一番低かったのは「今後、また仕事で関わっていきたい意思を示してくれた」で、全体的に「再入社・協業の歓迎の意思表示」の項目は低い傾向にあります。
つまり、「相手の話を真摯に聞き、その上で退職の意思を尊重する」ことが大前提。その上で、辞めてしまうことを惜しみつつ、「また一緒に仕事がしたい」ことを伝えられるのが理想的といえそうです。
退職を早めに切り出せる文化
いい送り出し方をする上で、「早めに退職を切り出せる文化」をつくることも重要です。中には退職の意向を伝えた途端に、次のような対応をする会社もあります。
- 仕事を振らなくなる
- 急に無関心になる
- 周囲が冷たく接する
- 給与査定を下げる、ボーナスを支給しないなどの扱いをする
退職者が冷遇される姿を見ている同僚は「自分が辞めるときはギリギリまで退職の報告は待とう」と考えてしまうもの。
そうなると退職面談で十分に話を聞く時間が確保しにくくなりますし、「どうしてもっと早く言わないんだ」と、ついカッとなって冷静に話が聞けなくなってしまいかねません。
また、アルムナビが行った退職経験者へのアンケートでは、退職の意思を伝えてから退職するまでの間に不快な思いをした理由として、「引き継ぎ」に関するエピソードも多く見られました。
退職者はきちんと引き継ぎをしたいと思っていたのに、なかなか後任を据えてもらえず、満足な引き継ぎができないことに不満を抱くケースも。
早めに退職の意思を伝えてもらい、きちんと対話をし、余裕を持って引き継ぎを行い、後任がスムーズに業務を回せる状況をつくる。そうやってお互いに納得感を持って退職の日を迎えることが重要です。
「退職に関する情報開示」のすり合わせ
退職を告知するタイミングや方法、退職理由をどこまでオープンにするのかといった「退職に関する情報開示」のすり合わせも大切です。
「〇〇さんには自分の口から退職することを伝えたい」「プライベートなことだから退職理由は秘密にしたい」など、退職する事情や辞めることへの想いは人それぞれ。だからこそ、事前のすり合わせを怠るとトラブルになりかねません。
- 退職を周知するタイミング
- 退職理由をどう伝えるか
- 全体広報の前に個別に報告したい人がいるか
退職日が決まったら、上記について退職者本人に確認を行いましょう。
まとめ:退職への考え方をアップデートしよう
「終わりよければ全て良し」と言いますが、それは会社を辞めるときも同じこと。先述の通り、退職時の体験が悪いことは、会社自体の印象を下げることにつながってしまいます。
従来の日本企業は終身雇用を前提としていたため、人材への投資回収サイクルを長く見積もっていました。それゆえに、特に20〜30代の若手社員が辞める際、「お前にいくらかけたと思ってるんだ!」「育ててもらった分の恩を会社に返すべきだ」という発想になってしまっていたと思います。
ですが、今は生涯で複数の企業に属する時代です。人が辞めることが稀だった従来と異なり、人が辞めるのは当たり前になります。
だからこそ、退職への考え方をアップデートし、今の時代に即した送り出し方を考える重要性が増しています。退職面談は各上司のやり方に任せていた企業が多いと思いますが、このタイミングで今一度「社員の送り出し方」を整備してみてはいかがでしょうか。