連載「私の退職体験記」
みんなの会社の辞め方を深掘り!円満退職できた人、悔いの残る辞め方をした人……。いろんな退職体験談から「よりいい会社の辞め方」のヒントを見つけましょう!
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連載3回目に登場するのは、新卒で入った大手メーカーで約8年働いたのち、同業他社に転職した中水耕二さん(仮名)。
転職のきっかけは、会社が起こした不祥事。退職するまでに「2〜3キロ痩せた」という、中水さんの体験談を伺いました。
退職のきっかけと退職までのスケジュール
——まずは退職体験をお話いただく大手メーカーでどのような仕事をしていたのか、教えてください。
技術者としてプレス部門で働いていました。プレス用の材料メーカーさんと技術的にコスト削減する方法の協議を行ったり、プレス品をつくるためのシミュレーションをしたりといった仕事をしていました。
——退職のきっかけは何だったのでしょう?
会社が不祥事を起こしたことがきっかけでした。しかもそれを隠蔽していて……。メディアに大きく叩かれ、給与は下がり、ボーナスもどんどん下がって最後にはゼロになって。金銭的な理由で退職をした社員も多かったですね。
ただ、私の場合は給与面が理由ではなかったんです。私が退職をしたのは、会社が嘘をついてバッシングをされたことで「この会社に勤めている」と世間に言いたくないと思ったことが理由です。
バッシングされたのは自分が携わっていない部分でしたから、自分にはどうしようもないこと。しかも会社の誠意も感じられない中で、自分の子どもに「お父さんってどこに勤めているの?」と聞かれたときに「言いたくない」と思ってしまった。そんな状態で働き続けようとは思えませんでした。
——退職を切り出してから辞めるまでのスケジュールを教えてください。
転職活動を3カ月ほどして、納得のいく会社に内定をもらったタイミングで上司に退職の意思を伝えました。切り出したのは、退職日の1カ月半ほど前でしたね。
最初の1週間は引き留めていただいたので、直属の上司との面談のほか、その上の室長とも面談をしました。退職が決まってからは3週間で引継ぎを行い、最後の2週間が有給消化期間です。
——退職を切り出したときの当時の上司の反応はどうでしたか?
「やっぱりね」という感じでした。
——なぜそのような反応だったのだと思いますか?
有給を取るペースが増えるなど、私の行動に不自然な点があったので、うすうす感づいていたんじゃないかと思います。転職活動では遠方の会社の選考も受けていたので、どうしても平日に休む必要があって。
あとは、不祥事が起きた後に退職する人が増えていたことも、あまり驚かなかった理由なんじゃないかと。
事件が起きる前までは退職は珍しく、「定年まで勤める」文化だったのですが、事件後は辞める人がだいぶ増えていました。私が所属していた部署の人数は40〜50名ほどで、これまでは5年に1人程度しか辞めなかったのが、不祥事後は2〜3カ月に1人は辞めるほどになっていましたから。
退職を振り返って思うよかった点、反省点
——今振り返って、納得のいく辞め方はできましたか?
納得はしていますね。おそらく大きな迷惑はかけなかったと思うので、後悔なく退職ができたと思います。
転職先の会社が入社を待ってくれたため、引き継ぎ期間を設けられたことが大きかったです。もし「今すぐにきてくれ!」というような転職先だったら、しこりが残っていたかもしれません。
ただ、退職面談は気持ちを強く持って臨む必要がありました。ずっと仲間として働いてきた人に「残ってほしい」と言われたら心は動きますし、会社とは離れたいけど仲間とは離れたくないというジレンマもあって。とてもつらかったです。
——お話いただいた辞め方をして、特によかったと思うことはありますか?
最後まで仕事を投げやりにしなかったことです。退職者の中には、「もう辞めるし自分は携わらないからいいや」と考える人もいると思いますが、私は辞めるからと仕事を投げやりにしてしまったら、自信を持って転職先に行けないと思った。
引き継ぎ期間に余裕があったのも大きかったですが、「最後までしっかり仕事をやり遂げてこそ次に行ける」と自分に言い聞かせて取り組んでいました。
——反対に、後悔していることは?
無責任に仲間に転職を勧めてしまったことです。人それぞれの考えがあるのに、退職を勧めるのは違ったなと後悔しています。
今思えば、転職活動をしているときは不安で、仲間をつくりたかったんですよね。本当に相手のことを思って勧めていたわけではなかったので、無責任だったなと……。
さらに後悔したのは、私が転職を勧めた同僚が実際に転職活動をしたのですが、内定をもらえなかったこと。その人は転職できず残ることになり、自分だけ会社を去ることになってしまって、申し訳なかったです。
これから退職する人へのアドバイス
——辞めてから10年以上たちますが、前職と関わりはありますか?
会社とは特にないですが、同期の何人かは今でも一緒にゴルフに行くなど、交流があります。海外に駐在している人もいるので最近はあまり会えていないですが、帰国時にはまた会いたいですね。
——お話いただいた退職体験を踏まえて、もしも次にまた退職をすることがあったら生かしたいことはありますか?
後ろ指は指されると思うし、文句や陰口も言われるんじゃないかなと思います。それを覚悟をした上で、できるだけ迷惑をかけないように退職するしかないんじゃないかと。
というのも、全ての関係者に対して円満に退職するってなかなか難しいんじゃないかと思うんです。
また、残る人の中には、退職する人に対してうらやましいと感じたり、妬みの感情を持ったりする人もいます。そういった感情を向けられたときに、自分に対する批判なのか、ただの妬みなのかを混同せずに区別しなければと思います。言うほど簡単でなく、私も退職したときは2〜3キロ痩せましたが(笑)。
——最後に、これから会社を辞めようとしている人に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします!
古い考えかもしれませんが、退職は気軽にするものではなく、覚悟をもってすべきことだと思います。自分のスキルアップなど目的を持って、次の会社で勤め上げるくらいの覚悟を持つ必要があるのではないでしょうか。
一方で、会社側も考えを変えていく必要があるとも思います。特に製造業は昔気質なので、若い人に「お前のやりたいことなんてすぐできると思うなよ」という考えの企業も多いので……。
そういった考えで若い人の想いを潰してしまうと、どんどん人は辞めてしまうのではないか。製造業に長くいる人間として、そんなことも思いますね。
円満退職のポイント
- 自分が退職するときに周囲にむやみに退職を勧めない
- 余裕を持った引き継ぎ期間を設ける
- 引き止められてもブレない覚悟を持って退職の意思を伝えること
取材・文/築山 芙弓