【ユーザー限定イベントレポート】テクノロジー×ビジネスで東北をアップデート――ベンチャーキャピタリストが語る地方創生のリアル

株式会社ハッカズークでは、多くの企業とアルムナイの関係構築に関わる中で、「アルムナイの方々が価値を感じる場を創りたい」という想いから、アルムナイユーザーに登壇いただくセミナーイベントを定期的に開催しています。

2025年6月11日、「新しい経済循環を作る ~地方創生の最先端~」をテーマにイベントを開催しました。登壇者は、シグマクシス・グループのアルムナイ(同社の導入インタビューはこちら)で、現在はベンチャーキャピタリストとして活躍する福留秀基さん。地方創生の最先端やリアルについてお話しいただきました。

【登壇者プロフィール】

スパークル株式会社 代表取締役 福留秀基さん

1992年大阪府生まれ、東北大学大学院通信工学専攻修了。株式会社シグマクシスにて、飲料メーカー・金融業・専門商社などを対象に、デジタル戦略コンサルタントとして新規事業開発・PMO案件・ビジネスデューデリジェンス・データ解析に従事。その後、MAKOTOキャピタルに参画し、MBOを経て現職。ハイテク・R&D領域を中心としたベンチャーキャピタル業務、地域発DXの推進、戦略領域を中心としたコンサルテーションを行っている。

【スパークル株式会社について】

金融とビジネスの両面から地域企業を支援

福留さんが代表取締役を務めるスパークル株式会社は、宮城県仙台市に本社を置くほか、福島県南相馬市と青森県弘前市にもオフィスを構えています。手掛けている事業は「ファンド事業」「インキュベーション事業」「経営ソリューション事業」の3つ。金融とビジネスの両面から地域企業を支援し、案件を「呼び込む」、投資して支援し「動かす」、人材を「育てる」、この流れに一貫して取り組んでいます。

地方創生への想い

大阪府出身の福留さんが、なぜ東北の地方創生に取り組むのか。きっかけは、大学進学を機に東北へ移り住んだことでした。2011年の東日本大震災直後に東北大学へ入学し、非常事態の中で学生生活を経験したことが、東北との深い縁を作ることになりました。

大学・大学院ではAIや半導体などの最先端の研究に触れ、卒業後は株式会社シグマクシスに入社。ITコンサルやデータ分析、ビジネスデューデリジェンスなど多様なプロジェクトに関わり、ビジネスとテクノロジー両面から物事を捉える力を磨きました。
そうした中で、自身が地方出身者であるという自覚と、震災後の東北で過ごした経験が重なり、「地域や地方に対して何かしたい」という思いが強まったと言います。その思いを実現するため、MAKOTOキャピタルに入社して投資事業に関わり、現在はその事業を自らMBOして推進しています。

福留さんの夢は、なんと「東北に平泉以来の栄華を作る」こと。「日本全体の元気がなくなってきている今こそ、逆にチャンス」と語りました。

地方創生のリアル

セミナーの後半では、質疑応答が行われました。参加者からの質問に回答しながら、地方創生のリアルについて語りました。

地方で新しい事業を行うために必要なこと

―地域の方に新しい事業を認知・協力してもらうには?

福留:最初から行政や公式な機関に協力してもらおうとしても、なかなかうまくいきません。私の場合、まずは地域内のパワーバランスを読み取るようにしています。誰がキーパーソンなのか、誰と誰が合わないかといった情報を集めるため、地元の飲み会に参加したり、商工会の青年部などに参加したりして人間関係を把握します。

一次会ではあまり本音は出ませんが、二次会辺りから「実は……」という話を聞くことができます。そうして信頼関係を築いた上で、まずは相手にとって役立つ情報を提供します。いわゆる“ギブファースト”の姿勢です。そのうえで、タイミングを見て自分のやりたいことを伝えています。

―反対意見が出た場合、どう説得していくのでしょうか。

福留:私が心がけているのは、絶対に「Win-Win」という言葉、その考え方を使わずに、丁寧に話していくことです。理由は2つあります。

一つは、カタカナ用語を極力使わないようにするためです。聞き慣れない言葉は、相手に誤解を与えたり、うさんくさく見えたりします。「ビジョン」や「コミュニケーション」など一般的な言葉は別として、なるべく平易な表現に置き換えて話すようにしています。

もう一つは、最初から「儲かる」話を全面に出さないためです。最初にお金の話をすると、「どうせお金が欲しいんでしょ」と思われてしまうことがあります。それよりも「一緒にこういうことができる」とか、「御社にはこんな価値が返ってくる」といった共創のイメージで話すようにしています。

言っている内容は同じでも、使う言葉や語り口で伝わり方が大きく変わります。特に地方では、「言葉の背景」や「思想的な価値観」を大事にする方が多いので、私もそこを大切にしていますし、どこと組むかを考えるときにも、その感覚を持っているかどうかで見極めます。

地方創生課題と打ち手

―現在、課題に感じていることと、その対応は?

福留:課題は大きく2つあると感じています。一つは、そもそも事業のアイデアが足りておらず、「案件」が生まれていないことです。補助金頼みや「流行だからやっておこう」といった案件は大体うまくいきません。リスクがゼロではなくても、熱量がないといけないのです。

もう一つは、案件を動かす人材がいないことです。地域にいるのは自治体や地銀などの“間接機関”が中心であるため、事業者ほどのリソースを割いたり、大きなリスクをとったりすることが難しいです。だからこそ、リスクを取ってでも一緒にやろうと言ってくれる地元企業を巻き込むことが重要です。

私たちは今、「リスクを取れる民間」としての立場を活かしながら、地銀や自治体と連携しつつ、実際に動けるプラットフォームを作っています。たとえば「東北STARTUP RUNWAY」では、東北の金融機関や自治体と一緒に、一括相談窓口のような仕組みを作っています。民間だからこそ、スピード感を持って柔軟に動けるという強みを活かした取り組みです。

また、先ほどの「INNOVATION NEXUS TOHOKU」も、こうしたプラットフォームの一つです。最終的には、事業提携やM&Aといった形での資本的な連携も目指しており、すでに半年で1社が提携に至るなど、着実な成果も生まれています。

東北ならではの課題、可能性

―東北ならではの課題は?

福留:どの地方にも共通する課題は、「人口減少」と「DXの遅れ」です。東北ならではの課題でいうと、一つは、本社機能を持つ事業所の割合が少ないことです。産業集積が低く、地元発の事業案件があっても東京の企業に流れてしまうことが少なくありません。

ほかにも、東北には多くの課題があります。そうした状況を私は「課題先端地域」と前向きに捉えています。課題が多いからこそ、挑戦できることが無限にあり、そこで得られた解決策を世界に向けて輸出できる可能性もあるはずです。

たとえば、リモートワークや「関係人口」といった新しい概念も、実は東北、特に岩手から生まれたもので、そうした新たな発想が地域から出てくる土壌は確かに存在しています。

―東北の魅力は?

福留:外から来た人間として感じる東北の魅力は、「我慢強さ」と「連帯感の強さ」です。精神性がとても豊かで、それが地域の底力にもなっています。ただし、その我慢強さが行き過ぎてしまうこともあるため、外部の人間がうまく引き出す役割を担う必要があると感じています。

これからの東北には、完成された仕組みを上から押し付けるのではなく、現場や民間が主体となって動かす“イノベーション”が必要です。私自身、東北出身ではありませんが、だからこそこの地域のもったいなさと可能性を強く感じています。課題だらけの中で自分たちの手で未来を作っていけるという“手触り感”こそが、私が今、東北で挑戦を続けている理由です。

地域創生の面白さ

ー福留さんにとって、地方創生の面白さとは?

地方は自治体と地銀だけで成り立っているわけではなく、非常に多面的な構造を持っています。まずは頭の中にステークホルダーマップを描いておかないと、物事がスムーズに進みません。たとえば、異動で2〜3年だけその地域に来るといった関わり方では、なかなか難しいと感じています。そうした苦悩を理解していないと、わからないことは多いと思います。

私にとって地方創生の面白さは、中学・高校時代に叩き込まれた「ノブレス・オブリージュ(高潔なものの義務)」を実践する場であることです。私自身「よそ者」という挑戦者としての立場にいて、「東北に平泉以来の栄華を作る」という大きな目標を目指しているーーそうしたある種の“狂気”のような感覚が、今の私を支えているのだと思います。

参加者からの声

事前の質問に加え、セミナー中にも多くの質問が寄せられ、参加者の関心の高さがうかがえた今回のセミナー。参加者からは次のようなコメントが集まりました。

・中央から来て儲けるという考えでなく、真に地方課題解決を実践されている心に共感できました。お付き合いする企業を見極める点でも、大切な考えを改めて気づかされた気がします。

・地方創生の観点だけでなく、ビジネスマンとして必要なマインドを学びました。 職種、業界関係なく、活かすことができる内容であったと思います。

・熱量を感じ非常に共感しました。また内容も具体的で建前ではなくリアルななお話を聞かせていただきました。

主催者あとがき

福留さんの東北への強い想いや、地元企業や行政との信頼関係を丁寧に築く姿勢、そして「民間発のイノベーション」を通じた地方創生のアプローチに多くの学びがありました。特に、「言葉の使い方ひとつで伝わり方が変わる」「リスクを取る民間の存在が不可欠」といった言葉は、多くの参加者の心にも響いたようです。
課題が多いからこそ可能性も大きい――そんな前向きな視点に、私たち自身も背中を押される思いでした。

ハッカズークは今後も、定期的にセミナーを開催する予定です。アルムナイの実体験から新たな気づきや学びを得られる場として、ぜひご参加ください。