「あの人にしか依頼できない」希少人材になる退職デザインとは/最高の会社の辞め方 Vol.2

アルムナビのテーマは「退職で終わらない、企業と個人の新しい関係を考える」。そのためには、退職時の「個人側の辞め方」と「会社側の送り出し方」が重要です。

では、個人が会社を辞めた後も古巣企業とつながりを持ち続けるためには、どんな辞め方をしたらいいのでしょうか。

そのヒントを連載「最高の会社の辞め方」で、最高の会社の辞め方プロジェクトの皆さんと考えてみましょう!第2回目のテーマは、「最高の会社の辞め方をするための3ステップ」です。

年齢すら希少性になる?「最高の会社の辞め方」事例

連載第1回目では「最高の会社の辞め方とは、個人と企業の新しい関係がはじまる退職」であり、そのためには「社内にも市場にもいない希少性の高い人材になることが重要」。そして、希少性の高い人材になることができれば、仕事・生活・遊びのどれも諦めない生き方ができるとお伝えしました。

>>退職は「仕事・生活・遊び」を諦めない働き方をつくる絶好のチャンス/最高の会社の辞め方 Vol.1

では、どうすればそんな「最高の会社の辞め方」ができるのでしょうか。実はシンプルです。会社に眠る「需要」を見極めることと、それを満たす「供給」があればそれでOKです。

具体的なステップに入る前に、退職後に前職の会社と新しい関係を築いている「希少性の高い人材」の例を記載します。希少性の具体的なイメージ、そして「希少性は至る所に眠っている」例として受け取っていただければ幸いです。

1. 退職後も採用に関わったAさん

退職後に前職のインターンシップの企画・講師や、中途採用の採用広報担当として業務委託で関わる。社内に採用担当者はいたが「伝統的な会社」の空気が強く、学生と距離があり、コンテンツ制作のノウハウがないことが課題だった。その中でAさんは求人票作成に秀でており、学生向けサイトの事業開発経験を持っていた。

2. 退職後は出資を受けたBさん

退職後に起業し、前職の社長にエンジェル投資家になってもらった。退職前から「自社で新サービスをつくれないか」と社長に常に相談しており、社長にとっても最も身近で安心できる、新しい投資先となった。退職して2年経った今も「できればあの会社で社内起業として仲間と進めたかった」と話している。

3. 退職後に野菜や果物が送られてくるCさん

退職後は東京から名古屋に勤務地が変わったCさん30歳。前職の同僚は50〜60代、複数回の転職や独立経験のあるベテラン揃い。その中でCさんは愛される孫キャラに。退職後は元同僚から野菜や果物が送られてくるようになり、頂き物で作った料理の写真を送って交流を続けている。

この事例全てに「需要」と「供給」の一致が見られます。Cさんの例は少し特殊ですが(笑)。年齢といった「一見すると意識していないもの」もまた、希少性になり得ます。

ステップ1. 会社の需要を探す

それでは、「最高の会社の辞め方」を実現する3ステップを整理します。退職をオンリーワン人材になる練習の場にデザインしていきましょう。

「最高の会社の辞め方」は会社の需要と自分の供給を一致させることで実現されます。そのために、会社の需要を見極める3つの方法をお伝えします。

会社は何を外注し、何を内製化している?

一番わかりやすい需要の見極め方は「外注している業務」を調べることです。営業が強い会社はデザイン業務を外注しているかもしれません。システム開発の会社は営業を外注しているかもしれません。

会社は自社の強みは内製化し、補強したい弱みは外注化します。そのため、外注している業務を外注している価格よりも安く、もしくは品質を高く担うことができれば、希少性の高い人材として退職後も会社と関係を築ける可能性が高くなります。

会社の弱点とは?

「外注している業務の調査」と近しい考え方として、「会社の弱点を探す」があります。これは会社の視点に立てば「内製化しているんだけど競合に比べて弱い」部分です。

例えば、法人の問い合わせを増やすためのWebマーケティングを自社で行っているとします。その責任者が中途入社した第2新卒の社員だとしたら、「ポテンシャル採用に近い新人が責任者なのであれば、Webマーケティングに弱点があるかもしれない」という仮説が立ちます。

このように「内製化しているけれど経験が浅い人が担当している業務」がないかを探すと、その会社で希少性を発揮できるポイントが見つかります。

フリーランス、副業サイトでは何が切り出されている?

ここまで社内を調査してきましたが、社外の目から会社を調べることも可能です。それはフリーランス、副業サイトで「どんな会社がどんな仕事を外部の人材に任せているか」を調べることです。

「どんな会社が」は自社と近しい会社の特徴を持つ会社を探します。業界や従業員数、設立年数や事業内容が近い会社です。いわゆる競合他社と考えて差し支えないです。

その会社はフリーランスや副業人材にどんな仕事を任せようとしているでしょうか。その仕事がわかれば「うちの会社もサイトに載っているような仕事をつくれるのではないか」と想像がつきます。「自分で仕事を創る」ことができるのです。

他社が既に実施している業務であるため、実現性が高いものとして自社に提案できます。

ステップ2. 自分の中の供給を探す

需要が予測できたら、次は供給を見つけるステップです。供給は自分の中にあるものなので、有効な方法は「自分の業務の分解」です。分解すること自分の強みを見つけます。

「供給」に値する仕事になる業務は、もうしている

具体例として、私が経験した「中途採用の人材紹介営業」の業務を分解してみましょう。できるだけ細かく分解することがポイントです。私は実際にこのやり方で供給を見つけ、退職してからも前職と仕事を続けました。

①テレアポ:テレアポする会社をリストアップし、テレアポをする
②採用課題ヒアリング:商談にて採用課題、求人ニーズをヒアリングする
③求人票作成:求人票を作成する
④候補者探し:候補の人材を探し、提案する
⑤面接調整:候補者との面接を設定する
⑥内定者フォロー:面接の所感を採用企業と候補者にフィードバック、入社に向けたフォローをする

そして、この後に「苦なくできる」「よく頼まれる」仕事をピックアップします。私の場合はこの2つでした。

  • 採用課題、求人ニーズをヒアリングする
  • 求人票を作成する

テレアポをするのは苦でしたがクライアントの話を聞くのは楽しかったです。求人票に関しては先輩やキャリアアドバイザーからも褒められたり、代行を依頼されたりしていました。

そのことに気づき、在籍期間から採用チームと一緒に採用パンフレットを作ったり求人ページを制作したりしていました。その後、退職後も「以前の仕事、まだあれば一緒に続けませんか?」と提案して、採用広報プロジェクトが始まりました。

特に「依頼される」点が大事です。ビジネスになる仕事になる特徴の一つは、「自分はやりたくないけど誰かにやってほしいこと」です。この領域が「自分は苦ではないな」と思えたら、それは供給になります。

まとめますと、「自分の業務を細かく分解する」、「依頼されたり教えてほしいと言われる仕事を探す」、「苦ではない仕事を見つける」です。キャリアの棚卸し、自分の強みの発見にもつながるので、ぜひ今日から試してみてください。

ステップ3. 「需要に供給できる」実績をつくる

ここまで需要を見極め、供給を探す方法をお伝えしました。最後に必要なことは需要と供給が一致していることを伝えることです。

伝え方は「懇切丁寧にプレゼンする」ではありません。熱意やビジョンだけで動かないのが企業の性質です。だから、「実績をつくる」が最適な方法です。

具体的には見極めた需要と見つけた供給が重なる領域の仕事を、在職期間中にしてみるのです。

例えば、隣のチームが営業に課題を抱えていたら、効率的なやり方を提案して一緒にやってみる。コンテンツをつくる力が弱い採用チームがいたら、コンテンツをつくってみる。

こうしてその会社の一員でいるうちに、自分の仕事+αの仕事をしてみると、それが実績になります。そうすれば退職するときに「やっていた仕事、続けませんか?」と提案すればいいのです。それが転職であれば副業になりますし、フリーランスとして独立すれば最初の案件、起業して会社を経営していれば取引先になります。

「会社を辞めようかな」と思ったら、需要を探して供給を見つけ、実績をつくる。この退職デザインをすることが、退職後も会社とビジネスの関係が続く「最高の会社の辞め方」につながります。

そして、需要と供給を一致させる能力は「自分で仕事をつくり出す」能力でもあります。これができる人は数多くありません。ということは、このプロセスを踏むことで「代替不可能な」オンリーワン人材に近づけるのです。

ぜひ「退職は仕事をつくり出す練習期間になる」と考えていただければと思います。

次回予告

連載2回目では具体的な「最高の会社の辞め方」の3ステップを、「退職デザイン」としてお伝えしました。

「会社を辞めようかな」と思ったら、「最高の会社の辞め方はどういったものだろう」と考えて頂き、「退職デザイン」の方法を思い出していただければ幸いです。退職をするたびに「一緒に働く仲間」を増やすことができ、それが蓄積されれば終身雇用より強固なキャリアのセーフティーネットになります。

次回は「『最高の会社の辞め方』は手紙に残せ」がテーマです。引き続き退職のあり方を追究していきましょう!

「最高の会社の辞め方」プロジェクトからのお願い

読者の皆様からの質問や頂いたご意見をどんどん取り入れていきます。ご質問やご要望がありましたら、ご都合の良い方法でご連絡ください。

読者の皆さまからの質問や頂いたご意見をどんどん取り入れていきたいと思っています。ご質問やご要望がありましたら、ご都合の良い方法でぜひご連絡ください。

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記事に関わったメンバー

佐野創太
「最高の会社の辞め方」発起人。円満退職を超える「仕事・生活・遊びの何一つあきらめない生き方ができる」退職の学問化を進めています。普段は複業編集フリーランス、長野でフルリモート、妻ファーストの1児の共働き父です。

Zoey
Adult Education for Social Changeというプログラムに社会人留学中。前職はエンジニア。今も未来も楽しめるワーク・ライフスタイルについて考えています。

MK
「最高の会社の辞め方」イラストレーターということでゆるい絵をかいています。普段は人事をやってます。

せっきー
ロスジェネ・アラフォー会社員。転職経験0だが、新卒入社した子会社からグループ再編・組織変更を経て8法人目で現在は親会社へ。「会社とは何か?」を10年以上研究し、組織の酸いも甘いも知った気になっていたら『最高の会社の辞め方』と出会い解脱を夢見る。

SE
人材営業、官公庁の就労支援事業責任者を経て転職。現職は人事。学生時代から脳科学研究を愛し、ニューロンの構造図を描くのが得意。様々な角度から「退職」について追究したい。前職の大先輩たちから栗や柚子をよくもらう「孫スキルの高い」退職を実現した。