偶然の出会いから生まれた共創。アルムナイが繋いだトヨタ×イトーキのアップサイクルプロジェクト

トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)が2022年に本格始動させたアルムナイネットワークは、現在500名を超える参加者を抱えるまでに成長を遂げています。 そのなかで、トヨタを離れた元社員と在籍社員の“ゆるやかな繋がり”が、新たなビジネス共創を生み出しています。

今回ご紹介するのは、トヨタアルムナイである株式会社イトーキ(以下、イトーキ)の松田明子さんとトヨタの髙木忍さんがトヨタアルムナイのイベントをきっかけにした偶然の出会いから実現させた、廃材を活用したアップサイクル家具プロジェクトです。 企業の枠を超えた協業の背景には、アルムナイならではの関係性構築と、互いの“Will”と“Can”を活かし合う信頼がありました。

参考URL:イトーキ、TOYOTA UPCYCLEと廃棄プラスチックから生まれたアートテーブル&スツールを製作

本記事では、お二人に出会いの経緯からプロジェクトの裏側、アルムナイネットワークが果たした役割について詳しく伺いました。

※こちらは過去にトヨタ自動車に在籍していた方専用のネットワークです

写真左:トヨタ自動車株式会社 髙木忍さん 写真右:株式会社イトーキ 松田明子さん

アルムナイイベントが生んだ、アップサイクル家具の起点

――まずはお二人のご経歴について教えてください。

松田:
私はトヨタ自動車で商品企画やマーケティング領域の業務を担当していました。現在はイトーキに在籍し、主に経営戦略や新規事業の企画などに携わっています。

髙木:
私は現在、トヨタ自動車の新事業創出スキーム「BE creation」から生まれた「トヨタアップサイクルプロジェクト」で事業開発を担当しています。クルマの製造工程で発生する廃材を活用し、別の価値ある製品として再生させる取り組みを行っています。

――トヨタとイトーキという異業種での共創のきっかけを聞かせてください。

松田:
きっかけは、トヨタのアルムナイイベントです。もともと私はトヨタに在籍していたのですが、退職後にアルムナイネットワークの存在を知り登録しました。当初は「トヨタを辞めた自分が参加してよいのか?」と躊躇もありましたが、「トヨタがアルムナイをどう捉えているのか」に興味があったこともあり、気軽な気持ちで登録していました。

登録後、2023年にトヨタの大手町オフィスで開催されたオフラインイベントに元同僚と一緒に参加しました。そこで偶然、トヨタ時代にお世話になっていた方と再会し「今トヨタではアップサイクルの取り組みをしている」と話を伺ったのです。自身の業務とも関わりがあったのでとても興味を惹かれ、その流れで担当の髙木さんにお繋ぎいただきました。在籍時はまったく接点がないところからのスタートでした。

髙木:
まさに偶然の出会いから、という感じでしたね。最初はカジュアルなやりとりだったのですが、話をしていく中で松田さんの現在のお仕事や関心を知り、「試しに一度、我々のアップサイクルの現場を見に来ませんか?」とお誘いしたのがきっかけです。

松田:
そこから、イトーキ社内のESG関連プロジェクトのメンバーと一緒にトヨタのオフィスを訪問し、現場で素材や試作品などを拝見することになりました。これは本当に面白い取り組みだと思いましたし、デザインの可能性や社会課題へのアプローチとして何か一緒にできるかもしれないという感覚を持ったのを覚えています。

――アップサイクルの現場を見学された際、どのような印象を持たれましたか?

松田:
「本当に廃材からこんなに美しいものが作れるのか」と驚きました。髙木さんから「廃材でもデザインの力で価値を生み出せる」と伺い、その熱量に強く惹かれたことも覚えています。特に印象的だったのは、「アップサイクルは“もったいない”という発想だけではなく、期待を超えるものに生まれ変わるからこそ意義がある。廃材を使っているからといって、デザインに妥協するのは違う」とおっしゃっていたことでした。

その言葉に深く共感し、「これはイトーキのデザイン部門と掛け合わせたら面白いことができるかもしれない」と直感しました。

髙木:
当時の私たちは、クルマづくりの現場から出た素材を使って、新たな価値を加えた製品をつくるという、未知のチャレンジに取り組んでいました。しかし、自分たちだけでやっていく中で、かなり早い段階で限界を感じていたのです。私たちは車を作っている会社ですし、“車以外のもの”を作ることは正直ほとんど素人に近い中で「本当にこれでお客様に届く製品が作れるのか?」という葛藤がずっとありました。

社内販売など小さな実証実験からスタートし、形にしてみてもなかなか満足頂けるものにならなかったり、改善点が見つかったり、何度も試行錯誤を重ねていました。当時はようやく一部のプロダクトが商品化の段階まで進んできたところでしたが、本当に簡単な道のりではありませんでした。

自分たちだけでの取り組みの限界を感じていたタイミングで、松田さんからイトーキさんとの協業の可能性について話をいただいたのです。まさに「餅は餅屋」で、家具や空間づくりのプロであるイトーキさんと共創することで、自分たちでは突破できなかった壁を越えられるかもしれないと希望が見えました。

廃材に新たな命を吹き込むデザインと素材の力

――アップサイクル家具はどのように作られたのでしょうか。

髙木:
主に使っている素材は、私たちトヨタの水素タンク製造時に発生する廃材です。通常なら廃棄されてしまうものでしたが、ひと手間加えることで個性的な模様が浮かび上がります。これが、まさに“一点物”としての魅力になっています。

松田:
実際、模様の出方が素材によってまったく異なりますよね。イトーキでは、そうした素材の個性を活かしながら、どこまで「プロダクトとしての美しさ」を引き出せるかをデザイナーたちが工夫しました。

例えば、宝石のカットのように面取り加工を加えることで、ただの“板”が一気に表情を持つようになる。あえて加工しない面も残して、素材の背景を感じてもらうようにもしました。

髙木:
イトーキさんのデザイン力と加工技術には本当に感動しました。こちらでは素材の特性や量の限界など、どちらかというと制約の話をしてしまいがちだったのですが、それをポジティブな表現に変えてくれて。廃材の「欠点」を活かして「価値」に変える、その視点がとても刺激になりました。

廃材から作ったサイドテーブルとスツール
水素タンクの樹脂パージ材から作ったサイドテーブルとスツール(イトーキ×TOYOTA UPCYCLE共同開発)

――デザインの力で、廃材がアートのように昇華されていったのですね。

松田:
その通りです。開発の過程では、何度も試作を重ねながら「この素材はどう使えるのか」「どこまで美しさを引き出せるか」を検討しました。単なるリサイクルではなく、アップサイクルだからこそ、「新しい価値を生むこと」が常に求められます。その難しさと面白さの両方を感じながら進めていきました。

髙木:
トヨタは「素材」や「モノづくり」の知見はあるけれども、自動車以外の製品のデザインやマーケティングの面はまだまだ発展途上です。イトーキさんと組んだからこそ、これまでのトヨタにないプロジェクトに仕上がったという実感があります。

展示会に出展した際も、来場者から「これが本当に廃材で作られているのですか?」と驚きの声をいただいたこともあります。中には、すぐに購入したいとおっしゃってくださる方もいて、開発メンバー全員が嬉しさとやりがいを感じました。

単に環境に良いだけでなく、見た目や使い心地でも評価していただけたことが、自信につながったと思います。

――両社の強みが活かされたプロジェクトだったのですね。

松田:
髙木さんもとても熱意があって、展示会やポップアップショップを出店する際に呼んでくださって、メンバーと一緒に見に行くと「こういうところに自分たちのプロジェクトでも出していけたらいいね」と前向きな気持ちになれていました。

一度、トヨタの事業開発本部の展示会で、展示するスツールの表面が剥がれてきてしまったことがあったのですが、イトーキの工場側のメンバーが、新しい板を自分で持ってきてその場で貼り直していたんです。「もう一歩やろう」という気持ちにさせてもらえていたのは、イトーキの社風としての丁寧さもあったかもしれませんが、このプロジェクトへのメンバーの強い気持ちがあったからだと思います。

両社の文化の違いを乗り越えた共創のプロセス

――トヨタとイトーキという異なる企業文化の中で、協業を進める上で苦労した点があれば聞かせてください

松田:
それはもう色々とありました(笑)。例えば、意思決定のプロセスやスピード感が全然違います。トヨタはやはり大企業らしく、非常に慎重で、きちんとした裏付けや段取りが求められます。一方で、イトーキは少人数で動ける分、感覚的に「やろう」となればすぐに動き出せるところがあります。

髙木:
確かに、プロジェクトの初期段階では「やりたい!」という当事者の気持ちが先行するのですが、それを社内関係者に納得してもらえるよう説明して理解を得ていくことがトヨタでは重要です。そこは松田さんがイトーキさんとトヨタとの間を絶妙に橋渡ししてくれました。トヨタ側の論理やプロセスを理解しているからこそ、イトーキさんのメンバーの方々にも納得感を持ってもらえるように噛み砕いてコミュニケーションしてくださったのがありがたかったです。

松田:
私自身がトヨタにいたからこそ、どういう情報を持っていけば社内を説得できるか、どういう順番で話を進めればよいか、なんとなくわかる部分がありますからね。それを活かして、イトーキ側の不安を取り除いたり、プロジェクト全体の進行を後押ししたりしていました。

髙木:
改めて振り返ると、松田さんがいらっしゃったからこそこのプロジェクトは始まったと実感していますし、松田さんがいなかったら続かなかったかもしれません。松田さんが要所要所でお互いをつなぎ止めてくださったおかげで、単なる盛り上がりで終わらず、最後まで形にすることができました。

――まさに“企業間の通訳”のような存在だったのですね。

松田:
そうですね。文化が違うからこそ、丁寧にすり合わせていく必要がありました。しかし逆に言えば、異なる文化を持つ企業同士だからこそ、お互いの強みを活かし合える場面も多かったのではないかと思います。

髙木:
もちろん会社同士の関係性としては松田さんを介さずとも良い関係を築くことが理想ですが、そこに至るまで双方の文化や強み、課題を理解して松田さんが調整してくださったことが、今回の成功につながったのだと思います。

――松田さんがどちらの会社も知っているからこそ、両社を相対的に見ることができたのですね。

松田:
トヨタとイトーキ、両方の文化を知っているからそれぞれの強みを客観的に捉えることができたと思います。トヨタは緻密な計画性と実行力に長けていますし、イトーキはスピード感や柔軟性に優れています。その両方を理解していることで、「いまどちらの視点で見るべきか」を意識しながら動くことができました。

また、両社の間に立って調整を行う際も、一方の立場だけに偏らず、お互いが納得できる形を模索できたのは、自分が外から俯瞰できる立場だったからだと思います。

アルムナイネットワークへの期待

――今回のような共創を生み出すうえで、意識していたことはありますか?

松田:
今回のプロジェクトも、アップサイクルに関心があることをアルムナイイベントで話題に出したことが、髙木さんをご紹介いただくご縁のきっかけでした。だからこそ、日頃から「自分が何に関心を持っているか」「何ができるか」を発信していくことが大切だと改めて感じています。

ほんの少しの接点でも、そこから思いがけない形で繋がっていくことがある。そうした“ちょっとだけ知っている関係性”の積み重ねが、新しい価値を生み出す力になるのだと思います。そのためには、まず自分が何に関心を持っているのかを自分から発信していくことが大切です。アルムナイのネットワークだけでなく、日常の中でもそうした自己開示を意識していくと、思いがけない繋がりが生まれると思います。

髙木:
松田さんがおっしゃるように、ピンポイントで目的を持って人を探しに行っても、なかなかうまく繋がらないことがあります。むしろ「最近どうしてる?」という雑談の中から、お互いに共通点や関心を見つけていくプロセスのほうが、結果的に大きな展開につながると思います。

実際に会って話すことで、「それなら社内でこんなことやっているよ」と繋がっていき、個人だけでなく会社同士のコラボレーションにも発展する可能性がある。私自身はまだアルムナイとのイベントには参加できていませんが、参加している周りの方々の話を聞くだけでも多くの学びがありそうだと感じています。

――自己開示の観点では、アルムナイという繋がりの形は自分の想いの発信しやすさに繋がっているかもしれませんね。

松田:
そうだと思います。このプロジェクトのきっかけとなるイベントも最初は「異業種交流会みたいな雰囲気かな?」と実は参加に少し尻込みしていたのですが、実際に参加してみると、トヨタという共通点があるからこそ自然と会話が盛り上がる場面が多かったです。アルムナイ同士だから、あるいは昔の同僚だからこその“話しやすさ”や“共感”があると思います。

プロジェクトがきっかけで昔の同僚から「アップサイクルの記事を見たよ」と連絡をもらうこともあったのですが、これも素直に嬉しかったですね。退職後も何かしらの形でトヨタと繋がっていられるのは、アルムナイという形での繋がりがあったからこそだと思います。アルムナイの仕組みがあることでトヨタと良い関係性を保ち続けられていると感じますし、今後もトヨタと関わり続けられると嬉しいですね。

共同制作したアートスツール
トヨタ自動車本社エントランスにも実際に共同制作されたアートスツールが設置されています

アップサイクルのこれから

――イトーキとしては、今回の共創をどのように位置づけているのか聞かせてください。

松田:
イトーキは「オフィス家具メーカー」としての認知が強いと思いますが、現在は空間づくり全体をサポートしながら、ワークスタイルをデザインする領域にも注力しています。さらに、オフィス以外の領域にも積極的に進出していこうとしているところです。

そのなかで、今回のような他社とのコラボレーションは非常に重要だと感じており、他社との連携の中でこそ、新しい価値が生まれると実感しています。

――トヨタとしては、今後はどのように取り組みを進めていかれるのでしょうか?

髙木:
私自身は、アップサイクルの事業開発をさらに前に進めていきたいと考えています。イトーキさんとの取り組みを次のステップにどう繋げていくか、そして、もっと多くの方に手に取っていただける機会をどう作るか、引き続き考えていきたいです。

トヨタ社内を見渡しても、まだまだ「モッタイナイもの」はたくさんあります。そうした廃材を“もっといいもの”に変えていく。その発想が広がることで、社会全体の意識も少しずつ変わっていくのではないかと期待しています。

今回の取り組みは、まだスタートラインに立ったばかりです。アップサイクルの素材は安定供給が難しく、量産にも限界がありますが、それでも「伝わるもの」「残るもの」をつくっていきたい。今後もいろんな業界の企業やクリエイターと繋がりながら、共創の幅を広げていけたらと思っています。

――社内からの反響はいかがでしょうか。

髙木:
最近、社内で「本業では接点が持てない人と接点を持つことができているよね。新規事業頑張っているよね」と変わった褒められ方をすることが増えてきました。

印象的なエピソードとして、ある20代の女性が「トヨタって会社は知っているけれども何をしているかはよく知らない。だけどこのTOYOTAっていうロゴが可愛くて買いました」と私たちのトートバッグを買ってくださったことがありました。普段ご自身で車を運転されない方や運転免許を持っていない方とも、違った形で接点を持てるのはとても新鮮なことです。自動車メーカーとしてのトヨタだけでは作れない価値を生み出すことができる新規事業の意義は非常に大きいと感じています。

アップサイクルして生まれたトートバック
エアバックとしても使われるナイロンの基布の端材とシートベルトの端材をアップサイクルして生まれたトートバッグ

松田:
自動車とは別の側面からトヨタを知ってもらえることにも、このプロジェクトの意義を感じます。環境配慮やアップサイクルという文脈で、新たな認知や関心が生まれる。これもまた、企業活動の価値の広がりだと思いますね。廃棄物を減らすといった環境貢献の側面でトヨタを知るきっかけになるのかもしれません。

髙木:
自動車以外の分野でもその人にとってトヨタを少しでも身近に感じていただくことで、それをきっかけに、もしかしたらトヨタがやっている他のこともその人のアンテナに引っかかり出すかもしれないですからね。トヨタは「わたしたちは、幸せを量産する。」ということを会社のミッションとして掲げています。自動車でも、それ以外の事業でも、接点を持ってくださる皆様に幸せを感じていただけたら良いなと思います。

――外の世界・別分野で活躍される方の協力も得ながら、車という文脈だけでは繋がれない人とも繋がっていけるのですね。

髙木:
トヨタの看板だけで勝負していても届かない場所もありますので、周りの皆様と一緒に取り組むことでそうした領域にも踏み出していきたいです。そのためにも、アルムナイはもちろん、トヨタとして様々なネットワークをどんどん拡げていけるといいと思っています。

※こちらは過去にトヨタ自動車に在籍していた方専用のネットワークです