企業が「アルムナイ(企業の卒業生)」に興味を持つきっかけの一つが「退職者の再雇用」です。
アルムナイ採用やカムバック採用、ジョブリターン採用と呼ばれることもありますが、人柄やスキルがわかるためミスマッチがないこと、採用・教育コストを抑えられることから、再雇用の機会を増やそうと考える企業が増えています。
そこで本記事ではパーソル総合研究所が2300名を対象に行った調査結果をもとに、再雇用の実態や出戻り社員の不安や満足度について見ていきます。
退職者の再入社への意欲
まず、退職者は辞めた会社に再入社することについてどう思っているのでしょうか?
「離職した企業にもう一度入社したいか」に対して、「まったくそう思わない」「そう思わない」が70.2%と大多数。「とてもそう思う」「そう思う」と回答したのは8.3%でした。
また、過去5年以内に実際に再入社をした人は2.13%。その経路は以前の上司や同僚を中心に、75.7%が人づてで再入社にいたっています。
パーソル総合研究所「コーポレート・アルムナイ(企業同窓生)に関する定量調査」より
再雇用制度を利用した人はわずか4.0%。ただ、「退職者向けの制度の有無」と「再入社の意欲」の関連を見てみると、制度がある企業の退職者の方が再入社の意欲は2〜3倍高いことがわかりました。
つまり、制度を通じて「会社として退職者への好意的な気持ち」を伝えつつ、「退職者との接点を持ち続けること」が再入社を推進するポイント。
実際に、アルムナイ・リレーション特化型システム「Official-Alumni.com」を導入して退職者との関係構築に力を入れている企業の9割で再雇用が起きています。
その中には、当初は再入社の意欲が低かった人もいましたが、「再雇用だけでなく、アルムナイ同士の交流やビジネス連携など幅広い目的でシステムを導入した」と聞いてシステムに登録。そこで知った古巣企業の新規事業の取り組みに興味を持ってディスカッションに参加し、結果的に再入社に至っています。
つまり「再雇用のために」ではなく、「アルムナイと交流する」ためのネットワークを用意し、自社の近況を伝えたりアルムナイから意見をもらったりする中で、アルムナイの再雇用の意欲は高められるということ。
最近では中外製薬が退職者再雇用制度を「アルムナイ制度」として刷新するなど、再雇用にとどまらず幅広い狙いを持ってアルムナイとの関係構築に力を入れる企業も出てきています。
出戻り入社への期待と不安は表裏一体
次に、退職者が再入社をするときの気持ちに注目してみましょう。
古巣の会社で再び働くことに対して、意欲的に感じる面と不安に思う面が同程度あることがわかります。
「雇ってもらうことへの感謝や頑張る気持ちはある反面、成果が出せるか不安」「かつてのメンバーと一緒に働けることを楽しみに思う反面、受け入れてもらえるかが心配」など、表裏一体な気持ちを抱えているよう。
再入社を促進するのであれば、こういった心理的なハードルを下げるための工夫も必要になってきます。再入社者の声を退職者に向けて発信する、一緒に働く上司や同僚と交流する機会を作るなど、やはり退職者との接点を増やすことがカギとなりそうです。
出戻り経験者が思う、メリット・デメリット
では、実際に出戻り入社をした人は、再入社のメリット・デメリットをどのように考えているのでしょうか。まずはメリットから見ていきましょう。
「業務のスムーズな開始」と「組織へのスムーズな再参入」の大きく2つのメリットがあることがわかりました。やはり仕事内容や組織、従業員への理解があるぶん、仕事や組織に馴染むスピードは早いようです。
ただし、「会社への理解がある」と思われているがゆえのデメリットも。
会社への理解があるといっても、退職してから再入社までの間が空けば空くほど、社内の状況は変わるものです。それでも「言わなくてもわかるだろう」を期待されるからこそ、出戻り社員にとっては戸惑う場面が多いよう。
また、再入社者を受け入れる側が忘れてはならないのが、「会社が変わっているのと同様に、再入社する本人も変わっている」ということ。
例えば出戻り社員が新人だった頃の上司が、かつて新人だった頃と同じように接することでトラブルに発展してしまったり、早期退職につながってしまったりするケースもあります。
馴染みがあるゆえに「大丈夫だろう」と思ってしまいがちですが、通常の中途入社者と同じように接し、同じように入社後のフォローをすることが重要です。
出戻り入社後の満足度
メリット・デメリットの双方を感じている出戻り経験者。では、入社後の満足度についてはどう感じているのでしょう?
退職前と再入社後を比較すると、満足度は総じて高くなっています。良いところも悪いところも知った上で再入社をしているわけですから、満足度が上がるのも納得です。
そんな中、唯一満足度が下がったのが「給与・報酬・評価」。終身雇用制度をベースとした設計になっている会社が多いゆえに、かつての同僚と待遇に差がついてしまっているケースがあるようです。
また、会社規模が大きくなればなるほど、再入社時の「年収/職位が下がる」という結果も出ています。
待遇面の不満をカバーするためにも、なおさら入社後のフォローが重要になってきます。上司・同僚との関係や働きやすさなど、入社後の満足度が高い項目をきちんとプラスにもっていくことが重要です。
そのためにも先述の通り、「再入社者だから放っておいても大丈夫だろう」ではなく、通常の中途入社者と同じように入社後のフォローが必要になってきます。
退職者の出戻りを促すためには
退職者の出戻りを促すためには、再入社を希望していない人を含め、幅広い退職者と接点を持ち、関係を構築することが何より重要です。
そして退職者との接点を持つことは再雇用にとどまらず、ビジネス連携やリファラル採用、オープンイノベーションなど、さまざまなプラスの効果があるもの。
注目を集める退職者の再雇用をきっかけに、自社の退職者との関わり方を見直してみてはいかがでしょうか。