2022年9月、三井住友海上火災保険がアルムナイネットワークをオープンしました。
ここ数年で急速に「人に関する施策」を進めている同社。その背景には「社外のカルチャー経験」の重要性の高まりがありました。
※こちらは過去、三井住友海上火災保険に在籍していた方専用のネットワークです

遠田さん/人事部人事チーム課長(写真左)
甘田さん/人事部人事チーム課長(写真右)
中島さん/人事部人事チーム主任(写真中央)
イノベーション企業を目指す。そのためにアルムナイの存在が重要
——アルムナイネットワークを立ち上げた理由を教えてください。
甘田:新たなビジネス創造を進めていく上で「社外のカルチャー経験」の必要性が高まっていることが大きいです。
もともと損害保険のビジネスは、他の業界・業種の方々と一緒に仕事を進め、別分野のビジネスを理解しながらリスクを想定するなど、外の世界の人たちと協業することが多々ありました。
さらに、保険という商品の提供価値も変わりつつあります。従来は「何かあったときの補償」がメインでしたが、今は「そもそも事故が起きないようにするにはどうすればいいか」「事故が起きたときの被害を最小限に食い止めるには何が必要か」など、補償の前後の部分も手掛けようとしている。
そういった新たなビジネスのアイデアを生み出すには、当社のことしか知らない人だけが集まるのではなく、もっと多様な人がいた方がいい。その一つとして、アルムナイの存在に期待をしています。
遠田:当社は中期経営計画のなかで、「未来にわたって、世界のリスク・課題の解決でリーダーシップを発揮するイノベーション企業」を目指しています。
不確実な世の中ですから、今まで通りの損保事業をやっていくのが難しくなるであろうことは明らかです。当社も時代に合わせ、どんどん変わっていかなければいけない。
そのためには多様な価値観が必要です。当社は長く新卒採用が中心の会社でしたが、意思決定層を中心に多様な人材を増やそうと少し前から中途採用にも力を入れてきました。
2021年度からは管理職に占める社外カルチャー経験者比率(中途採用者+社外出向等経験者比率)を上げようと、新たにKPI(2025年度末までに30%以上)も設定しています。
そういう流れの中にアルムナイネットワークがマッチし、今回の立ち上げに至りました。
また、人材獲得面での期待もあります。アルムナイは社内のことをよく知っていて、社外の経験もある存在。当社が求める貴重な人材ですから、再雇用やビジネス協業にもつながればと考えています。

——社外の知見が必要だという雰囲気が高まったのはいつ頃からですか?
遠田:感覚的にはここ2〜3年です。今の中期経営計画を作っている段階から、そういう雰囲気はでき始めていたように思います。
——2021年度に中途採用を含む社外カルチャー経験者比率のKPIを設定し、2022年度にはアルムナイネットワークを設立。急速に新たな動きを進めている印象ですが、貴社のような大企業では珍しいスピード感のようにも感じます。
甘田:「これまでと同じことをやっていていいわけがない」という雰囲気は以前からありましたが、2021年度になって、明確に「イノベーション企業を目指す」と社外に宣言をした。そうなると、必要な人材も変わります。
そういう中で人に関する新しい施策をつくる動きは高まっていますし、実際に人材にまつわる施策は非常に増えました。アルムナイネットワークもその一つ。5月中旬に本格的に検討をはじめ、8月にシステムを立ち上げ、9月下旬にオープンと、一気に動きました。
情報収集を含め、短時間で立ち上げるのは大変でしたが、「なぜやるのか」を説明する苦労はなく、どちらかというと「やるなら早くやろう」という感じ。大変なのはこれからでしょうけど、会社のバックアップがある状態で始められるのはありがたいですね。
会社とアルムナイの「退職」の捉え方にはギャップがあった
——9月下旬にアルムナイネットワークをオープンして、現時点での率直な感想はいかがですか?
遠田:再雇用やビジネス連携などの具体的な動きはこれからですが、アルムナイと社員の双方からポジティブな反響が届いています。感度の高い社員から「最近の人事施策の中で一番良いと思った」と言われることもあり、ひとまず安心しています。
甘田:社員からは「こういうビジネス連携はできますか?」といった具体的な問い合わせが早速ありましたね。
——社内イントラで社員に向けてアルムナイネットワークのオープンを告知し、社員がアルムナイに声をかけたことで登録者が増えたと聞いています。すでに100名ほど登録があるそうですね。(取材は10月中旬)
甘田:もともと人と人とのつながりは濃い会社で、個人や特定のチームなど、個別に辞めた人とつながっている環境はあったと思います。「あの人に声をかけたら参加してくれそうだな」とパッと頭に浮かぶ社員はそれなりに多いでしょうね。
アルムナイにとっても、「どう誘われるか」が大事だと思っています。一緒に働いた同期や尊敬する先輩から声をかけられる方がうれしいでしょうから、そんな狙いもあって社員に告知をしました。

——社員とアルムナイの接点が増えることで退職促進につながるのではと懸念する企業もいます。その点はどうお考えですか?
遠田:施策を検討する中で当然出てくる話ですし、当社でもその議論はありました。
でも、やる前にわかることではないですよね。それならば「分からないからやらない」ではなく、魅力的なイノベーション企業として「開かれた会社」であることを示す方がよほど重要です。
結果的に社員のエンゲージメントが上がることもあるでしょうし、もう一度働きたいと思ってくれるアルムナイも出てきてくれるかもしれません。そういう話し合いが前提にあったので、社員にもアルムナイネットワークの存在を告知するのは自然な流れでした。
——そもそもの会社の風土として、退職への捉え方や退職者との関係性はいかがでしたか?
遠田:お話した通り個別に接点はあり、会社としても退職者を冷遇するようなことは一切言っていません。
ただ、アルムナイネットワークをつくるにあたりアルムナイに話を聞いてみると、「二度と会社の敷居はまたげないと思っていました」と言っている人もいました。
会社としてそんなつもりは全くなく、実際に再雇用実績もあるのですが……会社の考えとアルムナイ本人の考え方にはギャップがあるのだと気付かされました。
——そのギャップはなぜ生じてしまったのでしょう?
遠田:新卒入社して、そのまま勤め上げる人が多かったので、途中で辞めることへの負い目は感じやすい雰囲気だったのかもしれません。「途中で抜ける」という空気を感じやすい面はあったのかなと思います。
甘田:中途入社者も少なかったので、「途中で入ってくる」ことにも馴染みがなかったと思います。そういう体感がないから、一方通行なイメージがあったのかもしれませんね。社歴が長い人ほど、そう感じているような気がします。
——最近は世の中全体で転職が当たり前になってきています。退職に関して変化を感じることはありますか?
遠田:他社と比べれば離職率は低いですが、実数としては増えています。
世代による違いもあり、やはり若手の方が辞める人は多いですね。「こんなに活躍しているのになぜ辞めてしまうんだ」という上司の嘆きは、多くの他社同様、当社でもあります。
ただ、若手本人からすると、おそらく自然なことなのだと思います。退職への温度感が違うというか。そういう中で上司が飲みに連れて行って辞めないように説得するのは、もう難しいじゃないですか。それであれば辞めた後もつながりを持つことを考えた方が現実的だと思います。
「つながる場」自体がアルムナイのメリットになるのかも
——これから具体的に、アルムナイネットワークで何をやっていきたいですか?
甘田:直近で決まっているのは交流会です。アルムナイネットワークの参加者と意見交換や雑談をするような会の開催を予定しています。当社の今を知っていただきつつ、アルムナイ同士の結びつきを強める機会になればと思っています。
実は先日、初の交流会をやったのですが、「当社のことを思ってくれている人がこんなにもいっぱいいるのか」と改めて思いました。これほど自分たちに腹落ちする言葉で当社の課題を話してくれる人はなかなかいません。「社内の人しか分からない話をしてくれる社外の人」は本当に貴重な存在です。
だからこそ、アルムナイの意見を引き出すことが重要だと思っています。まだ検討中ですが、今後の交流会では第三者目線で見た当社の魅力や改善点を教えていただき、広報と連携しながらアルムナイの皆さんの意見をコンテンツ化することで、当社が今抱えている課題を改めて考えるきっかけとして生かしたいですね。

甘田:他に、新卒採用イベントにアルムナイの方に登壇していただくことも予定しています。アルムナイの皆さんの意見を社内外にアウトプットする機会は積極的につくっていきたいです。
あとは、社内のビジネスコンテストの審査員をアルムナイにお願いしました。社外の第三者的な評価が加わることに大きな期待がありますし、それをきっかけにアルムナイとのビジネス連携のヒントが見えてくる可能性もあると考えています。
——どれも「アルムナイが自社に愛着を持ってくれている」という前提がなければできない施策のように感じます。アルムナイが自社に愛着を持ってくれている理由は何だと思いますか?
遠田:多分、良い会社なんですよ。会社のことが嫌で辞める人は一定数いるとは思いますが、仲間が嫌いで辞める人はおそらく少ない。だから辞めた後もつながりを持ちたいと思ってくれているのだと思います。
——そういう会社のカルチャーはどのように醸成されているのでしょう?
甘田:同期仲が良いのは影響しているかもしれませんね。私が新卒の頃、大学の友達と話す中で「同期と仲が良いね」と言われたことがありました。あくまで友達の主観ではありますが、横のつながりが強い文化だとは思います。
実際、2019年には会社を家族と見立て、新人を育成・サポートする「ファミリー制度」ができました。私は他社で働いたことがないので比較はできませんが、そうした人材育成方針を見ても、仲間との関係性は深いのだと思います。
そのあたりは今後アルムナイの皆さんと話す中で、新しく見えてくることもあるかもしれませんね。
遠田:どの会社でも社員に入社理由を聞くと、「人が良かった」という回答が多いじゃないですか。その中でも「三井住友海上の人の良さ」が何なのか、ぜひアルムナイの皆さんに聞いてみたいです。
—— 一方で、アルムナイの皆さんにとってのアルムナイネットワークのメリットはどうお考えですか?
甘田:アルムナイの方にインタビューをした時、「三井住友海上出身」という共通項は、地元が一緒だった時の感覚に似ていると言っていました。ビジネス連携や協業などする際に、共通認識があるのは物事を進める時のプラスの要素になると思います。
あとは、ネットワークの質の高さ。登録してくれる人はビジネスマインドが高い印象もあるので、その中でアルムナイ同士を結びつけることができれば、登録者の皆さんにも価値が提供できるのではと考えています。
遠田:当初はビジネス連携を形にするなど、わかりやすいメリットを提供しなければと思っていたのですが、今は「全員にとって形あるメリットがなくても構わないのかもしれない」と考えています。
思っていたよりも「つながりたい」と思ってくれているアルムナイが多く、こういう場を提供すること自体に価値があるらしいとわかってきました。
「開かれた会社」でありたい

※こちらは過去、三井住友海上火災保険に在籍していた方専用のネットワークです
——改めて、今後アルムナイの皆さんとどのような関係性を築きたいですか?
甘田:個人的には、フランクに意見交換や情報共有ができる関係性を大事にしたいと思っています。辞めたけど当社に思い入れがある人たちが集まって、コミュニケーションを取ったり、困ったときに気軽に質問ができたり、そんな関係性になれたら理想ですね。
遠田:そのためにも、意欲あるアルムナイが自然と集まる状態を目指したいです。数を増やそうと思えばドライブをかけることはできますが、無理に集めると熱量がなくなってしまうような気がするので、それは現状一切やっていません。
今後も口コミで広がっていけばいいですね。ビジネス連携や再雇用の実績ができれば自然と大きくなっていくとも思っています。
甘田:当社の課題を教えてもらうだけではなく、今の当社を知ってもらうことで広がる可能性はたくさんあると思います。ビジネス連携や再雇用につながるだけでなく、アルムナイが周囲の人に、当社を転職先としてお勧めしてくださることもあるかもしれません。
お互いにとってメリットがある関係性を、なるべくラフにフランクに持ち続けることが重要だと考えています。
——最後に、会社としてアルムナイネットワークを持つ意義は何だと思いますか?
遠田:開かれた会社であること自体が、まずは重要なのだと思います。そうでなければ当社が目指すべき会社像には近づけませんから。
「開かれた会社である」「イノベーションを目指す」「多様な社外の知見を取り入れる」といったメッセージを会社から発信することで、「自分も変わらなければ」というマインドが社員にも生まれ、一人一人が変わり、カルチャー変革につながると良いですよね。
会社がオフィシャルにアルムナイに関する取り組みを発信することは、そういう意味で重要です。当社が良い会社であり続けるために、アルムナイネットワークは持つべきものなのだと思います。
アルムナイへのメッセージ

中島:フランクかつフラットに、お互いにとってWin-Winな関係性をつくってシナジーを生み出していけたらいいなと思っています。疑問点などあればお気軽にご連絡いただければと思いますし、参加の際は積極的に発言し合って、ポジティブなものを生み出していきたいです。
最近は入社1〜2年目で当社を離れる人も出てきていますが、社歴に関係なく、アルムナイネットワークに参加することで会社全体としてつながりを持てることをうれしく思っています。
遠田:このネットワークは、アルムナイの皆さんがつくっていく面が多くあると思います。まだまだ全然固まっていませんので、良いネットワークを一緒に作り上げていきましょう。
甘田:アルムナイの皆さんが退職した理由はさまざまですし、当社が好きな人もいれば、そうではない人もいると思います。
ただ、当社が今必要としているのは、社外からの声です。従来通りのことをやっていては、会社の発展は描けません。イノベーション企業になるという目標を達成するのに足りない部分を、ぜひ皆さんから教えていただきたいです。
我々もまた、この先皆さんに何を還元できるのか、どういったことであれば一緒に取り組めるのか、一緒に考えていきたいと思っています。お互いが目指す方向を尊重しながら、時間を共有できるとありがたいです。
今はまだ形があってないようなものなので、ぜひ早期メンバーとしてジョインいただけるとうれしいです。お会いできるのを楽しみにしています。