【企業事例あり】アルムナイ採用を実現するためにアルムナイネットワークでやるべき2つのステップ

アルムナイ採用を目的にアルムナイネットワークを導入する企業が増える一方、いざ始めた結果、思うような成果が出ずに課題を感じている企業も少なくありません。

そこで本記事では、アルムナイネットワークを通じてアルムナイ採用を実現するポイントを紹介します。

アルムナイ採用でターゲットにすべきは「今すぐ戻りたい人」ではない

アルムナイネットワークに登録しているアルムナイの状況はさまざまです。

アルムナイ採用に関していえば、アルムナイの「戻れる/今は戻れない」という状態と、「戻りたい/今は戻りたくない」という意思の四象限に分けて考えることができます。

ここで考えたいのが、「どの層をアルムナイの取り組みによる再入社の対象とするか」です。

図の右上の「戻れるし、戻りたい」層が最も再入社の意欲は高そうですが、割合としては少数。中には転職活動中で、その選択肢の一つとして再入社を検討しているケースもあり、その場合は他社が競合となります。つまり母数が少ない上に、採用できる可能性も限定的なのです。

次に再入社の意欲が高いのは、右下の「今は戻れないけど、戻りたい」層。戻れない理由はさまざまですが、現職に不満がなかったり、優秀ゆえに現職からの囲い込みが激しかったりする場合は、アプローチ次第でアルムナイの考えを変えられる可能性があります。

左側の「今は戻りたくない」は脈がなさそうに思えますが、こちらも退職後に関係性を築き直したり、アルムナイの退職理由を払拭したりすることによって意思を変えられる余地は十分あります。

では、そのためにはアルムナイに対してどのようなアプローチを行えばいいのでしょうか。2つのステップに分けて考えてみましょう。

ステップ1. アルムナイとの関係性を改善する

ほとんどのアルムナイは退職時に、大なり小なり、何かしらの不満を抱えています。だからこそ、まずはアルムナイとの関係性を改善する意識を持つことが大切です。

そのために重要なのが、アルムナイネットワークを通じて継続的にアルムナイと接点を持つこと。その手段の一つがネットワーク内での情報発信ですが、それ以前に、まずはアルムナイが定期的にネットワークを訪れる状態をつくる必要があります。

その大きな動機となるのが、アルムナイ同士の交流です。アルムナイネットワークの運営を始めたばかりの企業は、まずはネットワークを機能させることを意識しましょう。具体的な方法は下記記事をご覧ください。

>>成功事例から見る、アルムナイの取り組みで「ネットワーク」が重要な理由

アルムナイネットワークに登録しているアルムナイは、会社に対して一定の愛着はあると考えられます。

例えばニトリの場合、アルムナイネットワークの登録者の約半分が「再雇用の求人に興味がある」と回答しています。もちろんアルムナイの再入社への関心は企業により異なりますが、ネットワークに登録している時点で再雇用の可能性はゼロではありません。まずは地道に関係性を築いていきましょう。

ステップ2. 3つのポイントを意識した情報発信

アルムナイネットワーク内での情報発信や交流会などのイベント開催時に、企業がアルムナイに向けて自社の情報を伝える際は、「アルムナイを歓迎している」姿勢を示し、安心感を醸成することが重要です。

具体的なポイントは、大きく3つあります。

ポイント1. 「当時できなかったことが今ならできる」の意識

アルムナイの多くは「古巣企業ではできないことがあった」のであり、それができる居場所を求めて退職をしています。

だからこそ「当時はできなかったけど、今ならできる」という視点を意識し、会社の変化を伝えることが有効です。

その意味でも、まずはアルムナイとの関係性を改善し、「なぜ会社を辞めたのか」を理解する必要があります。退職理由が解消できていない状態で再入社を促しても、なかなか再雇用には結びつきません。

なお、アルムナイネットワークでの情報発信は人事担当者が行うことが多いですが、アルムナイの当時の上司から個別に連絡をするのも効果的です。

どれだけ良い辞め方をしたとしても、アルムナイの中には会社を辞めてしまったことへの負い目があったり、当時の上司に対して申し訳なさを感じていたりする人もいます。だからこそ当時の上司から個別に連絡はもらうことは、アルムナイの安心感につながるのです。

ポイント2. 「経営層のアルムナイへの想い」を伝える

アルムナイの取り組みには、ぜひ経営層を巻き込みましょう。

会社の変化を紹介するにしても、「トップの考え方がこうで、現在の経営方針はこう変化した」と根拠が示せれば、説得力が増します。それを経営層から伝えられれば、より効果的です。

また、アルムナイネットワークやアルムナイとの交流イベントに経営層が参加し、アルムナイと積極的にコミュニケーションを取ることは、「会社としてアルムナイとどのような関係性を築こうとしているのか」というスタンスを表すことにつながります。

その一歩として、まずはアルムナイネットワーク内で、経営層がアルムナイへのメッセージを発信することから始めてみてください。

ポイント3. 再入社者の事例を紹介する

アルムナイの中には、再入社に興味があったとしても、「一度辞めた会社に戻りたいなんて、受け入れてもらえるのだろうか」という不安を感じている人もいます。

それを払拭するのが、他の再入社者の事例です。他にも同じ境遇の人がいるとわかるだけで安心感が得られます。

再入社者のインタビュー記事をアルムナイネットワーク内で発信する際は、再入社の経緯や動機のほか、「入社後の周囲からの反響」「戻ってもいいんだと感じたエピソード」など、アルムナイが再入社にあたり不安に感じる内容を入れられると理想的です。

インタビュー記事は、社内に発信するのもお勧めです。再び同僚となった再入社者への理解を深めるのはもちろん、現社員に「再入社という選択肢がある」ことを周知できます。現社員が退職した際に再入社をキャリアの選択肢として持ってもらうだけでなく、現社員が親しいアルムナイに再入社の声掛けをするきっかけにもなるのです。

なお、まだ再雇用事例がない企業の場合は、受け入れ時に再入社者を好奇の目で見ないよう、従業員にあらかじめ伝えることを推奨します。稀に「年収いくらで戻ってきたの?」など、再入社者が聞かれたくない質問をしてしまうケースもありますので、注意しましょう。

【事例1. 大手流通業A社】会社の変化を伝えたことが再入社のきっかけに

会社の変化を伝えたことで再入社につながった例として、大手流通業A社の事例を紹介します。

A社では、人事制度改訂に伴い転勤制度の見直しを行い、転勤不要のキャリアパスを新設。制度についてアルムナイネットワークで共有したところ、転勤がネックとなり同社を退職したアルムナイが関心を示し、再入社にいたりました。

A社のアルムナイネットワークの特徴として、ネットワークの更新頻度に対して、アルムナイのネットワーク訪問頻度が高い点が挙げられます。

愛社精神が強い、メディア露出が多かったり日常的に商品を目にしたりすることから自然と関心が高まっているなど、A社への関心が高い理由はアルムナイによりさまざまだと考えられますが、関心があるからこそアルムナイネットワークの投稿もチェックされており、その結果として再雇用に結びついているのでしょう。

今回の転勤制度の変更をはじめ、随時人事制度を見直し、改善の動きをし続けているA社。アルムナイもまた、外に出たことで客観的にA社を見るようになり、「思っていたよりも良い会社だったのだな」と感じる人が多いのかもしれません。

実際にA社を離れたことで古巣の良さに気付いたアルムナイが、アルムナイネットワークで再入社募集の案内を見たことをきっかけに、再入社に至った例もあるようです。

【事例2. 横河デジタル】代表からの声掛けからアルムナイ採用が実現

2022年7月に設立された横河電機の子会社・横河デジタルでは、同社社長の鹿子木宏明さんが元部下の方に直接声を掛けたことがきっかけとなり、アルムナイ採用が実現しました。

再入社された方は新卒で横河電機に入社し、AIエンジニアとして活躍されていましたが、「製造業以外の分野でAIがどのように使われているのか知りたい」「さまざまなことに挑戦し、異なる業界でどれだけAI技術者として通用するのか試したい」という理由から同社を退職。

その約3年後に製造業のDXを推進する横河デジタルが設立され、鹿子木社長から再入社の打診があった際、「新会社だからこそ、新しいことに挑戦できるのでは」と思えたことが再入社を決意する決め手になったのだそうです。

まさに「退職当時できなかったことが今ならできる」ことを「当時の上司かつ現社長」から伝えたことが功を奏した好事例です。

また、鹿子木社長から再入社の打診をいただいた当時は「転職を考えていなかった」のもポイントです。先に紹介した四象限の「今は戻れないけど、戻りたい」層に当てはまりますが、このようにアプローチ次第で考えを変えられる可能性があるのです。

>>【横河デジタル社長×再入社社員対談】再雇用の背景にある「アルムナイ・ネットワーク」と「退職時の送り出し方」(2023年7月実施の取材を元に作成した記事です)

【事例3. 日立ソリューションズ】カジュアル面談で「アルムナイへの会社の想い」を伝える

「退職しても人財であることに変わりはない」という考え方からアルムナイネットワークを立ち上げた日立ソリューションズ。従来から再雇用事例はあったそうですが、アルムナイネットワーク経由でも2名の再入社が決まっています。そのうち1名の事例を紹介します。

>>対談特集 アルムナイネットワーク – サステナビリティ – 株式会社日立ソリューションッズ

アルムナイネットワークで再入社募集を案内する企業は多いですが、同社のポイントは「キャリア採用一覧ページからの応募」と「現在転職を考えていない人に向けたカジュアル面談への応募」の2つの動線を用意した点にあります。

会社の現在の雰囲気を伝えるには、ネットワーク内での情報発信だけでは不十分。顔を見て話すことも大事だと考えたことからカジュアル面談を用意した結果、カジュアル面談経由で応募があり、採用に至ったのだそうです。

カジュアル面談では「会社としてアルムナイに対してどのような想いを持っているか」など、会社の方針を踏まえた上でアルムナイが退職してからの変化を伝えると同時に、「この先再入社するアルムナイには、ぜひ社外の知見を生かしてほしい」とアルムナイへの期待を伝えたとのことです。

カジュアル面談は選考ではないので、再入社への期待はあくまでアルムナイ全般の話として話すよう注意する必要がありますが、「今は戻れないけど、戻りたい」層に向けて、カジュアル面談の動線を用意するのは有効な手段と言えそうです。

>>アルムナイ=人財。日立ソリューションズがアルムナイネットワークでめざす「協創」とは