2022年3月にアルムナイネットワークの構築を始めたトヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)。アルムナイとの関係構築をしつつ、オフボーディング改善を実施するなど、組織改善にも取り組んでいます。
そうした取り組みの中で、今回は約30年勤務したトヨタを退職後、工場運営や事業投資会社を経て再入社した木部正樹さんにインタビューをしました。再入社に至った経緯や当時の思いについて伺いました。

※こちらは過去にトヨタ自動車に在籍していた方専用のネットワークです
30年トヨタに在籍した後、工場運営、コンサルタントを経験
ーーまずは、これまでのキャリアについて教えてください。
私は新卒でトヨタに入社し、エンジン工場のエンジニアリング部門に配属となりました。大きく3つの領域を担当していて、製造現場の保全に関する技術支援、設備の保全管理やTPS(トヨタ生産方式)をもとにした工場内の改善業務、それと生産ラインの新設プロジェクトに携わりました。また、在籍中は約3年間タイのエンジン工場への出向を経験したり、人材育成にも携わったりと、色々なことを経験させてもらいましたね。
約30年トヨタで勤務した後、タイに工場を持つ日本の部品メーカーに転職しました。そこでは工場長の後任候補として、製造はもちろん、原価や品質、人事など工場全体の管理をしながらローカルマネージャーの育成なども担当しました。約1年半勤務しましたが、諸事情で日本に戻らなければならず、事業投資会社へ転職。コンサルティング部門の製造チームのトップとして改善支援の実行やチームの運営などを任されていました。
ーートヨタで思い出に残っている仕事や印象に残っているエピソードはありますか。
新しい生産ラインを立ち上げる大規模プロジェクトを初めて担当したときです。完成まで約3年かかりましたが、古いラインを撤去して更地にし、自分が検討した仕様に沿って設備を配置していく。そうして出来上がったラインでエンジンが作られて、出荷されていく……この一連の流れに携わることができました。0から1でモノを生み出した感覚があって新鮮でしたね。
あとは担当プロジェクトの中で「木部がいてくれてよかった」と言っていただけたことがとてもうれしかったです。タイでの出向が終わって日本に戻るとき、一番密にやりとりをしていたシニアマネージャーにあいさつをしに行きました。すると彼がお守りとして身につけていた、金色の獅子のペンダントをその場で外して私にくれたんです。「大事なものだから、もらえない」と言っても「持っていってくれ」と。本当に感動して「この仕事をやっていて、よかった」と思いましたね。
ーートヨタを退職しようと考えたきっかけは何だったのでしょうか。
キャリアアップが一番の理由です。トヨタは非常に大きな会社ですから、新入社員もどんどん入ってきます。後進の育成など役割はありましたが同時に自分のキャリアアップを考えたときに活躍の場を外に向けたらどうなるかなと。プライベートでは自分の子どももそれなりに大きくなって、お金の面で心配がなくなったこともあり、外に出ることを決意しました。
――トヨタを退職されて感じたことはありましたか?
転職してみて、改めてトヨタは大きな会社だったなと感じましたね。いろんな人が働いているのでルールも整備されていますし、業務が細分化されて責任区分が明らかです。転職先の部品メーカーでは、ルールはあるものの曖昧な部分も残っていたので、経営層で判断する必要がありましたし、事業投資会社はベンチャーに近く、これからルールを作っていく段階。「こういう世界もあるんだな」と感じていました。
これまでの経験を製造業に還元したい、新たなチャレンジがトヨタでできることを知り再入社を決意
ーー再入社を考えたきっかけを教えてください。
正直、トヨタに戻る気は全くありませんでした。転職後の仕事は大変やりがいがあり、休みは少なく責任は大きくという環境でしたが、充実感としては悪くない環境で仕事をしていました。ただ、前職の会社は歴史が浅く知名度も低かったので、会社の成長戦略として「トヨタと協業できないか」を真剣に考えていました。そんなとき、たまたま出張帰りの新幹線で、トヨタ時代にお世話になった方と再会し色々相談させていただいたりしていました。そんな時期にまた偶然だったのですがトヨタがアルムナイネットワークを始めたことをニュースで見かけて。ネットワーク設立の趣旨を読むと、まさに私が考えていたことと一致していたので、すぐに登録しました。
ネットワーク内では求人情報なども公開されていたので、興味本位で見ていました。その中に、現在の部署の情報もありました。同じようなことをやっているのはなんとなく知っていましたが、「この部署だったんだ」と気づいて。そして「同じような仕事をやるなら、基盤が安定した組織でやったほうがいいのかもしれない」と思ったんです。そこで事務局の方に連絡し、カジュアル面談を設定してもらいました。
ーー現在の業務について具体的に教えてください。
現在は調達技術・プロジェクト推進部で、部品の仕入れ先に対する支援を行っています。スムーズに生産準備が行われるようにコーディネートしつつ、高品質の部品を納品してもらうため、仕入れ先の課題を一緒に解決していく仕事です。前職の事業投資会社でも仕入れ先の支援は行っていたのですが、どちらかというと経営面、原価改善の支援が多かったので現在は少し視点が変わった業務になっていますね。

ーー実際に再入社が決まったときは、どんな思いでしたか。
実は最後の最後まで迷いました。最初にトヨタを退職したときは前向きな気持ちでしたし、もともとのきっかけは「トヨタにいて自分の望むキャリアが実現できるだろうか」という思いでしたから。「また同じ気持ちにならないか」「本当に戻っていいのか」という不安は最後までありましたね。
ただ在籍時に所属していた部署ではなくこれまでの外での経験を活かした新しい領域にチャレンジできるという点や、自分に少しでも興味を持ってもらえたのなら、 必要とされていると思ってもいいのかもしれないと思い再入社を決断しました。
ーー外に出たからこそ感じる、トヨタの良さは何でしょうか。
これだけたくさんの社員が働いているにもかかわらず、基本的にみんな同じベクトルを向いていることは本当に凄いところだと思います。みんなが「いいものを作るためにはどうすればいいのか」を考え、常に改善している。この風土は他社と比べても突出していると思います。
逆に業務が多岐にわたっている分、組織が縦割りに凝り固まっているなと感じる部分もあります。難しいですが、組織の割り方などまだ工夫ができる点はあるのかなと思いますね。また、私がいた頃よりコンプライアンスやハラスメント対策がよりきめ細やかな対応が実施されていて、よりよい組織にしていこうという動きがあることを実感しています。
培ってきたスキルを活かして新たな領域でキャリアを築く
ーー再入社というキャリアを活かして、今後やっていきたいことはありますか。
今の部門にいる方々は、7〜8割が品質管理を主にやってきた方々です。それに対して私が経験してきたことは品質も含めた工場運営。同じ生産に関わる業務でも視点は結構違います。私が採用された理由はそこにあると思っていますので、現場運営全体のレベルアップにつながる支援をしていきたいですね。また海外への挑戦も可能性があるなら積極的にチャレンジしたいと思います。日本より更に課題が多いのは認識済みですので。最後は仕入先さまに感謝されるような活動ができればうれしいです。

ーー最後に、再入社を検討されている方やアルムナイへメッセージをお願いします。
再入社はキャリア採用とは少し異なり、人によってトヨタに在籍していた期間も違いますし、もといた部署に戻りたい人もいれば、全く違う領域に挑戦したい人もいるはずです。入社してから「思っていたのと違う」とならないためにも、まずはカジュアル面談で、希望する職種かどうか、必要とされる職場かどうかを探ってみると安心できます。もちろん相談するからには、自分のスキルの棚卸をしっかりとしておく必要があるでしょう。私が今トヨタにいるのも、アルムナイネットワークがあったからです。もし私のように「復職の道もありかな」と思っている方がいたら、まずは気軽に事務局に相談してみてください。
※こちらは過去にトヨタ自動車に在籍していた方専用のネットワークです