高校の同窓会にアルムナイ専用システムを導入し、運営体制の改革に挑戦。武庫荘総合高校の卒業生が目指すものとは

兵庫県立武庫荘総合高等学校(以下、武庫荘総合高校)がアルムナイ(卒業生)専用システムを導入しました。従来より卒業生が運営する同窓会があったという同校。その同窓会運営をより良くする目的でアルムナイ専用システムを導入し、運営体制を改革しようとしています。

それによって何を実現しようとしているのでしょうか。運営メンバーの米田大祐さんに詳しく聞きました。

アルムナイネットワーク運営メンバーの米田大祐さん

※こちらは武庫荘総合高校の卒業生専用のネットワークです

個性が強い卒業生のつながりを強めたい

——武庫荘総合高校には従来より卒業生が運営する同窓会がありました。今回、アルムナイ専用システムを導入した背景を教えてください。

卒業生が集まる場を作り、つながりを深め、新たな出会いを提供する環境をつくりたいと考えたことがきっかけです。

これまでの同窓会は5000人以上の卒業生が集まっている大きな組織であるにも関わらず、活動は2年に1回の総会のみ。卒業生から学校への寄付金について、決算報告や寄付金の使い道などの決議を行うのが主な内容でした。

また、コロナ禍以前は母校で総会を開催していたこともあり、母校を訪れる懐かしさから参加する人もいましたが、現在はオンラインになり、同窓会のつながりは薄れつつあります。参加資格は卒業生全員にあるものの、オンライン参加者はわずか十数名。

もちろん卒業生同士の個人的なつながりはあると思いますが、大学に進学し、社会に出る中で引っ越したり、新たなコミュニティができたりと、高校のつながりが薄まってしまった人も多いのではと思います。私が2013年に卒業してからの約10年間、同窓会の開催もありません。

こうした現状を非常にもったいないと感じていました。武庫荘総合高校は総合学科で、一般的な高校とは異なる特色があり、個性の強い仲間が集まっています。卒業生にはいろいろな人がいますから、つながりを強められれば、面白いことができるのではと思いました。

ちょうど2022年10月は、武庫荘総合高校の創立20周年。そこで、節目に行われる20周年記念行事に合わせて、アルムナイ専用システムを導入し、正式に運用を開始しようとしています。

——従来の同窓会運営とどういった部分が変わるのですか?

総会しかできていない現状から、より卒業生のつながりを強めるために、アルムナイ専門システムを導入し、運営方法をシフトチェンジしていきます。

例えば、これまで総会の案内はハガキでした。卒業生5000人以上に送付するには相当の工数と費用がかかりますし、卒業生の人数は年々増えていきます。

それに対し、システムを導入すれば、こういったお知らせが簡単にできます。参加希望の方にとっても、郵送で返信する必要はなくなりますよね。また、住所が変わってしまっても、メールアドレスが同じであれば情報が届くメリットもあります。

また、アルムナイ専門システムの中では卒業生同士が交流できる環境を整えていたり、総会の案内以外にも簡単に発信ができるようになるため、学校などの情報を同窓会員が受け取れるようになります。

アルムナイ専用システム導入による「情報発信」と「マッチング」

アルムナイ(卒業生)が在学生へ特別授業を行っている様子

——アルムナイ専用システムの運用開始後は、どのようなことを行う予定でしょうか。

まずは情報発信ですね。総会などのお知らせはもちろん、卒業生の進路状況や部活動の活動報告、先生の人事異動など、定期的に学校の最新情報をお伝えできればと思っています

先日、ある地方の高校の野球部が県大会決勝まで進んだ時、卒業生が非常に盛り上がったと聞きました。もちろん人によって濃淡はあるものの、自分が通っていた高校の活躍を知るのはうれしく、誇らしいもの。そういう意味では、現在の学校の情報を知りたい人は一定数いると思っています。

そうした情報は高校のウェブサイトを見にいくなど、これまでは自発的に取りに行く必要がありましたが、アルムナイ専用システムに登録してもらえれば簡単に情報が受け取れるようになります。

——アルムナイ専用システムの目的である「つながりを深め、新たな出会いを提供する」について、具体的にやろうとしていることはありますか?

システム上に同級生や部活動などのチャットグループを作ろうと考えています。もともと知っている人とのつながりを深めるのはもちろん、先輩や後輩との新たな出会いが生まれる場にしたいですね。

ある程度登録者が増えて運営基盤ができたら、卒業生のインタビュー記事など、現在の仕事やキャリアについて発信することも検討中です。

その上で、ゆくゆくは卒業生のスキルや志向、趣味、特技などを見える化し、マッチングができるといいなとイメージしています

——マッチングですか?

大きく3つのマッチングが考えられると思っています。

1つ目は、部活動のマッチング。教員の長時間労働の要因の一つである部活動のサポートを卒業生ができれば、高校ともWin-Winの関係性を築けるのではと思います。

2つ目は、卒業生同士のビジネス上のマッチング。何か新しいチャレンジをする際に、アルムナイ専用システムを通じて必要なノウハウや知識を得たり、近しい経験を持つ人に相談したりといったことができるのではと考えています。そこから新たなビジネスのチャンスにつながる可能性もありますよね。

そして3つ目は、在校生とのマッチング。在校生に卒業生の体験談を紹介することで、卒業後の進路やキャリアの選択肢を広げることができるのではと考えています。

武庫荘総合高校には年に1回、卒業生が高校2年生に向けて自身のキャリアの話をする「SAMD(サンド)」という取り組みがあります。これまで登壇者は先生が探していましたが、今後はシステムを通じてもっと簡単に対象者を見つけ、連絡を取ることができるようになるかなと思います。

——在校生にとって貴重な機会になりそうですね。

実は、私も「SAMD」で話をしたことがあります。在校生の前で話をするのは、卒業生にとっても貴重な経験ですし、単純にうれしかったですね。

武庫荘総合高校は総合学科なので、卒業生の進路はさまざま。ユニークな人が多く、起業をはじめ、面白い活動をしている卒業生もたくさんいます。

その一例として、自分の経験が在校生のためになるのは、やりがいが大きく、非常に感慨深いものがあります。自分にとっても、この先の人生を考える良いきっかけになりました。

——「高校生だった頃の自分」に向けて話すような感覚になりそうですね。そういう形で母校に協力したい卒業生は、潜在的にたくさんいそうです。

将来的には、進路を考えている中学生に対しても、そういう面白さを伝えられると面白いなと思います。その結果、武庫荘総合高校の志望者を増やすことにもつながるとうれしいですね。

大事にしたいのは「斜めのつながり」

兵庫県立武庫荘総合高等学校

——改めて、同窓会の運営方法が変わることで、卒業生の皆さんにどのような変化がありますか?

今までほとんど動きのなかった同窓会が、活発に動くようになります。これまでは2年に1回の総会の案内程度の接点しかありませんでしたが、アルムナイ専用システムに登録してもらえれば、定期的に学校に関する情報を得られます。

卒業生との関わりをどの程度持つかは皆さんの自由ですが、卒業年次や部活ごとにグループを作る予定ですので、そこから卒業生と交流を持つことも可能です。より積極的に交流したい人は、自ら情報発信をすることもできます

また、同窓会の運営事務局を大学生のインターンシップの場にもできればと考えています。ゼミやサークルと異なり、社会人と一緒にチームとして動く経験は就職活動にも有利に働くと思うので、そういう経験を提供する場にもしたいですね。

——最後に、卒業生の皆さんへのメッセージをお願いします。

アルムナイ専用システムの登録対象は、卒業生全員です。登録は個人の自由ですが、情報を得る窓口になるので、まずは気軽に登録していただけるとうれしいですね。

アルムナイ専用システムを導入している高校は、現状はほとんどありません。前例がないぶん運営メンバーは手探りの状態ですが、僕たちが大事にしたいのは「斜めのつながり」です。

親や先生、直属の先輩、後輩といった縦のつながり、友達などフランクな横のつながりに加え、違う部活や高校の在籍期間が被っていない先輩や後輩などの斜めのつながりをつくれればと思っています

卒業生同士はもちろん、卒業生と学校、卒業生と在校生など、関わる人全員がWin-Winな関係を目指したいと思っていますので、意見やリクエストがあればぜひ教えてください。フィードバックを反映し、より良い同窓会をつくっていければと思います。

※こちらは武庫荘総合高校の卒業生専用のネットワークです