あなたの会社の退職者は、退職後も会社のファンになってくれたり、また一緒に働きたいと言ってくれていたりと、自社に対してポジティブな気持ちを抱いてくれていますか?
それとも口コミサイトでネガティブな発信をするなど、関係断絶状態になっているでしょうか?
退職者との関係性を考える際、重要な切り口の一つが「社員の退職体験」です。この退職体験は何によって左右されるのでしょう?
今、退職体験に着目すべき理由
2019年には転職者数が過去最多の351万人を超え、もはや転職は珍しいものではなくなりました。しかし、いまだに「退職者=裏切り者」という考えを基に、社員の退職時に適切でない送り出し方をしてしまい、関係を悪化させてしまうケースが多くあります。
実際、過去のアルムナビのアンケートでは、55.4%の退職者が「退職の意思を伝えてから実際に退職するまでの間に、不快な思いをしたことがある」と回答し、さらにそのうちの過半数が会社に対する気持ちについて「好意が薄れた」あるいは「嫌いになった」と答えています。
それまでの在籍期間と比べて、退職体験ははるかに短い期間の出来事です。それにも関わらず、退職体験を損ねてしまうことで、会社に対する最後の印象が悪いものとなり、在籍時の印象を上書きしてしまうのです。
その結果、再雇用や副業人材としての採用機会の喪失、口コミサイトや転職先での退職者口コミによるブランディング悪化などの悪影響につながっているケースが後を立ちません。
退職体験を左右する5つの要因
それでは何が退職体験を左右するのでしょうか。5つのポイントに分けて紹介します。
1、退職意思表明時の冷静な対応
退職体験は、社員が退職の意思を表明した時から始まります。多くの場合、直属の上司が最初に報告を受けますが、この時の最大のポイントは感情的にならないこと。
驚き、怒り、悲しみ、焦り、寂しさなど、さまざまな感情が湧き上がり、つい「どうして辞めるんだ!」と感情的に対応してしまいそうになるもの。それをグッと抑え、社員が悩み抜いて出した退職という決断を頭ごなしに否定しないことが何より重要です。
大きく息を吸って「言いづらいことを話してくれてありがとう」という言葉から始めてはいかがでしょうか。
2、退職面談での「聞く」姿勢
退職理由を聞き出したり、これまでの感謝を伝えたりする場となる退職面談は、退職体験向上に大きく関わります。
退職面談の担当者には、いろいろ伝えたい気持ちを抑えて「相手の話を真摯に聞き、その上で退職の意思を尊重する」姿勢が求められます。
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3、引き継ぎ&有給消化を踏まえたスケジュール設定
引き継ぎをしっかり行い、有給休暇をきちんと消化できるような退職までのスケジュールを組むことで、社員が気持ちよく退職できる状態をつくりましょう。
退職者の上司や人事担当者は、「放っておいても最終出社日までに引き継ぎが完了できるだろう」と考えてはいけません。
退職が決まったら、速やかに引き継ぎ先となる担当者を決め、その担当者の業務を調整し、有給消化を踏まえた引き継ぎスケジュールを一緒に検討するなど、積極的に引き継ぎをサポートしましょう。
4、最終出社日の感謝と敬意の表明
最終出社日は、多くの退職者にとって達成感や寂しさの入り混じる特別な日です。退職者と関わりがあった人は忘れずに、これまでの感謝を伝える時間をつくりましょう。
また、最終出社日やその前後で送迎会を開いたり、最終出社日にあいさつの時間を設けたりすることも大切です。重要なのは、退職者がどのような貢献をしてくれたのかを振り返り、感謝を伝えること。もちろんオンラインでも問題ありません。
そして見逃してしまいがちなのが、退社時の見送りです。「最後にエレベーターまで見送ってくれなかった」といったことで印象が悪くなるケースもあります。些細なことに思えるかもしれませんが、退職者にとっては感慨深い特別な日。最後までしっかり見送り、感謝と敬意を示しましょう。
5、そもそもの「退職者」に対する会社の意識
これまで述べてきたポイントを全て実施するには、早めに退職を切り出してもらう必要があります。そのためには、社風として普段から退職者をどう捉えているかが重要です。
例えば退職者に対する陰口を聞いた人は、「自分が辞めるときはギリギリまで退職の報告は待とう」と考えてしまうもの。普段から「退職者は裏切り者ではない」「退職の意思は尊重されるべき」という意識を一人一人が持ち、言葉にしていきましょう。
また、そうすることで退職の意思が完全に固まっていない段階での相談がしやすくなるという効果も期待できます。
“オフ”ボーディングを見直そう
社員の退職に関する対応は、これまで多くの企業において、個々人の価値観に基づいて属人的に行われてきました。
それゆえ、人によっては感情的になって怒鳴りつけてしまうなど、「退職者=裏切り者」という価値観に基づいた対応を行ってしまうことも。その結果、社員の退職体験が悪くなり、退職後の関係が切れてしまうことにつながっていました。
しかし、転職が当たり前になった今、退職者と良好な関係を維持、構築しないことで生じるデメリットは無視できるものではなくなりました。だからこそ、企業として退職体験を設計することが重要なのです。
退職の意思表明から退職が完了するまでの一連の施策を「オフボーディング」といいます。入社時から定着・戦略化までの一連の施策である「”オン”ボーディング」と同様、「”オフ”ボーディング」についても人事プロセスとして整備し、社員に知識を提供し、マネジメントすることが重要です。
ご紹介した5つのポイントを参考に、ぜひオフボーディングを見直してみてください。