サントリーの営業から教員へ。そして「高校生向け就職支援」というニッチビジネスへの挑戦

サントリーアルムナイの永田謙介さんにお話を伺いました。

2006年に入社し、7年間営業として活躍した後、退職して教員になる夢を叶えた永田さん。高等学校の教員から「株式会社ビズリーチ」への転職を経て、現在は高校生向けのキャリア支援事業などを展開する「株式会社Spark」を設立されています。サントリーで得た学びや、転職後のキャリアについて語っていただきました。

※過去にサントリーホールディングス㈱、サントリー食品インターナショナル㈱に在籍していた方専用のネットワークです

「人」に惹かれ入社。同期と切磋琢磨した営業時代

――まずは、新卒時にサントリーを選んだ理由を教えてください。

学生の頃から教員になりたいと思っていました。中学生の時に大けがをしたのですが、その時の先生の言葉に救われて、自分もこういう人になりたいと思ったのが教員を目指すきっかけです。

ただ、周囲のアドバイスもあり、また、自分でも大人として一般社会を知っておいた方が教員としても説得力が大きくなると思ったのでまずは一般企業で働いてみようと就職活動をスタートしました。

それまでの人生でも、周りの人から刺激を受け「この人を超えたい」と思うことがモチベーションになっていたので、就職活動では会社選びの軸を「人」に定め、業種や業界を絞らず50社ほどの方と話をしました。その中で、働く人に一番魅力を感じたのがサントリーでした。すごく熱い、仕事にとことん一生懸命な人が多い印象を受けたんです。

――入社後はどのようなお仕事をしていたのですか?

業務用営業がやりたいと志望していたのですが、最初に配属されたのは家庭用営業でした。希望通りの配属ではなく、初めのうちはモチベーションが上がりませんでした。

ここで辞めて教員になる選択肢もあったのですが、そうしなかったのは、同期の存在です。私と同じく本来望んでいた仕事ではなかった同期の中には、家庭用営業で着実に成果をあげている仲間がいました。そんな姿を見て「ここで何も成し遂げないで辞めるのは嫌だ」と踏みとどまりました。

――その後、念願の業務用営業に異動になったそうですね。

業務用営業は成果が目に見えてわかるので、めちゃくちゃ楽しかったです。

少し変わった営業スタイルだったとは思いますが、サントリー製品を販売することよりも目の前の飲食店の売上げをどう伸ばすかに重きを置き、魚や肉、不動産など、自社製品に関係ないものばかり提案していました(笑)。

「サントリーの営業」というネームバリューがあれば、私みたいな若造の提案でも各事業者さんに聞いてもらえたんです。おかげで提案の武器がどんどん増え、関わった飲食店が業績を伸ばしていくのが楽しくてしょうがなかったですね。 

「後悔しない選択をしよう」と、夢だった教員への転身

──充実した日々だったかと思いますが、退職を決意した経緯はどのようなものだったのでしょうか。

仕事が面白くて、気づいたら5年目を迎えていました。「人も良いし、新しいことにもチャレンジできる。このままサントリーで頑張ろう」と思う反面、「初志貫徹し、教員になりたい」という思いも捨てきれず、葛藤する日々でした。

決め手になったのは、2011年3月11日の東日本大震災。結婚して子供が生まれ、ライフステージが変わった時期でもあり、環境の変化で自分がやりたいことができなくなることもあるんだ、と思い知ったんです。

「結果ではなく、後悔しない選択をする」――今後はこれを人生の指針にしようと決めました。「サントリーで働き続けたら楽しいだろうけれど、後悔するかもしれない。教員の道に進めば、すぐ辞めたとしても、きっと後悔はしないだろう」という結論に至り、仕事をしながら通信制で教員になるための勉強を始めました。1年半後、教員資格認定試験に合格しました。

教員になるために退職すると周囲に告げた時は、かなり驚かれましたし、「絶対後悔する」と引き留める人が圧倒的に多かったです。でも最終的には私の夢や思いを理解していただき、「やってみなはれ」というスタンスで、みなさん応援してくださいました。

――退職後のキャリアについて聞かせてください。

念願叶って公立の高等学校で地歴公民科の教員になったのですが・・・2年しか続きませんでした。究極にダサいですよね(苦笑)。

理由は明確で、環境が合わなかったんです。新しいことにチャレンジしようとするサントリーの思想と公立高校の世界は違うものでした。どちらが良い悪いではなく、致命的に合わない環境に私が飛び込んでしまったわけです。授業や部活の指導など、教員としての面白さは感じていましたが、同僚と切磋琢磨する…ある種競争するような環境に身を置いていたい気持ちが強くなっていました。

自分にとって「何をやる」よりも、「誰とどういう環境でやるか」が圧倒的に大事な要素なんだと改めて気付かされました。

――教員を辞めて、サントリーに戻りたいとは思わなかったのですか?

もちろん思いましたよ。迷いに迷った結果、「教員になったことにも、高校生の就職に携わったこともきっと意味がある。高卒就職に関わるビジネスをした方が後悔しないんじゃないか」と、サントリーへの思いを吹っ切りました。

当時はまだ高卒就職に特化した企業が少なかったので、いずれ自分で起業することを視野に入れ、人材業界への転職を決意。先に入社していた友人の勧めもあり、HR業界のベンチャーとして注目されつつあった「ビズリーチ」に入社しました。

惹かれたのはやはり「人」でしたね。「この人たちと一緒に働いたら、きっと自分もレベルアップできる」と強く感じましたし、実際、この3年間で課題解決、論理力、交渉力、事業開発といったお金を作るのに必要なビジネススキルを身につけることができました。

あえて「高卒就職」という狭いマーケットに挑む理由

――教員を辞めても、高校生と関わりたかったのですね。

そうですね。私が教員を志したのは、先ほどお話しした中学時代の恩師に加え、自分自身、小学生~大学生までの学校教育で、仕事のことや自身のキャリアに関して具体的にイメージをもつことができず、「働くこと」に漠然と不安を持っていたことも理由です。学校教育の現場で「働くこと」を具体的に考えられるような機会を提供したいと思い最終的に教員になりました。私の担当教科が地歴公民で政治経済などを教えていたのもこの辺りが理由です。

教員になってみて、高卒就職の仕組みが高校生にとってベストでないことに気づきました。また、これもやってみてわかったことですが、高校生とかかわるのに必ずしも教員である必要はないんですよね。高校生の就職サポートという領域に集中して、ビジネスサイドから一人でも多くの高校生の選択肢と可能性を拡げたいと考えました。

──現在はどのようなビジネスに携わっているのですか?

2018年に「株式会社Spark」を設立し、「NEWGATE COMPANY」という求人メディアの運営や、学校内でのキャリア教育といった、高校生向けのキャリア支援事業を行っています。企業に対する採用コンサルや採用代行ビジネス事業、ホームページや動画の制作といった企業ブランディング事業、人材紹介事業も展開しています。

私自身、一番思い入れがあり会社の軸にしていきたいのは、高校生向けのキャリア支援事業です。教員時代に感じた「生徒が進路を決める際に、もっとたくさんの選択肢を与えてあげたい」という理念のもと、取り組んでいます。

ただ、高卒就職はマーケットが狭く、縮小しつつある領域です。しかし、だからこそ大手企業が参入しないので、当社くらいの規模だからこそ戦えるマーケットともいえます。理念を持ってやり続けたら、絶対に強者になれるはず。しぶとく生き残って、「高卒就職といったらSpark」といわれるブランドになるのが目標です。これからも学校や企業と連携しながら高卒就職を支援していきたいですね。

──サントリー時代で学んだことで、現在活かされているものはありますか?

目標達成に向けたメンタルタフネスと愚直さ、自身の弱みを受け入れ改善する素直さといった「ビジネススタンス」が一番の財産です。仕事をしていく上でビジネスタンスが何より大事だと今となって感じることが多くあります。ビジネススタンスは途中から身につけようと思ってもなかなか難しいものなので、サントリーが1社目でよかったと心から思います。

今振り返ると、最初に家庭用営業で3年半耐えた経験も大きかったかもしれません。やりたくないことや苦手なことに向き合う期間があったおかげで、どんなことでも楽しくしようと頑張れたし、どんな環境にいても愚直にやれば成果をあげることができると実感しました。あの日々があったからこそ、ビジネス視座を高めることができたと思います。

── 最後に、現役サントリアンへメッセージをお願いします。

退職したからこそ改めて思うんです。サントリーっていい会社だなって。

会社に属している間は、どうしても目の前の仕事に手一杯で視野が狭くなりがちですが、実はサントリーほどチャンスを与えてくれる会社はないと思います。

現役サントリアンには、今ある環境を生かしながらいかに自己実現するか、という視点を持つことをおすすめします。サントリー内で転職するというキャリア形成も選択肢のひとつかもしれません。すぐに希望通りの仕事に就くことはできないかもしれませんが、思いは伝えたほうがいい。ぜひ「サントリーの社員」というバリューをフル活用して、自分がやりたいことにチャレンジしてください!

※過去にサントリーホールディングス㈱、サントリー食品インターナショナル㈱に在籍していた方専用のネットワークです