株式会社国際協力銀行(以下、JBIC)は、2024年10月にアルムナイネットワークの運営を開始。2025年2月に「アルムナイパネルディスカッション」を実施しました。
パネルディスカッションでは、3名のアルムナイから “今でも活きているJBICの経験や培ったスキル”や、“外に出て思うJBIC”について語っていただきました。
登壇者 (写真左から)
・山田 昌平さん(SBIインベストメント)
・佐藤 可奈子さん(三菱UFJイノベーション・パートナーズ)
・朝比奈 友里さん(ホンダ・イノベーションズ)
・モデレーター:藤井達也さん(JBIC経営企画部人事室、アルムナイ事務局)
※過去、JBICに所属していた方専用のネットワークです。
テーマ1. JBICでのこれまでのキャリア
藤井さん:
本日は「JBICを卒業後のキャリア」をテーマに、アルムナイパネルディスカッションをお届けします。
JBICとしても、今後アルムナイ同士の関係構築がビジネスにも発展することを期待しています。皆さんにお話いただくことで、コミュニティでの交流のきっかけや、アルムナイの皆さんにとってのキャリアに関する気づきや学びが得られる場となればと思っています。
本日はよろしくお願いします。
まず、皆さんのJBIC時代から現在までのご経歴を教えていただけますか。
朝比奈さん:
私は在籍時にJBICのエクイティ・インベストメント部に所属し、PE(*1)・VC(*2)の管理や新規ファンド組成業務を担当しておりました。
現在はホンダ・イノベーションズのCVCにて、アジア・オセアニア地域のアーリーステージのディープテックスタートアップのソーシング(*3)と協業推進、海外全地域の投資案件のビジネスDD(*4)などを担当しています。
振り返ると、JBIC時代に培った出資業務の経験がなければ、今の自分はなかったと思います。
(*1) PE:プライベートエクイティの略。未公開株式に投資を行うこと。
(*2) VC:ベンチャーキャピタルの略。未上場の新興企業(ベンチャー企業)に投資を行うこと。
(*3) ソーシング:投資先候補を探すこと
(*4) ビジネスDD:投資先のビジネスモデルの把握や将来性に関する分析、調査。
山田さん:
私はJBICで管理部、米州ファイナンス部、ニューヨーク駐在、中堅・中小企業ユニット、産業投資・貿易部、財務部財務課、経営企画部総務課、エクイティ・インベストメント部、JBIC IG Partnersを経て、現在はSBIインベストメントの投資部部長として、スタートアップ向け投資やVC/PEファームとの提携などに従事しています(注:2025年3月にSBI Holdings USAのCEOとして米国に赴任)。
佐藤さん:
私は朝比奈さんと同期で、最初に配属されたのは産業投資・貿易部でした。山田さんとは完全に入れ違いでしたよね。融資業務において、商社、メガバンク、飲料メーカーなどを担当していました。その後、金融法務課にてLIBOR(*5)改定対応、融資契約書レビュー等を担当。セクターとしては鉱物資源などを担当しました。
現在は、三菱UFJイノベーション・パートナーズ(MUIP)の投資チームに所属し、日本をメインにヨーロッパやその他地域も担当しています。最近だと、Sakana AIへの投資に携わりました。
(*5)LIBOR:London Interbank Offered Rateの略称で、ロンドン市場での⾦融取引における銀⾏間取引⾦利のこと
山田さん:
今をときめくSakana AIへの投資の話が出ましたが、SBIも投資をしており、その担当も実は元JBIC職員なんです。JBIC出身者が、日本企業として史上最速でユニコーンに到達したAI開発企業への投資をサポートしているというのは誇らしいですよね。
藤井さん:
退職された今も、皆さんはお仕事でお会いすると聞きました。
山田さん:
そうですね、いい企業があれば紹介したり情報交換をすることもあります。例えば海外のディープテックにとって、自動車業界ではホンダ、金融界では三菱UFJといった高ステータス企業と契約締結できるってインパクトが大きいんです。スタートアップの世界は不確実性や情報の非対称性が大きいので、1番最初にどこの会社と象徴的な契約を取れるか、シグナル効果が極めて重要です。
テーマ2.現職に活かせているJBIC時代の経験・スキル
藤井さん:
現職で海外案件も担当されているとのことですが、JBICでの経験や知見は、現在どのように活かされていますか?
朝比奈さん:
JBICでは、実務を通じて、PE・VC業界の様相や金融知識、従事していたエリア・業界に対する理解、海外取引先とのコミュニケーション、リーガルドキュメンテーション等の知識・スキルを体系的に獲得することができました。これらの素地があるかないかで、現職で仕事をこなすスピードには大きな差があったと思います。
特に、業界理解やクロスボーダー取引のプラクティスを学べたことは大きな財産ですね。担当していたのが北米やインドのファンドなど多種多様だったため、案件に触れながらセオリーやルールを実践的に理解することができました。また、有識者の方々との対話を通じて、どのように交渉を進め、適切に話を終わらせるのかといったノウハウも、現在の業務に大いに役立っています。
佐藤さん:
私は、日本と海外ではそもそも契約書の要素や考え方も違い、ビジネスカルチャーが異なる中で、JBICでの経験により英文契約書を読むことに抵抗感なく入ることができたのが大きかったと思います。国内外に限らず、JBIC では若手でもハイレベルな方とお会いする機会が多かったので、度胸も備わったと思いますね(笑)。
また、JBICの産業投資・貿易部では多くの案件を並行して担当していたので、複数の案件を同時に進めていくスキルを培うことができたと思います。実はVCに興味を持ったのはこのタイミングで、スタートアップ企業の方が面談に来られることもあり、話を聞く中で新しいテクノロジーで新しい世界を切り開いていくスタートアップをサポートする仕事に興味が湧きました。
山田さん:
佐藤さんもそうだったと思いますが、商社、電機・電子メーカー、飲料業界、不動産と様々な分野の企業を担当することになるので、それぞれの業界についての知見も深まりますよね。私も担当する企業の社史から、日本の総合商社の成り立ちに至るまで深堀したものです。社会勉強にもなり、自身の強みになりました。
また、JBICで海外の取引先と交渉してきた経験を通し、契約における考え方、交渉スキル、LP出資者としての目線に加え、ビジネスマンとして立ち振る舞いも身に着いたと感じています。
テーマ3.スタートアップ投資で注目している国や分野
藤井さん:
JBICもスタートアップ投資体制を強化しています。今、注目されている分野について教えてください。
佐藤さん:
私は、オープンソースモデルやSLM(*6)を組み合わせていく生成AIに注目しています。まだ不透明な部分もありますが、これらの技術の高度化により、誰でも使えて柔軟性が高くかつ価格も安くなるという世界が来るのではないかと思っています。
(*6)SLM:Small Language Model, 小規模言語モデル
山田さん:
私は、日本のスタートアップが世界で戦える分野を考えたとき、一つの重要なキーワードは ディープテックだと思っています。特に核融合や半導体に注目しており、日本はこの分野で世界をリードするポテンシャルを持っていると思います。
実は、日本は核融合や核分裂に関する知見とノウハウにおいて、世界と比べて10年先を行っているとも言われています。佐藤さんのお話の通り、生成AIの台頭とともに電力不足が課題となる中、SMR(小型モジュール式原子炉)の活用が議論され始めています。実際、日本のあるスタートアップでは 20年間安定稼働しているSMRの技術を活用することで、テキサスでも関心を集めているなど、非常に注目すべき領域です。
また、半導体は「21世紀の石油」とも言われ、今後ますます幅広い分野で不可欠な存在となるでしょう。TSMC(*7)の熊本進出やラピダス(*8)の動きもありますが、日本が半導体産業を勃興できるかは極めて重要なテーマです。
例えば、私が投資を担当したEdgeCortixでは、AIを端末側で最小の電力効率で動かす半導体の必要性に着目し、アメリカ国防総省と日系スタートアップで初めて契約を締結するなど、ファブレスという立ち位置で新たな可能性を切り開いています。日本の技術が世界で戦うための鍵となる領域だと思います。
(*7)TSMC:台湾積体電路製造股份有限公司。世界最大の半導体受託製造企業のこと。
(*8)ラピダス:日本の主要企業からの賛同を得て設立された先端ロジック半導体に関する研究、開発、設計、製造及び販売を行う事業会社。
朝比奈さん:
山田さんの話していたエッジAIにも関心がありますし、現在の業務に関連する例でいえば、オーストラリアの量子技術・光工学、韓国の半導体・ロボティクス、インドの宇宙産業の動向などは、非常に面白いと感じています。
特に量子技術に関しては、日本含め全世界で政府が投資をしている領域でもあります。
FTQC(誤り訂正能力を有する量子コンピュータ)の研究開発が進んでおり、実用化に向けた期待が高まっています。これが実現すれば、JBIC的な観点だと気候変動に対するモデリング精度向上や、弊社であれば革新的な材料や交通領域でのソリューションなど様々なものが生まれると思っています。
山田さん:
確かに、量子コンピューティングや核融合の分野では、フルスタックで部材を提供できる国は日本しかないとも言われています。ただし、最終的に市場を制するのは、ゲームメイキングできるパワーを持つ企業です。その点で、JBICがこの領域に参画することも、一つの選択肢かもしれませんね。
テーマ4.外に出て想うJBICについて
藤井さん:
外に出て改めて想う、JBICの良い点、期待する点を教えていただけますか。
佐藤さん:
巨額のファイナンスを打てる点と、優秀な人材が多い点がJBICの強みだと思います。先輩方が築いてきたものの恩恵を享受できたことで、前職がJBICであったというレピュテーションはかなり活かせています。
JBICがスタートアップ投資を強化していくのであれば、スピード感と若手社員の意見やチャレンジをより積極的に活かすカルチャーになるとよいと思います。
朝比奈さん:
確かに、一部古風なところもありましたね。今では、だいぶ雰囲気は変わっていると思いますが。
JBICの良い点は、唯一無二の対外政策金融機関としてのプレゼンスとダイナミックな案件が実現できることですね。
山田さん:
私もJBICでの様々な業務に携わる中で、世界中の多様な業種の方々とお付き合いをすることができ、それぞれの業種にどのような特徴があるのかという全体感を持てたことが良かったです。海外勤務を通じて、先進国/途上国それぞれの仕事の進め方の違いを肌で感じることもできました。
課題に関しては、佐藤さんと全く同じ意見です。スタートアップ界隈は、時間が勝負の世界なので、いかにスピード感を持って遂行できる組織かどうか。そのためにはより権限委譲を進め、現場に判断を任せていくことが必要だと思います。「変化なくして生存なし」だと思っていまして、若手が新たな「挑戦をしたい」と言った時に「いいじゃないか、一緒にやろう」と言ってくれる組織かどうかが、いい人材を活かせるかにも関わってくると思います。ぜひそんな会社になって欲しいと思います。
テーマ5.JBICアルムナイに期待すること
藤井さん:
最後に、今後アルムナイネットワークに期待することを教えてください。
朝比奈さん:
弊社が属する自動車業界は100年に1度の変革期、弊社としても第2の創業期と掲げており、前例踏襲でないアプローチやオープンイノベーションによる価値向上に大きな意義があると考えているところなので、JBICアルムナイネットワークを通して他領域でご活躍される先輩方、後輩方と連携を深められることは非常にありがたいです。将来的には協業に繋がるような広がりを生めるよう、私も尽力したいです。
佐藤さん:
VCは人脈勝負なところも多いため、ソーシングでも活かせたらいいですね。JBIC出身の優秀な人材が各所にいらっしゃるので、DDの観点で専門的な領域はリファレンスを取らせていただきたいです。
また、現職だけに限らず、この先の女性としてのキャリア形成などについても、いろいろなお話を聞けたらありがたいなと思います。
山田さん:
以前、「JBICアルムナイはマッキンゼーマフィアをベンチマークにしたい」と話したことがあるんですが、マッキンゼーがあれだけ強くなった理由は、アルムナイネットワークを築いたからとも言えると思っています。
例えばアルムナイコミュニティの中で、誰かが「アルゼンチンでのビジネスってどう思う?」と一言つぶやいた時に、「○○が注目だよ」「○○を紹介しようか?」と気軽に反応してくれるような関係性が同コミュニティにはあると聞いています。風通しが良く、心理的なバリアもなく、JBICという共通項をベースに繋がるネットワークになれるポテンシャルがあると思っていますし、そういう場が用意されていたら、辞めた後もJBICに入ってよかったと思われる一つの要因になり得るのではないでしょうか。
藤井さん:
素敵なメッセージをありがとうございました。印象的だったのは、皆さん「JBICの立場だったら…」とJBICの視点を含めてお話いただくことが多く、今もJBIC目線で考えていただいていることが伝わり、うれしく思いました。
今後もアルムナイ事務局では、アルムナイの皆さんにとってより価値ある場を、皆さんと一緒に創っていきたいと思っています。本日はありがとうございました。
※過去、JBICに所属していた方専用のネットワークです。