社友会デジタル化の背景とは? 定年退職者とのつながり方を見直すことで生まれる可能性

企業の定年退職者を中心とした社友会。近年、アナログで運営されていた社友会をデジタル化する動きが大手企業で起き始めています。

デジタル化によって効率化を果たした先に、どのような価値が生まれようとしているのでしょうか?実際に社友会をデジタル化した企業の事例を交えて解説します。

社友会とは

社友会とは、企業の定年退職者を中心としたコミュニティーです。一定規模の定年退職者が毎年発生する大手企業を中心とした取り組みで、いわば同窓会のようなもの。

一般的には、参加者から年会費あるいは退職時に一括で会費を集め、そこに企業予算を加えて運営されます。

企業側は社友会担当を設け、自社の近況を伝えるとともに、定年退職者同士が交流する機会を用意するのが基本の動き。具体的には、自社の最新情報をまとめた会報を郵送したり、定年退職者が集まる会を開催したりすることが多いです。他に、山登りや釣りなどのレジャーイベントを企画することも。

企業が社友会を設置している背景には、定年退職者への労いや感謝の気持ちがあります。終身雇用制度の元、およそ40年にわたり企業に貢献した定年退職者に対し、企業を離れた後も縁を保ち続ける目的で運営されています。

社友会の課題

時代の変化とともに、企業の社友会も在り方が問われています。

その背景として大きいのは、企業の人材への考え方の変化。従来は新卒一括採用で一気に新入社員が入社し、一定の社歴で役職を持ち、一斉に定年を迎え、そこで仕事人生が終わるのが一般的なキャリア。みんなが同じようなキャリアを歩むからこそ、「定年退職者」と一括りに扱えていました。

そこから多様性の時代に変わり、今は人材を「個」として見るように。一人一人のキャリアや人生のステップはさまざまであり、それは定年退職者も同じです。早期退職して余生を楽しむ人もいれば、70代で働く人もいる。定年退職者の中にも多様性が生まれているのです。

そもそも定年退職者は貴重な人材の宝庫でもあります。定年退職者は長期にわたって企業に勤めた人材であり、新卒入社者であれば約40年間の企業の歴史を知っている人。知識や経験が豊富なのはもちろん、サービスの変遷やその経緯などを含めた自社の歴史を把握している生き字引のような存在です。

また、定年退職者の多くは古巣企業への強い愛着があります。定年退職後に引き続きビジネスをする人もいますが、「自社への愛があり、自社で培った知見を生かして外の世界で活躍している人」と考えれば、心強いパートナーになり得ます。

ただ、多くの企業で、企業と定年退職者はうまく連携ができていません。その理由の一つが、社友会運営の工数にあります。

ほとんどの社友会はアナログで運営されています。問い合わせ対応は電話で、会報の送付は郵送。一般的に社友会は数千人規模で、多い企業では1万人近いケースもありますが、その全員の対応を電話と郵便で行うのは相当の工数がかかります。

また、郵便も全て届くわけではなく、企業によっては半数近くが返送されることも。引越しのほか、亡くなる人もいるなど、名簿の管理も容易ではありません。

担当者はそれらの対応で手一杯になってしまい、定年退職者への新たな価値提供を考える余裕がない。それが多くの企業の現状です。

社友会デジタル化の事例

近年注目を集めるアルムナイネットワークは、「退職で終わっていた関係性」を「退職後もお互いにとって価値ある関係性」に変えることを目指すもの。社友会も同じように、企業と定年退職者の双方にとってWin-Winな関係性を築けるのが理想です。

その一歩となるのが、社友会のデジタル化。実際に社友会をデジタル化した大手企業の事例を紹介します。

同社の社友会に入っている定年退職者の総数は約6000人で、郵送可能な人数は4000人。社友会担当者には、主に以下の業務が発生していました。

・年一回、定年退職者の情報を印刷し、郵送。変更がある場合は返送してもらう

・集めた情報をまとめてOB/OG名簿を発行。電子データとして社内保管し、希望する定年退職者には印刷して郵送を行う

・年数回、会社の最新情報をまとめた会報を郵送

・年末に会社カレンダーを郵送

膨大な郵送費と工数がかかるだけでなく、優秀な社員が単純作業に従事することとなり、本来の能力を発揮できない問題がありました。

そこで郵送コストと社友会担当者の業務負担の削減、そして定年退職者とのつながりの希薄化を解決するために、社友会のデジタル化を実施。郵便物を送る際にデジタル化の案内チラシを同封し、約2000人がシステムに登録しました。

現在はデジタル化しておよそ1年。情報を細かく、頻度高く発信できるようになり、タイムリーな情報共有が可能になりました。事務局の郵送作業の負担は減り、定年退職者にとっても随時情報が得られるようになったことで、満足度が上がっています。

また、テーマごとにチャットルームを作り、定年退職者が交流できる場を用意。従来の交流の機会は年数回のイベントのみでしたが、デジタル化により退職者同士が自由に交流できるようになりました。DMで気軽に連絡を取ったり、チャットルームで盛り上がったりと、交流も活発に行われています。

「社友会=会社が何かをしてくれる場所」から、「社友会=退職者同士で自発的につながれる場所」になったことで、その場を企業が提供すること自体が価値となり、定年退職者の満足度も総じて上がっている状態です。

現在、郵送可能な人数は4000人で、システム登録が2000人。郵送の費用・時間ともにコストは半分に減りました。今後の定年退職者にはデジタル化した社友会を案内することを考えれば、郵送の負担は年々減っていきます。長期的に見て運営はどんどん楽になっていく見込みです。

また、デジタル化した社友会の電話対応や、登録およびシステムの説明会開催などはシステム運営会社に委託することも可能です。

企業によっては社友会とアルムナイネットワークの2つが存在することもあり得えますが、それぞれ目的が違うので、基本は統合せず、分けた方が運営はしやすいでしょう。また、大企業の場合は現役世代の退職者より定年退職者の方が多く、まとめることで偏りが生じます。分けた方がバランスも取りやすいです。

その上で、定年退職後もビジネスをしている人にはアルムナイネットワークと社友会の双方に参加してもらう。そういった運用が今後は一般的になりそうです。

まとめて一つのネットワークにする場合も、目的別のチャットルームを用意するなど、参加者のニーズに応じた居場所を用意するのが基本の考え方となります。

社友会の見直しで生まれる新たな価値

社友会のデジタル化は事務局の工数と費用を削減するだけでなく、社友会の価値を「企業が一方的に与える場」から「退職者が自ら交流できる場」に変えることにもつながります。

そうして交流が生まれ、社友会が活性化することにより、定年退職者とのビジネスでのつながりなど、企業にとっての本質的な価値を創出する可能性が生じるのです。退職者が技術アドバイザーとして知識を還元する、各地域にいる退職者と地域向けのプロジェクトを一緒に行うなど、さまざまな協業パターンが考えられます。

実際に、社員向けの研修講師を定年退職者に依頼する、起業した定年退職者が地元で行っているセミナーに企業が出資し、自社サービスの宣伝を行うといった事例も出てきています。

社員のニーズが多様であるように、社友会の人たちもまた多様です。定年を迎えたとはいえ古巣企業に貢献したい人もいれば、同窓会感覚で社友会を楽しみたい人もいる。そういった多様なニーズに応える場を用意することで、定年退職者が得られるものも増え、企業の価値にもつながる。そういったWin-Winの関係性を目指す手段の一つがデジタル化なのです。

デジタル化を不便に感じる定年退職者が多いことを懸念する声もありますが、パソコンやスマホは使えないけれどタブレット端末は使える、といった人も少なくありません。社友会をデジタル化した企業では、100歳の人もシステムを利用しています。

定年退職者は企業への愛着が強いことが多く、いわば会社の熱心なファンです。孫に自社のことを誇らしく話してくれた結果、新卒採用につながるかもしれません。地元に帰り、地域に根差して人脈を築いている人が、その地域でサービスを広めてくれるかもしれません。高齢化が進み、シニア層が増えることを考えれば、その世代とのパイプ役となる定年退職者は大きな存在です。

社友会の見直しは、定年退職者を大切にしようという会社の姿勢を表すものでもあります。まだ手をつけている企業が少ないからこそ、その姿勢はより強く伝わるはず。毎年一定数の定年退職者が出ることを考えれば、早く取り組んだだけその後が楽にもなります。

感謝の気持ちを込め、ファンで居続けてもらうための社友会。より良い在り方を今一度考えてみてはいかがでしょうか。