【ユーザー限定イベントレポート】大手もベンチャーも経験した「仕事の研究」の著者が語る、ベンチャー企業で実現するキャリア自律

ハッカズークでは、多くの企業とアルムナイの関係構築に関わる中で、「アルムナイの方々が価値を感じる場を創りたい」という想いから、アルムナイユーザーに登壇いただくセミナーイベントを定期的に開催しています。

2025年7月17日に開催されたセミナーでは、電通アルムナイ(同社の関連記事はこちら)であり『仕事の研究』の著者である美濃部哲也さんが登壇。大手企業とベンチャー企業でのキャリア形成の違いや、自分らしいキャリアの築き方について、トークセッション形式でお話を伺いました。

美濃部氏が登壇したセミナーイベントのバナー画像

【登壇者プロフィール】
電通アルムナイ 『仕事の研究』の著者 美濃部哲也さん
新卒で株式会社電通に入社。その後、(株)サイバーエージェント常務取締役、(株)テイクアンドギヴ・ニーズ取締役、タビオ(株)執行役員、 (株)ストライプインターナショナル執行役員、(株)ベクトル執行役員、リノべる(株)取締役副社長、ソウルドアウト(株)取締役CMOなどを歴任。ベンチャー企業を中心に創業社長および2代目社長の側近として会社と事業の成長を牽引。現在は、事業主側の経営視点で、経営と事業のアドバイザリー業務、マーケティングおよびブランディングのアドバイザリー業務、ブランディング活動のディレクションおよびプロデュースを行う。

トークセッション

大手企業からベンチャー企業への転職の決断と挑戦

ーー美濃部さんの最初のキャリアの転機は、電通を退職してサイバーエージェントへ転職されたことだと思います。この決断をされたきっかけを教えてください。

当時は、インターネットが世に出始めた時期でした。もちろんWi-Fiはまだなく、ナローバンドと呼ばれる低速な通信回線しかない時代です。それでも、インターネットの可能性を強く感じていて、それを仕事にしたいという気持ちが高まっていました。

電通ではマーケティングやブランディングの領域に長く携わっていて、個人的には「やり切った」と感じていました。インターネット部門への異動希望も出しましたが、会社としてはまだその領域に力を入れられないという状況でした。

そんな時、後輩がサイバーエージェントに転職したんです。彼が「遊びに来てくださいよ!」と声をかけてくれて、渋谷マークシティにあったオフィスへ行きました。すると社長の藤田晋さんも待ち構えていてくださって(笑)。それがサイバーエージェントへ入社したきっかけです。

その頃のサイバーエージェントは社員が100人もおらず、どうなるかわからないと言われていて、不安はありました。でも、自分の好奇心を殺してはいけないと思いましたし、困った時にはプランナーとして独立して、電通と契約する道もあると考えていました。そこで思い切って転職し、メディア事業部の立ち上げに携わることになりました。

ーー会社の規模はもちろん、仕事の進め方も組織風土も違って、さまざまなご苦労があったのではないかと思います。どのように乗り越えたのでしょう。

とにかく「3倍やる」という感覚で仕事をしていました。時間・量と成長度合いをグラフにした「成長曲線」がありますよね。一定の時間・量をかければ、比例のグラフのように直線的に成長するものではなく、しばらく停滞期が続いて、ある時から急に伸びますよね。そのグラフを思い描いて実現させるために、常識の3倍やることにしたんです。

成長曲線のグラフ

サイバーエージェントに入社当初は、あまりインターネットに詳しくなく、飛び交うシステム関連の単語も半分はわからない。会社としても未整備の部分が多く、全部自分でやるしかないというような状況でした。そのような中で「3倍やる」ようにしていたら、徐々に仕事が進められるようになっていきました。

また、サイバーエージェントに限らず全ての転機で、まずは小さな成功を作ることを意識していました。私は、複数の会社への転職経験がありますが、そのほとんどが、経営者が「今いる社員だけではできないことをやりたい時」に入社しています。そのような時には、社内にはノウハウもなく、それができる人もいないため、外部の専門性の高い人たちとチームをつくります。そして、小さな成功を作るんです。そうすると徐々に周囲も協力的になってくれます。まずは外部のプロと一緒に新しいことを始め、その後は意気投合した社員と一緒につぎつぎと新しいことを作っていきました。

ベンチャー企業への転職を成功させる秘訣

ーーベンチャー企業への転職を成功させる秘訣を教えてください。

私は自身の年収を上げるために転職したことがありません。サイバーエージェントからテイクアンドギヴ・ニーズに転職した時も、大幅にさげてジョインしました。でも、人生を長期的に見たら、若いうちは経験が資産になります。それにベンチャー企業の場合、高い年俸で入社しても、成果が出せなければ年俸は下がるケースも多々あります。逆に、入社時に年収が下がっても、期待値を超える成果を出せれば、1年以内に年俸は上がるものです。

あとは率先して現場に立つことも重要ですね。ウェディング事業を手掛けるテイクアンドギヴ・ニーズでは、営業統括本部長を務めていた頃、結婚式がある土日・祝日には休まず現場に行きました。来場するお客様にご挨拶したり、スタッフと一緒におもてなしをしたり、お客様からのクレームの対応もすべて自分で対応させていただくという気持ちでやりました。

BtoBでもBtoCでも、お客様との接点を直接的によく知っている人こそ、正しく考えることができ、発言にも説得力が生まれやすいです。また、自分の専門性がどう会社に貢献できるかを考えるときにも現場の経験は役立ちます。自信を失いそうになったら、とにかく顧客接点の現場に行くようにしています。

大企業とベンチャー企業の違い

ーーこれは、多くの方からいただいた質問です。キャリア形成における大手企業とベンチャー企業の違いについて、美濃部さんはどう考えますか。

大手企業の良いところは、制度が整っていて、いわゆる社会人教育がしっかりと行われていること、また優秀な先輩が身近にいることだと思います。ただ、組織が大きい分さまざまな仕事が仕組み化されていて、その中で専門性を磨くことになります。

一方で、ベンチャー企業は敷かれたレールがありません。手を挙げればやらせてくれる機会や、新しいことにチャレンジする機会もあふれています。経営者のタイプによりますが、失敗に対しては比較的に寛容です。自分自身を成長させたい人や、前のめりになれるタイプの人なら、こうした環境は向いていると思います。

「誰かがやるのではなく、すべて自分でやるのがベンチャー」ーーこれは私自身、テイクアンドギヴ・ニーズに入社した時に部下から言われた言葉です。だからこそ、現場での経験は非常に重要なんです。職責が上でも、現場を知らないと周りはついてきません。やはり現場は基本です。

キャリア自律とは

ーー昨今、「キャリア自律」が重要視されていますが、美濃部さんにとってキャリア自律とはどんなものだと考えますか。

キャリア自律とは、「この人だから頼りたい」という頼られ方をすることだと思います。自分にとっての好奇心や挑戦、経験も重要ですが、私自身は「その会社や経営者に貢献できるかどうか」を重要視しています。貢献と表裏一体なことが、すなわち、必要とされることでもあります。会社の看板がなくても、社内外の人から頼られるか。この視点で自分を客観視する機会を作ると良いかもしれません。

とある上場ベンチャー企業の経営者が、キャリア自律についてSNSで発信していました。「会社に安定を求めるな。あなた自身の市場価値に絶対的な安定を求めろ」。会社はあなた自身が「日本最高峰の売れる人材」になるための『舞台』であり、最高の『ジム』である」そこにはこのようなことが書かれていました。「会社を利用して大きい仕事をしよう」という感覚は重要です。私が在籍していた頃の電通にも社内起業しているような優秀な先輩がたくさんいて、まさに同じようなことを言っていました。

ーー個人として頼られるかどうかという視点が重要なのですね。

電通時代の先輩である著作家の山口周さんの著書『人生の経営戦略 -自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20- 』も、非常に参考になると思います。本書では、人生というプロジェクトの目的を「持続的なウェルビーイングの状態を築くこと」とし、そのために重要なのが時間資本だと説明しています。

時間資本を適切に配分することで、人的資本(スキル、知識、経験)に転換され、それが社会資本(信用・評判、ネットワークなど)の構築につながり、最終的には金融資本を生み出すことにつながる。そして目的が達成されます。

特に20代は、人的資本(スキル、知識、経験)を蓄積することにフォーカスして、自分の得意や強みを見つけることが重要です。「強み」というのは、他の人との比較ではなく、他にはない「その人らしさ」です。20代~30代で自分に向いているものに出会い、社会的な信用を積み上げていって、40代で花開く。今の若い人なら、さらに自分の人生をスピード経営することもできると思いますよ。

キャリアに悩んでいる方へ

ーー最後に、キャリアに悩んでる方へメッセージをお願いします。

これからの時代は、人と違う方が良いと思います。だから自分らしさを見つけて、それを信じて、そのことを好きになることが大切だと思います。そして、得意なことは何かを考える時には、名詞ではなく動詞で考えること。私の例でいうと、好きなこと得意なことは「観察して想像すること」です。観察から気づきやひらめきを得て、発想したり生み出したりする仕事をしています。

まずは、自分の得意なことや好きな行動パターンを大切にしてみる。それがキャリア自律の第一歩になるはずです。

参加者からの声

セミナー中には多くの質問が寄せられ、終了後のアンケートでは、次のようなコメントが集まりました。

・若いうちは経験が財産になる。という言葉が非常に印象に残りました。今後も経験を積んでいきたいと心から思いました。

・「そのままいるより転職した方がいいと思ったら、一旦2日くらい寝かせて、もう一度考えてみる、その気持ちが51%以上だったら、自分を信じてやってみる、死なないから、一生懸命やっていれば協力者が現れる」という言葉に勇気をもらいました。

・人の三倍やって突破するという、成長曲線の話が印象的でした。これまでの経験からもまさにその通りだと実感しました。

主催者あとがき

今回のセミナーでは、美濃部さんの豊富なご経験から、大企業とベンチャー企業それぞれのキャリアの特徴や、「キャリア自律」をどのように捉えるか、成長していくためにはどう考え動いていくのか、について多くの学びをいただきました。「自分らしいキャリアをどう描いていくか」というテーマを、参加者の皆さんと一緒に考える貴重な時間になりました。

ハッカズークは今後も、定期的にセミナーを開催する予定です。アルムナイの実体験から新たな気づきや学びを得られる場として、ぜひご参加ください。