アルムナイネットワークは誰が運営すべき? 企業、企業の有志、アルムナイが運営するそれぞれのメリット・デメリットとは

アルムナイネットワークの運営元は、「企業」「企業の有志」「アルムナイ」の大きく3つに分かれます。

それぞれの特徴を踏まえた上で、そのメリットを最大化し、デメリットを軽減するにはどうすればいいのでしょう? 実際の事例とともに、紹介します。

企業運営の特徴

企業がアルムナイネットワークを運営する場合、経営戦略や人事・採用戦略に基づく施策としてスタートするのが一般的です。

そのため「なぜやるのか」という目的が明確であり、方向性や目指す成果・目標などの目線合わせがしやすく、予算もつくため、お金をかけてしっかり運営することが可能です。

また、「企業としてアルムナイとつながる」意思を示すことにもなり、アルムナイとのビジネス連携や協業、再入社などの門戸を開きやすいのが最大のメリットです。

一方、企業側のメリットのみを考えて進めてしまうと「どうせ採用目的だろう」「退職者を利用したいのでは」とアルムナイから怪訝に思われてしまうことも。

本来はアルムナイとの関係性をベースに、企業とアルムナイのそれぞれがやりたいことを実現できる環境をつくるのが重要ですが、企業側の利益や成果を意識しすぎるあまり、本質的な取り組みから離れてしまう懸念があります。

重要なのは、アルムナイネットワークが企業の一方通行にならないよう、アルムナイの理解を深めること。アルムナイのニーズは多様であり、企業だけで考えていては分かりません。

そこで、企業側の担当者とアルムナイでワークショップやインタビューを行うなど、お互いの思いをすり合わせる機会を設けましょう。

企業側がアルムナイの理解を深めると同時に、アルムナイに対して「なぜアルムナイネットワークを立ち上げたのか」を伝える機会にもなります。アルムナイに対しても、彼ら・彼女らが企業に対して感じている気まずさや気負いを払拭し、ポジティブな感情に昇華する効果があります。

そうやってお互いの目線を合わせた上で、アルムナイを仲間として巻き込み、企業とアルムナイの双方にとって良いアルムナイネットワークの在り方を一緒に模索していくのが理想です。

その際、アルムナイの中でも熱量の高い人に、企業とアルムナイの橋渡しとなるアルムナイサポーターをお願いするのもおすすめです。それによってアルムナイ主体の動きをアルムナイネットワークに取り入れやすくなります。

企業の有志運営の特徴

企業の有志がアルムナイネットワークを立ち上げるケースも増えています。

主体となるメンバーは人事や新規事業推進、若手・中堅の社内有志団体などさまざまですが、いずれにせよ動機となるのは組織文化の改革。特に同期をはじめ、身近な人の退職への課題意識がベースにあることが少なくありません。

会社を変えるための通常業務以外の活動であるため、企業運営の懸念点である「再雇用などの成果を追うあまり本質的な取り組みから離れてしまう」ことが起きにくいのは一つのメリットです。

また、企業の有志運営の多くは現場メンバーで構成されている分、ビジネス連携など事業に根差した具体的な話がしやすく、アルムナイのメリットに直結するコンテンツを提供しやすい面でもプラスです。

ただ、非公式のネットワークゆえに、有志メンバーとの関係性によっては「参加しにくい」と感じるアルムナイが出てしまう可能性があります。一部だけで盛り上がることになりやすい点には注意が必要です。

もう一つ、目的や目標がないままスタートすることが多く、何を目指すかが曖昧になりやすい面もあります。現状の良し悪しを測りにくく、アクションに対する効果測定や振り返りがないまま、何となくの運営におちいりやすいことも。そのまま自然消滅してしまうリスクもあります。


ポイントは、アルムナイネットワークを運営する期間と、目指したい姿のイメージを持つこと。個人間の付き合いではなく、企業の名の下で有志活動として行うからこそ、最低限のラインを決めることが大切です。

具体的な数字目標ではなく、「会社としてアルムナイネットワークを通じてお互いが何を得たいのか」を明確にし、「アルムナイからどんな声や反響が生まれる状態を目指すのか」を決めることで、やるべきことがはっきりしていくはずです。

そうしてある程度アルムナイネットワークが軌道に乗ったら、企業の正式な施策にすることも視野に入れましょう。「会社としてアルムナイの取り組みをする意味」を改めて考え、アルムナイとのゆるいつながりを大前提としながら、事業に資するネットワークをどう築くのか、人事や経営企画と議論する機会を持てると理想的です。

アルムナイ運営の特徴

企業を巻き込むのが難しい、あるいは企業を交えずアルムナイだけで集まりたいといった動機から、有志のアルムナイがアルムナイネットワークを立ち上げるケースです。

アルムナイ有志の場合は「同じ企業の退職者」という共通点があるため、有志メンバーを知らない人でも比較的参加しやすく、アルムナイ同士で集まるベクトルが働きやすいのが大きなメリット。元所属していた企業に気を使わず、本音で気兼ねなく話すことが可能です。

その分、元所属していた企業の意図が伝わらず、企業の意向を切り離して会話が進んでしまい、元所属していた企業とアルムナイで対立構造になりやすい面もあります。負のエネルギーに転じやすい点は要注意です。

アルムナイネットワーク運営者はそうした特性を踏まえた上で、ネットワークのルールを定めたり、集まる際のプログラムを検討したりといった工夫をしましょう。元所属していた企業に企業にいたから今のキャリアがあり、それによってアルムナイ同士の関係性がある。それを再確認する場にできるのが理想です。

また、アルムナイ同士の閉じたネットワークだから安心して話せる反面、元所属していた企業にとのつながりを持ちにくいため、ビジネス連携や再入社などのチャンスがないのは大きなデメリット。

退職者に対する企業側の価値観も絡むので一概には言えませんが、元所属していた企業とのパイプを作る一つの方法として、現社員を交えた交流会の開催があります。

その際、現社員の参加者は経営層や部長クラスなど、役職者に限定するのが無難です。本来アルムナイとの交流と現社員の退職は関連することではありませんが、万が一参加者の中から退職者が出ると、企業の心象が悪くなってしまう可能性があります。そうした事態を防止する意味で、誘う対象は限定しましょう。

それぞれの良さを組み合わせた企業事例2つ

各運営主体にメリットとデメリットがあることを踏まえ、それぞれの良さを組み合わせてバランスを取る方法もあります。

  • 事例1. 既存のアルムナイ運営のネットワークを企業運営に移行

アルムナイが運営する既存アルムナイネットワークが、企業が立ち上げた新たなアルムナイネットワークに移行した事例です。

優秀な同期や同僚の退職が続くことに危機感を持った社内の若手メンバーが中心となり、企業公式のアルムナイネットワーク設立を検討。同社のアルムナイが運営する既存のアルムナイネットワークにコンタクトをとった後、正式に企業運営の新たなアルムナイネットワークを立ち上げました。

現在、既存のアルムナイネットワークの活動は企業運営のアルムナイネットワークに移行し、一本化されています。

企業運営のアルムナイネットワークに移行した最大のメリットは、企業とアルムナイのビジネス連携が生まれたこと。従来のアルムナイだけで運営していたネットワークでは企業との連携はできませんでしたが、現在は現役社員もネットワークに参加しており、コミュニケーションが容易になりました。

運営事務局に「こういうことがしたいから〇〇部署の人とつないでほしい」といったリクエストも出しやすくなり、アルムナイから企業に対してさまざまな提案がなされ、新たな動きが生まれています。

アルムナイネットワークを企業が運営するデメリットとして、企業視点が強くなりすぎる点が挙げられますが、同社の場合は「数字の目標は置かない」と明言しています。

方向性やビジョンを定め、事業連携、教育、採用といった目的は設定するものの、あえて具体的な目標は決めない。それによって企業運営のデメリットを押さえながら、企業及びアルムナイがアルムナイネットワークを運営するメリットを生かしています。

また、運営メンバーの中心は人事ですが、前身のネットワークを立ち上げたアルムナイも運営に関わっています。さらに意欲的な現役社員が集まる社内勉強会のメンバーがアルムナイイベントに参加するなど、アルムナイ、現役社員、運営の主体となる人事と、それぞれの関係者を巻き込んだ運営を行っているのも同社のネットワークが機能しているポイントです。

ビジネス上のメリットを最大化する上で、企業とアルムナイが直接つながることの重要性が見て取れる事例と言えるでしょう。

  • 事例2. 企業有志が運営するアルムナイネットワークの存在感が増大

企業有志が立ち上げたアルムナイネットワークに一定の成果が出たことから、企業運営への移行を検討している事例です。

同社では数年間のプロジェクト単位で仕事をすることが多く、その分プロジェクトメンバー間のつながりが強いという特徴があります。そのつながりは退職後も続き、10人前後のアルムナイの集まりが複数点在していました。

一方の企業側では、仲間意識の強さから、優秀な人材が退職し、縁が切れてしまうことへの危機感があり、有志社員がアルムナイネットワークを立ち上げました。現在は元々あったアルムナイの集まりは引き続き存在しながら、新たなアルムナイネットワークと共存している状態です。

取り組みがメディアで取り上げられたことも後押しとなり、アルムナイネットワークの存在感は徐々に増大。設立から2年がたつ今では四半期に3〜4人から再入社の応募があり、実際に再入社するアルムナイも複数人出ています。

有志社員の活動とはいえ、現社員がアルムナイネットワークを立ち上げたことにより、「まだ仲間でいさせてもらえている」とアルムナイが実感できるようになったことで、再入社といった具体的な成果につながっていると考えられます。

企業有志がアルムナイネットワークを運営するデメリットとして、方向性や目的が曖昧になりやすい点が挙げられますが、それでも現場が動く効果は大きいもの。一定の成果が出始めたことから、アルムナイとゆるく長い関係性を持つことのメリットを企業側も実感するようになり、現在は企業が正式にアルムナイネットワークを運営することを検討しています。

重要なのは、企業がアルムナイへの門戸を開くこと

企業、企業有志、アルムナイ。それぞれの運営にメリットとデメリットがあり、正解があるわけではありません。

ただ、アルムナイはあくまでも元所属していた企業があっての「〇〇アルムナイ」であり、単独で存在するものではありません。そう考えれば、アルムナイと元所属企業との関係性もまた大切にしたいところ。

最も重要なのは、企業がアルムナイへの門戸を開くことです。アルムナイ運営のアルムナイネットワークの多くは、元所属していた企業とのパイプが閉じれらてしまっています。アルムナイがどれだけ元所属していた企業と接点を持ちたいと願っても、企業側にアルムナイを迎え入れる姿勢がない限りはかないません。

企業とアルムナイは敵対するものではありません。もしどちらかが敵対するもののように感じてしまっているとしたら、それは多くの場合、企業側の退職時の対応や社風に課題がある可能性が高いです。自社の退職及び退職者に対するスタンスや考え方を、今一度見直すタイミングかもしれません。

アルムナイと企業、そして企業を構成する現社員の三者が交流できる状態が理想のアルムナイネットワーク。運営の主体が何であれ、三者で接点を持てる状態を模索していきましょう。