1年前の2020年8月、東日本電信電話(以下、NTT東日本)がスペースマーケットとの業務提携を発表しました。
スペースマーケット代表の重松大輔さんは、NTT東日本アルムナイ。業務提携を牽引するNTT東日本の渡辺文隆さんとは新卒同期の間柄だそうです。
そこでお二人にインタビュー。およそ15年の時を経て、一緒に仕事をした想いを伺いました。
NTT東日本とスペースマーケットが業務提携に至った背景
——お二人はNTT東日本の新卒同期だと伺いました。
渡辺:出会ったのは学生の時だから、もう20年以上ですね。
重松:当時仕事で関わることはなかったですけど、僕が辞めてからも、渡辺さんとはちょこちょこご縁がありましたね。
——2020年8月にNTT東日本とスペースマーケットが業務提携に至った背景を教えてください。
渡辺:僕がアライアンスビジネスを担当することになった時、重松さんが理事を務めるシェアリングエコノミー協会の『SHARE SUMMIT 2017』に誘ってもらったのが最初のきっかけです。
正直、それまではシェアビジネスにそれほど注目していなかったんです。でも当日いろいろな会社を紹介してもらう中で「面白い世界だ」と可能性を感じ、多くのアセットを保有するNTT東日本も、シェアビジネスを意識した動きをしていかなければと思いました。
その数カ月後、「働くシーンに特化したサービスを一緒にやらないか」とスペースマーケットの社員の方から『スペースマーケット WORK』の構想を聞かせてもらって話を進めました。
まだコロナ禍ではなかったオリンピックの前年の2019年に「オリンピック期間中は都内の人流が押さえられ、テレワークが一気に進むはず。そこに間に合うようにワークスペースのビジネスをやろう」と重松さんとも盛り上がり、2020年8月に提携のプレスリリースを出した次第です。
重松:その前に、NTT東日本のイベントを当社で担当させていただいたことがありましたよね。
渡辺:2018年の企業交流会ですね。アライアンス企業の経営者を集めた講演会兼懇親会で、企画をスペースマーケットにお願いしました。
全然関係ない会社に頼むよりは、重松さんのところに頼んだ方が間違いないだろうと。こういう関係性なので、一緒に仕事ができればという想いはありましたし、何かしら貢献したい気持ちもありましたね。
退職して約15年、NTT東日本の変化を感じた
——業務提携を発表してから約1年がたちましたが、一緒にお仕事をしてみていかがでしたか?
重松:退職して15年ほど経ちますけど、やはり昔のNTT東日本とはずいぶん変わったなと思いました。テレワークにも対応していて、積極的にパートナービジネスをやっていこうとしているのが印象的でしたね。
渡辺:そこは当時から大きく変わった点だと思います。以前は自前主義なカルチャーがありましたから。
重松:今回のように「何かご一緒できませんか?」と大企業側から歩み寄って柔軟に動いてくれるのは、スタートアップにとってありがたいですよね。NTT東日本アルムナイとしても、単純にうれしかったです。
——スタートアップにとって、NTT東日本と提携できるのは大きなことですよね。
重松:そうですね。さまざまな視点やリソース、販路がある会社なので、スタートアップができないことができるのは間違いないです。
渡辺:お互いにないものを持ち寄れるのはメリットですよね。資金や会社の知名度さえあればうまくいくという時代でもないですし、当社にとってもスペースマーケットとの提携はありがたいことだと思っています。
——約20年前からの付き合いで、お互い別の道を歩む中、約15年ぶりに再び一緒に仕事をするというのは、どのようなお気持ちですか?
重松:古巣企業と仕事ができているわけですから、うれしさはありますね。
渡辺:重松さんに限らずですが、辞めた人がそれぞれの道で高みを目指しているのは、気持ちが良いものです。そしてNTT東日本として、その人たちと一緒にビジネスができるのは理想的だと思います。
あくまで「ビジネスとして協力し合えるか」がベースにあり、知り合いだから協業するわけではないですけど、やっぱりうれしいのは間違いない。気持ちが違います。
同じ会社で働いた経験があるぶん、信頼関係をゼロから築く必要がなく、スタート地点が短縮できるのもメリットだと感じています。最初のきっかけとしては大きいですよね。
外の世界を見せないことの方がリスク
——NTT東日本の方にとって、外部の会社と仕事をする機会があるのは良い刺激になりそうですね。
渡辺:そうですね。実際に週1回、社員にスペースマーケットのオフィスにいかせていました。
——社員の方はどうでした?
渡辺:スペースマーケットは何百人、何千人と社員がいる会社ではないですし、スタートアップの仕事は泥臭く、個人の動きによる成功・失敗が会社の収益に直結する。そうしたプレッシャーも感じとってくれたと思います。
重松:お互いにとって刺激になりますよね。
渡辺:こうした取り組みにより、会社として本気でこの仕事をやろうとしているっていうのは伝わったかなと思います。
——外の世界を見せることで、退職リスクが高まると考える企業もいます。その点についてはどう思いますか?
重松:それでいいのではないでしょうか。外を見せないようにしても、社会から評価されづらい人が育ってしまう可能性が生じます。仕事や待遇、環境など、退職リスクを上回るメリットを会社が提供しなければならないのだと思います。閉ざされた環境で育ち、そこから抜けられなくなって、40〜50代で退職を余儀なくされるような事態の方がよほどリスクですよ。
渡辺:育成への考え方を変えなければいけないですよね。長い時間とお金をかけて育てて、「さぁ活躍してくれ!」ではなく、早い段階でプロフェッショナルとして活躍してもらう発想が必要なのだ と思います。
——重松さんはNTT東日本のあとに数社経験されていますが、他の古巣企業と仕事をする機会もあるのでしょうか?
重松:ありますよ。気心知れていますし、会社の課題や目的も理解していますから、やりやすいなと思います。
渡辺:僕もスペースマーケットを退職した人と、別のかたちでご一緒したことがあります。これまで人とのつながりは仕事とプライベートでわかれていましたけど、今はSNSがあるから、仕事から離れてもつながりを持てる。個人対個人として信頼関係を築きやすくなりましたよね。
——自社の退職者と仕事をする機会もあるのでしょうか?
重松:そうですね。将来再入社することもあるかもしれませんし、新しい挑戦をしているメンバーとは退職後もつながりを持ちたいと思っています。
それほど特別なことではないと思いますけど、「退職者は裏切り者」みたいな考えの人もまだ多いのでしょうか?
渡辺:当社の場合、だいぶ変わってきていますが、まだそういう考え方をする人もいるかもしれません。これまで新卒を採用して一人前に育てるやり方をしてきましたから、途中で辞めてしまうと投資が無駄になってしまうという発想はありました。
でも、もうそういう時代ではなくなりましたよね。アルムナイが注目される背景には、大企業が優秀な人材を中途採用する動きを取り始めたことも影響しているように思います。
最近は当社もハイクラス人材を外部から採用する動きが出てきていて、管理職の中途採用がすでに始まっています。実際、昨年話題になった「シン・テレワークシステム」を開発した登大遊さんは「特殊局員」として、特別扱いの処遇で中途入社した方です。
そうやって年功序列的な昇格制度を見直そうとする動きがある中で、NTT東日本がアルムナイの取り組みを始めたら面白いなと思います。
—— 一方で長くお付き合いしたいと思われるように、個人も努力が必要ですね。
重松:個人的には、40歳定年制でいいと思っているんです。その後、給与は上がらないけれど雇用が延長できる道と、プロ契約を結んで活躍に応じて給料を上げていく道を用意する。そういう方がお互い幸せな気がします。
実際、リクルートには早期退職における退職金の割り増し制度がありましたけど、その結果平均年齢を低く抑えられ、若い人にチャンスが回っているという話もあります。
重松:これだけ雇用が流動化している中で社員の雇用を守るには、社員にも成長してもらう必要があります。どの会社でもきっちり仕事をして結果を出して、人間関係を作って、辞める時に仁義を通すというのは、ビジネスパーソンとしてのお作法になるのではないでしょうか。
たとえ退職しても必ずどこかでつながるのは間違いありませんし、職位が上がれば上がるほど、これまでの積み上げがバリューになりますから。
最近はヤフーをはじめ、アルムナイネットワークをつくる企業が出てきていますけど、退職者が資産であることは間違いありません。やっぱり組織の流動性が、すごく大切だと思います。
渡辺:これまでは企業の力を使って仕事をすることができましたし、特に当社の場合はその傾向が強かったと思います。でも、これからは個人で勝負する時代です。会社の看板やネットワークではなく、個人が自分なりのエコシステムを持って仕事をする考え方でいた方がいいように思っています。その中の一つにOB・OGや古巣企業があるといいですよね。
※取材は感染症対策を行った上で実施し、撮影時のみマスクを外しました。
取材・文・撮影/天野夏海