転職を含めたキャリアを支援。エンジニア育成型派遣・ラクスパートナーズの「キャリアハブ構想」とは

エンジニアの超売り手市場が続く中、IT企業は自社の雇用の在り方を考え直すタイミングに迫られています。

そのような中、ラクスパートナーズは「世の中のITエンジニアのキャリアハブになる」をビジョンに掲げ、キャリアを全面的に支援するとし、「自社で働く」以外の道も肯定。若手エンジニアのより良いキャリアの実現に向き合っています。

退職を止めようとする企業が多い中、なぜそのような考え方に至ったのか。背景を聞いてみました。

株式会社ラクスパートナーズ 
取締役 森 大介さん(写真左)
人材開発部 キャリアサポート 佐藤忠昭さん(写真右)

キャリアにとって転職が最適であれば、応援する

——「世の中のITエンジニアのキャリアハブになる」というビジョンを掲げる理由についてお聞かせください。

森:当社は育成型派遣ビジネスをやっている会社です。未経験の方は入社後3カ月間の研修を受講し、その後派遣先のプロジェクトで仕事をしています。

その中で掲げているのが「キャリアハブ構想」です。当社がキャリアの中心地となり、エンジニア一人一人のより良いキャリアの実現を目指すものです。

入社時に未経験であっても、ある程度経験を積むことでその後目指したいキャリアが徐々に明確になってきます。その結果、当社を離れる選択をする人も一定数生じる。その人たちを単に離職させないようにするのではなく、転職という選択肢も含めて支援し、各自のキャリアを成功に導ける会社でありたいと思っています。

——転職も含めてキャリアを支援する?

森:社員がやりたいことを実現するのに最適な道が転職ということもあります。そういった場合にも、基本的には応援するスタンスです。転職の選択肢を提示できるよう、人材紹介事業も立ち上げました。

当社には職種、業種、ビジネスモデルなど多様な派遣先がありますし、営業や育成、採用チームへの異動のキャリアもあるので、社内でキャリアを積む道も含めてさまざまな選択肢を提示し、そして、一緒に悩みます。

——具体的にはどのようにキャリアを支援しているのでしょう?

森:「社員が自身のキャリアを考える時間をつくること」が大切だと考えており、キャリアサポート担当は、エンジニアのキャリア支援を目的としてキャリア面談を定期的に行っています。

派遣会社の多くは企業の営業担当が派遣社員のサポートを行っていると思いますが、ビジネスモデル上、営業担当にも数字目標があるので、ある意味忖度抜きの純粋な意味でのサポートはしにくい関係性になっている面もあります。

そこで、エンジニアのキャリア支援に専念するキャリアサポート担当者は、将来をイメージできていなかったり、目の前の仕事に没頭していたりする社員に対して、少し先のステップを一緒に考えられるような時間を作り、エンジニアのキャリアを支援することに注力してほしいと思っています。

ラクスパートナーズWebページより

——相談に乗る中で、「退職が最適だけど、でも辞めてほしくない」と葛藤することはないものですか?

佐藤:その葛藤はなるべく持たないようにはしていますが、情があればあるほど引き止めたくなるのは事実です。ただ、それはあくまで自分の気持ち。「今の自分は相手のキャリアを考えられているのか」は常に自分に問いかけています。

むしろ引き止めるのは、一時的な感情や短期的な視点で辞めようとしている人に対して。キャリアを中立な立場で支援する立場として、退職後の良い未来が見えない時は、その人が冷静になれるように話をし、考え直すという選択肢を提示するのも自分たちの役目だと考えています。

例えば、もう少し現職で頑張った方がその後の選択肢が広がるエンジニアに対しては、「あと〇年経験を積んで、キャリアの選択肢を最大限広げてから転職した方がより良いキャリアを築ける」ということを伝えています。

選択肢を広げるためにあと1年やる意味はないのか、それから転職では遅いのか。そういったことを一度踏みとどまって考えられる人は、良いキャリアにつなげやすいように思います。

「辞めなくていい人」が増え、エンジニアの離職率が低下

——とはいえ、会社としては極力退職は防ぎたいものですよね。特に貴社は未経験から育成しているわけで、育成コストを考えるとより退職は避けたいのでは?とも思います。

森:もちろん退職を避けたい気持ちはあります。どの企業もそうですが、社員には、採用コスト、育成コスト、人件費などを掛けていますし、派遣ビジネスは人が増えた方が売上が上がるモデルです。

ただ、辞めさせないのはやっぱり難しいです。IT業界を知らずに入社をして、そこから数年たって考え方が変わるのも当たり前のこと。

一方で、本当は進みたいキャリアがあるのに誰にも言えず、自分一人で解決しようとするエンジニアも過去にはいました。結果的に良いかたちで退職ができなかったり、転職に失敗してしまったり……。キャリアを相談できる体制をつくれば、そういう人は減らせるじゃないですか。

同時に魅力的な案件や環境を整備して、当社で働くメリットを提示する。それによって「辞めなくていい人」を増やしたいと考えています。

それに、キャリアを人に相談することで、何かあった時に応援してもらいやすくもなります。自力での転職を否定するわけではないですが、さまざまな人から話を聞くことで新しい自分を発見をすることもありますし、そうやって選択肢を広げることが良いキャリアにつながるとも考えています。

——実際に退職者は減っているのでしょうか?

森:結果的に離職率は下がりました。

これまでは「もう転職しかない」と思い込む人が少なくありませんでしたが、当社で働くメリットや選択肢を増やしたことによって、「転職しなくても自分がかなえたいことができる」と気づいてもらえる機会が増えました。

また、自分自身のキャリアについて考える人が増え、悩んでいる段階で会社に相談をしてくれるようになりましたね。

キャリアサポート担当を通じて社員の状況やキャリアに対する考えを聞けるようにもなったので、派遣先での役割調整や支援、派遣先を変えるなど、当社で働き続ける選択肢を選んでもらえるケースも増えています。今はより一層エンジニアと関わり、キャリア支援を強化しようと取り組んでいます。

——すごい、想定通りですね。「転職を考えています」という相談を受けて、結果的に違う派遣先で頑張ることになる事例は結構あるものですか?

佐藤:おそらく皆さんが想像する以上に多いと思います。キャリアサポート担当はエンジニアからの相談を日々受けていますけど、「いま転職するよりもそっちの現場でこの経験を積みたいです」と思い直したり、話すことで悩みが解決したりといったケースは多々あります。

森:最初からうまくいったわけではないですけどね。2018年7月に分社化をした際にキャリアハブについてホームページに明記しました。キャリアサポートも同時期からはじめましたが、当初は社内の認知はありませんでした。

ラクスパートナーズWebページより

森:また、当時は転職を支援するとなると「離職率が上がってしまうかもしれない」という懸念もあり、キャリアハブを浸透させるところにパワーを割きにくかった事情もあります。

ホームページの説明だけでは伝わらないですし、むしろ「退職を支援するなんてありえない。結局転職を止められてしまうのでは?」と怪しまれてしまう。ですから、地道に一人一人へ説明し続けまして、ようやく少しずつ社内に浸透してきたところですね。

——なぜ転職を含めたキャリアを支援するんだろう?と疑いたくなる気持ちもわかる気がします。エンジニア個人にとっては良いことだと思うのですが、会社としてなぜここまでやるのでしょう?

森:「ITエンジニアを1万人創出する」というビジョンを実現したいと考えています。ラクスパートナーズがキャリアハブとなってエンジニアを増やし、社員や卒業生がさまざまな企業で活躍できる状況をつくる。そうやって、エンジニア不足が深刻な社会へ貢献したいという想いがベースにあります。

そのために未経験からエンジニアを育成し、エンジニアが活躍できる派遣先を用意していますが、何年かするとプロパーとして仕事をしたい、独立したいといった人が出てきます。それを阻止することは、「ITエンジニアの成長・成功を支援し続ける」というバリューと相反する。良いキャリアを積める環境を作っても、最後の最後に嘘になってしまうわけです。

ラクスパートナーズWebページより

森:転職を希望している人には人材紹介事業で企業を紹介していますが、希望に沿わない会社を紹介しても、相手が転職することはまずありません。結果的にエンジニアが満足することが当社にとってもプラスになる仕組みですから、「裏はない」と地道に伝えています。

アルムナイの取り組みが「退職しても関われる」メッセージになる

——退職後もアルムナイとつながり続ける目的を教えてください。

森:具体的にやりたいことの一つは再雇用の促進です。

実際に過去3名、再び当社に戻ってきてくれた人もいます。良い辞め方ができたとしても、転職先でうまくいかない、イメージと違った、ご自身のライフステージが変わったなど、キャリアに悩むことはあるものですから、その時に当社を選択肢の一つとして想起してもらえるとうれしいですね。

キャリアハブ構想によって退職の捉え方が変わり、「卒業」という言葉がぴったりはまるようになりつつあるので、ネットワークの存在が「退職しても関われるんだ」というメッセージになるとは思っています。

あとは、卒業生の皆さんが関わる在籍企業にラクスパートナーズの派遣サービスを紹介してもらいたい想いもあります。

佐藤:キャリアサポートをしたエンジニアとつながり続けられることは担当者として単純にうれしいですね。当社は人材紹介もやっていますので、当社が紹介した企業で働いている方のその後の活躍が知れると、良いキャリア支援ができたと実感します。

——未経験者の育成をする上で、卒業した人のその後のキャリアがわかることは「ラクスパートナーズで働けば活躍できるエンジニアになれる」という根拠にもなりそうですね。

森:未経験から数年経験を積んだ後に、誰もが知る有名企業でエンジニアとして活躍している。そういう未来を実例として見られると先々のキャリアの選択肢が広がるし、想像しやすいですよね。

なによりも、活躍している卒業生の存在は現社員の大きな自信になります。誇らしく感じる人は多いと思いますね。

ラクスパートナーズのアルムナイへメッセージ

——最後に、アルムナイの皆さんへのメッセージをお願いします。

佐藤:アルムナイの皆さんには、ラクスパートナーズと何かしらの形で関わり、応援してもらえると嬉しいです。私たちもそういう会社になれるよう頑張りますし、ラクスパートナーズのファンになってもらえるような取り組みをしていきます。

そうやってファンになってくれる卒業生と一緒に、ラクスパートナーズを違うかたちで盛り上げるようなことができたらいいなと思っています。

過去には3回、アルムナイの方とオンラインイベントを行いましたが、いつか100人規模で集まって、同窓会をしたいですね。

今後もイベントは四半期に一度実施する予定で、情報はアルムナイネットワークを通じて発信しています。縁あって同じ会社にいた人たちが集まるネットワークですから、ぜひ気軽に登録していただけたらと思います。

森:キャリアハブ構想はようやく社内に浸透してきたところで、まだアルムナイの皆さんにきちんとお伝えできていませんが、今後はアルムナイの皆さんも含めたキャリアハブ構想をもっと明確に描いていきたいと思っています。

アルムナイの方の転職を支援したり、当社への再入社を歓迎したりと、ラクスパートナーズに所属したことがあるエンジニア全員にとっての「キャリアの中心地」を目指します。

IT業界では、会社が変わっても別の現場やプロジェクトで再会することも多いです。また、当社がどんどん拡大する中で、親会社のラクスやラクスパートナーズのことを知るエンジニアがいろいろな会社に点在しています。

「ラクスパートナーズのエンジニアだったら安心」と思ってもらえる流れができたら理想ですし、そうやってラクスパートナーズで働いたことがアルムナイの皆さんにとってもプラスになる状態をつくりたい。ぜひ一緒に盛り上げていただけるとうれしいです。