2022年7月に設立された横河電機株式会社(以下、横河電機)の子会社・横河デジタル株式会社(以下、横河デジタル)で、アルムナイ・ネットワークをきっかけに再雇用が実現しました。
今回再入社した星野知也さんに声を掛けたのは、横河デジタル社長・鹿子木宏明さん。
当時転職を考えていたわけではなかった星野さんは、なぜ再びYOKOGAWAグループで働くことになったのでしょうか。お二人にお話を聞きました。
※2023年7月実施の取材を元に作成しています
※こちらは過去に横河電機へ在籍していた方専用のネットワークです
再入社の打診をする前に、アルムナイ・ネットワークを案内した
ーー星野さんが再入社に至るまでの経緯を教えてください。
鹿子木:2022年7月に横河デジタルという新会社ができ、私は社長に就任しました。製造業のDXを推進する会社であり、高度IT人材を幅広く集める必要があったのですが、真っ先に頭に浮かんだのが星野さんです。
彼は2017年に新卒で横河電機に入社し、2年ほど一緒の部署で密に仕事をしていました。製造業のお客さまに向けてAIを使ったサービス提供を行う部署でしたが、彼は非常に優秀なAIエンジニアだったのです。『Kaggle』という機械学習の競技コンペで上位入賞するなど、当時から「この人はすごいな」と思っていました。
星野:学生時代は物理専攻でしたが、AIはもともとやりたいと思っていたので、希望通りの配属でした。土日も趣味でAIを触っていましたし、それだけ仕事は充実していましたね。職場の環境もとても良く、楽しみながら働いていました。
ーーそのような中、なぜ退職することになったのでしょうか。
星野:製造業以外の分野でAIがどのように使われているのか、知りたくなったのです。さまざまなことに挑戦したい気持ちは強くありますし、異なる業界でどれだけAI技術者として通用するのか試したくなり、2019年夏に転職しました。
鹿子木:横河電機が嫌いなわけではなく、ステップアップしたいと聞き、これは引き止められないなと思いました。僕もまた彼のことを認めていて、優秀だと知っていたからこそ、応援するしかないと思えたのかもしれないですね。
同時に、「ひょっとしたらまた横河電機に戻ってきて、一緒に仕事ができるかもしれない」という予感も実はありました。だから円満退職を意識し、「頑張ってきてね」とエールを送りました。
ーーそういった経緯もあり、横河デジタルで採用をする際に星野さんを思い出したのですね。
鹿子木:アルムナイ・ネットワーク事務局メンバーの人事担当者に相談したところ、「まずはアルムナイ・ネットワークを紹介し、登録してもらってはどうか」という提案がありました。
「戻ってきてよ」と直接連絡することもできましたが、まずは横河電機が卒業生とのつながりを大切にしていることを見せたかったこともあり、私の部下から星野さんに連絡をしてもらうことに。
何より、元上司から退職した元部下を改まっては誘いにくいんですよ。「下心あるだろうな」と思われるでしょうし(笑)
そういう意味でも、アルムナイ・ネットワークの案内をするというワンクッションを挟めたのはよかったですね。いきなり連絡するよりハードルが下がりますから。
星野:私が退職した時にアルムナイ・ネットワークはなかったので、連絡をもらって「こういう制度ができたのか」と驚きました。
退職後の約3年間は、同期と遊びに行くなど、プライベートの交流はありましたが、横河電機自体との付き合いはなかったので、アルムナイ・ネットワークに登録したことで公式なつながりが復活したように感じましたね。
辞めておしまいではなく、こうやって会社とつながりが持てるのはうれしいなと思いました。
ーーアルムナイ・ネットワーク登録後はどのように接点を持ったのでしょう?
鹿子木:会食の機会を設けました。退職後にきちんと話すのはほぼ初めてでしたが、あまり変わっていなくて。お互いの近況報告や情報交換をし、頑張っているんだなと思いましたね。
転職先の仕事が楽しいと話していたので脈はないかなと思いましたが、デザートが出る頃に「また一緒に働かないか」と伝えました。星野さんは多分、そういう話になることに薄々気付いていたんじゃないかな?
星野:そうですね。予想はしていましたが、いざ言われてびっくりしました。アルムナイ・ネットワークができたとはいえ、一度退職した人に対して再入社を打診することが本当にあるんだなと。
転職を応援してもらったことが再入社につながっている
ーー当時、星野さんは転職を考えていたのでしょうか?
星野:全く考えていませんでした。
認めてくれるならという条件付きではありますが、先々のキャリアとして「YOKOGAWAに戻る」という選択肢は頭にありましたし、働きやすい職場だったので、戻りたい気持ちもありました。
ですから、横河デジタルに入社する可能性を提示していただけたのは大きなチャンス。とはいえ前職でより経験を積んで成長する道もあったので、どちらを選ぶか、1〜2カ月の間とても悩みました。
ーー再入社を決意した決め手は何でしたか?
星野:横河デジタルという新会社だからこそ、新しいことに挑戦できるのではと思えたことが決め手になりました。
転職理由もそうだったように、さまざまなことに挑戦したい気持ちがあるので、そこに対する期待が持てたことが大きかったですね。
鹿子木:『Kaggle』上位入賞のAI技術者は引く手数多であり、その多くは大手IT企業を希望します。AI技術者が製造業の横河電機に転職する壁もある中で、当社のことを理解した上で戻りたいと言ってくれたわけですから、感無量です。
ーー今回の再入社について、星野さんが退職する際の送り出し方も影響しているのではと思います。
鹿子木:そう思います。退職前に星野さんとは何回か話をしたんですよ。おそらく「転職はやめた方がいい」とは一度も言っていないと思いますが、アメリカの学会に一緒に行った時、部屋の隅で「残ってほしい」と話したことを覚えています。
でも彼の意志は固く、「それなら転職先で頑張れ」と言ったように記憶しているんだけど…。
星野:そうですね。私の中で退職の意思は固まっている一方、後ろ髪をひかれる思いもあったんです。だから「少し考えさせてください」と話し、帰国後の面談で改めて退職の意思を伝えました。その時に「頑張ってこい」と言われたのをはっきり覚えています。
鹿子木:もしかしたら記憶を美化しているかもしれないんだけど、その時に「星野君が戻ってきたくなるような組織をつくる」と言わなかったっけ?
星野:おっしゃっていました。
鹿子木:良かった(笑)。新しいチャレンジができる組織にならなければという想いがあったんですよね。星野さんが転職したあと、われわれもAI分野で頑張ってきましたし、そこを評価してもらって再入社をしてくれたのは本当にうれしいです。
星野:転職を決める時は非常に悩みましたし、苦しみながら決断をしました。そういう中で、退職後のキャリアを応援してもらえることも、「戻ってきたくなるような組織にする」と言ってもらえたことも、本当にありがたいこと。
そういう経緯も含めて今につながっているなと思いますし、だからこそ横河デジタルを成長させようというモチベーションにも影響していると感じています。
他社を経験した今、横河デジタルでやりたいこと
ーー星野さんは2023年4月に横河デジタルに入社しました。再入社してみて、いかがですか?
星野:改めて良い雰囲気の職場だなと思いました。新卒で入社した時の印象のままなのがうれしかったです。
新会社とはいえ横河電機と同じ職場ですし、知っている人もいますので、再入社後のオンボーディングは非常にスムーズでした。その点は通常の中途入社と再入社の違いですね。職場に慣れる期間が短く、本来やりたい仕事にすぐ入れるのはメリットだと思います。
ーーとはいえ一度退職しているわけですから、再入社する気まずさや緊張感もあるのではないでしょうか。
星野:緊張感は多少ありましたが、ポジティブに迎えていただき、受け入れてもらっている雰囲気を感じていました。知っている人がいるからこそ気軽に質問ができる良さもありますし、抵抗はなかったですね。
鹿子木:やはり退職前の関係性が大きかったのでしょうね。
実は送別会の後、彼の上司は泣いていたんですよ。「私の力が及ばず、すごい才能が外に出てしまった」と。そのくらい、星野さんに辞めてほしくない想いは強かったんです。
星野さんが横河電機を嫌いで辞めるわけでないとはわかっていても、やはり退職時は見限られてしまったのかもしれないという想いも多少ある。だからこそ、こうして戻ってきて横河デジタルのためにパワーを出そうとしてくれているのがみんなうれしいのだと思います。
ーー鹿子木さんは約3年ぶりに星野さんと一緒に仕事をして、変化を感じる点はありますか?
鹿子木:成果へのこだわりですね。まだ入社して2カ月ほどですが、1on1ミーティングなどで「自分の仕事は期待に合っていますか?」と確認してくれています。
技術者の中には自分の好きな技術を追求するあまり、ビジネスを脇に置いてしまう人もいます。以前の星野さんも技術が楽しくて仕方がない感じで、それほどビジネスに目が向いてないように感じていましたが、そこのマインドは変わったんじゃないかな。
星野:前の会社の影響もありますが、横河電機と新会社の横河デジタルでは会社のフェーズが違うというのは意識していますね。大きくグロースしていかなければと思って入社したので、ビジネス上の成果を出したいと思っています。
前職では広い領域でAI活用事例を見ることができ、違う事業領域を知るという転職の目的も達成できたので、これからは製造業でずっとやっている人とは違う角度からAI活用のアイデアを出していきたいです。
鹿子木:本当に頼もしいです。改めて戻ってきてくれたことに感謝ですね。
「皆さんは横河電機の卒業生」と公的に示すことに意味がある
ーー改めて、会社がアルムナイ・ネットワークを作り、卒業生と関係性を築くことの価値を鹿子木さんはどのようにお考えですか?
鹿子木:退職後、卒業生が自ら古巣の門を叩くのは難しいじゃないですか。だからこそ会社側が門戸を広げ、「皆さんは横河電機の卒業生です」と公的に示すことの意味があると思います。
また、横河デジタルはエコシステムを大事にする会社でありたいと思っています。卒業生だけでなく、パートナー企業やお客さまを含め、「契約が切れたり、会社を辞めたりしたら、関係性も終わり」ではもったいないですから。再雇用に限らず、協業したり案件を紹介したりと、そういうつながりを大事にする文化を築いていきたいですね。
日本では退職すると関係性が切れやすいですけど、その辺の雰囲気が変わっていくといいなと思います。
ーー星野さんはアルムナイ・ネットワークに登録してみて、いかがでしたか?
星野:卒業生が今何をしているのかが分かるようになり、さまざまな業界で活躍していることを初めて知りました。これまで個人のプライベートなつながりしかありませんでしたが、公式なかたちで会社とつながりを持てるのはすごくいいなと思いましたね。
退職後も横河電機のことは気になっていましたし、ネットワークを通じて新しい情報が入ってくるのも新鮮でした。卒業生がどのような活躍をしているかをまとめたインタビュー記事が発信されていたのが特に印象に残っていますね。楽しみに読んでいました。
※こちらは過去に横河電機へ在籍していた方専用のネットワークです
ーー最後に、横河電機及び横河デジタルは卒業生の皆さんとどのような関係性を築いていきたいですか?
鹿子木:ビジネスでの関わりを深めたいです。当社のような何十年もかけてスキルを獲得していくような業界ですと、卒業生とのネットワークは非常に重要です。
特に定年を控えたシニアの方はものすごいスキルを持っていますので、エキスパートの皆さんとのコネクションを大切にして、意見を聞いたり仕事を手伝ってもらったりと、そういうことができるといいなと思いますね。