育休から復帰できず会社都合退職に追い込まれた経験談

連載「私の退職体験記」
みんなの会社の辞め方を深掘り!円満退職できた人、悔いの残る辞め方をした人……。いろんな退職体験談から「よりいい会社の辞め方」のヒントを見つけましょう!
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連載6回目に登場するのは、スタートアップ企業に中途入社した松尾恵美さん(仮名)。

新型コロナウイルスの影響による業績悪化によって急遽休職を勧められ、そのまま会社都合退職となってしまいました。

いざという時にどう振る舞えばいいのか、彼女の体験談を参考にしてみましょう。

松尾 恵美さん(仮名)
スタートアップ企業へ中途入社。新型コロナウイルスにより業績が悪化する中、妊娠を理由に休職を言い渡され、そのまま会社都合退職。現在は大手金融系企業にて、フルコミッションの営業職として勤務

退職のきっかけと退職までのスケジュール

——まずは退職体験をお話いただくスタートアップ企業でどのような仕事をしていたのか、教えてください。

マーケティングシステムを提供する会社で、私は営業として働いていました。

——退職のきっかけは何だったのでしょう?

一言でいうと、新型コロナウイルスの影響による会社の業績悪化です。

会社が在宅勤務に切り替わった2020年3月に私の妊娠が発覚したんですけど、4月早々に急に社長面談が設定されて。「お腹の赤ちゃんのためにも体調を整えた方がいいんじゃない?」と約1カ月の休職を勧められました。

「もう悪阻も落ち着いてますし、そんなに気を使っていただかなくても大丈夫です」と伝えたのですが、休職期間中の給料は支払うので休んでくれと。結局、言われた通り休職をすることにしたのですが、そのまま復帰はできませんでした。

——どういうことでしょう?

復帰する前日にいきなり社長とのミーティングが設定されて。体調面の質問をされたので「もう大丈夫です、働けます」と主張したのですが、引き続き休職してほしいと告げられました。しかも、今度は無給で。

私は働きたいと主張したのですが、社長からは「正直な話をすると、新型コロナウイルスの影響で業績が悪く、融資も滞っている。無給での休職にするか、業務委託契約に切り替えてほしい」と言われて。仕方なく、無給での休職を選択しました。

というのも、業務委託契約だと産休・育休もないし、育児休業給付金ももらえないんですよね。社長には「どうにかなりませんか?」と相談したのですが、「会社にお金がないから無理。休職か業務委託しかない」の一点張りで。

であれば、休職期間中にお給料は出ないけど、正社員のままでいられて育休中に給付金を受け取れる休職という選択をしました。

——そこから退職に至ったのはどのような経緯だったのでしょう?

休職期間のうち、最初の1カ月分の給料を支払った上で無給期間に切り替えると言われていたのですが、なんと期日になっても振り込みがなかったんです。

驚いて連絡したところ、「いやいや払わないよ」と発言を覆されてしまって……。「私は証拠も持っているし、前日にちゃんと確認しましたよ」と伝えたところ、「じゃあ1カ月分の給料を支払うので会社都合の退職にします。これは会社決定です」と一方的に告げられ、反論の余地がなくなりました。

その後はもう、リモートで淡々と退職のやりとりが進んでいきましたね。「また復帰したい場合は選考を受けてください」とまで言われて、これはもう何を言ってもダメだと思いました。

——突然決まった退職に対して、上司の反応はどうでしたか?

上司の知らないところで勝手に退職が決まり、そのまま手続きが進んだので、上司も同僚も私が辞めることをそもそも知らない状況でした。結局上司と話をすることはありませんでしたね。

——なぜそのような状況になってしまったのだと思いますか?

会社の業績悪化から、とにかく人を辞めさせたかったんだと思います。私は当時妊婦で産休に入ることが確定していたから、真っ先に白羽の矢が立ったのでしょうね。

退職を振り返って思うよかった点、反省点

——ひどい辞め方になってしまいましたが、今振り返って納得はいっていますか?

納得はいかないですし、その時はさすがに怒りましたよ。でも、他人は変えられないし、会社のお金を増やすこともできない。どうにもならないことだと切り替えて、30分後には転職活動を始めました。

——会社のことを訴えようとは思わなかったんでしょうか?

退職時に「今回のことを口外しない」とか「口コミサイトに書かない」といった内容が記載されている書類にサインをしてしまっていたんです。それにもう赤ちゃんも産まれちゃうし、訴えるのも手間だし、もういいやって感じでしたね。

ただ、当時のやりとりは念のため、全てスクリーンショットで保存してあります。

——そのような辞め方の中でも、やっておいてよかったと思うことがあれば教えてください。

辞め方は最悪でしたけど、そこで立ち止まらず、すぐに行動に移したことはよかったと思います。無職のままでは育児休業給付金ももらえないですし、とにかく早く動いて次の仕事を見つける必要があったんです。

前回転職活動をしていた時に内定をいただいていた会社の人事の方に連絡をしたり、知り合いから勤務先や人材紹介会社を紹介してもらったり。人脈を駆使して行動した結果、出産前に無事に仕事を見つけることができました。

これから退職する人へのアドバイス

——辞めてから古巣企業と関わりはありますか?

当然ですが、社長とは全くないです。同僚とは連絡とっている人が1人いるくらいですかね。会社に愛着がないのはもちろんですけど、私が辞めた後、同僚もほぼ全員、会社と仲違いして辞めてしまったようです。

——お話いただいた退職体験を踏まえて、もしも次にまた退職をすることがあったら生かしたいことはありますか?

退職というか、そもそもの仕事選びですね(笑)。誰も知り合いがいないところで一から頑張りたい気持ちがあって前職を選んだんですけど、今思えばもっと視野を広げてもよかったのかなと。

今は新卒で入った会社の元同僚が転職した会社にいるんですけど、良い会社なんですよ。信頼している人の勤務先は良い会社の可能性が高いわけで、人とのつながりは重要だと感じています。

——最後に、これから会社を辞めようとしている人に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします!

法律の知識は最低限持っておいた方がいいと思います。そうしないとどんどん不利な状況に立たされてしまうので。よくわからないまま条件を飲んだり、書類にサインをしたりは絶対にしない方がいいです。

また、おかしいと感じたら、ちゃんと声をあげることも必要です。私も当時の上司など、他の人にも間に入ってもらえばよかったなと振り返って思います。

あとは、自分の責任で物事を決めること。会社にすがったり期待したり、しない方がいい。世の中に会社はたくさんあって、自分に合う会社は他にもある。今いる会社に固執せず、切り替えることも時には大事だと思います。

今回の件は散々だったけど、その会社を選んだのも自分ですし、会社への貢献度なんか関係なく、切られるときは切られるんだなと気づかされました。

だからこそ、転職先に選んだのはフルコミッションの保険営業。正社員と同じように産休・育休などの手当はもらえる、正社員と個人事業主のいいところを取ったような形態です。私はもう、会社にいいように使われるのはこりごりですね。

退職のポイント

  1. 会社に期待せず、自分の責任で決断すること
  2. 最低限の法律の知識を持っておくこと
  3. おかしいと感じたら、声をあげて他の人を巻き込むこと

取材/天野夏海 文/築山 芙弓