パチンコ業界のリーディングカンパニー・マルハンがアルムナイネットワークのトライアル運用を開始した背景

株式会社マルハン東日本カンパニー 
人事部長   武田さん
HRBPチーム  小助川さん

全国でパチンコホールを運営する株式会社マルハンが、アルムナイネットワークのトライアル運用をはじめました。パチンコ業界のリーディングカンパニーである同社が、卒業生との縁を持ち続けようとする背景に迫ります。

アルムナイの存在が「組織の活性化」につながる

——アルムナイネットワークのトライアル運用を開始した背景について教えてください。

武田:大きく二つの目的があります。まず一つ目は、「従業員が外の情報と触れる機会をつくる」ことです。

小助川:人事担当者として各店舗を回ったり、店長と面談を行ったりする中で、「従業員が将来のキャリアをイメージできていない」ことを感じていました。卒業後の話をすることも、外の世界に目を向けることもなく、先々のキャリアを描きにくい状況があったのです。

マルハンはパチンコ業界で、どちらかというと入りづらい業界です。だからこそ採用手法の引き出しを増やしてきましたが、これからは入口だけではなく、出口戦略も必要なのではないか。

そう考えていたタイミングで住友商事様のIR資料を拝見する機会があり、そこでアルムナイネットワークについて書かれているのを見て「これだ!」と思いました。

武田からも「今後は新陳代謝の意味合いでも出口戦略が必要だ」という話があり、アルムナイネットワークのトライアル運用に至った次第です。

武田:雇用の流動性が高まる時代になりました。優秀な人財が一定数卒業するということは自然なことです。卒業するから、社内から次の優秀な人が新たな役割を担う。管理職が外に出れば若い人財にそのポストが与えられるわけで、良い意味での新陳代謝だと考えています。

ただ、優秀な人財が卒業後に縁が途切れてしまうことや、辞めたことで言われたことだけをやる「考えない人たち」だけが残っていくのは、組織にとって最も悪いパターンです。その状況を防ぐためにも、また、そうなってしまった組織に刺激を与える意味でも、外の世界にいるアルムナイとつながることは重要だと思っています。外部からの情報は、組織を活性化させる一つの材料になりますから。

「外から見たマルハンやパチンコ業界」について知りたい

武田:また、パチンコ事業を発展させ、新たな事業を展開することを考えても、異なる価値観を持つ業界外のプロフェッショナルとの接点は不可欠です。

現状、パチンコ業界は同質性が高く、業界内のコミュニケーションのみで成り立っている状態です。突然違う世界との縁をつなぐのではなく、まずはマルハンのカルチャーを理解していて、かつ外の世界を知る卒業生の皆さんとの縁をつなげることが先決だと考えています。

小助川:当社には約1万1000人の従業員がいて、そのうち正社員は約4500人です。退職率が10%弱ですから、年間およそ450人、10年で4500人が退職しています。

これまで当社は共感採用を掲げ、ほとんどの従業員が「パチンコ業界を変える」というマルハンの想いに共感して入社しています。たとえ当社を辞めたとしても、当社のビジネスに共感して入社した事実は変わりません。

そう考えれば、辞めた人たちも貴重な人財です。一緒にビジネスができれば、イノベーションを起こせるかもしれないと思いました。

武田:パチンコ遊戯そのものがお客さまや社会に提供している価値そのものは、20年前から大きく変わっていません。

マルハンは1993年に新卒採用を始めて以来、「業界を変える」と言い続けています。お客さまの監視役だったパチンコ店員の役割を変え、サービス業として社会に認められるよう尽力し、実際にサービスのレベルは向上しました。

でも、業界を変えるにはまだ道半ばの状態です。お客さまに安心してご来店いただける関係づくりは磨き上げているものの、遊戯台はほとんど変わっていませんし、他の店と置いているものも基本的には同じです。

一方、お客さまや世の中のニーズは変わっています。いわばパチンコ業界は社会の変化に取り残されている業界ですから、外部から見たマルハンやパチンコ業界について、マルハンを理解している卒業生の忌憚ない意見を聞かせてほしいと思っています。

会社としてマルハン卒業生との縁をつなぐ

(過去マルハンに在籍していた方専用のネットワークです)

——2つ目のアルムナイネットワークの目的についてはいかがでしょうか?

武田:マルハン卒業生との縁をつなぐことです。

当社は業界のリーディングカンパニーであり、事業規模そのものは大きいものの、パチンコ業界自体はシュリンクしています。そのような中、当社では経営の意思決定スピードを上げることを目的に、2021年4月からカンパニー制を導入しました。

その際、大きな環境変化の中で、退職する従業員も残念ながら生じてしまっているのが現状です。

そういったメンバーと、卒業後もつながれる組織を作りたいと思っています。これまでは在職時に交流があった人と退職後もそのままつながっているかたちでしたが、今後は会社として卒業生との縁を持ち続けたいと考えています。

——今回はトライアルとのことですが、その理由は何ですか?

武田:アルムナイネットワークによって具体的にどのような価値が生まれるのか、まずは探りたいと思ったからです。

辞めた人との縁をつなぐという考え方はこれまでの当社になかったものですが、個人的には、卒業生との良い縁をつないでいかなければ、当社の成長も、業界の発展も、先はないと思っています。

当社は業界のリーディングカンパニーと言われますが、この10年で本当に業界を変えるような大きなアクションを取ってきたのかというと、決してそうではなく、足踏みしているのが現状です。それに対して、アルムナイネットワークは一つのアクションにもなり得ると考えています。

アルムナイネットワークをやる理由や投資対効果など、経営層にきちんと説明ができるよう、まずはトライアルで可能性を見出したいと考えています。

アルムナイネットワークは「外から見たマルハン」への意見が言える場所

——これからアルムナイの皆さんとどのような関係性を築きたいですか?

武田:まずは定期的に情報交換をしながら、「外から見たマルハン」をフィードバックしてもらえる関係性を築きたいと思います。

最終的には、社内でのキャリア形成に行き詰まっている従業員がアルムナイからアドバイスをもらったり、一度外の世界に出てからも気兼ねなくマルハンに戻ってこられたりと、そんなことが当たり前にできる世界にできたら理想ですね。

——それによって退職者が増えるリスクもあるのではないでしょうか。

武田:そのリスクは顕在化してないだけで、すでに自社内にあるのではと思います。そもそも「優秀な人が辞めてしまう会社」から脱却する必要があるのではないでしょうか。

その上で、それでも辞めてしまう人は一定数生じるでしょう。そういった人たちとの縁を組織が断ち切ってしまえば、その後の関係性はなくなってしまいます。

でも、会社がつながりを持とうとすれば、例えば業務委託契約で当社のサポートをしてもらえる可能性も生じるでしょう。どちらが会社にとってプラスかは明白ですよね。

——これからアルムナイネットワークでどのようなことをしたいですか?

武田:アルムナイによる社内講演を定期的にやりたいと思っています。社内のオンラインサロンで毎週有志のスタッフが自分の学びを発表する場があるので、まずはそこでアルムナイの方々に話をしてもらう機会を作りたいですね。

当社の卒業生の現在は多種多様ですから、マルハンで得た能力が外でどう生きているのか、あるいは当社では磨きにくい能力はあるのかなど、「外から見たマルハン」を率直に教えてもらえたらと思います。それはカルチャーへの理解と信頼関係があるアルムナイだからこそお願いできることです。

それによって当社で得られる能力やスキルがより明確に可視化できれば、今後の新規採用の精度を上げることにもつながっていくと思います。

小助川:他に、共通のつながりがあるメンバーを集めたチャットグループを作り、アルムナイ同士の交流を促すこともしたいと思っています。「〇〇店のグランドオープンメンバー」「〇〇年入社の同期会」など、「共通点のあるメンバーで集まれるのが魅力」と感じてもらえたらうれしいですね。

マルハンのプラットフォームとして、退職した後も「業界を変える」に共感した卒業生と終身にわたる関係性を築ければと思います。

——トライアル運用ではありますが、会社としてアルムナイとの関係構築に取り組む意義をどのようにお考えですか?


武田:まだはっきりとはわかりませんが、「外から見たマルハン」に対する意見を言える場であることが、アルムナイネットワークの意義なのかなと思っています。

これからマルハンは、お客さまや地域、社会全体、パートナー企業の皆さまなど、当社の外側にあるニーズを正しく理解し、変化をしていかなければいけません。「業績が上がる=世の中から求められている」と考えれば、今のパチンコ業界は社会からの存在意義を見直していく時期に入っていると考えています。

そのような現状に対し、共にマルハンで厳しい状況の中で仕事をし、今も外の世界から当社の成長を願ってくれている人たちが思うことはたくさんあると思います。アルムナイは率直に、かつ自社のことを思って意見を言ってくれる存在だと思っていますので、耳の痛い意見も言ってもらえる会社でありたいですね。

取材・文/天野夏海