過保護が招いた部下の退職「営業目標を達成させればいいと思っていた」【上司の反省. 3】

連載「部下の退職、上司の反省」
「部下の退職」にまつわる上司の失敗談にフォーカス。「あの時どうすればよかったのか」を振り返り、「良い送り出し方」について探ります。
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連載第3回目に登場するのは、現在大手人材会社で事業責任者を務める矢田 吉彦さん(仮名)。1社目の会社で矢田さんが転職して間もなく、当時の部下がうつ病で退職。「その原因は自分にある」と振り返る理由は何なのでしょう?

矢田 吉彦さん(仮名)
40代男性。人材派遣会社など複数社での経験や独立を経験した後、現在は大手人材系の会社で事業責任者を務める

部下の退職に関する失敗談

——「部下の退職に関する失敗談」について、何か思い当たることはありますか?

私が1社目に入社した人材派遣会社のときの部下なのですが、上司である私が退職した後に、うつ病になりその子も辞めてしまったことがありました。

仮に「I君」と呼びますが、私にとって初めての部下だったので可愛がっていましたし、思い入れがあったんですよね。当時は営業だったのですが、「良い成績をあげてほしい」という想いから2年ほどの間付きっきりで面倒を見ていました。

私自身も営業として一気に売れるようになった頃だったので、「営業なら任せとけ、俺に付いてこい!」という感じで勢いづいていましたね。実際に、自分の売り上げはもちろん、I君の数字も私があげているような状況でした。

私が転職のためI君よりも先に退職をしたのですが、そのときは良好にお別れができたと思います。「俺は辞めるけど、Iは頑張れるよな」「はい、矢田さんにいろいろ教えてもらったので頑張ります!」みたいな感じのやりとりでしたね。

しかし、私が退職してしばらくして、風の噂でI君がうつ病になって退職したと聞いて驚いたんです。I君の家にも行ってみたのですが「会いたくない」ということで会わせてもらえず、それっきりですね……。

——なぜそうなってしまったんだと思いますか?

結局、私が自分中心で考えていたのだと思います。初めての部下だったし、自分自身も勢いづいている頃だったので、「マネジメントしてやろう、部下に成果を出させてやろう」とばかり思っていて。

今思えば、部下の売上を上げることで自身のキャリアアップにつなげることを、一番に考えていたかもしれません。私がいなくても彼がひとり立ちしてちゃんとやっていけるように育てることはできていなかったんです。

きっと彼も私が辞めたことで「梯子をはずされた」「矢田さんに良いように使われて、能力をつけてもらえなかったという気持ちが出てきたのかもしれません。

——その失敗によって、どのような不利益が生じましたか?

体調を崩して辞めることになってしまったのですから、彼にとっては完全に不利益ですよね。

実はI君が辞めたと最初に聞いた時は、私の後にI君の上司になった人に何か原因があったのではと考えていたんです。過保護だった私とは正反対で、その人はどちらかというと無関心。ギャップを感じてつらかったんじゃないかと。

でも、噂を聞いてすぐにI君の家を訪ねた時、I君のご両親から「あなたには会いたくないそうです」と言われて会ってもらえなかったんです。I君にメールをしても返ってこず、拒絶されているのは明確でした。

これは推測ですけど、私の次の上司だけが退職の原因なのであれば、I君はきっと私には会ってくれたと思うんですよ。それなのに拒否されたということは、きっと私にも責任があったんじゃないか。しばらく納得できなかったですし、真実は知りようもないですけど、数年経った今はそう思っています。

今振り返って思う、上司の反省

——今冷静に振り返って、当時なぜI君に対して過保護になりすぎてしまったのだと思いますか?

相手のことを考えているふりをして、自分のことしか考えていなかったんでしょうね。

本当にI君のことを考えているのであれば、彼が成長してひとり立ちすることを一番に考えるのでしょう。でも、当時の私は手っ取り早く数字を上げることを重視してしまいました。私が上司になることで、いきなり彼の売り上げが上がる、というように……。

私がやっていたのは、彼の商談をかっさらって自分が話して、売上を上げることだった。当時は悪気はなくて、そこまで深く考えていなかったですけど、エゴだったなと思います。

彼も、私が辞めた後に一人で営業をするようになって「矢田さんは本当に僕のことを考えてくれていたんだろうか?」と違和感を持ったんじゃないかと思います。

——失敗談を振り返って、どうすればよかったと思いますか?

I君の実力で売上を上げられるように、自立できるように育てるべきだったと思います。

時には商談中に上司が横から支援をするのも大事だと思うのですが、私の場合は自分が主導権を持って商談を進めてしまっていた。親子の関係と同じように、一生自分が部下の面倒を見れるわけではないので、それではダメだったなと思います。

——その部下に対して、伝えたいことはありますか?

そうですね……とにかく謝りたいです。売上目標は達成させてあげられたけど、彼自身はとても頑張っていたのに、スキルはつけてあげられなかったので……。

彼のその後はわかりませんが、どうか良い上司と巡り合って良い経験ができていたら、と願うばかりです。

失敗談から考える、良い送り出し方とは?

——これまで部下を送り出してきた経験を踏まえて、どうすれば良い送り出し方ができると思いますか?

今回の失敗談にも通じますが、部下は部下である前に一人の人間であることを忘れないように心掛けています。退職の話を切り出されたときにも、上司と部下ではなく、「私」と「あなた」として話すようにしていて、組織のことは頑張って頭の中から追い出すようにしています。

もちろん組織として話をすることもできますが、私は基本的に「組織」として人と接するのは間違っていると思っています。退職面談に関して言えば、組織の立場で臨んでしまうと、本人のキャリアにとってどうかではなく、「会社に残るべき理由」ばかりを話してしまう。

その結果として部下が会社に残る選択をしたとしても、長期的に見て良い結果にはならないんですよね。ふと我に返った時に、「あれ、なんでだろう?」となってしまいがちです。

それに事業としてもチームとしても、退職の引き止めを粘ることって実はよくないと思っています。相手は意思を尊重されていないと感じるでしょうし、人をコントロールすることができない以上無理に引き止める意味もない

売上目標を追う上で人が辞めてしまうことは痛いですが、あまり粘ってお互い疲弊してしまうのも切ないですし、最終的にはもう受け入れるしかないんですよね。

——逆に、「これだけはやってはいけない」と思うことがあれば教えてください。

「会社の切れ目が縁の切れ目」と思っている人もいるようですが、それは愚の骨頂だなと思います。

これは退職に限った話ではないですけど、組織や自分の立場のことだけを考えて部下に接してしまうと、お互いの人生が貧しくなるし、何より楽しくなくなってしまう。I君に対して僕はそういう接し方ができなかったけど、たとえ組織が変わっても通用するようなスキルや経験を残せるのが良い上司なんだと思います。

それに、これからは同じ組織にずっといるのが当たり前な時代ではないですよね。会社にいる間だけではなく、辞めた後にも交流が続くような関係を築ければ、人生は豊かになるんじゃないでしょうか。

反省と教訓

  • 反省:短期的な売上達成を重視した結果、部下を成長させられなかった

→回り道でも、部下のスキルや自信を付けることを考えるべき。長期的に見て、本当の意味で部下のためになることを考える必要がある

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取材・文/ 築山 芙弓 編集/天野 夏海