「お、ねだん以上。」のキャッチコピーでお馴染みの大手家具・インテリア用品メーカーのニトリが、アルムナイネットワークを立ち上げました。
※こちらは過去、ニトリに在籍していた方専用のネットワークです
その背景を、ニトリホールディングス代表取締役社長の白井俊之さんと、常務執行役員・組織開発室室長の大木満さんに聞きました。
事業は変わっても、ニトリの「人」への考え方は変わらない
——アルムナイネットワークを立ち上げた背景を教えてください。
白井:ニトリは全国に店舗があり、これまでは転勤や育児、介護を理由にやむなく辞める人が一定数いました。そういう方々に対し、「いつでも戻ってきてください」というメッセージを込めて用意していたのが、「ジョブ・リターン制度」です。実際に制度を活用して再入社し、活躍している人たちもいます。
大木:ただ、制度の利用者がなかなか増えないことから、退職する方に制度をぜひ活用してほしいと2022年より退職者に「ジョブ・リターンパスポート」を渡す取り組みを始めました。しかし、退職された方と退職した後もつながりを持ち続ける手段がありませんでした。
もしニトリと卒業生が交流する場があれば、制度を使って会社に戻ってきやすくなるかもしれません。実際、再入社者に話を聞くと、「自分から辞めた会社に戻るのはハードル高い」「自分が知っているニトリとは違う会社になっているかもしれない」という不安があることがわかりました。
白井:事実、ニトリは常に変わり続けています。同じような商品が並んでいるように見えるかもしれませんが、実は細かな改善を繰り返していますし、近年は海外出店を強化しており、2023年は100店舗の新規出店を計画しています。
だからこそ、アルムナイネットワークを通じて、「今のニトリがどういう会社なのか」「これからどういう会社になろうとしているのか」を発信し、知ってもらいたいと思いました。
ニトリを離れた方々も外の世界でさまざまな経験をし、変化しているでしょう。中にはご自身のキャリアプランやプライベートの状況が変わり、「もう一度ニトリで働きたい」という方もいらっしゃるかもしれません。
たとえニトリを離れても、かつてニトリに魅力を感じ、一緒に働いていた仲間であることは変わりません。卒業生が何かのご縁で再び当社に戻ってくることは当然ウェルカムですし、世の中を見ても人材の流動化が進んだことで、人が動くことへのハードルは低くなっています。
現在は新卒入社の比率が高くなりましたが、実はニトリは中途入社者が活躍している会社であり、3年もたてば誰が新卒で、誰が中途なのかわからなくなるくらいです。つまり、新卒、中途は関係ないということであり、それは再入社する方も同様です。
そういう意味でも、アルムナイの取り組みは当社にとって親和性が高いのではと感じています。
——「ニトリは変化が激しい会社」とのことですが、人材に対する考え方に変化はありますか?
白井:そこはほとんど変わっていません。商品や仕組みをつくるのは人であり、人材を育成しなければ、新しい商品も仕組みも生まれませんし、変化に対応もできない。そんな考え方のもと、ニトリは人的資本経営が注目されるずっと以前から、人に対してお金と時間をかけてきました。
白井:例えば人材育成では、入社2年目全員を対象としたアメリカ研修を行っています。アメリカに1週間以上滞在し、現地の豊かな暮らしを支える流通・小売業について学ぶことが目的です。新型コロナウイルス感染症の影響で開催を中止していましたが、2022年秋に3年ぶりに再開し、2023年は中止していた期間の該当者も参加できるよう人数を増やし、春と秋に実施予定です。
大木:働き方改革が叫ばれる前から、ニトリは小売業という制約の中で働き方について革新的な工夫を重ねてきた会社です。働く人たちがどうやったらもっと楽しく、長く働けるのか、真摯に向き合ってきました。
今はそれが加速し、「希望した場所で、希望の仕事ができるようにする」という、本当に難しいテーマに対して、新しい施策をやっていこうとしています。
そうやって人に向き合い、労働生産性を高め、それを報酬や社員教育を通じて社員に還元する。そんなことをずっとやってきた会社という自負があるからこそ、私はニトリが良い会社だと自信を持って言えます。
外の世界を経験した卒業生の選択肢を増やす
——退職に対する考え方の変化はいかがでしょうか。終身雇用が前提だった従来の日本企業では、一般的に退職は重いことだったと思います。
白井:やっぱり、辞めずに長く働いてくれる方がいいですよね(笑)
大木:ニトリは人材をものすごく大切にし、教育にお金をかける会社ですから、正直に言えば辞めてしまうのは本当に惜しいです。
もっと一緒にやろうと引き留めたいところですが、人材の流動性が高まる世の中の流れを考えれば、違う世界を見るために飛び出す社員が少なからずいるのは当然のことだとも思います。
白井:辞めるには何かしら理由があるわけですから、本当はその懸念を解決し、その上でニトリで働き続けることによって社員の皆さんが自己実現できるのが理想です。
ただ、現実として辞める人はいるわけで、それはやはり会社に何か不足するところがあったのだと受け止めています。
大木:だからこそ、どのような人がどういった理由で退職するのか、退職者一人一人について、私と労務担当者は毎月何時間もかけてトップに報告すると共に議論をしています。退職となる理由をトップが真剣に考えていますし、それに基づいた改善にも取り組んでいます。
白井:一方で、社外に出たことで、ニトリの良さに気付くこともあるのではと思います。
特に店舗勤務の場合、どうしても店舗内の限られた人間関係の中で閉鎖的になってしまうところがあり、上司と馬が合わなくて辞めるケースもあります。そこから離れて俯瞰し、冷静にニトリを見た時に、ニトリという会社でできること、やりたいことがあったことに思い当たる方もいるでしょう。
というのも、ニトリは職種が多い会社です。自社製造で、物流や貿易、IT機能も全て自前。原材料の調達から販売まで一貫して自社で行っていますから、携われる範囲は非常に広いのです。
大木:私は数回転職をし、最終的にニトリに辿り着きましたが、最初にニトリに入っていたら転職をしなくてよかったと思うくらいです。社内の配置転換は転職に近い感覚ですし、その機会も多いですから。現に私は入社4年間で、3回以上配置転換を経験しています。
白井:私が社員の皆さんによくお話しするのは、「何の仕事が自分に合うかを考える前に、どのような仕事があるかを知る必要がある」ということ。食べたことがない料理を好きになることがあり得ないのと同じで、まずは世の中の仕事や働き方を知ることが大切です。
だからこそ、卒業生が外の世界でニトリとは違う経験をしたことで、ニトリの仕事に興味を持つことは大いにあり得る話だと思っています。そういう方に対して、再びニトリで働くという選択肢を提供する機会を、アルムナイネットワークを通じてつくりたいと思っています。
例えば「海外でチャレンジをしたい」という理由で辞めた方であれば、現在のニトリは海外の事業展開に力を入れており、10年前と比べて10倍以上の社員が海外で活躍しています。そういう情報をきちんと発信することで、卒業生の選択肢を増やせるといいですね。
たとえ辞めても、ずっと同窓生。ニトリのファンでい続けてほしい
(※過去、ニトリに在籍していた方専用のネットワークです)
——ニトリ卒業生の皆さんとどのような関係性を築いていきたいですか?
白井:どれだけ離れていても、ニトリのファンでいてほしいですね。ニトリの商品を扱っていたわけですし、ニトリの考え方も理解してくださっているでしょうから。お互いに接点を持ち続けることで、ニトリと卒業生のパイプを太くしたいです。
その上で、何かしら仕事で関係性を持てるといいなと思っています。ニトリと再びご縁があって戻ってきてくださるのはもちろんウェルカムですが、そうでなくても卒業生の皆さんと何かしらビジネスでお付き合いできるといいですね。コラボレーションして何かつくり上げるなど、さまざまな可能性が考えられると思います。
大木:ニトリからの情報提供だけではつまらないので、双方向にやりとりができたらいいなとイメージしています。進化し続けるニトリの最新情報に対して、「ニトリのことを知っている人が、社外の立場から見たニトリ」をぜひ教えてほしいです。そうしたご意見によって、ニトリはもっと良い会社になれると思っています。
——具体的にはどのような取り組みを行う予定でしょう?
大木:まずは情報発信から始める予定ですが、いずれはイベントをやりたいですね。みんなで集まって食べて語って、締めは会長のカラオケ……という、おそらく卒業生の方が懐かしんでくれるであろうイベントも面白いんじゃないかなと(笑)
あとは、社員と卒業生が交流するイベントもやりたいです。それによって現社員の退職リスクが高まるかもしれないとの懸念もありますが、むしろ社員がモチベートされる面の方が強いのではと思っています。
卒業生の皆さんが外の世界で活躍している姿を見て、「自分もこうなれるかもしれない」「ニトリで得た力はよそでも通用するんだ」と思えれば、現社員が目の前の仕事を頑張るきっかけにもなるかもしれません。同時に、外の世界での苦労や、離れたからこそわかるニトリの良さに関する話も卒業生の皆さんから出てくるでしょう。
そう考えれば、現社員が卒業生と接点を持ったからといって、退職につながるとは限らない。ニトリが魅力的な会社であることは間違いないので、むしろ外の世界を見る良い機会であり、「思ったよりニトリは良い会社なのかも」と思うことにつながると考えています。
——最後に、ニトリにとってアルムナイの皆さんはどういう存在ですか?
白井:言葉通り「同窓生」です。一度はニトリで働いてくれたわけですから、それはたとえ辞めても変わりません。
私自身も個人的に卒業生の方と交流があり、中には年賀状をくださる方もいます。そういった交流を、会社として拡大していきたいですね。
アルムナイへのメッセージ
白井:ニトリが成長していることを知るのは、卒業生の皆さんにとってうれしいことだと思っています。過去に在籍していた会社が低迷しているよりは、成長している方がいいじゃないですか。
ですから、何かしらのかたちでニトリや、同じニトリの卒業生同士でつながりを持ちたいと思ってくださる皆さんに、タイムリーな情報をお届けしたいですし、世の中に発信している情報の背景もきちんとお伝えしたいと思っています。
ニトリは「これをやりたい」と自ら手を挙げる人が多い会社です。それはアルムナイネットワークも同じですから、皆さんからの「こんなことがしたい」といったご意見や提案を楽しみにしています。
大木:今は人がいくらいても足りませんし、ニトリ史上最大規模での人材育成が必要とされています。チャンスはニトリの中にいくらでもありますし、同時にどこにも負けない働きやすい会社を目指していますので、タイミングを見て「今だ!」と思ったら、卒業生の皆さんには迷わず戻ってきてほしいですね。ちょっと長い出向に出ていたくらいの感覚で戻ってもらえるといいなと思います。