神奈川県を中心に、学習塾「臨海セミナー」を550校以上展開する株式会社臨海(以下、臨海)。同社は2019年より正社員向けのアルムナイ(退職者)ネットワークの運用を開始し、確かな実績を積み上げてきました。そして2026年3月、同社は塾講師として現場を支えた元アルバイトとも関係性を構築していくために、“Rinkai-JK Alumni Port”※1と名付けたアルバイト用アルムナイネットワークを立ち上げました。
※1:JK=準契約講師。臨海内でアルバイト講師を指す言葉
「人との繋がり」を重視し、退職後も良好な関係を築こうとする同社には一体どのような背景や想いがあるのでしょうか。
立ち上げを推進した事務局の4名にお話を伺いました。

・人事部 管理課 上席課長 小島大介さん
・人事部 管理課 専門主幹補佐 小野咲也絵さん
・人事部 アルバイト採用課 総合主任補佐 平瀬圭さん
・人事部 社員採用課 総合主任補佐 大池雄一さん
過去、臨海アルバイトに登録していた方専用のネットワークです
手探りから始まった構想と直面した「管理の壁」。堅実に進めた土台作りの5年間
——2020年に立ち上げた正社員向けのアルムナイネットワーク(※詳細はこちら)に続き、今回アルバイト向けのアルムナイネットワークの立ち上げに至った背景や経緯について教えてください。
小島さん(以下、小島):私たちのアルムナイネットワーク構想のスタートラインは2019年にまで遡ります。当時、同業他社様がアルムナイの仕組みを導入して退職者とやり取りをされているのを拝見し、「これは素晴らしい仕組みだ。是非うちでもやりたい」と強く思ったのがきっかけでした。
ただ、当時は「まずはシステムを入れずに、社内で内製化してやってみよう」という方針になり、若者にも馴染みのあるInstagramでアルムナイ用のアカウントを作成することから始めました。卒業される方々に「このアカウントに登録してね」とお願いをして回ったんです。
——SNSを使ったアルムナイネットワークの構築ですね。実際に運用してみていかがでしたか?
小島:すぐに大きな壁にぶつかりました。SNSだと、どうしても個人情報をどのように取り扱うかという問題がつきまといます。承認制のアカウントにはしたものの、「このアカウントと繋がってしまうと、他の登録者同士でも互いの様々な情報が見えてしまうのではないか」という懸念が払拭できませんでした。
そうやって試行錯誤しながら進めた結果、登録してくれる方の数は少しずつ増えていったのですが、今度はこちらからの情報配信が滞ってしまうという事態に陥りました。結果として、「きちんとした専用の仕組みやプラットフォームがないと、これを維持・発展させていくのは難しい」と痛感したのです。そこからハッカズークさんの提供する専用のシステム導入へとたどり着きました。

——正社員を退職された方向けから取り組みをスタートしたのはなぜでしょうか?
小島:アルバイトは人数が多く管理や運用の面で問題が生じないか当初は不安もあったことから、まずは人数の少ない正社員の退職者からスモールスタートで始めることにしました。最初は社内にも大々的に告知せずひっそりと始めて……そこで数年かけて運用ノウハウを蓄積し、社内にもアルムナイの文化が徐々に浸透してきたこのタイミングで、いよいよ人数の多いアルバイトの皆さんへと対象を広げることになった、というのが現在地です。
小野さん(以下、小野):正社員のアルムナイの取り組みを始めた当時も、何人かアルバイトの方から「自分も登録できますか」という問い合わせもありました。その頃は正社員限定なのでとお断りするしかなかったので、数年かけてようやくその機会を提供できるようになったという気持ちですね。
——先行した正社員向けの取り組みはどのような状況でしょうか。
小野:外から臨海がどのように見えているのかお声をいただけるのは、やはりこうしたアルムナイの仕組みがあるからこそですね。また、その中で臨海に何かしら恩返しをしたいと思ってくれている方が多くいるということが最初の驚きでした。
そこから運営を続ける中でアルムナイの方にも少しずつ制度が浸透してきて、「今勤めている会社でこういう取り組みをしているので、臨海と一緒に何かすることができないか」というような相談をいただくことも増えてきました。今はそうした提案をどのように実現していくかが次のステップですね。徐々に成果を積み重ねることができているのではないでしょうか。

——今回のアルバイト向けの取り組みを開始するにあたり、現場の教室からはどのような反応がありましたか?
小島:現場の反応は非常にポジティブでした。正社員向けで実績を積んできたこともあり、社内の会議でアルバイト向けの展開を発表した時も「おお、いいじゃん!」という温かい、大賛同の雰囲気でした。
小野:発表後には、現場から個別に「この人をぜひ案内してほしい」と指名で連絡がきたり、「アルバイトではないが、3月末に辞める正社員にも、正社員のネットワークの案内をしていいか」と従来の正社員側の取り組みの再認知に繋がったりと、非常に感度高く受け止めてもらえました。現場の先生方も、「出ていってしまう人たちとうまく繋がっていこう」という意識を強く持っていてくれたのだと実感しています。
——これまで、長年正社員のアルムナイネットワーク構築でしっかりと風土醸成をしていたからこその現場のご反応だったのではないかと推察しています。一方で、経営層からのご反応はいかがでしたか?
小島:経営層からも、多大な理解と協力をいただきました。アルバイト向けアルムナイの稟議を上げようとしたら、「これは人事として取り組むべきチャレンジだから、どんどんやっていこう!」と強い後押しをもらいました。
ですので、結果的に社内で全く反対意見が出ることなくスムーズにスタートすることができました。
なぜアルバイトとも繋がりを保ち続けるのか?――「人の成長に関わる仕事」の魅力を忘れないでほしいという想い
——アルバイトの方々と退職後も繋がるコミュニティを構築しようと考えられた狙いはどのようなところにあるのでしょうか。
小島:前提として、塾講師として働いてくださっているアルバイトの方は大学生が中心です。彼らは大学卒業を機に退職してしまうことがほとんどなので、時期が来たら会社から離れていく、というのは至極当たり前でした。
しかし以前から、塾講師のアルバイトをして卒業していった方が、再び臨海に戻ってくることがちらほらとありました。とても嬉しいお話ですが、こうした方たちは、ご本人から自発的に「また働かせてください」とアクションを起こしてくださる方です。
心のどこかで「もう一度臨海で働きたいな」と思っているけれど、自分から連絡するきっかけがない層がもっとたくさんいるはずだと感じてきました。そうした方々と退職後も繋がりを持ち続けることでその思いを無駄にせず、双方で機会損失を生まないようにしていきたいというのが、アルバイトを卒業された方と繋がりを保つことの大きな狙いになります。
——御社に戻ろうとする卒業生から、これまではどのように連絡をいただいていたのでしょうか。
平瀬さん(以下、平瀬):在籍時に関わりのあった人に相談をして、その方がリファラルとして会社に紹介する、という流れが多いです。もちろん、掲載している求人に直接応募をしてこられた方が、後から調べたら元アルバイトだったと発覚することもあります(笑)

——そのような方は、どのようなタイミングや理由で復職されることが多いですか?
平瀬:本当に多様なパターンがあります。例えば、大学を卒業して大学院へ進学したタイミングで「時間ができたからまたできるぞ」と戻ってきてくださる方や、海外留学から帰国して「また臨海でやりたい」と戻ってきてくださる方がわかりやすい例ですね。一度社会人になった方でも、副業だったり、転職活動に伴う空白期間の短期間限定だったり、フルタイムで働くことは難しくとも「経験のある臨海でもう一度」と関わってくださる方もいらっしゃいます。
また特徴的なのは、他業界へ就職したものの、「やっぱり人と関わる仕事がしたい」と言って戻ってくるケースが多いことです。他業界では商品を媒介とする仕事が多い中、直接誰かの成長に関わることのできる塾講師の仕事のやりがいを思い出して戻ってきてくれるのだと思います。
——他の塾を経験した上で、臨海に戻ってくる方もいらっしゃるそうですね。
大池さん(以下、大池):はい、正社員のケースですが、臨海でアルバイトをした後に他の学習塾へ就職し、その後再び臨海に戻ってくる方もいます。他の塾を経験したことで、臨海のシステムがいかに整っていて働きやすい環境か、そして「生徒の方を向いて仕事ができている」という環境の良さを再確認してくれるんです。「他塾で培ったスキルを臨海でさらに発揮したいから、もう一度チャレンジさせてほしい」と言って戻ってきてくれる。これは臨海がしっかりとした会社であることの証明でもあり、非常に嬉しい話ですね。
私は現在、中途採用に関わっていますが、現場の先生と皆さんの絆は本当に強いと感じています。私自身、以前勤務していた教室で一緒に働いていた準契約講師の方と、卒業して14、5年経った今でも毎年年賀状のやり取りをしていますし、「また飲みに行きたいですね」と声をかけてもらえます。また、当時のアルバイト同士が今でも繋がりを持っていて、一緒に遊びに行ったりしていることも聞いています。
そうした「勝手知ったる仲」のメンバーが戻ってきてくれることは、現場にとって相当心強いんです。「おい、また一緒に頑張ろうよ」と笑顔で迎え入れられる、「ここでならまた頑張れそう」と思ってもらえるそんな環境を、私たちがしっかりと用意してあげたいですね。

アルムナイと会社が互いに助け合える場に――アルムナイプラットフォームの目指す姿
——具体的にこのアルバイト向けアルムナイネットワークを活用してどのようなことに取り組みたいですか?
小島:短期的な構想としては、夏期講習などの繁忙期や「来週のこの日だけサポートが欲しい」というピンポイントでのスポット雇用の仕組みをアルムナイネットワーク内で実現したいと考えています。
平瀬:現場の教室と個人で調整して、季節講習の1ヶ月だけといった短期のお仕事をされる方はこれまでも実際にいました。
——確かにすでに臨海での指導経験がある方なら、研修なしで即戦力になりますね。
小島:その通りです。普通に採用すれば、理念研修から指導の研修まで多くのプロセスが必要ですが、臨海のメソッドや経験値を持っているアルムナイの方なら、すぐに現場に入ってもらうことができます。
また、インフルエンザなどやむを得ない事情で急遽現場の先生が休まざるを得なくなった際、すぐにピンチヒッターとして入れる方がいれば、現場としては非常にありがたいはずです。
——少しずつでもアルムナイの力を借りることができれば、会社全体では大きな効果に繋がりそうですね。
小島:急病などでどうしても現場でカバーできない欠員が出た場合は、本部から代理の講師を派遣して授業に対応しています。ただ全国に約550校(※2026年3月現在)もあるために体制の限界もありますし、派遣による本部の負担も小さくありませんでした。アルムナイの方に機動的に力を貸してもらえる仕組みができれば、それは現場はもとより、本部側の負担を減らすことにも繋がっていきます。ピンチヒッターとしての派遣の頻度を減らすことができれば、本部で本来担うべき業務にも注力できるようになり、それが生徒のためにも繋がっていくと期待しています。
——素晴らしい構想ですね。しかし、登録してくれるアルムナイの方々には新しい環境でチャレンジを始めている方も多く、今すぐに臨海で再び働くことが選択肢にならない人も当然いらっしゃると思います。そうした方にはどのようなモチベーションでコミュニティに参加してほしいですか?
小島:まずは「臨海のファン」として、本当にライトな気持ちで関わってほしいですね。現場の先生方にも「大学の同窓会システムみたいなものだよ」と伝えて案内してもらっています。退職しても、かつて自分が働いていた教室の今年の合格実績がどうなったか、新しい校舎がどこにできるかなど、古巣の近況を知りたいと思ってくれている方は多いはずです。月1回程度、ルーティン的に覗いてみたくなるような存在になれれば嬉しいです。
大池:また、アルムナイ同士の交流も大歓迎です。同業種に進んだ人同士で会社を跨いでグループを作って勉強会をしたり、逆に全く違う異業種に進んだ人同士で情報交換をしたり。社会人1、2年目の不安な時期に、「臨海出身」という共通項があるからこそ安心できるコミュニティになってほしいですね。
「こんなことで上司に注意されたんだけど、同じような経験ある?」「ここで仕事につまづいているんだけど」といった悩みを、同じ臨海のDNAを持つ者同士で打ち明けられる場所になってほしいです。「社会の荒波に飲まれそうでも、臨海出身だからこそここで助け合おうよ」と言えるサードプレイス的な存在になれれば、社会人としての仕事もより楽しくやっていけるのではないかと思っています。
小野:正社員アルムナイでの学びとして、年次等が違うと交流するにはハードルがあるように感じています。まずは定期的にログインしてそこの情報を確認してくれるだけでも嬉しいです。その先にもし興味を惹く企画への参加機会があったら、ぜひ様々な交流の場として活用してくれたらと思っています。

——アルバイトを卒業した方たちが、臨海という共通の経験をもとに助け合える場になっていくと素晴らしいなとお話を伺っていて強く感じました。
世代を超えて繋がる「100年企業」と、塾業界のトップランナーを目指して
——中長期的な展望をお伺いさせてください。正社員やアルバイトという雇用形態にとらわれず、臨海という会社は個々人とどのように繋がっていきたいと考えていらっしゃるのでしょうか。
小島:生徒として臨海に通い、成長してアルバイトとして働き、別の会社へ就職していった子が、大人になって自分の子どもをまた臨海に通わせてくれる――そんな「再顧客化」のサイクルを、正社員だけでなくアルバイトの層にまで広げていきたいです。
実はすでに、「過去に臨海に通っていたご両親のお子さんが、今は臨海の生徒」という世代を超えた繋がりが生まれているんです。生徒として通っていた数年間に留まらない関係性を個々人と何世代にもかけて築いていくことができれば、臨海は「100年残る企業」になれると考えています。
——生徒と教師だけに留まらない関係性を構築していくというのは、非常に素敵な構想だと感じました。実際に生徒からアルバイトになられる方も多くいらっしゃるのですか。
平瀬:非常に多いです。臨海では、生徒だった子がアルバイト講師になるという循環がすでに多く生まれています。今年もまさに今が高校を卒業した生徒からの応募を受け付けている最中ですが、今年だけで卒業生が700名以上塾講師として働きたいとエントリーしてきてくれているんです。
現場の現役の先生が、「教えるのってこんなにも楽しく、やりがいがある仕事なんだよ」と教え子に伝えてくれているんですね。生徒と先生だった関係が、先生同士の同僚の関係になる。これは本当に素晴らしいことだなと感じています。
——アルムナイの取り組みは、現役の生徒やアルバイトの方にもいい影響があるのではないでしょうか。
平瀬:卒業したアルバイトの皆さんが、社会人としてどのように活躍しているのかを、現役のアルバイトや、これから社会に出る生徒たちに伝えていきたいと強く思っています。
どの会社の採用ホームページを見ても、「うちでアルバイトをすれば、社会人に必要なプレゼン力が身につきます」といったメリットが、会社目線の言葉で書いてありますよね。でも、実際に臨海を経験して社会に出た本人が「臨海でのアルバイトがあったから、今の自分はこうなれている」と語ってくれた方が、何倍も説得力があります。「こういう風になれるんだ」という目標が見えることで、現在アルバイトで活躍されている方のモチベーション向上や、今後のアルバイト採用の活発化にも繋がっていくのではないかと期待しています。
そしてもし、アルバイトを卒業した後もアルムナイとして関係が続くことを伝えられれば、生徒たちは「生徒として通って、アルバイトで講師もして、卒業後もこんなに色々関わってくれる会社ってなかなかないな」と驚いてくれるはずです。例えば、様々な分野で活躍するアルムナイの方を呼んで座談会を行うようなこともできれば「臨海ってただの学習塾じゃなく、もっとすごい会社なんだな」と、企業のブランディングとしても非常に強みになると考えています。

——最後に、臨海として今後アルムナイコミュニティをどのように発展させていきたいか、事務局の皆さまの中長期的な展望をお聞かせください。
小野:将来的には、アルムナイが所属する別の企業や学校などと、公教育・民間教育の枠を超えたコラボレーションができれば面白いですね。教育業界が抱える課題を、アルムナイを通じた異業種との連携で解決していく。そんな未来を描いています。
大池:臨海がアルムナイの取り組みを通じて、塾業界におけるモデルケースになれればと思っています。塾業界はまだまだ人気がない側面もありますが、実は「すごく人を大事にする世界」なんだということを伝えたいですね。臨海がトップランナーとしてこの考え方を広め、業界全体を発展させていけるような制度を作っていきたいです。

——本日は貴重なお話をありがとうございました。アルバイトという枠を超え、一生の財産として「人」を大切にする株式会社臨海のアルムナイネットワーク。今後の展開から目が離せません。
過去、臨海アルバイトに登録していた方専用のネットワークです









