東北大学出身・キープレイヤーズ高野秀敏さんに聞く、アルムナイネットワークの重要性

2020年10月、東北大学が「スタートアップ・ユニバーシティ宣言」を出し、国内大学初のベンチャー創出支援パッケージを創設しました。

その取り組みの一つが、東北大学の同窓会組織『萩友会』と連携した、東北大学スタートアップ・アルムナイ(同窓会起業家クラブ)の組織化です。

そこで、東北大学アルムナイであり、現在はベンチャーやスタートアップ転職の専門エージェント、株式会社キープレイヤーズの代表を務める高野秀敏さんにインタビュー。

東北大学の取り組みへの想いや、高野さん自身のネットワークへの考え方を伺いました。

株式会社キープレイヤーズ 代表取締役 高野秀敏さん
株式会社キープレイヤーズ 代表取締役 
高野秀敏さん
新卒で株式会社インテリジェンスへ入社。その後、株式会社キープレイヤーズを設立し、人材エージェントとして、55社以上の社外役員・アドバイザー・エンジェル投資を国内、シリコンバレー、バングラデシュで実行。1万名の方のキャリアカウンセリングと面談対策。マネージャーとして、キャリアコンサルタントチームを運営・教育。人事部採用担当として、数百人の学生、社会人と面談。学校や学生団体での講演回数100回以上
HP:https://keyplayers.jp/
Twitter:@​keyplayers

「東北大学らしさ」がうれしかった

——東北大学スタートアップ・アルムナイの発表がありました。高野さんはどう思いましたか?

大学との連携は積極的にやりたいと思っていましたし、何より東北大学らしさもあってうれしかったですね。例えば日本初の「女子学生」が誕生した大学は東北大学なのですが、そうやって新しいことに取り組むのが良いところだと思っています。

アルムナイとの関わりを深める動きはもちろん、「スタートアップ・ユニバーシティ宣言」そのものも全力で応援したいです。

東北大学には素晴らしい人や技術があります。特許も取っているし、評価もされている。けれど、今はその全てを生かせているわけではないと思うんです。私ができるのは世の中に広めることですから、そういう面で何かお力添えできればと思っています。

——これまで高野さんは東北大学とどのようなつながりがあったのでしょう?

大学の起業部を応援したり、寄付したり、ピッチイベントの審査員をしたりと、これまでも関わりはありました。大学のつながりはかけがえのないものですから、今後も貢献していきたいと考えています。

また、同窓会にもなるべく顔を出すようにしています。個人的にも、東京にいる東北大学出身者を集めた会を定期的にやったり、最近だとClubhouseで話すこともありますね。

——自ら卒業生と交流する機会をつくっているんですね。

そうですね。特別な意図があるわけではなく、「一期一会を大切にしたい」という想いでやっています。

その気持ちは、前職のインテリジェンスに対しても同じ。創業者の皆さんとのつながりは今でもあります。他にFacebookグループでアルムナイネットワークをつくり、退職した方の動向もある程度わかるようになりました。今は約700人が登録していて、『元インテリジェンスの会』というイベントも何度かやりましたね。

「仕事につながる」は結果論

——大学、前職とのつながりによって、何か仕事につながったことはありますか?

直接的に仕事につながることはそれほどありません。例えば、東北大学のあるオフィシャルな会をきっかけに「仙台未来創造企業創出プログラム」で仙台市と連携がスタートしましたが、それはあくまで結果論。

大学や前職とのつながりをビジネスに直結させようとは全く思っていないですし、それを考えてしまうとコミュニティは成立しない気がします。

——言われてみれば「仕事につなげよう!」とガツガツこられると、ちょっと引いてしまう気がします。

中長期で考えることが重要でしょうね。ビジネスは情報が命ですから、知っている人が多いのは明らかに有利。ただのインフォメーションではなく、インテリジェンスやインサイトを得るには人と話すのが一番です。

日常で会話をする人は限られますから、同じ学校や会社出身という共通点で普段接点がない人と話ができる場があるのは、単純に面白いとも思います。同じバックグラウンドがあればリファレンスが取れていますし、話も合いやすい。友達になることもあります。

例えばインテリジェンス出身者には優秀な人がたくさんいます。アトラエ代表の新居佳英さん、Sun Asterisk取締役の平井誠人さん、服部 裕輔さんをはじめ、上の世代にも下の世代にも素晴らしい知見をお持ちの方が大勢いる。学び合う機会がもっとあったらいいなと思います。

大学も会社も、せっかくの縁。「卒業して終わり」ではもったいない

——高野さんが積極的に過去とのつながりを持つ動機はどこにあるのでしょうか?情報が得られるとはいえ、結構根気がいるようにも思います。

コミュニティ活動が好きなのもありますけど、大前提として愛校心、愛社精神があるからですね。自分が出た大学や会社が好きな人は多いと思うんですよ。応援したい気持ちを持っている人もたくさんいる。

ただ、応援の仕方がわからないですよね。特に大学はどうやったら接点を持てるのかがわからない。

——たしかに大学のどこにアプローチしたらいいか、イメージがわかないですね。

だからこそ、大学側から卒業生に声をかける仕組みが必要です。そういう意味では東北大学スタートアップ・アルムナイが卒業生との連絡経路になり、接点を持つ最初のきっかけになるといいなと思います。

—— 一方で企業の場合、大学と比べて現社員と個別に接点を持ちやすいと思います。企業がアルムナイネットワークをつくるメリットはどこにあると思いますか?

アルムナイネットワークは緊急性があるものではないので、企業側からすると優先順位を上げにくい施策だと思います。ただ、中長期で考えたら絶対に取り組んだ方がいい。なぜならば、会社がピンチの時にアルムナイが助けてくれるかもしれないからです。もちろん企業側がアルムナイを応援し、助けていればですけどね。

——アルムナイの応援の仕方として、企業はどのようなことができるでしょう?

アルムナイネットワークをやるということは、それなりの規模の会社だと思います。それであれば自社のウェブページに、アルムナイの会社やサービス、ブログのリンクを貼ることをおすすめしたいですね。

大きな会社のドメインのランクは高いですから、自分で事業をやっているアルムナイにとって被リンクがもらえるのはありがたいですし、それだけである程度人は集まると思います(※)。

※被リンクとは、外部のウェブサイトに設置されたリンクのこと。ウェブサイトの検索順位を上げるSEO対策に効果的と言われている

会社勤めの方であっても、前職のウェブサイトでブログやSNSを紹介してもらえたらうれしいんじゃないでしょうか。アルムナイネットワークに集まるのは発信が好きなタイプの人が多いように思うので、リンクを貼るのは有効な気がします。インフルエンサータイプの人が集まって盛り上がれば、発信が苦手な人も集まってきますしね。

あとは、ウェブサイトに活躍している退職者のインタビューを載せるのもいいと思います。

——実際に自社サイトに退職者インタビューを掲載する企業も出てきています。応援する姿勢を示す上で、一番わかりやすいですよね。

大学も企業も、きっかけさえあればいくらでもアルムナイと絡めると思います。せっかくの縁ですから、卒業・退職して終わりではもったいないですよね。

今はSNSでつながれますけど、いくつものSNSを使い続けるハードルはある。アルムナイネットワークによって、アルムナイの連絡先が1箇所にまとまっていることにバリューがあると思います。

取材・文/天野夏海