「子持ちでベンチャー転職なんて正気とは思えない」退職意思を全否定されたワーキングマザーの後悔【私の退職体験記.4】

連載「私の退職体験記」
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連載4回目に登場するのは、新卒で入った一部上場企業で産休・育休を取得し、復帰後にベンチャーへ転職した出口千尋さん(仮名)。

退職の相談を放置され、ようやく設定された面談では「子持ちでベンチャーに転職するなんて正気の沙汰じゃない」とまで言われてしまったのだとか。そんな辞め方をした彼女が今思う、当時やっておけばよかったこととは?

出口 千尋さん(仮名)
2011年に新卒で入社した一部上場企業で営業課長として管理職を経験後、産休・育休を取得。復帰半年後に、約10年間勤めた同社を退職

退職のきっかけと退職までのスケジュール

——まずは退職体験をお話いただく企業でどのような仕事をしていたのか、教えてください。

一部上場企業で、営業として働いていました。産休・育休に入るまでは、課長として営業メンバーのマネジメントもしていました。

——退職のきっかけは何だったのでしょう?

仕事内容と孤独感の2つですね。

産休・育休明けは以前のように課長としてチームを持つことはなく、部下と同じように数字目標を持った営業職として働いていたのですが、数字を立てる仕事だけをしていると「ああ、また同じ仕事を一からやるのか」という気持ちになって。マネジメントの仕事が面白くやりがいを感じていたので、常に一人でいることに疎外感があったんです。

もちろん、会社としては融通を利かせて、業務の調整がしやすいようにしてくれたんだと思うんです。でも、時短勤務で5時間だけ働いて帰るので、朝礼への参加もなく、誰かから相談を受けることもなく……。他の社員とのつながりがなくて孤独でしたね。

また、私が会社を離れている間に信頼していた上司が退職していたり、新しい社員が増えて、顔も名前も分からない人ばかりになっていて。そんな中、一人で時短で働くというのは、疎外感が強かったです。

——退職を切り出してから辞めるまでのスケジュールを教えてください。

転職先が決まってから切り出したので、その2カ月後には退職したかったのですが、結局4カ月ほどかかりました。というのも、当時の部長に冗談だと思われていたみたいで、真剣にとりあってもらえなかったんです。

最初に退職を切り出した上司から部長に話を通してもらったのですが、その部長に1カ月ボールを持ったまま放置されてしまって話が進まず……。

次の会社の入社時期も迫り、いよいよまずい!となったタイミングで、私から再度切り出してやっと面談の場が設定されました。

——なぜ放置されてしまったのでしょう?

実は復帰後に私の上司が誰なのか曖昧で、たらい回しになっていたところがあって。私に関する責任の所在が上層部の間で曖昧になっていたんです。産休・育休から復帰する時の面談もすっぽかされましたし……。

正直、「戻ってこなくてもいいのかな」「必要とされてないのかな」という気持ちはその頃からありました。

——退職を切り出したときの反応はどうでしたか?

部長のさらに上の上司も含めた三者面談だったのですが、「そんな急に言われても困る」「何考えてるの?」と言われましたね。やっぱり部長で話が止まっていたんだなと思いましたが、ひたすら「すみません」と謝りました。

加えて、「子どももいるのに訳のわからないベンチャーに転職するなんて正気の沙汰じゃない」「あなたの選択は本当に間違っている」と面と向かって言われましたね。

——なぜそのような反応だったのだと思いますか?

私の転職先企業が従業員数名のベンチャーだったので、「一部上場企業の管理職まで経験したのに、なんでそんなところに行くの?」と信じられなかったんだと思います。

あとは、自分自身の保身というか、社内での見え方が気になったからこそ感情的に引き止めようとしたんじゃないですかね。そもそも転職先のことも詳しく聞かれていないですし、私のことを心配している感じではなかったので……。

私も10年勤める中で相手の性格はわかっていたので、反論はせず「そうですよね」と受け止めつつ、最後は自分の選択を通しました。

退職を振り返って思うよかった点、反省点

——今振り返って、納得のいく辞め方はできましたか?

正直、悪い辞め方だったと思っています。社長との面談も組んでもらえなかったですし、時短勤務ということもあり、かろうじて同じ課の人たちにあいさつはしたものの、お世話になった方々にはほとんど会えなくて。

花束とかもなかったですし、「10年この会社で身を粉にして働いたのに、最後はこれか……」と残念な気持ちになりました。10年働いたからこそ良いところも悪いところも知っているので、会社そのものを嫌いにはならなかったですけどね。

——お話いただいた辞め方をして、どのような点に後悔していますか?

退職の話を円滑に進めるためにも、もっと早く自分が信頼している人を巻き込んで動いてもらえたらよかったと思います。

というのも、最後の最後になって、私が一番仲の良かった別チームの部長との面談が設定されて。「出口を説得してくれ」と声がかかったらしいんですけど、その人は真摯に受け止めて、私の選択を応援してくれました。

私もその人を信頼していたので、率直にこれまでの会社の対応について、思うことを話すことができて。もっと早めに、ちゃんと話ができる人が一人でもいたらよかったなと思いました。

あとは、私自身も退職の話が社内でどうなっているのか、ちゃんと進捗確認をすればよかったですね。ギリギリまで待たずに、早めに真剣さをアピールすればよかったです。

——とはいえ、そのような辞め方の中でもよかったと思うことがあれば教えてください。

退職に至るまでの運びに関するところでは、特にないですね。

ただ、退職面談で「正気の沙汰じゃない」と怒られた上司に対しても、最終日にお礼の一言を書いた手紙とお菓子をデスクに置いておきました。直接は会えなかったのですが、こういったことをちゃんとできたのはよかったですかね。

これから退職する人へのアドバイス

——辞めてから、古巣企業と関わりはありますか?

会社自体や辞めた当時の上司とは全くないですね。同期や過去の上司の中には、連絡を取っている人もいますが。

——お話いただいた退職体験を踏まえて、もしも次にまた退職をすることがあったら生かしたいことはありますか?

自分が信頼できる、味方となる人を見つけておくべきだと思います。当時私を引き止めようとした上司たちの気持ちも、分からなくはないんです。ワーキングマザーが辞めてしまうのは、社内でもあまりイメージがよくないでしょうし。

だから引き止めようとするのは理解できるのですが、当時はあまりにも味方がいなかったので……。次はちゃんと信頼できる味方を見つけておきたいですね。

あとは、他責にしないというか、期待しないことかなと思います。「なんでそんな扱いなの?」とか思わず、ある程度諦めて受け入れることが必要かなと。

——最後に、これから会社を辞めようとしている人に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします!

自分の将来を考えて、最良な選択を自分ですることですね。周りのアドバイスを聞くことももちろん大事だけど、それでフラフラするんじゃなく、自分の意思で決断して先に進むこと。

周りの意見だけで決めちゃうと「あの時こう言われたから」と他責になってしまうと思っていて。そうではなくて、自分で決めてやり切ることが大事だなと思います。

円満退職のポイント

  1. 信頼できる、味方になってくれる人を巻き込むこと
  2. 会社に過度に期待しないこと
  3. 自分の意思で決断をすること
  4. 退職の話が進まない場合は、自分から真剣さを伝えること

取材/天野夏海 文/築山 芙弓