成功事例から見る、アルムナイの取り組みで「ネットワーク」が重要な理由

最近は退職者再雇用の文脈でアルムナイが話題になることが多いですが、他にもビジネス連携や協業など、アルムナイの取り組みによって生じるメリットは多岐にわたります。

その際のポイントとなるのが「ネットワークとして機能させること」です。

なぜネットワークが重要なのか、アルムナイネットワークと、アルムナイの再雇用を目的に利用されることのあるリファラル採用ツールを比較しながら考えていきましょう。

記事後半では、ネットワークが機能したことで生じた好事例を紹介します。

アルムナイが求めるものは「アルムナイ同士」のつながり

アルムナイの取り組みを再雇用やビジネス連携などの成果につなげるには、まずは退職者と継続的に接点を持つ必要があります

そこで、アルムナイの心境を想像してみましょう。

再雇用を目的にリファラル採用ツールを利用してアルムナイの取り組みをする企業の場合、退職者への発信内容は自社の最新情報や求人情報となります。

会社に対して強い愛着があったり後ろ髪を引かれていたりする人であれば別ですが、ほとんどの退職者は現在のキャリアに目が向いています。

つまり、辞めた会社の情報、特に求人情報を受け取りたいと思う人は少数であると考えられます。

一方、アルムナイネットワークに退職者が登録する動機の多くは「アルムナイ同士のつながりをつくりたい」です。

ある企業が自社の退職者に向けて「アルムナイネットワークに求めるもの」をアンケート調査したところ、「企業からの情報発信」が約20%だったのに対し、「アルムナイ同士の交流」は約60%にものぼったそうです。

ネットワーク登録の動機がアルムナイとのつながりだからこそ、かつての同僚が今何をしているのかを調べたり、登録者の情報を見たり、ネットワーク内で情報交換をしたりと、登録後もアルムナイネットワークを訪れる理由ができます。

そうしてアルムナイが定期的にネットワークを訪れることで、副次的に会社が発信する情報との接点も生まれます。

つまり一方的に企業からの情報発信をするだけでなく、アルムナイ同士の交流を生み出すステップが必要なのであり、そのためにはネットワークが不可欠なのです。

ネットワークが機能しない原因とは?

ネットワークを用意したもののうまく機能しないこともあります。その主な原因として、「アルムナイへのメリットがない」ことが挙げられます。

よくある失敗例が、再雇用を狙いすぎてしまケース。

再雇用を目的にアルムナイの取り組みを始める企業は増えていますが、それはあくまで企業のメリット。ほとんどのアルムナイは最初から再入社を考えているわけではないため、再雇用を全面的に打ち出してしまうと「登録したら再入社をうながされるのでは」とアルムナイを警戒させることにつながってしまいます。


例えば、アルムナイに再入社の魅力付けをするためにアルムナイイベントを開催し、再入社事例の紹介や社員との交流会を行った企業では、参加者の満足度が期待を下回る結果となってしまったことがありました。全てのアルムナイが再入社を希望しているわけではないことを踏まえずにイベント企画をした結果、残念ながら企業の押し付けになってしまったと考えられます。

アルムナイの取り組みを再雇用やビジネス連携などの成果につなげるには、その手前でネットワークを機能させる必要があり、そのための第一歩が「アルムナイがネットワークに登録するメリットを意識すること」なのです。

先述の通り、退職者がアルムナイネットワークに登録する動機の多くは「アルムナイ同士のつながりをつくりたい」です。

かつての同僚や同じ会社の出身者が今何をしているのかは気になるもの。例えばネットワーク内のプロフィール情報が、ネットワークを訪れたり他のアルムナイとの交流が生まれたりするきっかけになります。

他にアルムナイのキャリアインタビューを発信したり、アルムナイ同士の交流イベントを企画したりといった施策も、ネットワークを活性化させる上で有効です。

アルムナイネットワークが機能した企業の5つの成功事例

事例1. 社員と退職者、お互いの興味喚起と交流を促すイベント

住友商事グループはDiversity, Equity and Inclusion(DE&I)を「価値創造、イノベーション、競争力の源泉」と位置づけ、その方針を体現するものとしてアルムナイネットワークを整備。退職者と社員の交流によって、新たなビジネスチャンスや社会貢献の機会創出につなげようとしています。

2023年1月に行われた住友商事SC Alumni総会では、アルムナイと現役社員の協業事例をテーマにパネルディスカッションを実施。そのメリットを以下のように語ります。

「Alumniと現役社員は、“住商”コミュニティでの所属という大きなくくりの共通点があること、Alumniの皆さんは会社の文化や仕事の進め方なども理解しているため、コミュニケーションもしやすく、案件が比較的スムーズに進められる。」

「Alumniは、住友商事ではできない/やらない領域にチャレンジするために卒業する方も多くいるため、基本的には住友商事に足りないものを補完できる可能性が高い。その中でも、新興・Tech領域のケイパビリティは特に補完性が高いと思う」

同イベントではパネルディスカッション後、アルムナイによる事業プレゼンを経て、アルムナイと社員の交流会を実施。お互いへの興味喚起と交流を促すプログラムとなっており、まさにネットワークだからこそできる内容です。

>>2022年度 住友商事 SC Alumni 総会レポートAlumniと現役社員の協業事例などのプレゼン&交流会をオンラインで開催

事例2. 「登録者への関心を高める」仕掛けから生まれたアルムナイ同士の交流

2022年11月にアルムナイネットワークの運営を開始した、システムインテグレーターの日本ビジネスシステムズ株式会社(以下、JBS)の事例です。

JBSのアルムナイイベントの様子はこちらから

同社のアルムナイが転職後、アルムナイネットワークを訪れ、登録者のプロフィール情報をチェック。そこで同じ転職先企業にいるアルムナイを発見し、直接コンタクトを取ったことからアルムナイ同士のコミュニケーションが生まれました。JBS時代の共通の知人などの会話を介して交流が深まり、その後も転職先での接点が続いています。

ポイントは、アルムナイネットワーク内の自己紹介の仕組みにあります。JBSではネットワーク登録者全員が見られるトークルームで、リレー形式での自己紹介を実施。自己紹介をした人が次に自己紹介をする人を指名することで、登録者約200名中なんと約半数が投稿をしています

これによって「他にはどういう人がいるのだろう」と他のアルムナイへの関心が高まり、結果として「名簿でプロフィールをチェックする」という行動につながっているのです。

ただプロフィールを見て声をかけるだけであればリファラル採用ツールでも同じことができますが、その手前に「登録者への関心を高める」きっかけがあることが重要なのです。

>>JBSのアルムナイ交流会をレポート!JBSファミリーとしての垣根を越えたつながり

事例3. ネットワークによって生じた新たなビジネスの芽

大手金融機関では、アルムナイが登壇するライトニングトークイベントをオフライン開催。新たな人脈形成につながっただけでなく、イベント参加者同士で自社の資料を送りあったり、実際に会社訪問して事業紹介をしたりと、具体的なビジネスの芽も生まれています

こういったイベントの効果もあり、アルムナイネットワーク内では「新規事業を進めるためにこういう人に話聞きたいので、協力してもらえる人がいたら連絡ください」という、ビジネスの協力を求めるアルムナイの投稿が自主的に起きるようになりました。およそ半日で数名から返信もあり、まさにネットワークを通じて新たなつながりと価値が生じた好例です。

事例4. 独立したアルムナイの投稿をきっかけに商談に発展

全国でパチンコホールを運営する株式会社マルハンの事例です。

自営業でドレッシング製造を行うアルムナイが、アルムナイネットワークに製品の宣伝を投稿。マルハンの事務局メンバーがその投稿についてバーベキュー場を提供するグループ会社に話をしたところ、同社が関心を示し、商談に発展しました。

マルハンのアルムナイネットワークには約140名が登録しており、平均して2週間に1度はアルムナイから何かしらの発信があります。他にもラーメン屋を営むアルムナイが近況を投稿し、それに対してアルムナイからリアクションがあり、実際にお店を訪れるケースも。

マルハンでは卒業後に独立する人が多いため、自分の活動やサービスをアピールしたり、人脈を広げたりといったニーズが強いことがネットワークの活性化にプラスの効果を与えています。これもまた、リファラル採用ツールでは生じ得ない事例でしょう。

>>パチンコ業界のリーディングカンパニー・マルハンがアルムナイネットワークのトライアル運用を開始した背景

事例5. 控えめなネットワークでも「協力依頼」ならハードルが下がる

途切れてしまったアルムナイ同士の関係性が復活した、メーカー企業A社の事例です。

アルムナイが「在籍していた当時の上司を探している。連絡先を知っていたらつないでほしい」とアルムナイネットワークに投稿し、無事に当時の上司と接点を持つことができました

投稿したアルムナイは、「将来起業したら教えて」と以前に上司から言われており、実際に起業したことをきっかけに今回の投稿をしたそうです。

これもまたネットワークだからこその事例ですが、実はA社のアルムナイネットワークは普段から頻繁にコミュニケーションが発生しているというわけではありません。約160人が登録しているものの、どちらかというと受け身なタイプが多いといいます。

そんな中で本事例が生まれたポイントは、投稿が協力を依頼する内容だった点にあると考えられます。求められていることが明確なぶん、リアクションをしやすく、投稿のハードルが低いことが功を奏したのでしょう。

同社では、他にも「他社がどういう手法で中途採用をしているか知りたい」というアルムナイの投稿に対し、初めてネットワークに投稿した人を含め、十数人から回答があったこともあるそうです。

ネットワークの活性化に悩む担当者は多いですが、同事例のように「リアクションしやすい投稿」という観点を持ってみると違うアプローチができそうです。

アルムナイネットワークで価値を生み出すには

アルムナイの取り組みで成果を出すにはネットワークを機能させることが重要であり、そのポイントとなるのが「アルムナイ同士のつながり」。そのために必要な観点は大きく以下の2つです。

  • 企業ではなく、アルムナイにとってのメリットを意識する
  • アルムナイ同士の交流を促す仕掛けを用意する(イベントやコンテンツなど)

ネットワークが軌道に乗るまでは、特に2つ目の交流を促す仕掛けづくりが重要です。事務局が客観的な視点を持ちながら、アルムナイが参加しやすいイベントやコンテンツを企画する必要があります。

その間、プロの手を借りるのも一つの手。アルムナイのサービス運営企業の中には、ネットワークを機能させるためのコンサルティングサービスを行っているところもあります。

アルムナイネットワーク運営は人事担当者が別業務と兼任するケースが多く、また比較的新しい取り組みのためノウハウも少ないもの。アルムナイネットワークの自走に向けて、プロの知見を取り入れつつ工数を削減するのも有効な手段です。