「退職者(アルムナイ)と辞めてからもつながりを持ち続けよう」とする企業が増えてきました。ただ、その対象は「元社員」に限定されていることがほとんど。
そんな中、新卒採用のクラウドサービス『ONE CAREER CLOUD』を運営する株式会社ワンキャリアでは「インターン卒業生の同窓会」を行ったそうです。
インターン生は新卒採用の一環として受け入れるのが一般的。なぜワンキャリアは、すでに就職しているインターン卒業生との同窓会を開いたのでしょうか? その理由を伺うと、「会社と個人の新しいつながり方」が見えてきました。
PROFILE
株式会社ワンキャリア 最高戦略責任者 / 経営企画室
取締役 北野唯我さん
新卒で博報堂の経営企画局・経理財務局。ボストンコンサルティンググループに転職し、2016年ワンキャリアに参画、最高戦略責任者に就任。30歳のデビュー作『転職の思考法』が16万部、『天才を殺す凡人』が10万部。最新著書『分断を生むエジソン』『オープネス 職場の空気が結果を決める』
Twitter:@yuigak ブログ:「週報」
株式会社ワンキャリア 経営企画室
人材開発・プロデュースチーム 水上理子さん
大阪大学法学部卒業後、新卒でデロイトトーマツコンサルティングに入社し、人材マネジメント・D&Iを中心とした組織・人事コンサルティング業務に4年半従事。2019年11月、学生時代にインターンをしていたワンキャリアに、人事として転職。同社取締役の北野とともに、全社の組織戦略をゼロから設計・運用している。
インターン卒業生は「会社のビジョンや価値観」を広める存在でもある
—— ワンキャリアのインターン卒業生を集めた同窓会を行ったと伺いました。今日はそのお話をお聞きしたいと思います。
北野:今回のインターン同窓会は水上がメインで動いてくれました。実は彼女もうちのインターン出身者なんですよ。新卒でデロイト トーマツ コンサルティングに入って約4年間、人事や組織のコンサルティングをやったのち、2019年の11月にワンキャリアに戻ってきてくれました。
—— 水上さん自身がインターン卒業生なんですね! 今回の同窓会はどういった意図で企画されたのでしょうか?
水上:私がワンキャリアに戻ってきた時、インターン卒業生を数えてみたら400人ぐらいいることに気づいたんです。インターン卒業生が就職した業界はさまざまですし、中には起業した人もいて、活躍の幅はとても広い。インターン卒業生とのつながりが、会社とインターン卒業生の双方にとってプラスになるのではと思ったことが、今回の企画のきっかけになりました。
少しずつ変わってきてはいるものの、終身雇用に慣れ親しんでいる日本企業では、定年退職以外の退職や転職に対してネガティブな印象を持つ人がまだ多い。元々組織コンサルをやっていたこともあって、そんな課題意識もありましたね。
でも本来、一緒に働いてきたメンバーは会社の価値観やビジョンを共有しているわけですから、さまざまなところに散らばることでそれを広める役割もあるはず。それはワンキャリアの価値を高めることにもなりますから、やっぱり卒業生は価値であり、資産だと思っています。
北野:「卒業生が資産である」というのは間違いありません。今の時代は辞める人を「退職者」ではなく「卒業生」であると、企業は認識を整えた方が絶対にいい。その上で、卒業生にも「この会社で働いていてよかった」と誇りに思ってもらえるかどうかは、「強い会社かどうか」の分かれ目になる。そういった取り組みの一つとして、今回はインターン卒業生に向けたイベントを行いました。
—— 開催してみて、いかがでしたか?
水上:当日参加した100名の卒業生のうち、50人強がアンケートに答えてくれたんですけど、100%が「また参加したい」と回答してくれました。「刺激を得られた」という感想が多かったのも印象的でした。普段働いているとどうしても社内に目が向きがちですので、いろいろな業界で働いている人たちと話ができることが有意義だと感じたようです。ワンキャリアという共通点があるぶん、話しやすいですしね。
今回ワンキャリア側からは代表を含めた役員と一部の社員が参加しましたが、社員も同じく刺激を受けたのはもちろん、中には社員が数人しかいなかった泥臭い時代のワンキャリアでインターンをやっていた人も来ていて。会社の軌跡を感じられる良い機会にもなったと思っています。
北野:起業家の経歴を見ると、大学時代の同級生や新卒で入った会社の同僚と一緒に会社をやっているケースが多いじゃないですか。そういうつながりは約400人のインターン卒業生たちにとっても絶対に重要だし、そのきっかけを作るためにも「今その人が何をしているのか」を知るタイミングが必要だと思っています。それを提供できたのは良かったですね。
インターンは“give”の気持ちがないと絶対にうまくいかない
—— 約400人のインターン卒業生のうち100人弱が参加したとのことですが、すごい参加率だと思います。その要因は何だと思いますか?
水上:今回の同窓会以前から、社員と定期的に会っているインターン卒業生は多いんです。私自身、卒業してからも年1回は会っていました。
そういう関係性が築けている理由は2つあって、一つはワンキャリアでのインターンが大事な思い出になっていること。学校の同級生と会ったり同窓会に行ったりするのも、思い出があるからですよね。
あとはやっぱり「人」で、私は代表の宮下や執行役員の長谷川と仕事をやらせてもらっていたんですけど、彼らが永遠のメンターのような存在になっています。何かあったら相談してみようと思えるから、卒業後もつながりを持ち続けられていたんだと思います。
—— ワンキャリアでのインターンが大事な思い出になり、当時一緒に仕事をしていた人が永遠のメンターになる。そういうふうに思えるのはなぜなのでしょう?
水上:社員が全力でインターン生の育成に向き合っているからだと思います。「どの会社に入っても、入社1年目でNo.1になってもらう」ことを目指していて、実際にインターン卒業生の多くが社長賞やMVPなど、何かしらの賞を取っています。
私の前職は表彰制度がありませんでしたが、しっかりと成果が出せたから希望する領域の案件にチャレンジさせてもらえました。インターンをやったことで基礎力がついていたので、新しい会社に入った時に一歩抜きん出て成果を出せたのかなと思っています。
北野:そもそも、インターンは“give”の気持ちが会社側にないと絶対にうまくいきません。「どうやったら採用できるか」を目的にしてしまっている会社もありますが、それは「インターンを採用ターゲットとしか見ていない」ということ。そういう態度は学生にもバレているものです。
また、今の時代の採用活動はほぼブランドで決まります。そしてブランドはクチコミで決まる。「あの会社いいよね」というクチコミがインターン生の周りにジワジワ広がっていくのは、長い目で見た時に採用ブランドに対する投資になりますよね。では、何でブランドは決まるか? それは、やっぱり体験なんですよね。いい体験をしてもらうこと。
ただこういう話をすると、「そんなの理想論だ」「入社するか分からないインターン生にそんなパワーは割けない」といったことを言われます。実際大変ですが、他にも実利があるんですよ。
当社の場合は平均で半年から1年ほどインターンをやってもらうのですが、それだけの期間しっかりコミットしていたら、まさに水上みたいに戻ってきてくれる。他社の人事に配属されたインターン卒業生が『ONE CAREER』を使ってくれるケースもたくさんありますし、そういう意味でも会社のファンになってもらった方が絶対にプラスなんですよ。長い目で見たら間違いなく投資対効果はいいです。
——直接的なメリットはなくても、長期的に見るとさまざまな形で“give”に対するリターンが得られるんですね。
北野:“give”の考え方は今回のインターン同窓会でも重視していて、最初に経営陣で話したのは「絶対にお土産を持って帰ってもらう」ということでした。具体的には、博報堂時代の僕の同期であるNEWPEACEの高木新平や、元ワンキャリア社員のヘルスアンドライツ代表 吉川雄司くんをスピーカーゲストとしてお呼びして、パネルディスカッションにて話をしてもらうなど、「学びになった」と感じてもらうことを第一に考えました。だからワンキャリアの説明はほとんどしていません。彼らに「来てよかった」と思ってもらうことを何よりの目的にしていましたね。
長い目で見れば「辞める時に応援してあげる」方がプラスは多い
北野:あと、今回の同窓会にたくさんのインターン卒業生が来てくれた理由はもう一つあって、「お互いに活躍できている」というのも大きいと思っています。
学校の同窓会も同じですけど、自分の今の状況に満足できてなかったらあまり行く気にはなれないじゃないですか。予定が合わなかったインターン卒業生もいるので実際の割合はもっと高いと思いますけど、少なくとも400人中100人は「今の仕事で活躍できている」人たちあり、そこは「入社1年目でナンバーワンになってもらう」というインターン生に対する我々の目標とも合致してるんですよね。
——なるほど。
北野:そしてワンキャリア自体も成長していて、いろんなメディアに露出していることで、「すごくうまくいってる」という感覚をインターン卒業生から持ってもらえている。周りからも「注目されているワンキャリアにいたってことは、優秀なんだろう」と思ってもらえますし、何より古巣が注目されたら誇らしいじゃないですか。
水上:実際に、同窓会のアンケートに「この会社でインターンしていたことを誇りに思った」と書いてくださった人もいましたね。
——たしかにメディアに出ているのを見たら「学生時代インターンしてた」って言いたくなりそうです(笑)
北野:それはもう、めちゃくちゃうれしいですよね。ワンキャリアでインターンをした人全員と一緒に働き続けることは不可能だけど、そういう形でつながりが持てているわけですから。
——逆に、インターン卒業生とつながりを持ち続けることでマイナスに感じることはありますか?
北野&水上:まったくないです。
——例えば、インターン卒業生と社員が会う機会を作ったことで、インターン卒業生の会社に社員が流れてしまうかも、とか……? 実際に「アルムナイに取り組むことで退職者が増えるのでは?」と懸念する企業の声はよく聞きます。
北野:なるほど、言われてみたらそうかもしれない(笑)。でも、それはそれでいいんじゃないですか?「いつでも転職できる人が、それでも辞めない状況」をつくるのが経営者の役割ですから。他社に流れてしまうということは「自社が微妙だった」ってことですよね。
あえて言うなら、会社に対してというよりはあらゆることに対して批評的な人が卒業後に悪評を吹聴するっていうデメリットはあるかもしれないですけど、それも結局は辞め方によるでしょうね。
——アルムナイとの関係性を築く上で辞め方が重要だというのは、アルムナビで行ったアンケートからも見えてきました。
北野:これは社員に対しても共通することですが、「辞める時に応援してあげる」姿勢の方が、長い目で見たらプラスなことが多いですよね。卒業生がいつどう活躍するかはわからないし、辞める時の悪印象って意外と尾を引くものですから。最後に「応援します」って送り出されていたら「良い会社だったのに」となったケースは結構多いのではないでしょうか。
水上:私は前職のデロイトを辞める時、「いつでも戻っておいで」と送り出してもらっているんですよ。実際に出戻りも多いですし、後ろが断たれていないことで前向きに新しいチャレンジができました。コンサルの転職を考えている人がいたら「私は辞めたけど、良い会社だよ」って自信を持って紹介できますね。そういう成功体験があるので、私も社員が当社を辞める時は、ポジティブな転職ができるようなサポートをしたいと思っています。
北野:僕自身も直近で当社を辞めた人には、「大変なこともあったと思いますけど、僕は〇〇さんと一緒に働けて本当に良かったと思っています。あの時、一緒に働きたいって言ったことに後悔は全くないです」ということを最後にお伝えしていました。
辞める人が「応援してもらってるんだな」とか「最終的に去ることにはなったけど、自分はここに存在して良かったんだな」と思えるかどうかで、会社への気持ちは大きく変わります。社員が会社を去る時の対応は、経営者として大事にしていますね。
「転職は裏切り者」の発想を辞めることは、人を幸せにする
——インターン生、社員を問わず、自社を離れた人と交流を持ち続けることは、会社にどのような影響を及ぼすと思いますか?
水上:「会社とインターン」「社員とインターン」といった関係ではなく、お互いが「パートナー」だと思っています。アルムナイが自社に戻ってくる、社外の人として仕事で関わる、ただ単にプライベートで交流がある……。どんな形であっても「互いに良い影響を与えるパートナー」であることに変わりはない。それこそが会社とアルムナイの双方にとって価値だと感じます。
——そうなると、退職した瞬間に関係性を切ってしまう会社は「パートナーの数が増えない会社」であるとも言えそうですね。長い目で見ると大きな損失になりそうです。
北野:アルムナイをパートナーと認識する会社が増えていくと、個人は卒業後も古巣と有機的につながることができます。それはキャリアを変える時に、これまで積み重ねてきたものがゼロになってしまう世界とは反対のものです。「転職は裏切り者」の発想を辞めることで、個人のキャリアの分断を最小化することができる。『転職の思考法』で描いた「この会社にしがみつかなければ生きていけない」状況がない世界は、人に選択肢を与えるという意味で幸せの総量を上げると僕は思っています。
—— そうなると、会社にはどのような変化が起こると思いますか?
北野:経営は難しくなるでしょうね。働きやすさなど、ある種自由を緩和することは、その分だけ経営のレベルが上がるということですから。これはまさに新刊『OPENNESS(オープネス) 』に書いたことですが、今後は「個人の利」と「組織の利」がクロスするポイントを考えないと、いい人に働き続けてもらうことなんて無理ですよね。
これまでの個の利は短期的な給料や待遇だったけれど、それがキャリアプランのような長期的なものになってきている。「その人の長い人生において、今うちの会社で働いている価値は何なのか」を考えて組織や制度を設計するしかないと思っています。全従業員の中の「自分の名前で生きていける人の割合」をどれだけ増やせるか。これがこれからの組織戦略においての最適化の一つになり得ると僕は信じています。
—— 今は会社と個人の関係が変わる過渡期であり、会社側も考え方を変えていく必要があるということですね。では最後に、インターン卒業生と今後どのように付き合っていきたいか、お考えを聞かせてください。
水上:卒業後に関係が切れてしまうというのは、ある種の社会課題だと思っています。でもその課題はワンキャリアだけで解決できることではなく、いろんな人を巻き込む必要がある。そういう意味でも、アルムナイは大事な存在だと思っています。
会社、社員、インターン卒業生にとって良い刺激になり、お互いが高め合うことができれば、社内外問わず活躍する人はきっと増えていく。そんな良い循環が生まれそうな予感がしているので、今後も今回の同窓会のような機会を継続的につくっていきたいです。
北野:「ワンキャリマフィア」が広まっていくといいですよね。それが重要かなと思っています。
取材・文/天野 夏海 企画/天野 夏海、築山 芙弓
編集後記
今回はインターン卒業生に関してお話を伺いましたが、「在職中から社員のキャリアに向き合うこと。」「会社側が”give”の精神であること。」「会社が卒業生にとって誇れる存在であること。」など、元社員であっても元インターンであっても、アルムナイネットワークを築く上で大切なことは共通する部分が多いと感じます。
インターン卒業後は別の会社に新卒入社した水上さんが、結果として4年後にワンキャリアに戻ってきたのは、卒業後もワンキャリアとの信頼関係が続いていたからこそなのではないでしょうか。
また、インタビューでは、新刊『OPENNESS(オープネス) 』で、今後は「個人の利」と「組織の利」がクロスするポイントを考えないと、いい人に働き続けてもらうことなんて無理だとおっしゃっていた北野さんが、「アルムナイはパートナー」とお話されていたのが印象的でした。(アルムナビ編集部 築山 芙弓)