横河電機がアルムナイ・ネットワークで目指すもの「会社と個人が惹きつけ合う、フェアな関係性をつくりたい」

制御分野を中心に世界61カ国に拠点を展開する大手電機メーカー・横河電機が、2021年12月にアルムナイ・ネットワークを設立。

そこで企画から牽引してきた同社の人財総務本部の小林諭さんと大崎昇吾さん、運営に携わる石井成弥さんの3名に、アルムナイ・ネットワーク立ち上げの背景について聞きました。

※こちらは過去に横河電機へ在籍していた方専用のネットワークです

横河電機株式会社
人財総務本部 ビジネスパートナー統括部長 小林 諭さん(中央)
人財総務本部 ビジネスパートナー統括部 大崎昇吾さん(右)
人財総務本部 ビジネスパートナー統括部 石井成弥さん(左)

アルムナイ・ネットワークを始める3つの理由

ーアルムナイ・ネットワークを立ち上げる背景について教えてください。

小林:三つあります。一つは、当社は計測、制御、情報の技術を活用し、主力である制御事業などを通じて社会課題の解決に貢献を目指していますが、そこで得た経験やスキルを生かしながら、付加価値をさらに高めることが重要になってきました。他社同様、ソフトウェアエンジニアやデータアナリストをはじめ、お客さまに価値を提供するためには新たなスキル保有者を獲得する必要があります。社外経験を通して新たなスキルを獲得した人材を必要としています。

二つ目は、横河電機が求める人材の変化です。横河電機は「自発的に考え・行動し・発信できる」人材を求めています。そのため、主体的に自分らしく働きたい個人にとって魅力的な環境づくりが必要となります。その一つとして、一度横河電機を辞めた人たちがその後も横河電機に関われるようにアルムナイ・ネットワークを提供し、社外の人材として副業で関わったり、再入社したり、あるいは個人事業主として貢献したりしてもらえる環境をつくりたいと考えました。

そして三つ目が、退職の理由が変化してきたことです。人生100年時代を迎え、新卒で入社して定年まで働く会社人生では、キャリアを全うできなくなりました。最近は20代から30代前半の退職者もでてきており、転職先の会社に腰を据えるのではなく、起業など自分でチャレンジをしたいと考える人も見られます。

退職者の中には、しばらくしたら戻ってきて、また横河電機で仕事をしてほしい人も多くいます。そこで、実際に退職者の方に声をかけてみたところ、「横河電機の仕事をやってもいい」と言ってくれた人もいました。

かつて一緒に働いた人たちが横河電機に再び貢献してくれるのはうれしいですし、それが彼ら・彼女らの成長の機会になればなお良い。結果として成果が上がれば、当社にとってもプラスです。

また、横河電機としては100人いたら100通りの働き方がある会社に変わろうとしています。在籍し続ける人だけでなく、退職して横河電機を離れる人も応援していきたいと思っています。こういった点を、アルムナイ・ネットワークを立ち上げることで社内外に示したかった、ということもあります。

——横河電機は大正4年(1915年)の創立です。それほど歴史のある企業が100人100通りの働き方やアルムナイ・ネットワークに取り組むというのは、少し意外な気がしました。

小林:「このままではいけない」という危機感があります。変化の激しい時代において、横河電機は自律と共生によって持続的な価値を創造し、社会課題の解決をリードしていきたいと考えています。

計測と制御、情報で世の中に貢献することがコアであることに変わりはありませんが、あらゆる産業にどう貢献し、地球の未来を考えるか。既存のやり方では立ち行かず、正解がない中で失敗を恐れずチャレンジし続けねばなりません。

これからの時代においては、横河電機は自分の想いやアイデアで勝負して自走できる一人一人を惹きつける会社を目指しています。

大崎:コロナ禍の影響もあって、テレワークが主流の働き方になるなど、私が入社してからこれまでで働く環境もだいぶ柔軟になりました。「ビジネスや時代の変化に応じて従業員もスキルや知識をアップデートし、より自律的に考え、行動していきましょう」というトップメッセージのもと、「変わらなければ」という想いを持った社員がより増えてきていると感じます。

「さようなら」だけで終わらせたくない

——これまでの横河電機は、退職者とどのような関係性だったのでしょう?

小林:今はどうかわかりませんが、2000年代前半の頃、「辞めた人は戻ってくるな」という風土の企業もありました。横河電機は辞めた後も良好な関係を継続したいと考える会社です。幸い、他社に比べると比較的退職する人が少ない会社ではありますが、横河電機を離れる人に対して、「さようなら」だけで終わらせたくありません。

石井:辞める人に対して、少なくともギスギスした社風ではないと思います。2018年から退職者の率直な意見をヒアリングすることを目的に、人事が退職面談を行うようにもなりました。

私は退職面談を担当していますが、辞める人たちも横河電機が嫌いで退職する人は少数です。むしろ感謝の気持ちを持った人が多くいる。とはいえ、また一緒に仕事をする機会が実際にはほとんどないのが現実でした。

大崎:世間的にも、特に最近の若手・中堅の方で、新卒から定年まで同じ会社で生涯勤め上げようと考えている方は減少傾向にあると聞きます。それならば、アルムナイ・ネットワークを通じてかつて在籍した会社とつながりを持ち続けることで、過去の会社の情報が得られたり、元同僚と接点を持ったりできることは、キャリア上とても魅力的なことだと考えています。

やりがいを持てるのなら「会社に在籍する・しない」は問わない

——アルムナイ・ネットワークの検討を始めてから、実際に開始することが決まるまでの動きについて教えてください。

小林:2020年5月に若手・中堅社員による、働きがいを実現するためのプロジェクトを立ち上げました。このプロジェクトでは、働きがいを「主体的に、縛られず、私らしく働けることで、ハッピーとワクワクを叶えること」と定義しました。ちなみに、ハッピーとワクワクから、”はぴわくプロジェクト”と命名し、社内では”はぴわく”と呼んでいます。

はぴわくで論議しているうちに、主体的に働けば横河電機を飛び出す人だって出てくるに違いない、という考えに行きつきました。これを受け入れる一方で、つながりを絶やさない方法はないかと思案して、アルムナイ・ネットワークの立ち上げに行きつきました。

動き始めてからは早かったですね。2020年10月に、執行役員が集まる会議で提案してみたところ、想定以上に前向きな受け止めを得ることができました。「変わりたい」という想いが共有できてうれしかった覚えがあります。

そこで、まずは本社機能がある横河電機だけで、小さくやってみることにしました。大掛かりに始めないことも受け入れやすかったのかもしれません。2021年12月にアルムナイの登録サイトを開設し、スタートを切ることになりました。

※過去に横河電機へ在籍していた方専用のネットワークです

——開始までの苦労はそれほどなかったのでしょうか?アルムナイ・ネットワークをやる際、社内の理解を得るのが大変だという企業も一定数いますが。

小林:今のところ苦労はないですね。他部署の方も「どのくらい上手くいくかなんて、まずやってみないとわからないよね」と言ってくれ、前向きに受け止め、協力してくれています。

大崎:会社が必要とする人材とは自ら成長する人であり、横河電機はそういう人材集団を目指していますので、「優秀な人材との接点を絶やさずに持ち続けられるアルムナイ・ネットワークにデメリットはないのではないか」と企画をしている時から思っていました。皆さんも同じように理解してくれたのかなと思います。
社内への周知はこれからですが、個別にアルムナイ・ネットワークの話をした社員からもポシティブな反応が寄せられています。

小林:あとは、先ほどお話した”はぴわくプロジェクト”を通して、1年半以上にわたって「個人の視点で見て、どういう会社だと働きたいと思うのか」というディスカッションを、日本の各拠点と海外拠点の若手・中堅としてきたことも大きいです。

国内拠点は約120時間、海外拠点もその半分の時間を費やして声を集め、「はぴわくプロジェクトの中からでてきたアイデアの一つだ」という話の仕方をしています。検討経緯から丁寧に共有してきたことが、アルムナイ・ネットワークの立上げを円滑に進められた要因かなと思います。

——企業によっては退職者が増えることを懸念する声もあります。それをデメリットに感じることはなかったのでしょうか?

小林:本当の問題は退職者が増えることではなく、社員がベストなパフォーマンスを出せない状況に陥ることです。個人にとって成長環境があれば、横河電機という会社に居続けたいと思ってくれて、成長の場として使ってくれるわけです。

一人一人にベストパフォーマンスを出してもらうためには、「自分でやりたいと言えて、実行できる」環境をもっと整えていく必要があります。個人ファーストで考え、個人が働きがいを持って仕事ができるように働く環境や働き方を変えていきたいと思います。

これからも横河電機は、「働きたいところ」という魅力を高めていかねばなりません。もちろん横河電機で挑戦し続けたいと思ってもらうことが一番ですが、新たな挑戦をしたいと横河電機を巣立つ退職者が増えることは、社会貢献を謳う我々としてはポジティブに捉えています。一方で、「こんな会社にいたくない」というネガティブな退職者は減らさなければなりません。

石井:先ほどもお話した通り、横河電機が嫌いで出て行く人は少数です。仮に退職者が増えたとしても、アルムナイ・ネットワークがあることによって、お互いが関係性を持ち続けられるのであれば、それはそれで良いことなのかなとも思いますね。

アルムナイ・ネットワークは「また一緒に仕事をしよう」の意思表示

——アルムナイの皆さんとはどのような関係性を築いていきたいですか?

 大崎:Win-Winの関係性を築きたいです。プライベートというよりは、どちらかというと仕事上の関係としてつながっていくことだと考えています。

具体的には、アルムナイ・ネットワークを通じてアルムナイの方が、今の当社ビジネスやホットな情報を知ることができたり、アルムナイと社員がつながれるようにしたりして、将来的に「もう一度横河電機と関わりたい」と思ってもらえるとうれしいです。

また、社員にとっても刺激が得られる場所にしたいです。横河電機は、離職率が低い会社である一方で、社外にはどういう活躍の場があって、自分がどのくらい通用するのか、イメージを持ちにくい社員も結構いるのではないかと思っています。社員がアルムナイ・ネットワークを覗くことで、横河電機を辞めた方がどんな活躍をされているのかを知る機会にし、ご自身のキャリアを考える場としても活用してもらいたいと考えています。

石井:そのためにも、まずはネットワークを軌道に乗せて、拡大したいです。横河電機の情報を発信することで、アルムナイの皆さんが横河電機とつながっていると実感してもらえる状態を目指したいです。

横河電機で培った技術やノウハウに加え、外の会社でいろいろな経験を得た人が再び当社と関わる機会をつくれるといいなと思います。

小林:当社は「Co-innovating tomorrow」というスローガンを掲げています。アルムナイ・ネットワークに加入いただいた皆さんとも、一緒に新しい価値をつくっていける関係性を築きたいと思っています。

創立100周年を迎えた2015年に新たに制定されたコーポレート・ブランド・スローガン

小林:そのためには、お互いにとってベネフィットがあることが重要です。副業や会社同士のつながり、個人事業主になった方がいれば業務委託など、アルムナイの方と仕事でつながる関係性を築き、一緒にいろいろなことができる場として発展させていけるといいですね。ベネフィットがあってこそつながりが生まれ、そこから派生して、さまざまなコミュニケーションも生まれるのではと思います。

——そういった仕事でつながる関係性を築くにあたって、これから何をやっていく予定ですか?

小林:未来共創イニシアチブ」という、共創的ネットワークの構築や社会課題解決に関連する価値創出、次世代リーダー育成の取り組みを進めているのですが、今はお客さまやパートナー企業の経営者や経営幹部との交流を進めており、産官学連携のラーニングコミュニティ・プラットフォーム構築や会社同士のつながりを促進しようとしています。業界・世代・役職を超えた多様性の高い各分野のリーダーやフリーランスのプロフェッショナル、各社の共創活動との連携を深めることが、組織の多様性と創造性を高めています。

そのプロジェクトのリーダーとは「そこにアルムナイがつながっていくと面白いね」という話をしています。そうやってアルムナイ・ネットワークがさまざまな社内活動のハブになると、さらに充実していくのではないかと思っています。

——最後に、改めて会社が退職者との関係性をつくる意義とは?

小林:私は横河電機が5社目になります。自分自身の経験から思うことは、一度勤務した会社のことは、いつまでも気になるものです。いろいろな想いで辞めていく方がいますけど、横河電機自体のことは嫌いになってほしくはないですし、むしろ「横河電機に入ってよかった」と思いながらその先を歩んでいってほしい。

そういう環境をつくる上で、アルムナイ・ネットワークは重要だと思います。その上で、またお互いに関われる日が来て、再び一緒に仕事をすることがあってもいい。「せっかく同じ会社で働いたのだから、いつかまた一緒に仕事しようぜ」という会社にしていきたいから、アルムナイ・ネットワークをやるのだと思います。

横河電機アルムナイへメッセージ

大崎:会社と個人の関係が変わる中で、会社を辞めた後も縁を断ち切らずに、関わりを持ち続けられる仕組みを作りたいと思い、アルムナイ・ネットワークの企画をしてきました。

世間の流れを見ても転職者は増えていくことが予想されますが、転職をする際のハードルはまだまだあると思います。だからこそ、社内と社外の境界を薄くしていきたいと考えていますし、まずは「横河電機は最近何をやっているかな」と、アルムナイ・ネットワークを気軽に見に来ていただければと思います。

また、サイトの中では、事務局からのコンテンツ提供やアルムナイ同士の交流会イベントの企画以外にも、テーマ別にチャットルームを開設して該当者同士での情報交換をすることや、個人間のダイレクトメッセージのやりとりなどが可能です。

アルムナイの方からの発信も基本的には制限なくできますので、ぜひ一方通行ではなく、双方向でのコミュケーションを取っていただき、一緒にアルムナイ・ネットワークを盛り上げていきましょう!

石井:今までは、退職したら会社との縁は切れてしまうものでした。そのため、理由は人それぞれですが、退職される方は決心して退職という決断を下したのだと思います。

ですが、人生何が起こるかはわかりません。「アルムナイ・ネットワークがあったことでまた横河電機で仕事をすることになった」ということが今後起きるのではないかと思います。そのような可能性を持っておくという意味でも、ぜひ気軽に登録してほしいです。

またコロナ禍以前は、年に一度「横河まつり」という一般の方にも開放しているお祭りを社内同好会主催で開催していました。コロナ禍の情勢が落ち着き、再開できるようになったら、その告知をアルムナイ・ネットワークでもしたいと思っています。

横河まつりでかつての同僚と再会し、お互いの近況を語り合うのは、社員にとってもアルムナイにとっても良い刺激になるかと思います。もちろん、カジュアルに遊びに来ていただいて、懐かしい顔と再会していただけるだけでもうれしいです(笑)

小林:お互いがお互いに魅力を感じる「会社と個人が惹き付け合う」状態をつくり、よりフェアな関係性を目指していきたいと思っています。退職してからの新しい関係性を一緒に築いていきましょう。

※こちらは過去に横河電機へ在籍していた方専用のネットワークです