「営業は一度もしていません」フリーランスとして安定的に仕事を獲得する会社の辞め方【私の退職体験記.5】

連載「私の退職体験記」
みんなの会社の辞め方を深掘り!円満退職できた人、悔いの残る辞め方をした人……。いろんな退職体験談から「よりいい会社の辞め方」のヒントを見つけましょう!
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連載5回目に登場するのは、現在フリーランスとして働く菊池葉子さん(仮名)。

フリーランスになってから「営業は一度もしていない」という彼女。その理由には、前職の辞め方が大きく関わっていました。

菊池葉子さん(仮名)
新卒で入社したWebサービス運営企業で編集職として勤務。海外に行くために退職し、帰国後はフリーランスに。現在も前職から案件をもらうなど、関係が続いている

退職のきっかけと退職までのスケジュール

——まずは退職体験をお話いただくWebサービス運営企業でどのような仕事をしていたのか、教えてください。

ウェブサイトの記事コンテンツの企画・編集をしていました。

——退職のきっかけは何だったのでしょう?

長期で海外に住んでみたかったんです。私は東京生まれ東京育ちで、それまでに東京を離れたことが最長2週間くらいしかなくて。さすがに世界が狭すぎると思って、ワーキングホリデーで海外に行こうと思いました。

ずっと興味はありつつ踏ん切りがつかなかったんですけど、私は当時29歳。ワーキングホリデービザが取れるのは30歳までだったので、えいやっと勢いで決めました。

——退職を切り出してから辞めるまでのスケジュールを教えてください。

7月に退職したい旨を上司に伝えて、実際に辞めたのは12月末です。

——退職を切り出したときの上司の反応はどうでしたか?

近所の喫茶店に呼び出され、「なぜこのタイミングなのか」を問われました。

——なぜそのような反応だったのだと思いますか?

期待してもらっていたんだと思います。仕事も担当していたウェブサイトも大好きでしたし、それなりに成果も出ていました。「楽しそうに働いていて、マネジャー昇進も目前。それなのに、なぜ今?」と、疑問だったのだと思います。

実際、辞めることを決めたのは勢いだったから、唐突だったのは間違いなくて(笑)。上司が戸惑うのは当然だし、「本当は他に何か退職につながる不満や悩みがあるんじゃないか」と思ったのでしょうね。

その時は1時間くらい上司と話をしたんですけど、私のキャリアを真剣に考えてくれていて、思わず涙が出ました。それでも辞めると決めたことに迷いは全くなかったし、私の中で決意が揺らぐこともなかったんですけど、気にかけてくれたことがうれしかったですね。

退職を振り返って思うよかった点、反省点

——今振り返って、納得のいく辞め方はできましたか? 

そうですね。辞めると決めたのは勢いでしたけど、急いで辞めなければいけないわけではなかったので、年末のボーナスをもらってから辞めようと思っていて(笑)。なので退職するまでに半年くらい時間があったんです。

その間に引き継ぎができましたし、会社や仕事が嫌で辞めるわけじゃないことも伝わったんじゃないかと思います。

——お話いただいた辞め方をして、特によかったと思うことはありますか?

各所への退職の連絡をしっかりしたことです。取材を担当していた取材対象者の方、一緒にお仕事をしていた外部のライターさんやカメラマンさんはもちろん、過去に取材した方々や広報の皆さんにも含め、幅広くメールを送りました。

意外と返信をいただけて、温かい言葉をかけてくださる方もいてうれしかったですね。帰国後はフリーランスになったんですけど、数名の広報さんからお仕事のお声がけをいただけて。本当にありがたかったです。

また、ライターさんやカメラマンさんは仕事でガッツリ関わっていたものの、それまで仕事以外の場でお会いすることはほとんどなくて。退職の連絡がランチや飲みに行くきっかけになり、そのうち何名かは今でもプライベートでも仲良くしていただいています。

——反対に、後悔していることは?

後悔というほどのことではないですが、最終日はバタつきました。パソコンを返却する時間が思ったより早くて、一部の方に退職のご報告メールを送るのがギリギリになってしまって。その他の手続きもあったので、結構慌ただしかったですね。

最終日は予備日くらいに考えておいた方がよかったなと思います。

これから退職する人へのアドバイス

——辞めてから6年たちますが、今も古巣企業と関わりはありますか?

海外から戻って以来、フリーランスとしてずっと前職と一緒に仕事をしています。コロナ前は週1回オフィスにも行っていましたし、先日は社長とランチにも行きました。

前職のアルムナイ(退職者)から仕事をいただくことも多いですね。もちろんプライベートでの接点もありますし、関係性は強いと思います。

——お話いただいた退職体験を踏まえて、もしも次にまた退職をすることがあったら生かしたいことはありますか?

同じように、退職後も関係性がつながるような辞め方をしたいです。

前職や前職のアルムナイ、当時一緒にお仕事していた方々と今でも仕事を共にできるのが、私は本当にうれしいんですよ。

前職の人からは「戻っておいでよ」と言っていただくこともあって、いざとなったら戻れる場所があることが安心感にもつながっています。

前回は転職ではなく、海外に行きたいという理由だったので、それなら仕方ないと周りが納得しやすかったと思います。そう考えると他の企業への転職で辞める場合、周囲を納得させるのはもっと難しいはず。

それでも勤務先が嫌いで辞めるのでなければ、できるだけきれいに辞められるように努力したいなと思います。退職までの期間に余裕を持つ、上司と正直に話をすることがポイントになりそうな気がしますね。

——最後に、これから会社を辞めようとしている人に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします!

嫌いな会社と仲良くする必要はないですが、そうでないのなら、退職後の関係性を見越した辞め方を考えた方がいいと思います。

古巣企業と一緒に仕事をする機会は誰にでもあります。独立や副業をするのであれば案件獲得に直結しますし、転職であっても取引先になる可能性はゼロじゃない。これは退職してから実感していることですが、誰とどこでどうつながるか、本当にわかりません。

SNSで人とのつながりが可視化される今、人間関係を断ち切るのはほぼ無理。だったら辞めても関係性は続くと考えた方が合理的ですよね。実際、私はこれまで前職のつながりで仕事を得ていて、自分で営業をしたことは一度もありません。

自分の評判を左右する要因の一つが辞め方だと思うので、先々のことまで視野に入れた辞め方をオススメしたいです。

円満退職のポイント

  1. 退職するまでの期間に余裕を持つ
  2. 各所への退職の連絡をしっかりする
  3. 辞めても関係性は続くと考える

取材・文/天野夏海