「会社が嫌だから辞める」の前にすべきこと。上司と絶縁してしまった人の後悔とは【私の退職体験記.9】

連載「私の退職体験記」
みんなの会社の辞め方を深掘り!円満退職できた人、悔いの残る辞め方をした人……。いろんな退職体験談から「よりいい会社の辞め方」のヒントを見つけましょう!
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連載9回目に登場するのは、高校を卒業してすぐに入社した不動産系企業で、新規営業の仕事をしていた中山奏翔さん(仮名)です。

待遇への不満から退職を決意したものの、退職時の話し合いがうまくいかず、かわいがってもらっていた上司との関係は断絶。「退職を考える前にすべきことがあった」と振り返る中山さんの後悔とは?

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中山奏翔 さん(仮名)
高校卒業後、不動産系企業に入社。地主に向けて土地の活用方法を提案する新規営業として3年半ほど働いた後に退職。現在は大手人材会社に勤める

退職のきっかけと退職までのスケジュール

——まずは退職体験をお話いただく不動産系企業でどのような仕事をしていたのか、教えてください。

地主に向けて土地の活用方法を提案する新規営業の仕事をしていました。社長が高校時代のアルバイト先のお客さんで、「こんな人になりたい」と思ったことがきっかけとなって、高校を卒業してすぐに入社しました。

——退職のきっかけは何だったのでしょう?

入社後しばらくして大手企業の資本が入り、待遇や社風が変わってしまったことが大きな要因です。

例えば、残業代。申告することも許されない雰囲気になってしまい、これまで支給されていた残業代が入らなくなったことで給料はずいぶん激減。手取りが15万円くらいになってしまいました。

そんな待遇だったのにもかかわらず、睡眠が3〜4時間しか取れないくらい働いていて。これでは続かないと思い、退職を考えました。

——退職を切り出してから辞めるまでのスケジュールを教えてください。

切り出してからは、2週間くらいです。退職を決意してから1カ月ほど転職活動をして、次が決まったタイミングで上司に切り出しました。

——退職を切り出したときの上司の反応はどうでしたか?

一緒に商談に行った日にカフェで伝えたのですが、「は?何言ってるの?」という感じでした。

その後退職が決まるまでの間に2〜3回面談をしたのですが、途中からかなり淡々とした対応でしたね。最初こそ感情的でしたが、何を言っても私の決意が変わらないとわかってからは冷たかったです。

——なぜそのような反応だったのだと思いますか?

転職を考えていることも、転職活動をしていることも伝えていなかったので、上司にとっては寝耳に水だったんだと思います。

あとは「ここまで育ててやったのに裏切られた」「手塩にかけてやったのに」という気持ちもあったのでしょうね。

というのも、その上司はパワフルな方で。ついていけずに辞める人も多かったからこそ、若手ながら私に任せてもらえる仕事も多く、2年ほど上司の右腕として一緒に仕事をしていたんです。

私は高卒で入社したこともあり、若手としてかわいがってもらっていましたし、たくさん鍛えていただいて、飲みにもよく連れて行ってもらっていました。距離が近かったがゆえに、上司にとってもショックだったのかもしれません。

——そういった対応を受けて、中山さんはどういう心境でしたか?

私が辞めることに決めた理由を、もう少し踏み込んで聞いてほしかったですね。

今の給料では生活が厳しいという理由を伝えるのはカッコ悪いと思っていましたし、ましてや「あなたが残業申請をさせてくれないからです」とは面と向かって言えないじゃないですか。

結局、本音の退職理由は伝えられずに終わってしまいました。

退職を振り返って思うよかった点、反省点

——今振り返って、納得のいく辞め方はできましたか? 

できていないと思います。

もし今の自分が同じ立場になったら、働き方の見直しや残業申請が承認されない件など、もっと周りを巻き込んで解決しようとした上で、やりきってから辞めると思います。きっと苦しんでいたのは私だけではなかったと思うので……。

でも、当時の自分はそこまで考えられなかったです。周りの方に相談してサポートしてもらえば、また違った結果になったかもしれないと思いますね。不満に対して行動を起こせていれば、その後辞めることになっても上司のショックは少なかっただろうとも思います。

——お話いただいた辞め方をして、特にどのような点に後悔していますか?

かなりタイトなスケジュールで辞めてしまったので、これまでお世話になった人にきちんとあいさつができなかったことが心残りです。

担当していたお客さまや他部署の方に対面でごあいさつができなかったし、かわいがってくれていた先輩方にも当日の報告になってしまいました。こじんまりとしたオフィスだったので、部長が近くにいる手前、先輩に退職の話はしずらくて……。

入社のきっかけだった社長にも、事後報告になってしまいました。きちんとお礼を伝えられなかったことへの後悔は残っています。転職先の入社日が決まっていたので仕方がなかったところもありますが、もう少し余裕をもって動けたらよかったと思いますね。

——とはいえ、そのような辞め方の中でもよかったと思うことがあれば教えてください。

転職先を決めた上で退職を切り出したことと、若い時期に転職活動を経験できたことです。

引き止められてうやむやになってしまうのが嫌だったので、転職先を決めてから切り出したのですが、上司に引き止められてもブレずにいられたのは、やっぱり次が決まっていたことが大きいと思います。

また、私は当時23歳でしたが、若さゆえの自信過剰なところもあって(笑)。だからこそ、早い段階で転職活動を経験して、自分を客観的に見れたのはよかったと思います。

これから退職する人へのアドバイス

——辞めてから約6年たちますが、今は古巣企業と関わりはありますか?

会社とはないですが、当時仲が良かった同僚とは年1〜2回ほど飲みに行っています。また、入社のきっかけとなった社長は現在飲食店を経営していて、以前お店にお邪魔したら「お金はいらないから」と言ってくれて。嬉しかったですね。

一方で、上司とは全く関わりがなく、完全に拒否されています。というのも、退職後に現在の仕事でたまたま前職に見積もりを依頼することがあって。私の名前に気付いた上司が「あいつに見積もりなんか出すな」と言っていたと前職の同僚から聞きました。

上司は「裏切られた」という気持ちを今も持っているのかもしれません。私としては上司に鍛えていただいたことに感謝をしていますし、もし機会があるなら再会したい気持ちもあるのですが……こういう話を聞いてしまうと、私からは連絡できないですね。

——お話いただいた退職体験を踏まえて、もしも次にまた退職をすることがあったら生かしたいことはありますか?

多くの会社では退職を切り出したら引き止められるでしょうし、退職後の活躍を応援する文化を持つ企業は少数だと思います。だからこそ、次に会社を辞めるときも決意がブレないように、転職先を決めてから切り出すでしょうね。

あとは、もっとスケジュールに余裕をもって退職の意思を伝えたいです。できれば半年前、せめて2〜3カ月前には話をすることで、嫌いで辞めるわけではないことを示したいです。引き継ぎやあいさつをしっかりして、感謝を伝えられるような辞め方をしたいですね。

——最後に、これから会社を辞めようとしている人に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします!

これは私自身の反省ですが、何も行動を起こさずに「会社が嫌だから辞める」というのは避けた方がいいと思います。会社に不満があったとしても、まずは解決に向けて行動を起こしてみる。それでダメなら退職と、段階を踏んだ方が納得感は持ちやすいような気がします。

とはいえ、会社に異議を申し立てるのは勇気がいることです。まずは、同僚や相談しやすい先輩に違和感を話してみるなど、「嫌だから辞める」の手前のアクションができるといいと思います。

円満退職のポイント

  • 何も行動を起こさずに「会社が嫌だから辞める」は避ける。会社への不満に対して、辞める前に何かしらのアクションを
  • 退職までのスケジュールは余裕を持って組み、関係者にきちんとあいさつをする

取材・文/築山 芙弓