社員(パート/アルバイト含む)が一度退職した企業に再び就職すること、つまり、企業側からすれば「再雇用」「リハイヤー」ですが、一般的には「出戻り転職/出戻り採用」と呼ばれています。
出戻り社員はスキルやマインドセットが把握できていること、カルチャーに慣れていること、教育コストが少なくて済むことなどから、人材確保面での企業のメリットは大きいのですが、これまで企業の出戻り採用は限定的なものでした。
では、出戻り転職を増やすために、企業は何をすればいいのでしょう?ここでは将来的に「出戻り採用」を新卒採用や中途採用に連なるチャネルにするためのアプローチを紹介します。
出戻り採用を増やすポイントは「退職者」との関係性
出戻り採用を増やす上で鍵を握るのが、アルムナイとの関係性です。アルムナイとは、人事領域で「退職者」を意味する言葉。雇用の流動化が進む中、アルムナイとのつながりを増強して、自社の人事戦略に生かそうとする企業が増えています。
アルムナイに関する取り組みは企業によってさまざま。これまでも個別に連絡を取り合う、同期会で集まる、SNSでゆるくつながるなどの個人間のつながりや、定年退職者のOB・OG会や社友会はありましたが、国内外の先進企業では企業として組織的に現役世代の退職者とつながる動きが推進され始めています。
次項のデータが示すように、「出戻り採用」において特に重要なポイントは、アルムナイと定期的に、積極的なコミュニケーションを取れる体制を築くことです。そのためには、個人間ではなく組織的な取り組みが有効だからこその潮流なのでしょう。
出戻り転職のきっかけ1位・2位は「元同僚からアプローチがあったから」
エン・ジャパン社が運営する『ミドルの転職』で、35歳以上のユーザーを対象に行った「出戻り入社」に関するアンケート調査では、以下のような結果が出ました。
アンケート回答者のうち10%が出戻り入社を経験。再雇用のきっかけは「前職の社長・役員・上司からアプローチがあったから」で67%。次点は「前職場の方とのプライベートなつながりで」が33%で、大きな割合を人間関係が占めています。(アンケートは複数回答可。回答者は557名)
『ミドルの転職』調査結果より
つまり出戻り転職の多くは、元同僚や経営者などとの個人的な関係性が残っていることで生じる連絡、相談などのコミュニケーションが起点となって起きているのです。
ちなみに、「勤めていた会社が倒産して」(4%)など、転職後の企業が経営不振に陥った際のリスクヘッジとしても活用されているようです。
優秀な従業員が次のステップとして挑戦的なキャリアを選んだ場合でも、円満退社であれば「出戻り」の可能性は多分にあります。転職のきっかけはタイミングによるところも大きいため、退職したアルムナイと定期的な連絡を行い、退職後のキャリアやライフプランを定点観測できる仕組みを作ることが、出戻り採用の促進に有効と考えられます。
各社の出戻り入社を歓迎する制度
並行して、出戻り入社を歓迎する制度を作るアプローチもあります。企業によっては直接の連絡や勧誘が困難な事情もあるため、こちらアプローチの方がやりやすいかもしれません。
実際、多くの企業でさまざまな「出戻り制度」が制定されています。
従業員の出戻り面接を可能にするというシンプルな制度から、社員やアルバイトまで広く出戻りできる制度、妊娠・出産など家庭の事情で退職を余儀なくされた人を対象にした退職者の再雇用制度など、各社の課題や退職者層によって最適化された制度を用意しています。(以下、アルムナビ編集部調べ/ 企業名五十音順)
GMOアドパートナーズ株式会社「職場復帰支援制度(お帰りプログラム)」
おかえりプログラムは、当社を一度退職された方々が当社で再び活躍できる道をつくる制度です。さまざまなライフプランやキャリアプランを理由に当社を一度離れた方も、この制度を通じて、その間に培った経験や知識などを活かしながら当社で活躍していただきたいと考えています。
https://www.gmo-ap.jp/outline/csr/
株式会社JALナビア「退職者再雇用制度」
結婚や出産、育児、介護など家庭の事情や転職、留学などキャリアアップのため退職された方々が、再び当社で、これまで培ってきた経験やスキルを活かし、活躍していただくための制度です。
http://www.jalnavia.co.jp/recruit/return/
募集資格
・退職後の期間が1年以上7年未満であること
・在籍時の当社での勤続年数が1年以上であること
KDDI株式会社「退職者の再雇用制度」
KDDIでは、多様化する社員の仕事と家庭の両立支援を強化するために、育児などの一定の理由で退職された社員を、再び正社員として受け入れる「退職者の再雇用制度」を2008年4月に導入しました。
退職した社員がKDDIで培った知識や経験・スキルを即戦力として生かすために、選考を実施のうえ、再度KDDIでご活躍していただくための制度です。
主な応募資格
http://www.kddi.com/corporate/recruit/rehirement/
(1)退職が以下の理由によるものであること
結婚、出産、育児、介護、看護、配偶者の転勤
(2)KDDI株式会社で正社員としての勤続年数が1年以上あること
(3)退職時の資格がP2またはR2以上であること
(その他)退職後の離職期間が6年以内であること
株式会社KDDIエボルバ「エボルバ・リターン制度」
KDDIエボルバを退職された方々に、再び当社で活躍していただくための制度です。
キャリアアップやご家庭の事情などを理由に当社を退職された方で、再び当社にて力を発揮したいという方は、ぜひエボルバ・リターン制度よりご応募ください。応募資格
https://www.k-evolva.com/recruit/return/
・自己都合退職であること
・離職期間が退職日より6年以内であること
クルーズ株式会社「CROOZ号乗船往復チケット」
CROOZで長く活躍してくれた仲間、大きな貢献をしてくれた仲間がやむを得ず当社を去る際、それまでの感謝を称え、新たな旅路の心の支えになるよう、期限内であればいつでもCROOZに戻ることができる制度です。
http://crooz.co.jp/recruit/institution/
株式会社クレディセゾン「リワーク・エントリー制度」
結婚や出産、育児、介護や能力開発、留学、転職といった理由で、やむを得ず退職した社員が、一定の条件のもと、退職時と同じ労働条件で再就職できる制度です。在職中に蓄積した知識や経験を有効活用するという点で、本人と企業双方にメリットのある仕組みとなっています。
http://www.creditsaison.jp/saiyo/ss/career/index.html
株式会社サイバーエージェント「ウェルカムバックレター制度」
退職者に対して「ぜひ戻ってきてください」という会社の意思を伝えるための制度。「向こう2年以内は、元の待遇以上で出戻りを歓迎します」という旨を書いた手紙を対象者に郵送します。いわば、待遇を2年間保証する「パス」のようなもの。既に技術者とデザイナー、2人に出しました。いずれも、会社に非常に大きな貢献をしてくれ、きれいな辞め方をしてくれた人です。
http://college.nikkei.co.jp/article/42621810.html
株式会社すかいらーく「おかえり採用(おかえりすかいらーく、おかえりクルー)」
他の外食企業に転職した元社員、学生自体にバイトしていて他業界に就職した人、子育ても一段落して復帰したい元クルーなど、すかいらーくグループ就業経験者を積極的に再雇用しています。
http://recruit.skylark.co.jp/career/comeback/
セントラルスポーツ株式会社「再雇用制度」
再雇用制度は、当社を一度退職された方々が当社で再び活躍できる道をつくる制度です。
http://company.central.co.jp/recruit/rcareer/
帝人株式会社 / 帝人ファーマ株式会社「退職者再雇用制度」
帝人(株)と帝人ファーマ(株)では、結婚・出産・育児・介護・配偶者の転勤などを事由とする退職者が、その後10年以内に退職事由が解消して再入社を希望し、採用ニーズと合致した場合に、正社員として再雇用する制度「Hello-Again」を設けています。
https://www.teijin.co.jp/csr/social/human_resource_02.html
東京海上日動あんしん生命保険株式会社「退職者再雇用制度」
応募資格
http://www.tmn-anshin.co.jp/recruit/saikoyou/
・勤続3年以上で退職した方。
・退職後の期間が10年以内の方。
トヨタ自動車株式会社「プロキャリア・カムバック制度」
配偶者の転勤や介護により退職する事技職準指導職以上の社員のうち、会社が認めた者に対して、再雇用申請の機会を提供し、職場へ復帰できる制度です。
応募資格
https://toyota-saiyo.com/environment/diversity/index2.html
対象者 指導職以上(男女問わず、入社後3年を経過、かつ指導職の経験1年以上)
退職時由 配偶者の転勤、あるいは介護(介護休職2年を満了した場合)
適用期間 制限なし、本人の希望する時期に再雇用申請可能
復帰先 原則、退職前の部署
日本紙パルプ商事株式会社「再雇用制度」
結婚、出産、育児、介護、配偶者の転勤などが理由で退職された方の再雇用制度(キャリアスタッフ雇用制度)を導入いたしました。
応募資格
https://www.kamipa.co.jp/careers/re-employment/
・自己都合により退職した元従業員であること
・当社の正社員としての勤続年数が、5年以上あること
・退職時の役割グレードがGBであること
・退職後10年以内であること
・本社、支社に通勤できる地域に居住していること
富士通株式会社「カムバック制度」
育児・家族介護・配偶者の転勤などのやむを得ない事情により退職した方や、学業・転職等によるキャリアアップのために退職した社員の方に、再度富士通で活躍していただける場を提供する制度です。社員の多様な働き方の実現および多様な知識・経験によるイノベーション創出に向けて、再度富士通で働く意欲のある方の応募をお待ちしております。
応募資格
http://www.fujitsu.com/jp/about/corporate/employment/comeback/
(1)当社での正規従業員としての勤続が1年以上あること
(2)退職時の理由が以下であること
結婚、出産、育児、家族介護、配偶者の転勤、学業、転職 等
(3)当社を退職後5年以内であること
株式会社ワークスアプリケーションズ「カムバック・パス制度」
退職理由や退職後の活動を一切問わず、ワークスにいつでも再入社できる復職権利です。多くの企業の場合「辞めた社員は価値観が違う。一緒にやっていけない」というように袂を分かつケースが多々あります。ワークスでは、価値観は強制するのではなく共有するものであるとの考えのもと、優秀な人材の意を汲み、働き方の自由を認めています。
http://www.worksap.co.jp/files/4814/4712/7764/051201_newsrelease.pdf
出戻り制度はCSR、広報、ブランド戦略としても活用でき、その一環としてアルムナイに対し、PUSH型で出戻り認知ができる意味でも有効です。アルムナイと定期的なコミュニケーションを取る中で、制度の説明やプレスリリースなどの話題を通じ、出戻りの提案を切り出すきっかけを作ることもできます。
出戻り社員の受け入れも選択肢の一つ
アルムナイとのつながりを持つための動きを積極的に行っている企業では、出戻り採用のみならず、アルムナイと事業連携をしたり、営業リソースや人材リソースの確保につながったり、アルムナイとの交流を採用ブランディングに生かしたりと、ネットワーク型の人事戦略に移行しつつあります。
そして、その人事戦略がさらに人材を引きつける好循環を築く可能性も。実際、筆者の知人のエンジニアで、スタートアップに転職した方が2人います。2人とも20代後半、国内大手のネット企業、外資系IT企業出身、2年目のエンジニアです。
「大手からスタートアップへの転職というリスクをどうして張れるのか?」と、疑問をぶつけたところ、2人とも「元の会社はいい会社で、そこに戻っていける環境があるからこそ挑戦できる。そして、30代前半までには戻るつもり」と答えていました。
働き方の変化にともない、これからのキャリア形成において「出戻り」があたりまえの選択肢の一つになっていく可能性が高いです。
「出戻り」は、アルムナイにとってのセーフティネットであると同時に、企業にとっても優秀な人材確保につながります。企業とアルムナイの双方にとって、Win-Winとなるアプローチが求められていくはずです。
寄稿:大沢 俊介さん
神奈川県秦野市出身。フリーランスのライター。渋谷にあるHR系スタートアップを経て、現在はフリーランスとして「出戻り社員を増やすためのアルムナイ・リレーションシップワークスタイル」「HR」を中心テーマに据えて執筆活動中。現在はライターとして活動しつつ、採用広報支援や採用サイト制作など、HRを軸とした制作・PR代行事業を展開している。http://shittaka.tokyo/