企業の退職者「アルムナイ」を会社の財産と捉え、辞めても縁を持ち続けようと取り組む企業が増えつつあります。
では、アルムナイとつながり続けることの何がいいのか。「アルムナイは退職者ではなくパートナー」と語ってくれたワンキャリアの卒業生と人事担当者の双方を交えて、お話を聞きました。
※本記事の取材は2021年8月に行い、その時点の内容で作成しています
初期のスタートアップで、ぶっ飛んだメンバーと働いて得たもの
——今日はよろしくお願いします。お二人はお久しぶりですか?
吉川雄司さん(以下、吉川):祥子ちゃんと顔を見てしゃべるのは久しぶりかな。でも、メッセでたまにやり取りはしています。
茅野祥子さん(以下、茅野):雄司さんとはあまり久しぶりっていう感じではないですね(笑)
——では最初に、これまでのご経歴について簡単に教えてください。
吉川:ワンキャリアとの縁は長くて、大学時代にワンキャリア代表の宮下さんが代表をやっていた学生団体にいました。ちなみに副社長の長澤さんが2代目、僕は3代目の代表です。当時から新卒採用支援の事業をやっていて、ちゃんと収益も上げていました。
そこから新卒でP&Gに入り、社会人2年目の時に宮下さんから「戻ってこないか」と誘われて、ワンキャリアの前身となる会社にジョインしました。
3年半ほど働いて、2018年1月に今のヘルスアンドライツを起業。大学時代から家族やカップルの幸せに関心があったんですけど、さらにワンキャリアで仕事をする中、日本の教育や子育てへの課題意識を持つようになって。そのスタートポイントとなる出産や体にまつわる領域で事業を行っています。
茅野:私は新卒で楽天に入社して、ウェブデザインとフロントエンジニアリングをやっていました。もっとデザインをやりたいと思っていた時に代表の宮下さんと知り合って、ワンキャリアに転職しています。
入社から4年半たったころにワンキャリアとしても節目を迎えて、自分のキャリアを考えても大きい組織でデザイン経験を積みたいと思い、楽天の同期に誘われて楽天モバイルにUXデザイナー、UXリサーチャーとして転職しました。
——ワンキャリアではどのようなお仕事をしていたのでしょう?
茅野:Web・アプリのUIデザインをメインに、広告のビジュアルデザインやユーザーリサーチなど幅広い業務に携わっていました。
吉川:僕は主に営業サイドでしたが、3人目の社員だったので営業にイベント集客、司会、大学でのビラ配りと、とにかく泥臭く何でもやっていました。組織が大きくになるにつれてマネジメントに移っていって、営業組織のトップや執行役員もやっていましたね。
——その中でも特に経験できて良かったことは何ですか?
吉川:まとめるのは難しいですけど、ぶっ飛んだメンバーと一緒に「会社を大きくしていこう!」みたいな、あのベンチャー感はすごく楽しかった。同じくらいしんどかったし、ため息ばっかりついて、祥子ちゃんに心配されたな〜とか、思い出しますね。
レベルの高いチームメンバーと、レベルの高いクライアントと一緒に仕事ができて、僕自身の視座も高まりました。
茅野:スタートアップにいたことで、「小さい組織でどうやってビッグプレイヤーと戦うか」というマインドセットになれたのは大きかったと思います。現場レイヤーでもどんどん意思決定をして、スピーディーに、それでいて効果的にプロダクトを世に出さなければいけない。デザインや開発の文脈で、どういう思考回路を辿ればいいのか、叩き込んでもらった感覚があります。
ワンキャリアの後に転職した楽天モバイルも、リソースの差こそあれ本質的にやることは一緒なはず。大企業こそスタートアップ的な開発プロセスを取らないと、いつまでたってもスピードで小さい組織に追いつけない。「それじゃだめなんだよ!」と気付きを与える役目として、走り回っています。煙たがれることもあるんですが、当たり前を壊しに行く重要なポジションだと自負しています。
社員、アルムナイ、クライアント。それぞれと退職後も交流がある
——今はワンキャリアとどのようなつながりがありますか?
茅野:ワンキャリアを辞めてからも、開発のメンバーをはじめワンキャリアの方々とデザインワークに取り組んだりしています。顧問というと大袈裟ですけど、そんな立ち位置のイメージです。
あとは雄司さんもそうですけど、ワンキャリアつながりで相談したり、逆に相談に乗ったり。辞めてから2年くらい経ちますが、いまだに連絡を取っている人は多いです。
吉川:僕が最初に不妊治療のアプリを作った時も、デザインを祥子ちゃんにお願いしたんですよ。今でも時々「これどう思う?」みたいなメッセを送って、フィードバックをもらったりします。
茅野:私は『ケアミー』のヘビーユーザーなので、「こうしてほしい!」って要望を送ることもありますね。
——仕事の相談相手であり、ヘビーユーザー。理想の関係ですね。
茅野:雄司さんの話を聞いていて、やっぱり面白いんですよ。一緒に働いていた人だけあって、新しい価値を世に提供することが好きというか、親和性が高いなと感じます。そういう人たちとのコネクションができて、困った時に頼れるのは非常に心強いですね。
一つの組織にこもっていると、どうしてもモノの見方が狭まってしまうので、そういう意味でもありがたい存在です。
——吉川さんは仕事上でワンキャリアと付き合いはありますか?
吉川:女性社員やインターン生にユーザーヒアリングでめっちゃ協力してもらっています。あとは当時のメンバーの成長はやっぱり気になるので、たまに連絡しています。
吉川:あとは当時のクライアントさんと辞めてからもランチに行ったり、社内向け不妊治療セミナーをやらせてもらったりと、仲良くしていただいています。会社を立ち上げた当初は「何かお仕事ください」とお願いして、知り合いを通じて案件をいただいたこともありました。
ワンキャリア・松本さん(以下、松本):僕も雄司さんが講師を務める妊活や男女のカラダに関するセミナーに参加させてもらったことがあります。経営陣もほぼ全員雄司さんのセミナーを受けていますね。
ダイバーシティ&インクルージョン、特にジェンダーに関する部分を推進する際に、一般論として古株の特に男性メンバーの理解を得るのが難しいことが多いと思うのですが、当社の場合はメンバー全員がある程度の知識を持っている。議論がスムーズで、めちゃくちゃ助かっています。セミナーを受けていなかったら、僕自身、何も知らなかったですしね。
どこに外注するよりも、アルムナイが一番信頼できる
——「ワンキャリア」という共通点がある人と一緒に仕事をするメリットをどのようなところに感じていますか?
茅野:同じ言語を話せることが一番大きいと思います。少ない言葉で伝わる土台ができている。
吉川:信頼のベースがあるのはやりやすいですよね。以前、編集チームのアルムナイにメディアの編集を依頼したことがあって。ワンキャリアにいる時に同じプロジェクトで仕事をしたことはなかったんですけど、人柄もわかっているし、やりやすかったです。
茅野:デザイナーとしては、どういうものを打ち返せば響くのか、ある程度当たりが付くのもありがたいですね。ゼロから探るのは結構大変なので。
会社にとっても、特に要件が固まってない段階で一旦かたちにしてみたい場合に、私みたいな人が最も使い勝手が良い気がします。
——社員の立場ではどうですか?
松本:やはりどこに外注するよりも、元社員の皆さんにお願いするのが一番信頼できます。僕は人事の前にマーケティングをやっていて、デザインの依頼をする機会が多かったんですけど、コミュニケーションコストがかからず、品質が保証されているのは大きいですよね。
あとは純粋に、卒業した方が活躍しているのは、すごく励みになるというか。そういう人たちを生み出した会社で今働いているのは誇らしいし、その後の話が聞けるだけでうれしいです。
——逆に、マイナスに思うことはあります?
松本:ないですね。社員としてフルコミットで働いていただけたらうれしいな〜と思うことはありますけど(笑)
茅野:マイナスというわけではないですが、実は気をつけていることが一つだけあって。良くも悪くも、自分がいた時の基準や物差しで測らないようにしています。
茅野:組織は生き物なので、規模も性質も変わるのが大前提。同じKPIだったとしても、ビジネスの舵を切っている方向が違うこともある。背景をヒアリングするなど、関係性に甘えずにアウトプットを出せるよう、自分の当たり前に執着しないように気をつけています。
吉川:僕もマイナスはないですが、ワンキャリアの時のクライアントさんと会う時は、かすかにワンキャリアの看板を背負っている感覚を持つようにしています。この間は軽くワンキャリアの営業もしておきました(笑)
ワンキャリアは青春であり、部活だった
——アルムナイとして、なぜ今のような関係性が築けているのだと思いますか?
吉川:喧嘩別れしているわけじゃないからですかね。次のステップを応援してくれていますし、宮下さんが今の事業へのアドバイスをくれることもあるんですよ。
その分僕も恩返しというか、手伝えることがあるならやりたいと思う。もともとある信頼関係の元、お互いに支え合ってる感覚ですね。
茅野:過去には価値観の相違や期待値とのギャップなど、組織の移ろいの中で相容れないことが生じることもあって、多少の諦めとともに離れていったメンバーもいたと思います。
ただ、私の場合はハッピーに退職したし、宮下さんにも雄司さんにもかわいがってもらって、入社してから辞めるまでの成長過程を隣で見てもらいました。ワンキャリアへの愛情は比較的強いと思いますね。
自分が手助けできることがあれば、今のワンキャリアはもちろん、ワンキャリアを辞めた人たちに対しても、何かしら貢献したい。そういう柔らかい感情が根っこにある気がします。
——お話を伺っていても、お二人の根源にワンキャリアへの愛があるのを感じます。なぜそんなにワンキャリアが好きなのでしょう?
茅野:最近分かってきたんですけど、自分のモチベーションの根幹は「人に影響を与えること」なんです。小さい組織だったぶん、自分が人に影響を与えて、それによって何かが返ってくるような成功体験を実感できたことが大きかったと思います。
吉川:僕は新卒で入ったP&Gのことも大好きですし、ビジネスや社会の基礎を教えてくれた場所として感謝の気持ちがあります。一方でワンキャリアは、結局在籍期間は3年半くらいだけど、なんか青春だったんですよね。
今は自分の会社を経営していますけど、当時とはエネルギーの色が違うんですよ。今はこれまでの経験や知識を踏まえて、頭を使ってやっていますけど、当時は『レッドブル』飲んでとにかく頑張る感じ。同じように情熱は注いでいますけど、燃え方が違う。
茅野:雄司さんたちが整えてくださった後に私は入りましたけど、それでも9人目の社員で、オフィスはお互いの声が届く距離のワンルーム。あの頃は……なんか部活感がありましたね。
松本:多少色が薄まっている部分はあると思いますけど、部活感は今も大事にしていることです。いわゆる先輩の言うことは絶対!みたいなカルチャーではなくて、全員で同じ方向に向かっている感じ。
例えばサッカー部の人は、練習以外の場所でも、常に頭のどこかしらでサッカーのことを考えていると思うんですけど、同じようにみんななんだかんだで仕事のことを考えていました。がむしゃらにたくさん働くような働き方は大きく変わりましたが、部活感というのは今も続いているかなと思います。
——部活感が強いと、辞めることへの抵抗感も強くなりませんか?
茅野:基本的には応援ムードでしたけど、代表の宮下さんに話す時は、別れ話みたいな雰囲気がありました。別れたい彼女と「もう無理なんかな?」って食い下がる彼氏のような……。無理な引き止めはなかったですし、自分の意思をきちんと説明して、納得してもらってからは応援してもらいましたけど、宮下さんはワンちゃんみたいな目をしていました(笑)
卒業生に活躍してもらうために「最低限邪魔をしない」
——今後について、人事として松本さんはアルムナイの皆さんとどのような関係を築きたいですか?
松本:関係自体は何でもいいと思っています。社員同士のコミュニケーションでも、頻繁に飲みに行く人もいれば、一人の時間を大事にする人もいる。なので、全然連絡も取ってないし、仕事のやり取りもないような関係性でも、全く問題ないと思っています。
ただ強いて言うなら、「ワンキャリアマフィア」として、卒業後に活躍してほしいです。これは昔から代表の宮下が言っていることですが、P&GマフィアやDeNAマフィアみたいに、卒業生が各所で活躍してくれるのが理想。それは必ずしも世間的に目立つといったことではなく、自分が価値だと感じることに没頭する人が増えるといいなと思っています。
そこに対して応援するのはもちろん、最低限邪魔をしないことが僕らのやるべきことかなと。
——最低限邪魔をしない。見落とされがちですが、とても大切なことだと思います。それでは最後に、アルムナイのお二人からワンキャリアへメッセージをお願いします!
吉川:僕にとってワンキャリアは「ふらっと戻る母校の部室」みたいな感じ。「昔一緒に戦った仲間がいるし、まあたまには寄っていくか」みたいな場所ですね。
松本:そういう場所があるっていいですね。うらやましいな。
吉川:いや、めっちゃ部室の中におるやん(笑)
茅野:私は願わくば、自分の子どもの世代が就活する時に、当たり前のようにワンキャリアというブランドが、キャリア選択や教育の現場に登場するようになってほしいです。その時はすごいうれしいんだろうなと思います。
吉川:たまにSNSを開くと絶対に寺口さんが出てくるので、そこでワンキャリアの動きを知ることが多いんですけど、就活生が使うメディアで2位になったのは印象的でした。「2位まで来たか」と。『ONE CAREER PLUS』もそうですけど、2015年頃に描いていたことが実現されつつあるのが感慨深いです。
でも、トップとの差はまだまだ。絶対に1位になってください!
取材・文/天野夏海