サントリーで学んだ「飛び込む」営業力と企画力を武器に、演劇の世界へ

アルムナイの佳乃佳澄さん(高宮佳澄さん)にお話を伺いました。演劇の世界に挑戦するため、やりがいのあった飲料の営業職を離れる決断をした佳乃さん。サントリー時代から現在の活動について伺いました。

※過去にサントリーホールディングス㈱、サントリー食品インターナショナル㈱に在籍していた方専用のネットワークです

サントリー時代について

――まずは、ご経歴を教えてください。

大学卒業後、2015年にサントリーに入社しました。東京支店で、百貨店営業やファウンテン担当(複合施設などを対象に飲料ディスペンサーを扱う仕事)に従事し、社会人になってから趣味で始めた演劇を本格的に行うため2023年に退職。現在は劇団を主宰し、定期的に公演を開催するなどして活動しています。

――サントリーに入社されたきっかけは?

第一志望での入社でした。就活のときはあまり業界や業種を絞らず、様々な企業の説明会に顔を出して、その会社の方と話すことを心がけていました。サントリーは、当時の採用担当の方と話してみて、面白そう、楽しそうと感じたのです。社風も「やってみなはれ」という文化で、色々なチャレンジができそうだという期待がありました。

――入社してからのお仕事について教えてください。

入社すぐに、東京支店の販売課に配属されました。百貨店のギフト担当として、デパートのバイヤーの方に、お中元やお歳暮のギフトセットを営業する仕事でした。

ギフト担当は2人しかおらず、自分の前任者は定年退職されていて、もう一人も50代でもともと役職に就いていた方でした。上司から細かくマネジメントされるというより、「自分で考えて、自分で動く」ということを教えていただきました。

お中元とお歳暮の時はすごく忙しかったのですが、普段は余裕があったので、百貨店のギフトコーナー以外、グロッサリーにも顔を出して、「天然水」の森を作るなど、販促活動に勤しんでいました。一つのことをやりきって実現する成功体験でしたね。

最初は右も左もわからず、飛び込み営業のやりかたも知らなかったので、まず実店舗に行って、「うちの商品を並べてもらいたいんですけど誰に聞いたらいいですか?」と尋ね、本部の連絡先を聞いて、卸に聞いて……と、ボトムアップで攻めていきました。

こんなこともありました。高級シロップの「わつなぎ」が発売されたときは、販路を拡大していこうということになりましたが、百貨店では売ってくれることに早くも決まってしまって。時間があったので、ロフトなど、自分の管轄ではない店にも足を運んで、結果的に東急ハンズに「わつなぎ」を並べてもらえることになりました。好きなように商談ができて、やりたいようにやらせてもらったので本当に楽しかったですね。

東京支店には3年いました。当時は個人プレーの側面が強かったのですが、営業では女性が一人かつ新人だったこともあり、周囲の方からよく面倒を見てもらっていたと思います。

その後、4年目の異動でファウンテン事業の担当になり、映画館やファーストフードへの営業を行うことになりました。ここでも自由度は高く、得意先とやりとりしたり、商品開発にも入らせてもらったりしました。

――このころ、お芝居も始められたんですよね。

はい。ファウンテンでは楽しいことばかりではありませんでした。異動してきた直後に自分が担当している得意先で珍しいトラブルがあり、部署にも自分にもノウハウがなく模索状態で、心が擦り減ることが多い時期でした。このとき、「自分が今まで興味を持っていなかった分野にも世界を広げなければ、気持ちが楽にならない」と直感的に思い、それまでまったく関わりのなかったお芝居を、本当にフラっと観にいったんです。

――なんと!運命的な出会いだったのですね。

そうですね。しかも、午前の回の当日券が売り切れていて、でももう現地で観る気持ちになってしまっていたので、夜の回の券を買って観たんです。それがたまたま日本トップクラスの野田秀樹さんが演出している舞台で。

それまで、舞台はTVドラマや映画の控えといいますか、いわゆる芸能人よりも素人の人がやっているものだと勘違いしていたんですね。でもその舞台を観て、とても繊細で難しいことをやっているんだ、と感動してしまって。その後、劇団に連絡して、社会人部に入団したんです。

――その頃から、役者を目指すことを考えていたんですか?

とんでもないです!あくまで趣味のつもりでした。

サントリーに入社したときから、自分は本来採ってもらえるような人間ではないから、死ぬまで働いて恩返ししなければ、くらいのことを思っていたんです(笑)。稽古も日曜だけで、良い息抜きになるな、くらいの感覚でした。それが、どんどん楽しくなって、のめり込むようになってしまい、徐々に演技に軸足を移したいなと自然と感じるようになりました。

退職と現在まで

――改めて、役者の道に進む決断をしたのはどのような経緯なのでしょうか。

ファウンテン事業には4年ほど在籍していたのですが、その後サントリーコーポレートビジネス株式会社に異動になりました。それが、そろそろ芝居が楽しくなってきて、仕事と両立するに当たって、どちらを軸足にしようか迷い始めたタイミングだったのです。

当時、社会人劇団に所属していたので、その中でやっている分には仕事を理由に融通してもらえていました。でも、やっているうちに活動のステージを広げて外部の公演にも出たくなり、そうすると時間が圧倒的に足りなくて。それに、仕事をしているうちは仕事もちゃんとやりたいと思っていました。営業職なので、自分の都合通りに時間を組めないときもあります。芝居を中心にするためには、仕事は辞めないと中途半端になるなと考え、退職する決心をしました。

加えて、当時の年代は一番仕事が楽しく、裁量を持って色々なことを任せてもらえて、お給料も高くなっていく時期でしたから、その待遇が捨てられなくなる前に出ないと、という考えもあったかもしれません。

――辞めるとき、周囲の方の反応はいかがでしたか?

会社の同僚や上司にも、家族にも反対されました。退職の直前まで「ほんまに辞めるん・・?」と聞いてきたくらいです(笑)。退職してからちゃんと準備して、オーディションを受けて、という順番だったのですが、オーディションを受けて合格したら辞めればいいのに、という反応も多かったです。でも、会社員をやりながら芝居の練習もして、俳優として劇団に合格するには時間が足りなかったんですよね。芝居の役の合格がわかるのも公演の半年前とかで、そこから退職するとなっても職場に迷惑をかけてしまいますし。

稽古場にて

――実際に退職してみて、いかがですか?

まず、演劇に費やせる時間が長くなったのは本当に良かったです。仕事をしていた時間をそのまま演劇に当てられるので、練習や新しい取り組みをすることができています。

現在は、劇団に所属しながら、自分の劇団も持っています。主宰劇団の方は、自分でキャスティングを決めたり、作家を口説いてトークショーに参加してもらったりなどして、地道に活動の根を広げています。今年の2月は辞めてから初の主宰公演を行いました。昨年やった旗揚げ公演よりも規模が大きくなり、前準備もほとんど自分一人で進めたので大変でした。仕事をしながらではできなかったことですね。

ーー今後の展望は?

自分としては”好きだったサントリーの営業のしごとを辞めてまで舞台の仕事をしているのだから”というのがプライドというか、ある意味支えになっています。ゆくゆくは芝居だけで食べていけるようになるのが理想ですね。役者として芝居もしつつ、舞台関係の仕事をして暮らしていきたいなと思います。

サントリーに今、思うこと

――サントリー時代の経験や縁が今も活きていることはありますか?

演劇関係で連絡を取る人に、営業力がすごいとよく言われます(笑)。作家を口説くときにも、あなたの書いている本が好きです、見に来てください、とアピールし続けているのですが、サントリー時代に営業で自由にやらせてもらっていたのが生きているな、と思いますね。また、報連相や納期を守るなど基本的な社会人のルールが守れているだけでも舞台の世界では珍しいというか、信用してもらえるところがあるので、会社員をちゃんとやっていてよかったなと感じます。

縁というと、今もサントリー時代の知り合いが公演を観に来てくれます。また、先日のアルムナイ交流会で公演のことをアナウンスさせてもらって、事務局の方やアルムナイの方が観に来てくださいました!会社のつながりで実際に足を運んでいただけるのは本当にありがたいなと思います。

自分もそうだったのですが、舞台って一度観にいくまでのハードルが高いじゃないですか。実際、演劇に無関心な層に一度来てもらうためにはどうすればよいか、日々考えているんですけれど。それを、前職の知り合いが出ているから、というカジュアルな理由でまず観に来ていただいて、そこでもし心が動いてくれたら、リピートしていただけると嬉しいなと思います。

アルムナイコミュニティ内でも告知にリアクションいただけて嬉しいです。どうしても、他の方とは仕事の毛色が違うので、大丈夫かなと心配していたのですが、杞憂でした。次の公演の告知も投稿させてもらいますね!

生き生きと演じる佳乃さん

――現役社員に対して一言お願いします!

自分なんかがメッセージを!?・・と思わないこともないですが・・(笑)

自分がサントリーに感謝しているのが、自分の「これがやりたい」を信じて企画すれば、口には出さずとも、なんだかんだ皆さん応援してくれることです。社内でどう思われるか、上からどう見られるかよりも、得意先の売上を上げるにはどうすればいいかに目を向けていたら、結果的には成功したこともありました。

新卒でサントリーに入社してから、本格的に芝居をしている今までずっと、やってみる、やり切る、結果出す、ということを一貫してきたように思います。それはやはりサントリーの「やってみなはれ」精神がインストールされているおかげかもしれません。

※過去にサントリーホールディングス㈱、サントリー食品インターナショナル㈱に在籍していた方専用のネットワークです