「どうせ辞めるから」で妥協しない。上司と10時間対話を重ねて得たもの【私の退職体験記.10】

連載「私の退職体験記」
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連載10回目に登場するのは、大手人材系企業で営業の仕事をしていた松島和さん(仮名)。

松島さんは上司から退職を反対され、認めてもらうまでに4〜5回面談を重ね、全部で10時間近く話し合ったといいます。「どうせ辞めるから」と考えず、とことん対話を重ねたことは、松島さんに何をもたらしたのでしょうか。

松島和さん(仮名)
新卒で大手メーカーに入社し、約2年営業職として勤務。その後転職し、大手人材系企業へ。営業として約2年間経験を積み、2021年4月にベンチャーへ転職

退職のきっかけと退職までのスケジュール

——まずは退職体験をお話いただく大手人材系企業A社でどのような仕事をしていたのか、教えてください。

求人媒体の営業として働いていました。

——退職のきっかけは何だったのでしょう?

友人のGさんがきっかけです。起業すると聞いていたのですが、ベンチャーに転職していて。

転職は全く考えていなかったけれど、彼の話を聞いているうちに興味が湧いて、数カ月後に再会。その時に代表の方とも話をして、「この人たちと一緒にチャレンジしたい」という気持ちになりました。

ただ、A社のことは好きだったし、当時の僕は職位が上がったばかりでもあって。大手企業の経験しかなかったからベンチャーへの不安もあったし、「A社にいた方がいい」という周囲の声もあり、葛藤はありました。

最終的に決め手になったのは、「つらいけど楽しい」というGさんの言葉です。A社は楽しいけど、つらくはなかったんですよね。Gさんは一歩一歩進んでいるんだと思ったし、新しい刺激を求めている自分にも気づきました。

僕は学生時代に海外生活をしたことがあるのですが、知り合いがいない、言葉も通じない中で、人生で一番苦しかったけど、一番成長できた実感もあって。再度そんな苦しい経験をして成長するために、もう一度自分をドン底に落とそうと思いました。

——退職を切り出してから辞めるまでのスケジュールを教えてください。

上司に退職を切り出したのは12月末で、年明けから4〜5回面談をしました。他にもいろいろな人と面談をして、退職が承認されたのは2月末。そこから引き継ぎをして、3月末に退職しました。

——退職を切り出したときの上司の反応はどうでしたか?

「もう一度考えてこい」と言われました。コロナ禍でリモートワークだったのと、普段から電話でやりとりすることが多かったので電話で切り出したんですけど、1時間半話した結果、全く納得してもらえずに終わりましたね。

——なぜそのような反応だったのだと思いますか?

僕は職位が上がったばかりでしたし、春からは進めていたプロジェクトで大きな動きも予定していたので「なんで今なんだ」「期待していたのに」という悔しさがあったんじゃないかと思います。

僕としては正月休み明けに話すよりは、年内に一度言っておいた方がいいだろうと思ったのですが……。予想通りではあったものの反対されて、重い気持ちで正月を過ごしました。

——そこから退職が承認されるまで、どのように進めたのでしょう?

いろいろな人に相談して、考えて、面談して、また考えて……の繰り返しでした。マイナスや不安も浮かぶけど、何度考え直してもやっぱり転職したいと思ったし、最終的には僕の決意が変わらないから納得してもらった感じですね。

特に上司とは4〜5回面談をしました。ホワイトボードに僕の自分史を書いて、なりたい姿が次の会社で実現できるのか、一緒にとことん考えてくれました。全部で10時間近く話したように思います。

たぶん、僕の本気度を測りたかったんだと思いますけど、普通は辞める人にそこまで時間はかけないですよね。「ここまでやってくれるんだ」と思ったし、僕の中でも転職の決断をより腹落ちさせることができました。上司も最後には「もう折れた、それでいいんじゃない?」と僕の決断を認めてくれました。

退職を振り返って思うよかった点、反省点

——今振り返って、納得のいく辞め方はできましたか? 

はい。紆余曲折ありましたが、最終的には気持ちよく送り出してくれました。ムービーを作ってくれて、上司からは手紙をもらって。退職面談ではキツいことも言われましたし、僕が辞めるのは嫌だったと思うけど、最後には尊重してくれたんだと思って、うるっときましたね。

また、採用時に最終面接をしてくれた尊敬している人が「ベンチャー行く人を引き止めることは多いけど、お前は強いから大丈夫。応援するよ」と声をかけてくれました。それが自信になりましたね。

——お話いただいた辞め方をして、特によかったと思うことはありますか?

自分の中で考え抜いた上でいろいろな人に相談し、ポジティブとネガティブの双方の意見をもらったことです。

僕は衝動的に動く人間なので、「これだ!」と思ったらまずは動いてみるタイプ。ベンチャーに興味を持ったことも衝動的なことかもしれないという疑問があったので、自分とは反対の性格の人、反対意見を持っていそうな人を選んで話をしましたね。

「応援するよ」はうれしいですけど、僕の場合は性格的に、引き止めてくれる人の存在が大事だと考えました。

——反対に、後悔していることは?

最初に退職を電話で切り出してしまったのは心残りです。リモートワークだったので対面は難しかったし、普段から電話で話す文化ではありましたけど、せめてオンラインで顔を合わせて話すべきでした。

「対面で話がしたい」と伝えたら相手も構えるし、面談前にいろいろ聞かれそうだなと思って電話にしたけど、相手のことを尊重するなら顔を見て話さないといけなかったと思います。

これから退職する人へのアドバイス

——辞めてからまだ数カ月ですが、今はA社と関わりはありますか?

あります。昨日も元メンバーと近況報告の電話をしました。A社のことは気になるし、今の仕事へのアドバイスももらえるので、助かっています。

上司とは転職して1週間後に電話をしました。応援してくれているし、コロナが落ち着いたら飲みに行こうと言ってくれているので、良い報告ができるように頑張りたいです。

今はまだ自分が下の関係性ですけど、いつか対等に話ができるように成長したいですね。

——お話いただいた退職体験を踏まえて、もしも次にまた退職をすることがあったら生かしたいことはありますか?

2つあって、一つは反対意見を聞くこと。自分の選択が正しいと思うと、良い面しか見ようとしなくなるので、客観的な反対意見も聞いて判断することは大事にしたいです。

もう一つは、上司に真正面からぶつかって、言いたいことをちゃんと言うこと。僕が今上司と連絡が取れる状態にあるのは、とことん腹を割って話し合ったから。それがなかったら、関係は切れていたと思います。

そして上司との退職面談の際は、衝動で動くのではなく、まずは自分の中で論理立てて、しっかり説明できるように準備をするのが重要だと思います。やはり理由に納得してもらえないと話が進まないですし、商談のプレゼンに臨むくらいの気合いが必要だなと。そして、それが相手を尊重することでもあると思います。

——最後に、これから会社を辞めようとしている人に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします!

一つの決断に至るまでにいろいろな人と話したとしても、最後に決めるのは自分です。そして、どんな道を選んでも、正解を作るのも自分。そんな覚悟と熱を持っていれば、どんな選択をしてもうまくいくと思います!

円満退職のポイント

  1. 上司と腹を割って、双方が納得いくまでしっかり話す
  2. 自分と反対の意見を持っている人、自分と反対の性格の人に話を聞く

取材・文/天野夏海