アルムナビでは、以前「出戻り社員を増やすためのアルムナイ・リレーションシップ」というコラムを掲載しました。
今回はアルムナイ活用でまっさきに思い浮かぶ、この「再雇用(出戻り/ブーメラン採用)」の事例紹介として、ヤフー株式会社からの転職・出戻りを経験された、「ヤフオク!」開発本部長の一条裕仁さん、広告システム開発に携わる黒武者健一さんのお二人、そして、ヤフーOB・OGで構成されたアルムナイ組織「モトヤフ」の事務局運営にも携わる、クリエイター人財戦略室の大森靖司さんの3名をお招きし、その内実をじっくり伺いました。
出戻り社員の本音「転職から出戻りの経緯」
——まずは一条さん、転職から出戻りまでの経緯を教えてください。
一条:ヤフーからの転職先は Google でした。当時、「Yahoo!検索」の企画職だったんですけど、「検索をより良くしよう」となるとベンチマークは自ずと Google になりますよね。それでずっと研究するうちに、「ミイラ取りがミイラになる」的な好奇心に駆られたのと、ちょうど米国のヤフーが自前の検索エンジンをやめる発表をしたタイミングだったというのがあります。
転職先の Google では、企画や開発ではなく、検索周りのオペレーションチームのマネジメントを行っていました。そこで2年間過ごし、近くでプロダクトを作るのを見れば見るほど、自分の中で「もう一度ものづくりに関わりたい」という想いが沸いてきたんです。
その悶々としていたタイミングで、ヤフーのアルムナイ仲間二人が創設したスタートアップのジェイグラブ株式会社にジョインしました。そこでは、エンジニア兼何でも屋としてやっていました。
こうしてめでたくものづくりに復帰し、楽しく働いていたものの、まだ投資フェーズであるスタートアップで、ファウンダーではない私は給料をもらっている立場でしたが、その状況を心苦しく感じていました。また、家族もいてリスクを負ったチャレンジだったので、「自分なりに一年がんばってから再考する」と期限を決めていました。
その期限が迫る中、「経営陣が宮坂さん体制に変わって、『出戻り』を受け入れているよ」という噂を他のヤフー・アルムナイから聞いて知ったんです。そこから改めて会社とも縁がつながって、ヤフーに戻ったというかたちですね。
——やはり現役社員の方とアルムナイのつながりは多いのですね。つづいて、黒武者さんは、いかがでしたか?
黒武者:ヤフーを2012年に辞めて転職したきっかけは、それまでやっていたことが一区切りついて、先を考えた際、新しいことをやりたくなったためです。ヤフーではやってないことをやっている会社で働いてみたいというのが大きかったかもしれません。とはいえ、在籍は8カ月と短く、2013年にヤフーに戻りました。
——8カ月でのスピード出戻りだったのですね。戻られたきっかけは?「隣の芝は青い」でしたか?(笑)
黒武者:たしかにヤフーの外を味わって満足したというのもありますね(笑)。でもそれよりも、開発環境や技術の違いに加え、ヤフー時代の仲間ともう一度仕事したいという想いがこみ上げてきたのが大きいですね。
実は、辞めてからもヤフー在職時の同僚と飲むことがあって、お互いの現況を話すうち、「出戻り」の雰囲気がどちらからともなく醸し出されてきたからでしょうか。やっぱりかつての仲間と対面で接すると盛り上がりが違いますね。
出戻り社員の本音「古巣とのリレーションで『出戻り歓迎』ムードを察知する」
——出戻り解禁後ということですよね。大森さん、これは会社としても意識的に発信していたのでしょうか?
大森:いいえ、2017年2月の「モトヤフ」設立まで、会社として公式に「出戻り歓迎」というメッセージは打ち出していなかったんです。が、ゲリラ的に伝わる人には伝わっていたんでしょうね。
公式に「モトヤフ」が立ち上がっている今からすると、以前からアルムナイ間にポジティブなメッセージングが回っていたというのは嬉しいですし、ありがたいことだと思います。
ちなみに出戻り社員はこれまでに約50名います。
黒武者:私はヤフーに入るまで、3社経ているのですが、これらの職場とのつながりって、ほとんどなかったんです。その点ヤフーは、現役・アルムナイ問わず、つながりが深い感じがしますね。
一条:年1回、クリスマスシーズンくらいにみんなで集まりますし、私自身ジェイグラブ時代もヤフーアルムナイの二人と仕事していたわけですし、自然と情報が入ってくる環境でしたしね。
ただ強いて言えばですけど、現役社員と比べると、アルムナイ同士のほうがより会いやすかったという記憶があります。現役社員と会うと、「今うまくいってなくて悩んでいるのかな?」って勘ぐられてるんじゃないか、って邪推してしまってフラットに会いづらいのかもしれません(笑)。それこそ「こいつ、出戻りしたいのか?!」なんて思われてるんじゃないかって。
大森:人事としては悩ましいところですね。確かに、私のように採用にどっぷり携わっている立場としては、アルムナイと会えば会ったで選考を意識させてしまうでしょうし(笑)
——当たり前ですが、「出戻り」は無条件というわけじゃないんですね。
大森:はい、出戻りだからといって特別な選考フローがあるわけではないんです。選考が変に甘くなったり、厳しくなったり、どちらもダメですから。適切なプロセスを経ての「出戻り」だからこそ、ちゃんと現場に受け入れられているんだと思っています。
出戻り社員の本音「出戻り社員への受け入れ体制」
——その「受け入れ体制」も、出戻りにおいて越えるべきハードルですが、「『出戻り』として受け入れられた」側である、一条さん、黒武者さんのエピソードをお聞かせください。
黒武者:みんながあたたかく迎え入れてくれましたね。二度目の入社なのに、歓迎会開催してもらって、ご馳走してもらいましたから(笑)。
逆に、「受け入れられる」側として気をつけていたことと言えるかもしれませんが、出戻りした後って、意外に辞めていた時代のことをあえて自分からは語らないんですよね。聞かれれば別ですけど。
一条:私も、所属チームや、個人的につながりの深い仲間うちで、各種歓迎会を開催してもらえました。会によっては割り勘もありましたけど(笑)
黒武者さんの言うように、戻ってからは気を遣いますね。「Google ではこうだった」なんて物言いは絶対にしないように(笑)。そんなこと言ったらみんなしらけちゃいますよね。
逆の見方をすれば、「せっかくの出戻り経験を語らないな」って思われている節はあるのかもしれません。
とはいえ、私自身無頓着なところもあるようで、ある日無意識に、Google のロゴが入ったバッグを持ってきたのを部下に見られて、「なんか『モトカノ』を想っているようで、『イマカノ』として複雑」って言われました(笑)。その後、こっそり裏返してロゴを隠しました(笑)
大森:在職中からしっかりした信頼関係があったのでしょうね。
——アルムナビ編集部では、いつか退職することのことを考えて「プレ・アルムナイ」としての会社との付き合い方を考えることを提唱しているのですが、まさにそんな考え方ですよね。信頼関係をおろそかにして飛び出すなと。
——さて、「歓迎ムードの中でも空気は読む」と言った話がありましたが、今日の一条さん・黒武者さんの出戻りエピソードは、みなさんそれぞれ初耳の部分も多かったんでしょうか?
一条:そうですね、出戻り同士でも話しませんからね。黒武者さんもかつての部下が出戻りされたと思いますが、彼からもそんなに聞いてないですよね?
黒武者:はい。彼は挨拶の時、「出戻り野郎です!よろしく!」みたいに、「出戻り」自体をたくましくネタにして、笑顔で受け入れられていましたけどね(笑)。
私が上長だった時に退職した彼が、その後出戻りしてくれたこと、そして自分自身の経験から、「受け入れ」方とは逆の、「送り出し」方も同じくらい重要じゃないかなと思います。
私は彼を送り出すとき、無理に慰留することなく、笑顔で送り出すってことを無意識にしていたんですが、いざ自分自身が退職する立場になってみると、ちゃんと上司が理解をしてくれて、同じように送り出してくれたことが、とても自然なことに感じたんですね。それが抵抗感なく出戻りできた理由のひとつだと思います。
一条:そうそう。私も退職時に上司から、「会社が嫌だからじゃなく、より興味が出たからなんだよね」って理解してもらえたのは心強かったんです。いちゃもんつけて「辞めんなよ」じゃなくて、むしろ背中を押してくれたくらい。一方で、人生の先輩として「こんなリスクもあるよ」ってフラットにアドバイスもいただきました。
このように後腐れない、すがすがしい別れ方だったからこそ、「この人とまた仕事したい」と思いましたし、実際、その人に相談したのが出戻りの決定打になりました。
大森:人事としては在職中はあらゆる場面でエンゲージメントを高める動きが必要ということなのでしょうね。それは退職の瞬間もそうですし、退職後もそうなのでしょう。
ヤフーの卒業生のつながりをつくる「モトヤフ」について
——「モトヤフ」もその退職エクスペリエンス向上につながるものだと思いますが、詳しく教えてください。
大森:はい。「モトヤフ」は、昨年 ヤフーが20周年という節目で立ち上げた企画の一つで、まずは会合を開くことから始まりました。20年間で現役社員とアルムナイ合わせて1万人を数える大きなコミュニティになったにも関わらず、「同じ釜の飯を食った仲間」として関係値が築けていないのは不自然じゃないかというのが動機です。
ヤフーには「会社と社員はイコールパートナー」という考え方があります。そういう仲間意識は、現役社員のみならず、アルムナイも同じだということですね。そこまでカバーして、仲間でありたいし、結びつける場があるべきかなと。
——こんなにも「仲間」という意識を自然と持てるカルチャーはどのように育まれているのでしょう?
大森:もともとあったと思いますが、現経営体制になってからは、経営のメッセージとしても「仲間」を強く打ち出しているのもあるかもしれません。
黒武者:実際、トラブルを一緒に解決してきた戦友的な存在だから、というのもありますね。だから、ひとたび会えばその時の気持ちが戻ってきて、高揚感があるんだと思います。
出戻り社員の本音「出戻り経験はどう生きたか」
黒武者:で、そんな風に改めて「良い職場だった」と思えたなら、一度辞めたとしても出戻りするという選択肢がもっと増えていいと思うんですよね。「ここで働きたい」と想う気持ちには素直になればいいと思うし、そのためにも一社でも多くの企業が「出戻りを受け入れる」っていうメッセージやスタンスを表明していって欲しいです。
それに、一度ヤフーを退職したことは、会社の良さをよりいっそう理解することになったという意味でも、良い経験になったと思っています。
一条:私も出戻り経験を通じて成長した実感があります。そのままヤフーにいたよりもいろいろ学べましたし、仕事人としては成長できたので、個人的には良かったと思っています。
ただ、振り返ってみると、すごくリスクはあったなぁとも思います。当時の体制のままであれば出戻りできない可能性が高かったわけですし、外で成長できる機会も未知数でしたし。ですから、「出戻り、よかったから君もやってみなよ」と無邪気に薦めることはしません。
逆に、自分自身の出戻り体験を通して、「どんなことを考えたか」「どんなことを学んだか」というのを、うまいこと後輩に伝えることで、追体験してもらったほうが、効率が良いんじゃないかと思っています。
外で培った成長でヤフーに恩返しするのはもちろん、それ以上に仲間も成長させられる人間になれるといいなと考えています。リスクをとって持って帰ったものを、還元したいんですね。
人事の本音「人事としての目論見もあるが、コミュニティ育成が先決」
大森:一採用担当としての立場から言えば、もちろん「モトヤフ」が採用につながっていけばいいなという目論見はあるんですが、せっかくヤフーならではのアルムナイ・リレーション/ネットワークを立ち上げたからには、日本の中で誇りを持てる随一のコミュニティに育てあげるのが先決かなと考えています。
特に流動性が高いIT業界において、社員もアルムナイもみんながハッピーになる、新たな価値を生み出していける場ですね。しっかりデザインしていかなくてはと、今日この鼎談を通して、意を新たにしています。
まだよちよち歩きながらも、業界内でここまで旗振っている会社はないですから、これからも着実に道を切り拓いていきます!
——ありがとうございました。
>> Yahoo! JAPAN / 会社概要 / 採用情報
編集後記
実際に出戻り(ブーメラン採用)されて、古巣で活躍されている方のお話を伺い(しかも人事の方とともに!というなかなかないシチュエーション)、たくさんの示唆に富む鼎談でした。
黒武者さんがおっしゃっていた『一社でも多くの企業が「出戻りを受け入れる」っていうメッセージやスタンスを表明していって欲しい』という言葉を、メディアとしてあらゆる企業に届けたいと意を新たにしました。一方で、誤解していただきたいくないのは、それは決して「退職を推奨している」わけではないってことです。
個々人に様々なライフイベントが訪れる中、「古巣に戻る」という選択肢が「ありえないこと」と排除されていたり、「悪いこと」とタブー視されていたりする現状は双方にとってもったいないことなんじゃないか、という問題提起なんです。
そして同時に企業によるアルムナイ・リレーション構築は、大森さんがおっしゃるように、人事、ひいては会社の目論見はあれど、それが一方的な企業都合によるものではなく、アルムナイにとっても恩恵がある、双方にとってハッピーなものを目指すべきなのでしょう。
そう、「出戻り」はその恩恵の一つ、わかりやすい切り口だと思いますが、それだけに視野を狭めてしまうのはもったいない、いろいろな可能性を秘めているものなんだと、「モトヤフ」は再認識させてくれたように思います。(アルムナビ編集長・勝又 啓太)