転職前提だからこそ「退職者のキャリア」を重視?理系学生に探る、企業が就活生にアピールすべきこと

転職を前提にファーストキャリアを選ぶ学生が増加する昨今、学生の企業選びにも変化が生じています。

そこで、2020年12月16日に株式会社POLと株式会社ハッカズークの共催で行われたウェビナー『理系学生2名に聞く「日系大手企業」の印象と、イメージ払拭の鍵とは?』の一部をご紹介。

就職を希望する大学生に向けた最新調査結果と、優秀校の理系学生2名のリアルな意見から見えてきた、学生から選ばれる企業になるためにアピールすべきこととは?

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九州工業大学大学院 情報工学府 村上 嵩大さん(左上)
研究内容:人の快適性を担保し、ビル空調の消費電力を最適化する空調スケジューリングを行うためのマルチエージェントシミュレーションを利用した温熱環境シミュレータの開発

筑波大学 情報学群 新田 洸平さん(右上)
研究:Twitterユーザに対するゼロショットタグ付け/BERTを使ったウェブ文書ランキング付け
2020年度未踏IT人材発掘・育成事業・テーマ:一人一人に合った理由でイベントに誘ってくれるシステムの開発

株式会社POL エンタープライズチーム 山永 航太 さん(左下)
新卒でITメガベンチャーR社に入社。グローバル人事部(現グループ人事部)新卒採用グループに配属。アシスタントマネージャーとして、東京大阪の2チーム計10名のマネジメントを担当。海外インターンの企画運営にて部内アワードも受賞。現在は『LabBase』で、主に大手企業様向けに採用コンサルタントとして従事

株式会社ハッカズーク アルムナイ・リレーションシップ・パートナー 築山 芙弓(右下)

2015年アイタンクジャパンに新卒入社し、長期インターン専門メディア『キャリアバイト』の営業・カスタマーサクセスに従事。2018年8月に親会社のエン・ジャパンへ転籍し、新卒向けスカウトサービス『iroots』の営業・カスタマーサクセスに従事。2019年3月より現職。クライアント企業とアルムナイの関係構築づくりを行う

歴史ある日系大手企業への懸念点

POL・山永:お二人はどのような企業に入社したいと考えていますか?

村上:携われる範囲が広く、いろいろなことを経験できる会社が魅力的だと思っています。歴史ある大手企業も受けてはいますが、メガベンチャーを含め、ベンチャー企業がメインですね。

新田:僕は現在学部の4年生で、院への進学が決まっています。まだ具体的に就職先のイメージは持っていないですが、研究が生かせることを重視したいですね。

そういう意味では、最初は大きい企業に入るのがいいのかなと思っています。研究に力を入れている尖ったベンチャー企業もいいなと思う一方、資金や計算資源(機械学習などに必要な大量のデータ)が潤沢でやりたいことができる環境は大手の方が整っている印象です。

また、就職した先輩からは「大手企業の方が人とのつながりを得やすい」といった話も聞くので、その後のキャリアを考えても最初は大手かなと考えていますね。

POL・山永:大学の友達や先輩からは、どんな会社が人気ですか?

新田:インターンに行く人が多いのはDeNAやメルカリですね。

村上:僕の周りも同じような感じです。他にLINEや、IBMなどの外資IT系企業も人気なイメージです。

POL・山永:日系大手企業の名前が上がらないのは少し寂しいですね。歴史ある大手企業に行くことを考えたときに、懸念点はありますか?

村上:年代による文化の違いが気になります。長期的に勤めている40〜50代の方と、最近新卒で入った20代ですれ違いが起きたり、評価の部分で満足ができなかったり、暗黙のルールに縛られたりといったイメージは強いですね。

実際に歴史ある大手企業のインターンに参加して、新卒2〜3年目の先輩や中途入社の方からそういう声を聞いたこともあります。

新田:世代間ギャップはあるんだろうなと思います。例えば僕はメールが苦手なので、そういったところに多少寛容な環境があるとうれしいですね(笑)。会社のツールやPCのスペックも気になるところです。

1社目でずっと働くイメージがないからこそ、退職者のキャリアが気になる

ハッカズーク・築山:お二人は、最初の会社でどのくらい働くイメージでいますか?

村上:数年後には先々のキャリアも変わるような気がするので、具体的な年数までは考えていません。ただ、ずっと勤め続けるイメージはないですね。

周りの学生を見ていると、希望の勤務年数は志望業界や専攻によって変わる気がします。例えば、IT系は次のキャリアを踏まえた上で1社目で選ぶ人が多い一方、機械系はそこまで転職を想定していない印象です。

新田:僕は飽き性な性格で、これまでも電気制御系からデータ分析と、勉強したい内容もどんどん変わっています。そういう意味では、最初に入った会社でずっと働くのは違うような気がしています。これまでの飽きがくるタイミングを考えると、3〜5年間くらいかなと思います。

ハッカズーク・築山:やはり転職を前提にファーストキャリアを考えているんですね。最初の会社で一生働く学生が増えていることを踏まえ、当社では就職を希望している大学生・大学院生に向けたアンケートを実施しました。

まず『入社を希望する、もしくは入社予定の企業の「元従業員の退職後のキャリア」に関心がありますか?』という質問に対し、約7割の学生が「興味がある」と回答しています。

ハッカズーク・築山:興味がある理由としては「その会社での経験によって、その後のキャリアがどう広がるのか知りたいから」が最も多く43.1%を占めています。次に「将来的に転職を視野に入れているから」が39.1%です。

ハッカズーク・築山:いずれにせよ、始めから転職を視野に入れている学生が多いようです。お二人は志望する会社を退職した人のキャリアに関心はありますか?

村上:僕はすごくあります。今はまだ自分のどんなスキルが武器として生かせるのかわかっていないので、それを判断するためにも「幅広い業務に携わりたい」というのが1社目の企業選びの軸になっています。

だからこそ、退職者がなぜその会社をファーストキャリアに選び、その後次の会社を選んだのかは、自分にとって参考になるだろうと思っています。

新田:僕も関心はあります。知人は最初にゲーム会社に入って、その後大手クラウドサービス運営企業に転職しているのですが、そういう転職の仕方があることを僕は知らなかったんです。特にゲーム会社は少し古い印象もあり、転職がうまくできるイメージもありませんでした。

この先いろいろなことに取り組みたいと考えると、転職をマイナスに捉えない会社に就職した方がいいのかなとは思いますね。勝手なイメージですが、転職後に身につけた力を前職で再び生かすようなことも可能性としてはあるようにも思います。

ハッカズーク・築山:大手企業を辞めた人から「退職後に初めて潤沢なリソースや恵まれた環境があったことに気付いた」と聞いたことがあります。そう気付けたことで感謝の気持ちが生まれて、何かしら古巣企業に還元しようとする発想が生まれることもあるんでしょうね。

退職エントリを見て、その会社への志望度が上がったことも

ハッカズーク・築山:退職者のキャリアへの関心について伺いましたが、もしキャリアが魅力的だった場合、その会社の志望度に変化はあると思いますか?

新田:志望度は上がると思いますね。実際に退職エントリを見て志望度が上がったこともあります。会社を出たからこそわかることは、中にいる人が気付けないことでもある。それはこれから入社する人にとっても有益な情報ですよね。

村上:僕は変わらないような気がします。退職した人自身のバックグラウンドや価値観、実力があって次のキャリアを選択していると思うので、企業の志望度に直結はしないですね。

ただ、2社で悩んでいる場合であれば志望度は上がると思います。退職者のキャリアがオープンになっているということは、社員のキャリアをきちんと考えている会社であるという見方もできますし、退職への後ろめたさもなさそうだと考えることもできますよね。

ハッカズーク・築山:アンケートでも志望度が「上がる」が約半数、「変わらない」がおよそ1/3という結果が出ています。

ハッカズーク・築山:お二人の意見に加え、「下がる」が2%にも満たないことを考えると、企業が退職者のその後のキャリアをオープンにすることがマイナスになることはまずないと言えそうですね。

企業を相対評価できるのは「退職経験者」だからこそ

ハッカズーク・築山:アンケートでは「退職者が登壇する採用説明会や採用イベントがあったら参加したいと思いますか?」という質問もしていて、8割弱が「思う」と回答しています。お二人はどうですか?

新田:参加してみたいですね。退職者と企業の担当者との温度感や、プラスもマイナスも含めた“辞めた人同士のあるある”なんかも気になります。

村上:僕も参加してみたいです。退職者の声が載っているサイトもありますけど、一次情報ではないと思っていて。誰が書いているかわからないですし、「書き込む工数をかけている=ヘイトがある」かもしれない。

新田:わかります。僕もサイト上の匿名情報よりは、信頼できる先輩の声を重視していました。

村上:そういう意味では、イベントだと価値ある一次情報を手に入れることができるのかなと思います。特になぜファーストキャリアにその会社を選んで、なぜ退職したのかはぜひ聞いてみたいです。

ハッカズーク・築山:アンケートでも「退職後に生きているその会社での経験」や「退職や転職のきっかけ」を聞きたいという声が多くあがっていました。

他に「会社の実態を知りたい」「退職理由やその会社に対する正直な評価」など、第三者のリアルな意見を求める声も多数ありましたね。

村上:特に新卒で入った人の場合、自社への相対評価はできないじゃないですか。「いろいろな業務に携われる」と思っていたとしても、他社と比べてどうかはわからない。

でも、退職して次の会社に入れば、相対的に一社目がどうだったのかがわかりますよね。そう考えると、その会社の環境や魅力への説得力は増すように思います。

新田:例えば辞めた人が「研究に集中できる環境がある」といったことが言えるのは、古巣企業に対して何かしら貢献したい気持ちがあるからこそな気がします。研究面だけでなく、総合的に良い会社なんじゃないかと思いますね。

POL・山永:退職者の声について、こういう人に聞いてみたいという具体的なイメージはありますか?

村上:あまり表に出ていない企業の退職者の声が聞きたいですね。メガベンチャーなどの企業出身者は表舞台に出ている方も多いですが、例えばメーカーはそういう機会が少ないじゃないですか。

最近でこそメーカーの人気は下がっていますけど、めちゃくちゃ高い技術力を持っている企業はたくさんあります。そういう会社で身につけた技術力を買われてヘッドハンディングされ、キャリアアップした事例を聞いたことはあるんですけど、あまり表に情報は出てこないですよね。ぜひお話聞いてみたいなと思います。

新田:僕は企業から大学や研究機関など、アカデミアに戻った人の話が聞いてみたいです。 そういうキャリアパスがあることは知っていますが、実際にどういう感じで戻るのか、なぜ戻ったのかまではなかなかわからない。先々のキャリアを考える上で、興味がありますね。

出戻りを歓迎する企業は「長期的な会社の成長」を考えている印象

ハッカズーク・築山:最近は退職者とつながってネットワークをつくろうとしたり、退職者との協業や再雇用を活性化しようとする企業も増えています。アンケートでは約60%が「退職者と交流がある企業は印象が良い」と回答しているんですけど、お二人はどう思いますか?

アルムナイ研究所調査結果より

村上:印象は良いと思います。社員のキャリアや成長を考えてくれる会社なのではと思いますし、実際に出戻りを歓迎する会社を見たことがあるんですけど、ポジティブなイメージを持ちました。

出戻りは「違う会社で技術力を磨いた上で、再び自社に貢献してくれる」ということですよね。長期的な投資を考えているんだなと感じます。

新田:僕も村上さんと同じで、つながりを大事にする会社への印象は良いですね。社員のより良いキャリアを後押したり、出戻りを受け入れている会社は、良い部分を取り込み、改善する気持ちがある印象です。変わらない体質の会社はあまりよくないと思うので、会社の成長も含めて長期的に考えているのだろうなと思います。

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文/天野夏海