進学塾『臨海セミナー』を運営する株式会社臨海がアルムナイネットワーク『Rinkaiアルムナイ』を発足しました。
同社でアルムナイの取り組みを検討し始めたのは、なんと約4年前。2020年9月に『Rinkaiアルムナイ』をスタートするまでにおよそ3年半もの時間がかかっています。
なぜ途中で頓挫することなく、動き続けられたのか。『Rinkaiアルムナイ』を立ち上げた人事部の小島さん、小野さんに伺いました。
※臨海で働いていた元社員限定のネットワークです
苦労したのは「退職者」へのイメージの切り替え
——2020年9月に『Rinkaiアルムナイ』が立ち上がるまでの経緯について伺いたいです。まず、アルムナイに興味を持ち始めたのはいつですか?
小島:約4年前ですね。役員の人事部長から「アルムナイって知ってる?」と声をかけられ、検索して調べるところからスタートしました。
以前から、当社での経験を経て、学校教育や別の業界へ転職する方は多くいます。そうやって当社を辞めた方から、「また臨海で生徒と触れ合って仕事をしたい」と言っていただくことがあったのです。
同じように思っているアルムナイの方は、潜在的にもっといるのではないか。当社から働きかけることで、再度一緒に働いてくれる人を増やせるのではないか。そう考えたことが興味を持った一つのきっかけになりました。
——これまでに辞めた人との交流はあったのでしょうか?
小島:個人的なつながりはありますが、会社としての交流は全くありませんでした。会社として、アルムナイの方との公式なつながりを是としている印象はなかったと思います。
——『Rinkaiアルムナイ』を立ち上げるまでの過程で、特に苦労した点について教えてください。
小野:理解を得るのが難しかったですね。「アルムナイネットワーク=単なる退職者のコミュニティ」といった、マイナスな先入観やバイアスがあったように思います。
「今は転職ありきの時代であって、退職は悪いことではない」「辞めたけど仲間なんだ」とイメージを切り替えてもらわなければ、アルムナイとつながるメリットも伝わりません。
また、2020年9月からアルムナイに特化した『Official-Alumni.com』というシステムを導入しましたが、すぐにわかりやすい成果が見込めるものではありません。先行投資の割合が大きかったので、そういう意味でも社内の理解を得るのは大変でしたね。
※臨海で働いていた元社員限定のネットワークです
小島:システムを導入する前はメールでアルムナイの皆さんとコミュニケーションを取ろうとしましたよね。その次はInstagramを試して、1カ月ぐらいで頓挫しましたが。
——なぜ続かなかったのでしょう?
小野:メールは一方通行ですし、Instagramはプライベート感が強いので、どこまでオフィシャルな企業アカウントが入っていいものか、ラインを引くのが難しかったですね。
小島:自社でどうにかやることも考えましたが、退職者からすると臨海の箱庭に入れられるような感覚になるのではという懸念もあって。最終的に外部サービスを導入したのは、第三者が介在している印象を持ってもらいつつ、よりオフィシャル感を出す狙いもありました。
——同じように、アルムナイの取り組みをしたくても、社内の理解が得られないと悩んでいる人は多いと思います。何かアドバイスはありますか?
小島:実益と長期的なブランディングの観点の双方を伝えることが重要だと思います。
実益につながるかはどうしても見られますが、例えば再雇用の話はあくまでオプション。それ以上に「中長期的な企業のビジョンをイメージして動いている」というアピールにつながるのが大きいと思います。
あとはトライ&エラーですから、やってみてダメだったら撤回する。その覚悟が必要だと思います。
採用時にアルムナイの取り組みを紹介「反応は100%良い」
——スタートしてからの反響はいかがでしょう?
小野:アルムナイの方からは好意的な反応が多かったですね。これまで臨海が退職者と関わる印象はなかったと思いますが、「アルムナイネットワークをつくる」という行動で会社の変化を示せたのではと考えています。
——アルムナイの方にはどのように広報したんですか?
小野:基本的には口コミです。個人的なつながりがあるアルムナイの方に協力をお願いして、広めていきました。
少し意外だったのは、ご案内したアルムナイの一人が、自主的に他のアルムナイの方にも声をかけてくれたこと。そういう動きが出てくるのはもっと先だと思っていたんです。早い段階で協力いただけたことで、新しいつながり方の可能性を感じることができました。
小野:私は人事担当者として退職対応もしていますが、最近は「別のスタートを切るけど、臨海に感謝はしている」という言葉をもらえることが増えたように感じています。ある種の恩返しというか、コミュニティーを広げるところに力を貸そうと思ってくれているのかもしれませんね。
——社外の反響はどうでしょう?
小島:私は採用担当として新卒、中途の双方を見ていますが、アルムナイの取り組みを紹介する中で「最初の入り口として当社で力をつけて、出口は別でもいい」という話をしています。反応は100%良いですね。
特に学生の場合、就職活動を人生の一大決心と考える人も多いので、「定年まで骨を埋める覚悟で来なくてもいいんだよ」というメッセージになっているのを感じます。将来的に起業を考えている学生に対して「当社で教室長を経験したら?」と以前から話していましたが、そこへの説得力も増しました。
採用ページには良いことしか書いてありませんから、社員がどう考えているのか、リアルを伝えることが重要だと改めて実感しましたね。
特に今の学生は最初の会社に一生勤めようとは思っていないですから、「退職者とのつながりまで考えている会社なのか」と思ってもらえること自体が響いている気がします。
—— 一方で、アルムナイの取り組みをすることで退職を促進するのではと懸念する企業も多いです。その点はどう思いますか?
小島:もともと私も同じ懸念を持っていましたけど、今は退職促進にはならないと思っています。
取り組みをしてもしなくても、辞める人は辞めるし、辞めない人は辞めない。「アルムナイネットワークがあるから辞めよう」とはなりませんから。その前提で、辞める人とつながれる方がプラスは多いですよね。
アルムナイも福利厚生の一部が適用されるように
——『Rinkaiアルムナイ』が立ち上がって約半年。どのような取り組みをしてきましたか?
小野:一つはコンテンツ配信ですね。われわれの自己紹介や新校舎のご案内などの他、アルムナイの方へのインタビュー記事も公開しました。どのような方が『Rinkaiアルムナイ』に登録しているのか、周知を目的に始めたもので、反響も良いですね。
小島:アルムナイインタビューは月1回程度更新しています。どうしても社内報のような内容が多くなってしまうので、アルムナイ同士をつなぐきっかけをつくりたいという想いがありました。当社のアルムナイの皆さんは比較的自己顕示欲が高い人が多いですし(笑)
小野:“塾の先生あるある”かもしれないですね(笑)
小野:あとは当社の福利厚生の一部を退職後も利用できるようになりました。実際に当社が展開するセミオーダースーツショップ で割引が受けられるようになり、他に英会話教室など、社会人でも通える教室での割引適用も調整中です。
小島:次のステップとしては、アルムナイ同士の交流の活性化に取り組んでいきたいですね。現状は我々からの発信がほとんどなので、オンライン交流会など、企画していきたいと思います。
アルムナイの取り組みを通じて「辞める人への感謝」を伝えられる会社へ
——改めて、会社としてアルムナイとつながる意義をどのように感じていますか?
小野:先ほど申し上げた、最初にアルムナイを教えてくれた人事部長が「辞めていく人たちに感謝や敬意をきちんと表したい」と言っていました。企業にとってアルムナイネットワークは「辞めた後も大事に思っている」ことを表す、感謝の思いを伝えられるツールなんだと思います。
小島:アルムナイの取り組みを通じて、当社もそういう会社に変わっていければと思います。社内でも「退職」の見え方は変わるでしょうし、退職に関するマネジメントも変わるはず。
小島:私は入り口の採用を見ているからこそ、出口である退職に対して思うところがあって。欠員補充で採用をすることも多く、採用をしなくても回る会社にしたい想いがずっとありました。
でも、直接的に「退職を止める」ことにフォーカスするには、企業全体の仕組みや、考え方自体を変革する必要があります。自分の仕事の領域でできることを考えた時に、アルムナイだったら長年思い続けたこの課題へ、一石投じることができると思ったんです。
——『Rinkaiアルムナイ』が実現するまでの約3年半、途中で諦めなかったのにはそんな想いもあったのですね。最後に、これからアルムナイの皆さんと、どのような関係性を築きたいですか?
小島: 再入社してほしい、顧客になってほしいということではなく、ゆるくつながり続けたいですね。卒業しても同窓生というのは変わりませんから。辞めることで関係性がイチからゼロになるのではなく、少しでも何か残ってくれたらうれしいです。
その上で、先々ではビジネスで協業したいです。例えば、当社はビルのテナント収入を得ていますが、アルムナイからテナントの候補を募ったり、新校舎を出す際に不動産系企業にいるアルムナイとやり取りをしたり、そういう広がりがあるといいですよね。
小野:心の拠り所と言ったら大げさかもしれないですけど、私は『Rinkaiアルムナイ』が居場所の一つになれたらいいなと思っています。
私が臨海に入ったのは、子どもたちに学校や家庭以外の居場所をつくりたかったから。アルムナイの皆さんにとっても同じように、勤務先や家庭以外の新しい居場所のひとつとして『Rinkaiアルムナイ』が存在できるといいですね。
小島:アルムナイのお子さんが当社の塾に入ることも、これから増えていくと思います。そうなれたら最高の循環ですね。それは先の話ですけど、辞めた人と残っている人の双方にとってWin-Winの関係を目指したいですね。
臨海アルムナイへのメッセージ
小野:私は中学受験の教室にいたのですが、小学生から学ぶことはたくさんありました。まさに「共育(共に育む)」ですよね。
同じように、アルムナイの皆さんとも「共育」の関係性を築いていければと思っています。
私は新卒で臨海に入って、臨海のことしか知りません。外の世界を知っているアルムナイの皆さんから学ぶことは多いと思いますし、逆に臨海が与えられることもあるはず。そうやって「共育」の範囲を広げていけたらいいなと思っています。
小島:まだアルムナイネットワーク発足1年目ですから、すでに登録している方も、これから登録する方も、「アルムナイ1期生」です。これから10年、20年たった時に「小さい組織からみんなでつくってきたね」と、初期メンバーと一緒に振り返れるようなスタートにしていきたいと思っています。
もちろん「とりあえず登録しよう」「ゆるくつながれればいい」という方も、1期生であることに変わりはありません。そこに集った意味があると思っているので、ぜひ登録いただけるとうれしいです。
大池:臨海は会社として大きくなりましたが、まだまだ新しいことに果敢に挑戦しています。その取り組みの一つがこの『Rinkaiアルムナイ』だと私は思っています。
臨海を退職された方たちとゆるくつながり続けることで、これまではなかった「先生」としての新しい働き方や在り方、身につけたスキルや経験を新しい世界で活用する方法など、学習塾という業界に新しい風を入れていきたいです。
当面の私の夢としては、何としても「パパ会」を開催し、パパ同士で意見交換やお悩み相談をしてみることですね(笑)。ぜひご参加ください!
平瀬:『Rinkaiアルムナイ』は始まったばかりですので、まだ我々も正直手探りな部分はありますが、個人的にはまず楽しくやりたいなと思っています。それこそ趣味などの軽い情報交換から、時には真剣な相談事まで。皆さんもまずは気楽に登録して、在籍中に一緒に働いていた方の近況をチラ見する程度の気持ちで使っていただければ、それだけでも嬉しいです(笑)
こちらからも新しいコンテンツを発信していきますので、今後にご期待ください。よろしくお願いします!
※臨海で働いていた元社員限定のネットワークです