定年後再雇用で人事担当者が押さえるべきフローや注意点

近年、採用における定年後再雇用の重要性が高まっています。2021年4月1日に改正高年齢者雇用安定法が施行され、65歳までの定年後再雇用が義務付けられました。人材不足が嘆かれる昨今の日本経済において、定年後再雇用を成功させることは、企業の事業拡大とますます密接に関わってくるでしょう

そこで、本記事では定年後再雇用に関する一連のフローと注意点、また最後に定年後再雇用を成功させるために必要な2つの要素を紹介します。

定年後再雇用の採用フロー

定年後再雇用までの流れは主に以下3つの段階に分かれます。

  • 対象者に継続雇用の意思確認を取る
  • 対象者の評価を決定後、再雇用の契約オファーを作成する
  • 再雇用のオファーを提示する

対象者が➂再雇用のオファーに合意したら、継続雇用となります。再交渉を重ねても合意出来ないようであれば、契約は不成立になるという一般的な契約フローと同様のものになります。フローとしては単純なものですが、定年後再雇用を希望する社員がどれだけいるかにより、新卒採用や中途採用の計画も変わってくるので、定年後再雇用の計画は余裕をもって進めておきましょう。

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また、原則として、企業は65歳までの継続雇用希望であれば、再雇用を認めなければなりません。なぜなら、高年齢者雇用安定法に定められた高年齢者雇用確保措置を実行することは義務づけられているからです。なので、特段の解雇事由や退職事由がない限りは、再雇用を受け入れる義務があると覚えておきましょう。

定年後再雇用の注意点

上述したように、定年後再雇用の一連の流れはシンプルです。ただ、一般的な契約とは異なる箇所も多くあります。人事担当者が知っておくべき、定年後再雇用後の報酬、高年齢雇用継続給付金、再雇用拒否の3つの注意点を確認しておきましょう。

定年後再雇用後の報酬

定年後再雇用の注意点として最初に挙げられるのは、報酬です。定年後再雇用の報酬はどのように決めるのが適切なのでしょうか。以下では、定年後再雇用の報酬に関して、給与、ボーナス、退職金に分解して解説していきます。

給与

定年後再雇用時の報酬で最も注意すべきは給与です。一般的に、定年後再雇用の給与は定年前に比べて低くなると言われています

  • 再雇用時に、今までとは異なる役職で契約した
  • 定年前と同じ職能がないと客観的に判断した

これらの理由を基に給与減額が決定されています。その際にポイントとなるのは、定年後再雇用時の給与減額に対して、客観的かつ合理的な理由が伴っているのか、という観点です。

具体的には、厚生労働省の高年齢者就業確保措置の実施及び運用に関する指針に、「年齢的要素を重視する賃金・処遇制度から、能力、職務等の要素を重視する制度に向けた見直しに努めること。」と定められています。このことから、定年前と比べて特に職能の低下が見られないのにもかかわらず、長く働く見込みがないという理由だけで賃金を下げることは、厚生労働省の指針に反すると言えます。

近年の裁判例を基に、給与が定年前の60%を下回ったら違法という通説がありますが、あくまで1つの裁判例に過ぎません。定年後再雇用で定年前より低い給与でのオファーを行う際は、自社の業務と対象者の職能の低下を照らし合わせ、客観的に判断したうえで、適切なオファーをするように心がけましょう

ボーナス

定年後再雇用時の報酬において、ボーナスにも気を付ける必要があります。定年後再雇用社員にボーナスを与えるかどうかは、自社の方針に委ねられています。一般的には、定年前から自社で定められている制度をそのまま適応するケースが多いです。

この際、対象者の雇用形態に気をつけましょう。ボーナスは正社員にのみ支給する企業が多いことに対して、定年後再雇用での契約の多くは非正規雇用です。定年前までボーナスを支給していたのであれば、定年後にボーナスを貰えず、不満を覚えてしまうかもしれません。なので、ボーナスの支給の有無は定年後再雇用の契約前にしっかりと話し合い、合意をしたうえで契約しましょう

退職金

最後に、定年後再雇用時の報酬で気を付けるポイントは退職金です。

一般的に、定年後再雇用は定年時に一度退職した扱いになっているため、定年時のタイミングで退職金を支給します。退職金を支給したうえで、再雇用を行うという順序です。

企業によっては、定年後再雇用の退職時に退職所得を支給しています。もちろんですが、再雇用の退職所得は、定年後再雇用の契約を交わしてから、再退職までの期間で勤続年数を数えます。退職金に関しても、再雇用前に対象者と契約内容の認識を合わせることが重要です。

高年齢雇用継続給付金

定年後再雇用者の報酬確定後は、高年齢者雇用継続給付金について注意する必要があります。高年齢雇用継続給付金とは、定年後再雇用の契約において再雇用者の給与が下がった際、再雇用者が受け取れる給付金のことです。定年後再雇用者が以下の要件を満たしていれば、賃金額の低下率に応じた支給率が定められ、対象者の賃金に上乗せされます。

  • 60歳以後の賃金が60歳時点の賃金と比べて75%未満となっている
  • 基本手当を受給していない
  • 60歳以上65歳未満である
  • 被保険者であった期間が5年以上ある

参考資料:厚生労働省「Q&A~高年齢雇用継続給付~」

企業としても、今まで自社に貢献してくれた人材に減額のオファーをすることは快くないことだと思います。高年齢雇用継続給付金の存在を覚えておけば、一方的な給与減額のオファーにならず、両者にとってより良い再雇用となることでしょう。

定年退職者の再雇用希望は拒否できる

最後に注意すべき点は、定年後再雇用者の再雇用希望を拒否して良いのかという点です。上述したように、65歳までの継続雇用希望は認めるべきです。高年齢者雇用安定法にて定められている内容ですので、不当な定年後再雇用の拒否は違法とみなされます。

しかし、場合によっては、定年退職者の再雇用希望を拒否できるケースがあることをご存知でしょうか。判断のポイントとなるのは、拒否理由に合理性があるか、という観点です。

拒否理由が認められるケースは大きく以下の2つとなります。

  • 職能に合わせた合理的な契約オファーに合意できなかった場合
  • 解雇に相当する合理的な理由が存在する場合

繰り返しになりますが、厚生労働省の高年齢者就業確保措置の実施及び運用に関する指針にて、職能に合わせた賃金制度を設けるべきであると言及されています。なので、客観的かつ合理的に、職能を判断したうえで、再雇用希望者が合意できなかった場合は再雇用を拒否することが可能です。また、健康上の理由で業務を遂行できないという判断が下されれば、同じように再雇用を拒否することが出来ます。健康上の理由での再雇用拒否を行う際も、復職可能時期や症状の状況などを加味したうえで、合理的と言える理由があった時に限るということは前提条件です。

もう一つの条件、解雇に相当する合理的な理由が存在する場合とは、どのような状況なのでしょうか。一般的には、業務命令違反など通常の解雇事由と同じという認識がなされています。このケースは一概に解雇条件を述べることは難しいです。自社の経営上、解雇に相当する理由がある場合は、法律の専門家などに相談したうえで、定年後再雇用を拒否するようにしましょう

定年後再雇用を成功させるには

人材不足が嘆かれている近年、定年後再雇用を成功させることは、会社経営を成功させることに強く結びついています。しかし、定年後再雇用のルールを知っていることと、定年後再雇用を最適に行えることは同義ではありません。以下で解説する2つのポイントを押さえて、自社と社員の両者にとってより良い定年後再雇用を実現しましょう。

メリットとデメリットをしっかり把握する

定年後再雇用を成功させるには、メリットとデメリットを正しく把握しておくことが大切です。65歳までの定年後再雇用は義務だからと言って、受け身な姿勢で定年後再雇用をしていては、上手くいきません

定年後再雇用の大まかなメリットとデメリットは以下のようなものがあげられます。

定年後再雇用のメリット

  • 自社への理解が深い人材を確保できる
  • 定年後再雇用者の多様な知見を活用できる
  • 定年後再雇用制度が確立していることで、社員が長く働くモチベーションとなる
  • 定年後再雇用者のような即戦力を確保することで、若手育成にリソースを割ける
  • 人的資本経営に取り組む企業という採用ブランディングを確立できる

定年後再雇用のデメリット

  • オファー内容によっては上の役職が空かず、企業内で新陳代謝が起こらない
  • 既存社員と定年後再雇用社員とのコミュニケーションが上手くいかないこともある
  • 一概に定年前と同じオファーをすると、人件費の支出が極端に大きくなる
  • 定年後再雇用社員の意見に頼りすぎると、移り変わるトレンドに事業が追いつかない
  • 定年後再雇用社員の就業機会を意識するあまり、若手育成に注力出来ないこともある

このように、定年後再雇用には様々なメリットとデメリットがあります。上記の通り、メリットは数多くあり、自社に適切なやり方で定年後再雇用を行えば、ポジティブな効果が期待できるでしょう。反対にデメリットに関しては、表面的な定年後再雇用を行うと生じるものであり、経営にとって不健全なオファーや業務内容を提示しなければ、問題ありません。

定年後再雇用は義務とはいえ、表面的な理解で不適切な取り組みをしてしまうと、かえってネガティブな施策となってしまう、ということを理解しておきましょう。自社の経営にとっても、定年後再雇用社員にとっても、既存社員にとっても、ポジティブな施策となるような制度設計を構築することが大切です。

アルムナイネットワークを構築する

定年後再雇用を成功させるには、アルムナイネットワークを構築することも重要です。アルムナイとは、企業の退職者を意味します。では、アルムナイとの関係を維持することがなぜ定年後再雇用を成功させることに関係しているのでしょうか。

関連記事:アルムナイ制度とは?大企業が注目する令和式「即戦力」

アルムナイネットワークを構築する事で、アルムナイが退職後も自社と関係を継続させることが出来ます。定年後再雇用制度はあくまでも希望制です。なので、定年で退職を希望した場合、そのままアルムナイとなり、自社との関係が途切れてしまった、なんてことはよくあります。しかし、定年まで勤めあげた社員は、自社への理解が深く、良いところも悪いところも熟知している貴重な人材です

アルムナイの知見を活かし、自社の経営を改善することは、大きな効果があるはずです。実際に、電通やみずほ銀行などの大企業では、アルムナイ専門サービス「Official-Alumni.com」を導入されはじめています。退職者アンケートなどの機能を活用すれば、社員だからこそ気づけない自社の改善すべき点を把握できます。

定年後再雇用においてアルムナイネットワークを構築するメリットは、知見を活かすだけではありません。定年後再雇用を希望していても、健康上の理由で合意に至れないケースも往々にしてあるでしょう。そんな時に、アルムナイネットワークを構築していれば、業務委託としてアルムナイと業務をすることも可能になります。自社の業務を深く理解しているアルムナイに任せれば、高い解像度で委託した業務に取り組んでくれるはずです

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このようにアルムナイネットワークを構築することで、定年退職したアルムナイが自社に貢献してくれることが期待されます。定年後再雇用は、再雇用後が注目されますが、定年退職したアルムナイとどう関わっていくかを考えることも非常に重要です。これを機にアルムナイ専門サービス「Official-Alumni.com」の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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