心残りない辞め方が重要な理由。「どうせ辞めるし」は自分自身の否定につながる【私の退職体験記.8】

連載「私の退職体験記」
みんなの会社の辞め方を深掘り!円満退職できた人、悔いの残る辞め方をした人……。いろんな退職体験談から「よりいい会社の辞め方」のヒントを見つけましょう!
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連載8回目に登場するのは、HR系企業でクライアント企業の採用業務を担当していた橋本心春さん(仮名)。

橋本さんは退職した今も前職の公式アンバサダーに任命されるほど、良好な関係性を保ったまま円満に辞めています。

ただ、退職に至るまでの間には、思うように退職スケジュールが組めず、心苦しい思いをしたことも。それでも「絶対に仕事を投げ出すような辞め方はしない」と決めて、最後までやり切ったと振り返ります。

橋本心春さん(仮名)
複数社を経験後、HR系企業でクライアント企業の採用業務を担当。採用以外のHR領域に携わりたいと考えていたタイミングで現職と出会い、転職を決意

退職のきっかけと退職までのスケジュール

——まずは退職体験をお話いただく会社でどのような仕事をしていたのか、教えてください。

リクルーターとして、クライアント企業の採用業務を担当していました。採用計画に対する施策や手法の検討や、スカウト業務やエージェントとのやりとりなど、実行の部分の支援を行っていました。

——退職のきっかけは何だったのでしょう?

これまで採用に関わる仕事を長くやってきたのですが、入り口の採用部分を磨くだけではなく、組織全体に関わる仕事がしてみたいと思ったんです。異なる分野のHR領域に関わりたいと、ぼんやり考えていました。

そんなときにたまたまスカウトいただいたのが、今所属している会社です。積極的に転職活動はしていなかったのですが、事業内容に興味を持ち、最終的に内定をもらったので転職することに決めました。

——退職を切り出してから辞めるまでのスケジュールを教えてください。

内定をもらってから退職を切り出したんですけど、しばらくは退職時期の目処がなかなか立たなくて。会社が組織の編成など変えようとしていた時期だったので、後任を決めるのに想定より時間が必要だったんです。

なので余裕を持って「遅くともここまでには退職する」と、4カ月ほど先の時期を退職日に設定して話を進めたのですが、しばらくは後任が未定のまま過ごすことに。

結局引き継ぎ期間は最後の1カ月間だけで、それまでの3カ月間は新しい組織の編成を決めたり、業務の割り振りを考えたり、引き継ぐまでの体制づくりに徹しました。

転職先に待ってもらっている状態は精神的につらかったですが、自分の仕事を投げ出して辞めることだけはしないと決めて、頑張りました。

——退職を切り出したときの上司の反応はどうでしたか?

「応援するよ」という感じで、嫌な対応は全くされませんでした。むしろ、「引き継ぎ、どうしよっか」と一緒に悩んで退職まで進めてきた感じです。

——なぜそのような反応だったのだと思いますか?

社風ですかね。もともと辞めても退職者とつながりを持ち続ける文化がありましたし、「辞める=悪いこと」みたいな価値観もなかったので。

あとは、その上司が普段からフラットに相談に乗ってくれるタイプだったことも要因かもしれません。私は転職を決意してから伝えましたが、「辞めようかな」「転職しようかな」と思った時点で、いったん相談する社員も多かったんですよ。

退職を振り返って思うよかった点、反省点

——今振り返って、納得のいく辞め方はできましたか? 

できました。辞めるまでの間に、自分がやれることは全部やったと自信を持って言い切れます。

業務が佳境のタイミングで辞めることを決めたので、迷惑はかけてしまったと思いますが、「残りの期間で何ができるか?何を残せるか?」をすごく考えました。すごく忙しかったですし、転職先の企業には入社が遅れてしまったので申し訳なかったですが、やれることをやってから辞めてよかったです。

——お話いただいた辞め方をして、特によかったと思うことはありますか?

自分の役割を引き継ぎ、その後をちゃんと見届けられたことです。

ちゃんと残さないと自分のやってきたことが無駄になるというか、これまでやってきた自分を肯定できないと思ったんです。きちんと引き継いだからこそ不安に思う辞め方にはならなかったですし、「集大成」と言える最後で終えられたことがよかったです。

あとは、最終日にはサプライズでオンラインのお別れ会を設けていただいたんです。1on1かと思ったら、画面に50人くらい映っていて驚きました(笑)

その際、その場で皆さんに感謝を伝えられたことも、心残りのない辞め方につながったんだと思います。やっぱり自分の口からみんなにあいさつができなかったら、なんとなく不完全燃焼感があったのかなと。フルリモートだったので対面で会うことはできなかったけど、おかげで疎外感は全くなかったです。

——反対に、後悔していることは?

退職時の後悔という質問からはズレますが、仕事が属人化しすぎていたのは反省でした。自ら仕事を囲い込みすぎてしまって、仕組み化ができておらず……。

その分、引き継ぎが大変になってしまって、周りの人には迷惑をかけてしまいました。会社自体が拡大期だったので、致し方なかった部分もありますけどね。

これから退職する人へのアドバイス

——辞めてから数カ月たちますが、今は古巣企業と関わりはありますか?

実は前職の「公式アンバサダー」に任命されていて(笑)。サービスの良さを広める役割なのですが、やっぱり外から応援できることはやりたいですし、これからも前職の出身者として関わっていきたいです。

元同僚とも、個別にメッセージのやりとりをよくしています。

——お話いただいた退職体験を踏まえて、もしも次にまた退職をすることがあったら生かしたいことはありますか?

次も、今までやってきたことの集大成だと胸を張れる辞め方をしたいですね。

最後の瞬間って、自分にとっても相手にとってもすごく残るじゃないですか。私は退職を決めてから辞めるまでの期間は「感謝をする期間」だと思っていて。

その会社に何が残せるか、恩返しとして何ができるか。それを考え抜いて、役割も全うして、これからも納得のいく辞め方をしたいです。

——最後に、これから会社を辞めようとしている人に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします!

退職が決まると「辞めるし、もういいや」って思ってしまうこともあると思います。でも、そこで投げ出してしまうと、その会社に入社した自分自身を否定して終わることになると思うんです。

だから、たとえ退職要因がネガティブなものであったとしても、そうなった現実を受け止めて、理解して、次につなげていくこと。そうすることで、その会社に入社した自分を否定せずにいられると思います。

もちろん心身がおかしくなるようなブラック企業であればすぐに逃げてほしいですが、基本的には、辞める理由を会社の仕組みや人間関係など外的なものだけで捉えず、自分自身の内的な理由として考えることが大切だと思います。

円満退職のポイント

  1. 「やれることはやりきった」と言える状態で辞めること
  2. 退職理由を自分自身の内的要因として考えること
  3. 関わった人たちに感謝の気持ちを伝えて、あいさつをすること

取材・文/築山 芙弓